今回から完全にオリジナル展開に移行します。
SIDE:三人称視点。(黒の組織)
シンシンと雪が降り続ける中、ベルモットは
その視線の先には、
そして、
「
「……全く。
フンと鼻を鳴らしてそう呟くジンに、ベルモットは少し不貞腐れたような口調でそう返した。
そして、今一度倒れたピスコを見下ろしながら言葉を続ける。
「……それに、
ベルモットのその言葉にジンは大きく舌打ちをし、ベルモット同様倒れ伏すピスコを睨みつけた。
――目的のピスコの始末には成功した。しかしジンたちは今、
それはほんの十数秒前にさかのぼる――。
SIDE:枡山憲三(ピスコ)
「――続きは
目の前で自分に銃を突き付けて来る
この女の言う通り、私は今までの人生――その全てを『組織』のために尽力し注ぎ込んできたのだ。
自分の手を汚したことも数知れず、
そう、全ては『あの方』に忠義を尽くし認められるがために……!
そのかいあって今の私は大手自動車メーカー会長という椅子に座ることが出来たのだ。
『組織』に入る前の私ならば想像もしていなかった輝かしい未来だ。
富、名声、そして権力。もはや私に怖いものなど無い。
『組織』に――『あの方』に生涯を尽くしていれば、私は何不自由なく人生を謳歌し続けられるのだ……!
……なのに。
……そう、思っていたというのに。
……こんな形で、私の生涯は幕を閉じるのか?
……ここまで多くの犠牲と苦労を重ねて登り詰めたというのに、こんな……トカゲのしっぽ切りという形で
そんな……そんな事――。
――私は、断じて認めんッ!!!!
『組織』の力を借りたとは言え、今の私は大手自動車メーカー会長、枡山憲三だぞ!?
経済界の大物とまで言わしめた時の権力者だぞ!!
そんな私がこんな無様な形で人生に幕を引いていい訳がない!!いや、あってはならない!!
何とか……何とか、この窮地を脱出して逃げ延びなくては……!
しかし、どうやって……!?
今私が持っているのは右手に持っている銃のみ、だがその銃も銃口を下にして
それを今からこの女に向けて構えようとしても、それよりも先に女の銃が火を噴いて私の頭を弾丸が貫く事は目に見えている。
それに、用心深いこの女の事だ。私を撃とうとするこの瞬間も、反撃を恐れて私の持つ銃から注意をそらしはしてはいないのだろう。
クソッ!……どうする?完全に手詰まりだ。
右手の銃は使えないし、左手は手ぶらで今は
こんな状況で反撃などできるはずが……――!!
――
――
ベルモットが銃の引き金を引くよりも先に、私は車の屋根に乗せていた左手を
――パシャリ……!
「――ッ!??」
狙いすましたかのようにベルモットの顔に
私からの予想外な反撃に驚いた彼女は反射的に大きくのけ反り、銃口の照準を私から離してしまった。
この女の銃口から逃れられた私は、すぐさま先程とは逆に自らの顔を手で抑える彼女の頭に向けて自身の銃口を構える。
――形勢逆転。……そう思った。
「かがめ!」
――そう、私の背後で短くそう響かれた
声が響いたと同時に
そして更に同時に、私の背中に強い衝撃が走ったかと思うと、私の意識が強制的に闇に飲まれていった――。
SIDE:三人称視点。(黒の組織)
ピスコの読み通り、ベルモットはピスコを殺そうとするその瞬間も、油断を許さずピスコの持つ銃に注意を払っていた。
しかし銃に意識を向けるあまり、ピスコの左手の注意がおろそかになっていたのも事実だった。
実際、丸腰で車の屋根に乗せたままの左手に脅威を示す者など、彼女では無くてもいなかっただろう。
こちらは銃を持ち、かつ頭に狙いを定めている状態だ。不意を打って殴りかかって来たとしてもベルモットは余裕で対処が出来る自信があった。
――だが、ピスコが車の屋根に積もった雪を顔にかけてきた事は完全に予想外だった。
とっさの事にベルモットは判断を遅れてしまい、顔にかかった雪が両目に入ってしまう。
結果、視界を封じられてしまいピスコの頭に構えていた銃口が外れてしまった。
そして……それを車に
もう既にベルモットによってピスコは始末されているだろうとそう結論付けていたジンは、その光景を見て驚きに目を見開く。
その予想外の事態に
手を下す人物がベルモットからジンに変わったものの、目的を果たすことが出来た。
――しかし、ジンはこの時点で大きなミスを犯していた。
屋上からジンはウォッカと一緒に駐車場へと急ぎ向かっていたのだが、その途中彼は服の中に拳銃を戻す時に――。
――わざわざ
ジンにとっては、あの暗闇のホテルの中とは言え、移動中に拳銃を持ったままだと誰かに見られる恐れがあり、かと言ってそのまま服の中に隠そうにもサイレンサー付きだと大きすぎてしまえないため、外してしまおうと考えるのは当然の判断であった。
――だが今回、その判断が裏目に出てしまった。
反射的にジンがピスコに銃を構えた時、当然ながらその銃口にはサイレンサーは取り付けられてはいなかった。
銃声を抑える役割を持つサイレンサーが付けられていないその拳銃を撃てばどうなるか……それは子供でも分かる事であった。
――パァン!
