さて、今回はメインキャラの一人にスポットが当たりますが、結構短めです。
――ワシ事、
毎日毎日、たくさんの凶悪な事件がワシら捜査一課の下に舞い込み、それらを片っ端から担当し解決へと導いていく日々を送っている。
とても忍耐のいる仕事だが、やりがいのある仕事だ。
――さて、突然ではあるが今回はワシとワシの妻、みどりとの馴れ初め話を語って行こうと思う。
いや、前もって言わせてもらうが断じて
――話は20年以上昔の事、当時ワシはまだ刑事になりたての新米だった。
駆け出しだったワシは、当時世間を騒がせていた『連続女子高生ひき逃げ事件』の捜査を担当しており、犯人逮捕に仲間たちと一緒に躍起になっていた。
その事件と言うのが、当時の女子高生の中に「ロンタイ」と呼ばれる丈をくるぶしの所まで伸ばしたスカートをはいた者が存在しており、犯人はその女子高生が一人になった所を車で当て逃げして行くという事件であった。
犯人の動機は、ロンタイの不良女子高生に恐喝されたことによる逆恨み。それが原因で犯人はロンタイをはいている女子高生を見ると手当たり次第に車で襲うという悪質な犯行を重ねるようになった。
犯行は最初こそ怪我レベルの被害を起こす程度であったが徐々にエスカレートし、ついには死者が出るまでに至ってしまう。
――するとそんな時、犯人によってひき殺された被害者の友人だと名乗る女子高生が囮役を買って出てきたのだ。
それが、後のワシの妻――みどりだった。
ワシら警察は最初こそ危険だと彼女を止めたのだが、友人を殺されたことで警察に強い反感を抱いていたみどりは聞く耳を持たなかった。
そのため警察は、何かあっても対処出来るように刑事を一人、彼女の護衛に着ける事にした。
……そう、それが当時のワシだった。
護衛に着いたワシをみどりは「警察は役立たずだ」と愚痴ったりと酷く煙たがられたりもしたが、それでもワシは彼女を守ろうという使命感を胸に彼女のそばを一時も離れようとはしなかった。
ワシのその意気込みが通じたのか最初こそ嫌悪感をむき出しにして暴言を吐いていたみどりも、その内何も言わなくなっていった。
そんな彼女を見てホッと胸をなでおろしたワシは、このまま犯人が逮捕されるその時まで何事も無く無事に彼女がいる事を心から願った。
――しかし……やはり、現実はそう甘くは無かった。
ある晩、いつものように家路へと帰宅する彼女とその護衛をするワシの背後から、一台の車が猛スピードで接近してきたのだ。
その車がみどりに向けて真っ直ぐ突っこんで行こうとしているのにすぐさま気づいたワシは、考えるよりも先にみどりを守るようにして車の前にその身を投げ出していた――。
そうして次の瞬間には全身に強い衝撃が走り、気づけばワシは頭から大量の血を流して地面に転がっていた。
周りを見渡すと少し離れた所にワシと同じく頭から血を流して倒れているみどりと、今まさに走り去ろうとしているワシらを跳ねた車の姿が目に映った。
ワシはすぐさま車のナンバーを頭の中に叩き込むとよろよろと立ち上がって彼女へと駆け寄る。
ぐったりとした彼女をワシは必至に呼びかけながら抱き起す。
するとみどりは薄っすらと目を開けると――。
「やっぱ、映画みてぇにはいかねえよな……」
――と、後悔と皮肉が入り混じったかのような表情で顔を歪めながらそう呟くと、力尽きたのか直後に意識を手放していた。
それを見たワシは慌てて直ぐに救急車を呼ぼうとし――。
「キミたち、大丈夫かい!?何があったんだ血だらけじゃないか!!」
――直後、背後から男性の叫び声が届き、反射的に振り向いていた。
するとそこには、カエルのような顔をした30代くらいの男が血だらけのワシらの姿を見て血相を変えて慌てて駆け寄ってくる姿があった。
――そう。それがその後も長い付き合いをして行く事となる、カエル先生との初めての出会いであった。
それからすぐに犯人は逮捕され、カエル先生の治療で瞬く間に元気になったワシとみどりは、それをきっかけに交際を重ねて結婚をし、今は幸せな家庭を彼女と築き上げている。
本当なら、
……本当に、先生には感謝してもしきれない。そしてそれは、ワシの伴侶となって一緒に人生を共に生きてくれることを受け入れてくれたみどりにも――。
――……さて、過去回想はここまでにして、そろそろ現実に意識を戻そうと思う。
過去を振り返っての
そんな事を考えながらワシは目の前の現実に意識を戻していた――。
「目暮警部。いい加減観念して僕にその頭の治療をさせてくれないかねぇ~?」
「で、ですから
目の前に立つカエル先生にワシがそう返すと、今度はカエル先生の隣に立つみどりが声を上げた。
「カエル先生、もう無理矢理にでもこの人の頭の傷を奇麗さっぱり治しちゃってくださいよぉ。この人、変な所で頑固なんだからそれぐらいしなきゃあ聞きやしないんですから」
そう言ってカエル先生の肩を持つみどりの口元がニヤニヤと吊り上がっているのが見えた。
――みどりの奴、絶対にこの状況を楽しんでるだろう!?
