今回はアニメオリジナル回で良い構成が思いつかずあえてスルーしていたエピソードに着手していきたいと思います。
オリジナル設定、増し増しでお送りいたしますので、ご容赦のほど。
……胃が痛い。
私こと
私を苛んでいる極度のストレスが胃を蝕んでいるのだ。
その原因は既に分かっている。私の夫――
数十年もの間、舞台の上で活躍してきた俳優でその年季の深さから筋金入りの演技力を誇る。
しかし、人間誰しも裏の顔があるもので夫もその例に漏れない。
何を隠そう、俳優である夫は女にだらしのない好色家という二面性を持っていた。
それもいい歳をしているのにも拘わらず、ナンパ感覚で若い女にすり寄るのを周囲の目を気にも留めず平気でやっているのだから一周廻って感心すら覚えて来る。私と言う妻を持ちながら何をやっているのか。
……そんな女癖の悪さ故、当然『浮気』もやっている。それも今までに
一度目は私と結婚してから数年も経たずして近所に住んでいた若いOLと、二度目はとある舞台の打ち上げで行ったブティックのキャバ嬢にだ。
しかもその両方とも、私に隠す気などほとんどないかのようなずさんな隠蔽で、素人の私一人でも直ぐに夫が『クロ』だと突き止められるほどのものであった。
もちろん私は怒り心頭だったが、一度目は号泣しながら土下座して来たので夫も反省していると思って怒りの矛を降ろした――。
だが、二度目の浮気が発覚した直後、その判断は間違いだったと否応なく知る事となった。
キャバ嬢との浮気の証拠を夫に着きつけてやると夫は一度目とは全く違った、それこそ開き直ったような態度で『酒の勢いでヤッてしまったんだよ。一夜限りの過ちってヤツだ。悪いか?』とぬけぬけとそう言ってのけて来たのだ。
一度ならず二度までも。しかも今度は反省の色を全く見せない夫に私の頭にカッと血が昇る。
ふざけるな。一体この人は私を何だと思ているのか。
怒りのままに私は夫に離婚を突きつけた。が、それを聞いた夫は私を小馬鹿にした態度でこう返してきたのだ――。
『離婚だぁ?離婚した後お前はどうするつもりなんだ?お前の両親はもうとっくに他界してるし頼れる親類もいないからお前に帰る場所なんてない。その上、今までロクに働いた事のないお前がその歳で定職に就けるかも怪しいモンだぞ?……まあ、俺から取った慰謝料でしばらくは食いつなげるかもしれないが、それも時間の問題だな』
私は夫のその言葉に二の句が継げなくなった。
確かに夫の言う通り、私の両親は何年も前に亡くなっており、実家も既に人手に渡っている。
経歴も裕福な家庭で育ったのでアルバイト経験は一切無く、大学を卒業して直ぐ夫と結婚したので就職履歴も白紙同然だった。
そんな私が今の30代の年齢で一人で働いて生活するのは難しく思えてきてしまったのだ。
私の心境を察したか夫は気味の悪い笑みを浮かべながら私の肩にポンと手を置く。
『悪い事は言わないから離婚なんて馬鹿な真似は止めろ。なぁにお前は俺のやる事にいちいち口出しせず、黙って俺にしたがってりゃあそれでいいんだ。そうすりゃあお前は今まで通りの生活を送れる。……今でいうウィンウィンな関係を俺たちは続けられるんだよ』
そう言ってあざ笑う夫を前に、私は俯いたまま唇をかんで耐えるしかなかった。
情けない。情けなくて涙が出そうだ。
私が愛した夫はこんな下劣な人間じゃなかったはずなのに。
夫と私は22歳ほどの歳の差があったが、それでも私は彼に結婚を求めてしまうほどに愛していた。愛していたんだ……!!
学生時代、友人と見に行った舞台の上で汗をかきながらも熱心に演技をこなす、情熱的な彼の姿に私は瞬く間に惚れ込み、そして惹かれて行ったんだ。
それなのに……それなのにだッ……!
私の愛した夫はもはや過去の思い出にしかもういない!!
目の前であざ笑う愛した夫の皮をかぶった悪魔にはもはや少しも愛情など持てない!!