――パァンッ!!
――パァンッ!!!
駐車場に三発の銃声が連続して大きく轟き渡った。それはもう大きく、
もはやホテルや周辺から銃声を聞きつけ誰かがやって来るのも時間の問題だろう。
そう考えたベルモットは急ぎジンに声をかける。
「早く逃げるわよ、ジン!」
「待て。その前にピスコの息の根を完全に断つ」
「な、何言ってるんですアニキ!?ピスコの奴、もうくたばってんじゃあ……!?」
冷静な口調でそう呟くジンに、ウォッカが動揺しながらそう疑問を口にする。
そんなウォッカにジンは少し苛立ちを露にしながら、声を上げた。
「まだ安心は出来ねぇ!コイツの脳天に鉛玉をぶち込まねぇかぎりな!……こと、まだこのホテル内に
そう言いながらジンはピスコにとどめを刺すために彼の頭に標準を合わせようとした――。
――だが、その判断は今一歩遅かった。
――今現在、ジンが恐れていたその人物の声が、駐車場内に唐突に木霊した。
「おーい!誰か、そこにいるのかい!?」
『!!』
その声に、ジン、ウォッカ、ベルモットの三人が一瞬凍り付くも直ぐに冷静さを取り戻す。
今響いた声の大きさからして、自分たちとその声の主との距離はまだ少し離れているように思えた。
とすれば、自分たちの姿はまだ見られてはいないはず。
そう考えたベルモットはジンとウォッカに声をかける。
「誰か来る。隠れるわよ……!」
「へ、へい!」
「チィッ!」
ベルモットのその言葉に、ウォッカが素直に従い、ジンは舌打ちをして口惜しそうに倒れ伏すピスコを一睨みするとベルモットを先頭にしてその場を離れた。
――そして一分もしないうちに、ピスコの倒れるその現場に一人の医者が現れた。
SIDE:カエル顔の医者(冥土帰し)
私が駐車場へ一歩足を踏み入れた瞬間、駐車場内で三発の乾いた音が轟き渡った。
その音に私は一瞬凍り付くも、私の脳がその音が銃声だと理解した途端、すぐさま足が動いていた。
すぐさま音のした場所へ向かおうとするも、このホテルの駐車場は結構広く、また殺人事件が起きた後ではあったものの、そこには宿泊客やホテルスタッフのだと思しき車が多く駐車しており、なかなかその場所を特定出来ずにいた。
唯一幸いだったのは、ホテルの中とは違い駐車場に設置されている外灯が停電していなかったことぐらいだ。
そのため、駐車場は今のホテルの中と比べると比較的明るくなっている。
しかしそれでも、その外灯は駐車場内にはポツポツと片手で数えるくらいしか点在していないため、駐車場内を全体的には照らしきれておらず、その灯りが届いていない部分も多かった。
気が焦った私はつい、銃声がしたと思しき方向に向けて大きな声を駐車場の真ん中で上げてしまう。
「おーい!誰か、そこにいるのかい!?」
すると、私の視界の端で何かが動くのが見えた。
目を凝らして見る。距離が遠くてはっきりとは見えないが、数人の小さな人影がどこかへと走り去って行くのが見えた。
私は慌ててその人影たちがいた場所へと駆けつけた。
そしてその付近に到着すると、私は暗闇の中、目を凝らしながら周囲を見回してみる。
ぐるりと360度視界を回転させると、とある場所に視線が釘付けとなった。
外灯の明かりが届いていない駐車スペースの一部。そこに停まっている車と車の間に挟まれるようにして誰かが倒れているのが見えたのだ。
よくよく目を凝らすとそれはうつ伏せに倒れた枡山会長だった。すぐさま私は彼に駆け寄る。
「一体どうしたんだい?しっかりするんだ!」
そう声をかけながら私は枡山会長に触れる。すると手にぬめりとした感触が伝わり、何かが付着する。
「……!」
その感触と鼻につく独特の臭いを
改めて枡山会長を見ると彼を中心に血だまりが広がっているのに気づいた。
「これは……!」
私がそう声を漏らした時だ。
「おーい!誰かいるのかぁー!?」
「ここだよ伊達刑事!ここだー!」
「その声……カエル先生か!?」
ヒョイと私が頭を上げると、ホテルの方からその声の持ち主である伊達刑事が駐車している車の群れの合間を縫ってこちらへ駆けて来るのが見えた。