口に出してそう叫びたいのを必死に押し殺しながら、ワシは二人から身を隠すようにして病室のベッドのシーツにくるまった。
「あらあら、ダンゴムシみたいに布団にくるまっちゃって。全く子供じゃないんだから」
「勘弁してくれ。誰が何と言おうとこの傷だけは治させはせんぞ!」
意地悪気にそう呟くみどりに、ワシも半ば意固地になってそう言い返す。
ワシとみどりの命を危機にさらしたあの事件は、新米刑事だったワシの中で大きな影響を与えた。
命が助かったとは言え、
囮捜査を行う事のリスクと一歩間違えれば『何か』を失ってしまうかもしれないという恐怖。
そしてワシ自身も……刑事になって初めて死にかけた事で、改めて色々と考えさせられた事件であった。
それ故に、この一件を決して忘れぬよう頭の傷を今後の刑事人生の戒めとして残す事を決めたのである。
……しかし、心身共に生粋の医師であるカエル先生には、その考えは理解できないものだったらしい。
その後もカエル先生は「傷跡を残さず治療できる」と何度も言って来たが、決心を固めていたワシはそれを頑なに断り続けた。
やがてワシの決心が固いと分かると、カエル先生は不満そうに口をとがらせながらワシの要望に応えた治療を行ってくれた。
そんなカエル先生をワシは治療中、ずっと心の中で手を合わせて謝り倒していたのはここだけの話だ。
そうして20年以上の月日が流れたつい先日、
(まさか搬送先が『米花私立病院』になってしまうとは……!)
シーツをかぶりながらげんなりとした表情でワシは心の中でそう毒つく。
搬送された直後、ワシの頭の古傷が開いたと知ったカエル先生が嬉々とした表情でワシの病室にやって来ると、自分に治療をさせてほしいとせがんで来たのだ。
目をキラキラとさせて満面の笑みを浮かべるカエル先生を見て、ワシはすぐさま頭の古傷を奇麗さっぱり治療してしまおうと考えているのだと感づいてしまう。
「意地を張るのはもうやめて、ちょっとでもいいから僕に頭の傷を見せてくれないかねぇ?キミも年中睡眠の時ですら帽子をかぶり続けてたら汗でむれるし衛生面的にも良くないよ?でも傷が無くなれば帽子をかぶる必要も無いからそっちの問題も解消されるんだ」
「で、ですから結構ですって!それにさっきも言いましたが私の担当医は風戸先生で――」
「――ああ、それなら後で風戸君に担当医を代わってもらうよう頼みに行くつもりだから問題ないよ」
「行かなくていいですから!!」
手をワキワキと動かしながらにじり寄って来るカエル先生とそんな応酬を繰り広げながらワシは頭の古傷を押さえて必死に抵抗を続ける。この人、意外と中途半端な治療を嫌う性格をしていたようだ。
医師として自身の仕事を全うしようとしているは分かるのだが、何故だろうか?身の危険を感じた時のような悪寒が全身を駆け抜ける。
(誰かぁ~!ワシを助けてくれぇ~~~!!)
心の中で絶叫しながら、ワシとカエル先生の戦いは松本管理官や毛利君たちが見舞いにやって来るまで続いたのだった――。
今回は過程が変化しているだけで大体の話の筋は原作とあまり変わりませんので、軽いキャラ説明はありません。