とある探偵世界の冥土帰し   作:綾辻真

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毎回の誤字報告、及び感想ありがとうございます。

今回がこの話の最後(エピローグ)となります。
そのため、文章量は少なめとなっておりますのでご容赦を。


カルテ22:枡山憲三(ピスコ)【14】

SIDE:江戸川コナン

 

 

 

 

「――とにかく警部。この事件に僕が関与した事は内密にしてください」

『それは良いが……一体どうなってるんだね?……殺された吞口議員の家族は蒸発するし、いなくなった被疑者の枡山会長の家は全焼するし……もう何がなんだかワシにはぁ』

「……今はまだ何も言えません。分かったら連絡しますから」

『お、オイ。工藤君――』

 

米花私立病院の一室――。

そこで蝶ネクタイ型変声機で工藤新一の声で目暮警部と会話をし、自分がこの事件に関わっていた事を(おおやけ)にしないように念押しした俺は、警部が呼び止めるのも聞かず一方的に電話を切った。

 

 

 

 

 

――杯戸シティホテルの殺人事件から数日。

この一件は誰もが予想だにしなかった結末で幕を迎える事となった。

 

米花私立病院にピスコこと枡山さんが来ていない事を知ってすぐ、カエル先生の調べでピスコが杯戸中央病院に収容されたのが分かった。

それを聞いた俺とカエル先生は、直ぐにそれが『黒の組織(奴ら)』の仕業だと直感する。

そして、カエル先生はすぐさま枡山さんを米花私立病院に搬送する手配を行ったが、当の本人である枡山さんがまだ意識を回復していなかったことと、搬送しても大丈夫かどうか確認するための検査も必要だった事もあって、搬送は翌日へと持ち越しとなった。

かくいう俺はと言うと、あの事件から夜が明けて直ぐ、先に米花私立病院に入院していた灰原の容体を見に行った後、蘭たちに怪しまれないようにいつも通り小学校に通ったりしていた。

そして、何とか枡山さんに会えないか授業が終わった放課後、杯戸中央病院へとやって来たりもしたが、やはり事件の被疑者なため、あの人のいる病室の周囲は警察が配備されており、子供の姿ではあれど枡山さんと血縁でも何でもない俺が近づく事は出来なかった。

枡山さんとの接触を断念した俺は、仕方なくあの人が米花私立病院へと搬送される時を待つ事にしたのだが――それからすぐ、再び事件が起きた。

 

 

――搬送される前日の夜、枡山さんが突如病室から消え失せたのだ。

 

 

その知らせをカエル先生経由で聞いた時、俺は一瞬『組織』の仕業かと思ったが、奴らは枡山さんを殺そうとしていた。なら、わざわざ病室から連れ出さなくてもその場で始末すれば済むはずである。

詳しい内容を知るために、俺は()()()()()をカエル先生の病院に呼び出して事の仔細を聞いてみる事にした。

話を聞くと、その時間見張りをしていた警官の所に別の警官がやって来て、部長が呼んでると言って見張りを代わったのだという。

しかし、呼ばれた警官が部長の所に行くと部長は呼んだ覚えがないというのだ。

不審に思いその部長と一緒に病室へと駆け戻ってみると、枡山さんだけでなく見張りを代わったその警官も奇麗さっぱりいなくなっていたという。

俺はその話を聞いた時、その知らせに来た警官と言うのは実は『組織』の息のかかった者で、枡山さんを暗殺するためにあえて見張りをしていたその警官に嘘をでっちあげ見張りを交代し、枡山さんを殺すつもりだったのだろうと思った。

しかし、それよりも前に枡山さんが意識を取り戻した。そして、身の危険を察知したのかは分からないが『組織』の手がかかる前にあの人は病院を抜け出したのだろう。それ故に結局『組織』は枡山さんを仕留めそこなう事となった。

 

……多分に想像が織り交ぜられた推測だが、話を聞いた状況から察するにほぼ間違いないだろう。

 

また、杯戸中央病院の近くでとある会社員の男性が倒れているのが発見された。

酔いつぶれて眠っていたようだが、彼の所持品であるコートと靴、そして財布が紛失していたらしく、こちらも恐らくは患者衣姿で抜け出した枡山さんが逃走するために奪って行ったのだと考えられた。

夜の寒空の下でコートと靴を奪われてしまった男性だったが、幸いにも警察の発見が早かったため命に別状は無かったという。

 