そしてある程度こちらに近づいて来た時、伊達刑事のそばにもう一人いる事に私は気づいた――。
SIDE:江戸川コナン
「おや、新一君。キミも伊達刑事と一緒にいたのかい?」
「カエル先生、何でここに!?」
連絡手段を失ったピスコが逃走した際、仲間と合流するために自分の車に戻って来るかもしれないと踏んだ俺は伊達刑事と共に駐車場へと駆けつけて来ると、そこには既に
「細かい説明は後回しだ。彼を助けるのを手伝ってほしい」
驚いてそう問いかける俺に構わず、カエル先生は端的に俺と伊達刑事にそれだけ言うと、自身の体を少しずらして背後で倒れ伏している人物を俺たち二人に見えるようにした。
「ッ!!……枡山!?」
「!!」
血だまりに沈む
「もはや虫の息だ。いつ死んでもおかしくない状況だから手を貸してほしい」
「何をすればいい?」
すぐさま俺ががそう聞くと、すかさずカエル先生がそれに答える。
「新一君は救急車を。伊達刑事は私の車のトランクから急ぎ医療道具の入ったカバンを
そうしてカエル先生は自分の車が停まっている駐車スペースに記されていた番号を伊達刑事に伝えると同時に、ポケットに入れていた車の鍵を彼に渡した。
それをすぐさま受け取った伊達刑事はカエル先生の車へと走り出す。
入れ違いに伊達刑事たちの後へ続くようにしてホテルから目暮警部たち警察もここへと集まって来た。
更に無関係な宿泊客やホテルスタッフなども騒ぎを聞きつけてやって来たので閑静な駐車場の一角が途端に騒々しい雰囲気に包まれてしまう。
倒れている枡山さんを一目見た目暮警部たちはすぐさま状況を理解し、野次馬を遠ざけ始めた。
それを一瞥したカエル先生も枡山さんの応急処置を始める。
俺はカエル先生から借りた携帯で救急車を呼ぶのを済ませると、再びカエル先生に声をかけていた。
「どう?何とかなりそう?」
「心配はいらないよ。大丈夫さ」
「だよな。……よかった」
きっぱりと俺を安心させるようにそう言い切ったカエル先生のその言葉にホッと胸をなでおろす。こういう時は本当に頼りになる。そんな俺にカエル先生はついでとばかりに先程の「何故ここにいるのか」という俺の質問に答えてきた。
「……哀君たちを病院へと見送った後、このホテルの停電で多くの怪我人が出る事を見越してね。車に積んでいた医療器具を取りにここに来たんだよ。そしたら駐車場に入った途端に銃声がしてね。駆けつけてきたらご覧の有様だったわけだよ」
「その時、誰か見かけなかった?」
「去って行く数人の人影は見えたけど、遠目で暗かったから男か女かすら分からなかったね」
「そっか……」
カエル先生のその返答に俺はがっくりと肩を落とす。それと同時に人込みをかき分けて伊達刑事がカエル先生の医療道具を持って戻って来た。
「カエル先生!持って来たぜ。医療道具!」
「よし!それじゃあ今すぐ手術を開始するよ!」
「え?手術!?ここでか!??」
当たり前だとばかりにそう言ってのけたカエル先生に、伊達刑事が面食らう。
どうやら、伊達刑事はカエル先生の『緊急手術室』を見るのは今回が初めてだったらしい。
かくして、半ば呆然となる伊達刑事の背中をその手術を見た事がある俺や目暮警部たちで押しながらカエル先生を手伝い、前代未聞の駐車場のど真ん中での手術が開始された――。
SIDE:三人称視点。(黒の組織)
「……まずいわね。あの先生、駐車場のど真ん中で手術を始めたみたいよ?」
「チッ!……やはりまだ息があったのか、ピスコ……!」
駐車場の端にある茂みの中で駐車場内の様子をうかがっていたベルモットのその言葉に、ジンが忌々し気にそう吐き捨てた。
茂みに隠れてすぐ、遠目からピスコに駆け寄って来る人物が『例のカエル顔の医者』であると認識した瞬間、ジンはすぐさまあの医者を殺してでもピスコを始末すべきだと言って行動に移ろうとしていた。
だがそれをベルモットが「
ピスコの息の根を止めること自体はベルモットも賛成だった。本来なら今すぐにでもピスコを殺してこの場から離れるべきだったのだろう。
しかし、この場にあの医者が現れてしまった事で