もはや……憎しみと悔しさの混ざった憎悪の眼でしか、私は見ることが出来なくなっていた……。
――それからも夫は変わることなく、仕事の合間合間に若い女の尻を追いかける生活を続けた。
私の方も相変わらずあの男のそばで彼を支える妻を演じ続けた。……続けるしか、なかった。
――しかし、それもやがて限界が来てしまう。
私よりも若い女に次々に手を出そうとして行く夫への怒りや、その夫から私自身を女と見ずただの『置物妻』としか思われていない屈辱、そして更には夫からの被害を受けた女性や女性関係者たちからのクレームの嵐に対する苛立ちから……ついに私は胃を壊してしまう羽目になった。
感情が高ぶるとキリキリと痛み出す胃を必死に押さえつけ、私は今日もかかりつけの医者から処方してもらった胃薬を飲む。
そんな私を夫は馬鹿にした目で見て来るようになった。
私は大声で怒鳴りつけてやりたかったが、その都度胃が痛みだすので無理矢理にでも怒りを鎮めなければならなかった。
少し前に一度、人目をはばからず夫と大喧嘩をしたこともあったが、それももう出来そうにない。
胃の方も夫からのストレスによって悪化の一途をたどっていると医者から言われている。
もはや一生夫の悪行に目を瞑り、耐え忍ぶしかないのか。……そう思っていた時だった。
――ある日夫が突然倒れ、担ぎ込まれた病院で心臓の病にかかっている事が医者から宣告されたのだ。
それを聞いた時、私は表面的には驚き悲しむ妻を演じていたものの、その内心は飛び跳ねらんばかりに狂喜乱舞していた。
今まで散々私の事を馬鹿にしていた夫が私同様、いつ死ぬかも分からない爆弾を心臓に抱える事になったのだ。喜ばないわけがない。
その影響からか、持病持ちになった夫は何かあると直ぐ私や周囲の人たちに向けて怒鳴り散らすようになった。
時には理不尽な事で怒ってくることもあり、それが日に日に多くなってきていた。
しかし私はそれに怒りを感じる事は無く、むしろ夫がいつ死ぬかもしれない恐怖に怯えているのだと察することが出来、溜飲が下がる気分だった。
……まあ、それでも。女癖の悪さと俳優にかける情熱や姿勢は相も変わらずだったが。
私たち関係者相手には感情的にはなれど、舞台を見に来てくれる客やファンといった世間の人たちには一切そんな姿を見せないのは、流石は腐っても俳優と言えるだろう。
だがそんな世間との板挟みになって更に苦しんでくれれば、私も更に気が晴れる。
――しかし、そんな事を思っていたある日。突然、大きな転機が訪れる事となった。
「何ですって?アナタの心臓の病気を治せる人が見つかった!?」
「ああ、そうだ。東京の米花町にある病院の医院長らしくてな。その人なら瞬く間に治すことが出来ると、担当医からお墨付きをもらった」
夫のその言葉に私は一瞬頭の中が真っ白になる。そんな私の様子に気にも留めず、夫はウキウキと嬉しそうに言葉を続けた。
「これでこの忌々しい病気とも永遠におさらばできる。……思う存分、昔みたいに舞台に専念できるようになる!」
嘘をつけ。お前が専念したいのは女アサリの方だろ。
そう叫びたくなる衝動を私はグッとこらえる。
「……よかったわね」
皮肉をふんだんに込めてそう絞り出すように呟いた私。
そんな私の心情を察したのか、夫は私を馬鹿にしたような顔で口を開く。
「フン!何だったらお前もその先生に胃を診てもらったらどうだ?治してしまえばそのひねくれた性格も少しはマシになるだろう」
「ッ!……大きなお世話よ!!」
カッとなった私はそんな捨て台詞を残して足早にその場を後にする。
憎い。悔しい。苛立たしい。
私の中で負の感情がごちゃ混ぜになり、それが大きな殺意へと膨らんて行く。
死んでほしい。今すぐこの世から消えてなくなってほしい。殺してやりたい。殺してやる。殺し……殺す。殺す。殺す。殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺すころすころすころすころころころコロロロロロ……!!
――ズキッ!!
「――ッ!!」
唐突に胃に痛みが走り、私は動かしていた歩みを止めてその場に蹲る。
私はすぐさま懐から胃薬を取り出して、その錠剤を口の中に放り込んだ。薬の効き目が来るまで私はそのままの姿勢を保ち続ける。
……最近、薬の効き目が鈍くなっているような気がする。これは、また更に悪化しているのではないのだろうか?