そして、それから数時間後。とある空港で顔を隠した枡山さんらしき老人が数人の男たちを連れて海外行きの飛行機に乗って行ったという目撃談があったらしい。

このまま日本に留まっていれば『組織』に狙われるリスクが高くなると踏んで、枡山さんは早々に海外へと逃亡したのだろう。

枡山さん(ピスコ)を捕まえられなかったのは残念ではあるけれど、あのまま『組織』の手にかかって死んでしまうと、こっちも寝覚めが悪い。

だから、あの人が生きて『組織』から逃げおおせたという点だけは、正直ホッとしている。

俺や灰原、灰原の姉さんにカエル先生。そして()()()の事が『組織』に知られなかったようでこっちとしても万々歳だ。

 

 

 

 

 

 

警部との会話を終えてフゥッと息を吐いた俺は背後へと振り返る。

そこには明美さんに支えられる形で松葉杖をつく灰原が立っていた。体のあちこちに包帯やガーゼを付けてジッとこっちを見ている。

灰原のその視線を横目で受け止めながら、俺はふとあの杯戸シティホテルの事件で気になっていた事が頭に浮かんだ。

 

(……そう言やぁ、あのホテルの屋上で俺は確かにジンに麻酔銃を撃ち込んだのに何で奴は動けたんだ?あんな大男、眠っちまったら警察から逃れられねぇと踏んでたのに……。ウォッカに引っ張って行ってもらったのか……?それに……灰原の行動が奴らに読まれ過ぎていたのも気にかかる……。灰原が会場に来ることも確信してたみてぇだし……髪の毛見ただけで誰だか分かるか普通……?)

 

そんな事を考えながら、俺は灰原に向き直り口を開いた。

 

「……なぁ、灰原。お前ひょっとして『組織』にいた頃――」

 

だが、そこまで言った俺のその言葉を灰原の声が遮った。

 

「――ねぇ、工藤君。バレちゃったと思う?『組織』に私の体が小さくなった事……」

 

まるで()()を聞いてほしくないと言わんばかりにそう聞いて来た灰原に、俺はそれに()()()()()()()()()答える。

 

「……いんや、状況から見てもバレてねぇみたいだぜ?ピスコも『組織』に俺たちの事を報告する前に逃亡しちまったみてぇだし……それに、バレてたんならとっくの昔に俺たちの周囲に奴らが嗅ぎつけて来て何かしら仕掛けて来んだろ?……奴らに知られたとすれば、あの夜お前があのホテルのある杯戸町に居たって事くらいだが。……『組織(奴ら)』の事だ。ホテルで自分たちから逃げおおせたお前が未だにこの付近に潜伏している訳がねぇと考えてるはずだ。……逃亡したピスコの件もあるし、恐らく当分こっちには舞い戻って来ねぇよ」

「そう……。でも結局、『組織』の尻尾もつかめず、ふりだしに戻っちゃったわね。……私が持っていたあのMOもお姉ちゃんに担がれて酒蔵から逃げ出す時に落としちゃったみたいだから、もうあの時の火事で燃えてしまっただろうし……」

 

灰原があのMOを落とした事に気がついたのは、米花私立病院に担ぎ込まれた後だったらしい。

屋上でジンに撃たれる直前までは確かに持っていたのを確認していたから、落としたのだとすれば煙突の中に落ちた後だという。

その頃には意識を保つことで精いっぱいでMOの方には頭が回らなくなっていたと灰原は言っていた。

 

「ごめんね志保。私も落とした事に気が付かなくて……」

「いいのよ。あの状況じゃあそんな余裕なかったし、仕方ないわ」

 

俯きながらそう謝って来る明美さんに灰原がそう答えて小さく笑って見せる。

そんな二人にそばで聞いていた阿笠博士が口を開いた。

 

「……にしても改めて見ても本当にとんでもない奴らじゃのう、その『組織』とやらは。自宅の放火や果ては関係者の家族にまで手を出すとは……!」

「……そう、疑わしきはすべて消去する。……これが彼らのやり方なのよ」

 

阿笠博士のその言葉にそう答えた灰原は、再び俺に視線を向けながら言葉を続ける。

 

「……分かったでしょ?『私たち』は、正体を誰にも気づかれちゃいけないって事が……()()()()()()()()()()()()()、ね」

「……ああ。よぅく分かったよ。……奴らを絶対ぶっ潰さなけりゃならねぇって事がな……!」

 

灰原の言葉に、俺は決意新たにそう答える。

組織(奴ら)』の行動ははっきり言って常軌を逸している。

博士の言う通り、『組織(自分たち)』の為なら躊躇なく家の放火や関係者の周囲の人間にまでやってのける奴らのやり口はどうにも理解できねぇ。

疑わしきは例え些細な事でも容赦なく抹殺する。その上でそこにどんな目的があるのかは知らねぇが、無関係な人たちまで平気で巻き込む奴らのそんなやり方を、黙って見過ごす訳にはいかねぇ……!