(……まさか、あの先生がここに来てしまうだなんて……!あの先生は『
ベルモットはそう思いながらジン同様に忌々し気に口元を歪める。
そうこうしているうちに、ピスコと医師のいる場所に人が集まり始めた。
これではもはやピスコに近づくことは出来ない。
いっそピスコだけでも今持っている拳銃で狙撃できないかとも考えたが、多く駐車されている車が障害となっておりそれも出来ない。
やがてピスコの倒れているその場所に
ジンたちのいる所からでは医師や警察が何をしているのが良く見えず、そこから響く声などもあまり聞き取ることが出来なかったが、どうやらあの場で手術をしてピスコを治療しようとしている事だけはジンたちにも理解することが出来た。
「ど、どうしやすか?」
ウォッカのその呟きに答えたのはジンではなくベルモットであった。
「……最悪、
「米花私立病院か……」
ベルモットのその言葉に、ジンはそう呟く。
あのカエル顔の医者が経営する『米花私立病院』はそこいらの病院とはまるで違う。はっきり言って異質だ。
病院とは名ばかりの『難攻不落の要塞』。あそこに収容された患者は何人も退院するまで外部からの危害に脅かされることは無くなる。それが『米花私立病院』という施設の実態だった。
あそこにピスコが運び込まれれば、いくら『組織』でも簡単に手出しが出来なくなる。
いや、不可能という訳では無いが非常に厄介なのだ。
下手に強硬手段に踏み込めば、周囲の無関係な者たちをも多く巻き込む事態にも発展しかねない。
だからこそ、ピスコがあの病院に収容される事だけは何としても阻止したかった。
カエル顔の医者がピスコの手術を行っているのをただジッと指をくわえて見つめる事しか出来ないジン、ウォッカ、ベルモットの三人。
しかし、やがてベルモットが何かを思いついたのかジンに静かに声をかけてきた。
「……ジン。私に任せてくれる?……何とかピスコをあの病院に入れる事だけは阻止して見せるわ」
そう呟いたベルモットの視線の先には――たった今、駐車場に到着したばかりの一台の救急車の姿があった。
SIDE:カエル顔の医者(冥土帰し)
「……ふぅ、術式終了。急いで枡山会長を米花私立病院へ……!」
「わ、分かりました!」
枡山会長の体内から弾丸を摘出し、傷口を塞いで手術を終えた私は、救急車で駆けつけてきた救急隊員にそう言い、それに救急隊員ははっきりと頷いて見せた。
そうして枡山会長が救急車の中に入れられ、そのまま病院へと向かって行く。
それに続く形で警察官を乗せた一台のパトカーも護送のために救急車の後に付いて行った。
それらを見送った私は、新一君から返してもらったばかりの携帯電話で米花私立病院へと電話をかける。
「――……ああ、鳥羽君かい?今し方、救急車で患者を一名そちらに送った。すぐに病室の手配をしてくれるかい?患者の名前は枡山憲三。……そう、あの有名な自動車メーカーの会長さんだ。……ああ、頼んだよ」
電話口に出た鳥羽君に用件だけを手短に済ませて電話を切ると、そばに立っていた新一君と伊達刑事に声をかけた。
「僕はこのまま病院へと直行するけど、キミたちはどうする?」
「俺はカエル先生に同行するよ。向こうには先に灰原たちがいるんだよな?……なら俺も行かねぇと」
新一君がそう言って私と病院に向かう事を告げる。
対して伊達刑事は――。
「悪ぃな先生。俺はまだここで目暮警部たちと現場検証しなけれりゃならねぇから先に行っててくれ、直ぐに俺もそっちへ向かうからよ」
――そう言い残し、今後の事を話しあう目暮警部たちのいる輪の中へと入って行った。
その背中を見送った私と新一君は一路、私の車に乗って米花私立病院へと向かった。
今後の枡山会長の身柄をどうするか、新一君と相談を交わしながら――。
「――え?……な、何だって!?」
「ですから、
米花私立病院の受付前で鳥羽君に告げられたその言葉に、私と隣に立つ新一君は何が起こったのか分からずただ呆然と佇む事しか出来なかった――。
最新話投稿です。
後、一話か二話くらいでこの話は終了です。