俺のそんな様子に目の前に立つ灰原は小さく肩をすくめると、今度は別の方へと視線を移す。

そこには、俺たちに杯戸中央病院で起こった出来事を教えに来てくれた人物が、用意された椅子に座ってジッとこちらを見つめてくる姿があった。

その人物に向けて灰原が声をかける。

 

「……あなたも、とんだ災難に巻き込まれたわね。私たちに関わってしまったばっかりに、こんなとんでもない事に首を突っ込んでしまって……」

 

少し暗い表情で灰原がそう言うも、対するその人物はまるで気にしていないと言わんばかりに()()()()()()()()()()ニカリと吊り上げて笑って見せた。

 

「気にすんな!別にお前らに頼まれて首を突っこんだ訳じゃねぇんだからよ!」

「……!」

 

予想だにしていなかったのかその人物のその返答に灰原は目をぱちくりとしながら面食らう。

そんな灰原を前に、その人物――伊達刑事は、今度は不敵な笑みを浮かべながら言葉を続ける。

 

「……いや、むしろ燃えて来たぜ。そんなとんでもねぇ奴らがこの世にのさばってるなんて知る事が出来てな!警察官の血が疼くってなモンだ!」

「……ば、馬鹿ね!アナタ分かってるの!?下手すればアナタだけでなくアナタの周りにいる人たちだって、危うくなるのよ!?」

 

慌ててそう叫ぶ灰原に、伊達刑事は「問題ない」と言わんばかりに今度はフッと小さく笑って見せた。

 

「あの酒蔵で言ったろ?嬢ちゃん。『全部守る』って。お前ら姉妹も、俺の家族も、仲間も……!誰一人『組織』になんざ指一本たりとも触れさせねぇ……!その上で『組織』の連中なんざぁ全員ブタ箱送りにしてやらぁ!――」

 

 

 

 

 

 

「――それが……この国の治安を守る一警察官の意地ってなモンだ!!」

 

 

 

 

 

力強くそう言い切った伊達刑事のその言葉に、灰原のみならずその部屋の中にいた全員が圧倒される。

そうして短い静寂の後、現在この部屋にいる最後の一人であるカエル先生が笑いながら俺に声をかけてきた。

 

「はっはっは!……これはまた、心強い助っ人が出来たじゃないか。ねぇ新一君?」

 

カエル先生のその言葉に俺はフッと笑いながらそれに答える。

 

「ああ、そうだな。本職の刑事が味方になってくれるなんて、願ったり叶ったりだ」

 

結局、『組織』の尻尾を掴む事は出来なかったが、それでも得られたモノは確かにあった。

それははたから見ればたった一人、味方が増えたと言うだけの話であったが、それでも俺たちにとっては大きな価値を持った話であった。

 

呆れ顔の灰原と会話をする伊達刑事を見ながら、俺は『仲間』が増えた嬉しさに一人小さく笑みを浮かべていた――。




軽いキャラ説明。



・枡山憲三(ピスコ)

単行本第24巻に収録、及びテレビアニメ第176話~第178話『黒の組織との再会』にて登場。
黒の組織の一員であり、古株の幹部。
原作では炎に包まれた酒蔵でジンに射殺されてその生涯を終えるも、本作では紆余曲折の果てに何とか命拾いをする事となる。
そして一部の隠し財産と信頼のおける部下を数人連れて日本を離れ、警察の眼や『組織』の眼からも行方をくらまし、地下へと潜った。



・アイリッシュ(本名不明)

劇場版第13作、『漆黒の追跡者(チェイサー)』に登場する黒の組織の一員にして幹部。
原作では父親同然に慕っていたピスコをジンに殺されてしまった事で彼との因縁は大きく、コナンを使ってジンを失脚させようと企んでいた。
しかし最後はピスコと同じようにジンたちによって殺される運命をたどる。
本作では名前だけの登場だが、逃走したピスコの誘いで彼に付いて行く事を決意し、彼と数名の仲間と共に日本を脱出して地下へと潜った。






・お知らせ。

今話では予想以上に話数を多く使いましたので、次回は日記形式と言う形でダイジェストに一話でまとめてみようと思っております。
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