「ッ……くそぉ……」
悔しさを含ませた私の涙声がその場に寂しく木霊した――。
――数日後。私は単身、静岡から東京まで電車に乗って米花私立病院へと訪れていた。
あれからかかりつけの医者にもっと強い効き目の胃薬が欲しいと頼んでみたのだが、あれ以上強いものは無いと返された。
医者の診断では私は今、
また、胃潰瘍になる原因はいくつか存在し、その原因によって治療方法も変わって来るのだとか。
私の場合はまず間違いなく夫に対する極度のストレスから来ているのだが、医師の話では
その場合、胃薬の使用をいったん止める考えもしなければならないと言うのだが……正直、それには強く拒否を示したかった。
もう長い事この胃痛との付き合いは続いているが、いい加減もううんざりしているのだ。
長年続く夫に対するストレスにそれが原因で起こる胃痛との闘い。どちらか一方だけでも良いからさっさと決着を付けたかった。
その意をくんでくれたのか、医者は少し考えるそぶりを見せると、
その話を聞いて私はようやく胃痛から解放されるのかと胸をなでおろしたが、紹介してくれると言うその凄腕の医師の名前を聞いて瞬時に凍り付く事となった。
――それは夫が心臓の治療をお願いしている医師であったのだから。
それから散々迷ったが……私は最後には渋々ながらその医師を頼る事にした。
先日の夫からの言葉で、あの男の意のままに誘導された感があって
「やぁ。貴女が小宮山泰司氏の奥さんの敦子さんだね?……早速、診断を始めましょうか」
「……はい。よろしくお願いします。先生」
診察室でまるでカエルのような顔をしたその先生に向けて、内心複雑な気持ちを抱きながら私は深々と頭を下げていた――。
「……うん。この分だと
「……はい?」
いくつかの検査を受けた後、診断書を見たカエル顔の先生の口からそんな言葉が飛び出し、私は思わず呆けた声を漏らした。……一歩手前とは言え、胃潰瘍ってそんなに早く治せるものだったかしら?
私がぼんやりとそんな事を考えていると、カエル顔の先生は「ただ……」と呟きながら続きを口にしだした。
「……貴女の場合、胃痛は極度のストレスから来ているみたいだねぇ?これを何とかしなければ、完治してもそう遠くないうちに再び胃痛が再発する可能性が高い。……治療してもそれじゃあ完全にイタチごっこになってしまうね?」
「…………」
その言葉に私は思わず沈黙してしまう。
胃痛から解放されるのは嬉しいが……伝えた方が良いのだろうか?その胃痛の原因であるストレスの正体が、先生が治療しようとしている私の夫であることを。
内心どう切り出したらいいか悩んでいると、カエル顔の先生の口が開いた。
「……まぁ、言いにくい事であるのなら今すぐには問いただしはしないよ。近い内に泰司氏も手術を受けにこの病院に入院するのは貴女も聞いてるでしょう?その時に貴女も一緒に治療する予定ですからその時にでも聞かせてもらえればいいですよ。……ちなみに泰司氏の心臓病は手術すれば
「――……なら、夫を治さないでください」
「……ん?」
「――!」
――しまった。先生から夫が手術をすれば一週間で治ると聞いた瞬間、頭の中が真っ白になってつい口が滑ってしまった。慌てて両手で口を塞ぐももう遅い。
本当なら、心臓病の治療が一週間で治ること自体おかしい話なのだろうが、今の私にとって夫が治る事そのものの方が重要だった。
あの男はもっともっと苦しむべきなのだ。欲を言うなら病気で恐怖と苦痛に苛まれながら絶命してほしい。
……それなのに、その夫を蝕んでいる病気がなくなってしまっては、誰が代わりに夫を苦しめてくれるというのか。
しかし、医者であるこのカエル顔の先生の前でその本音を漏らすのは明らかに失言だった。
軽蔑でもされただろうか?恐る恐る両手で口を覆ったまま視線を先生の方へと向ける。
すると引かれているだろうと予想していたのに反して、実際は多少面食らっているようではあったものの、顎に手を添えて思案顔を浮かべた状態で私を見ている先生がそこにいた。
「ふむ……その様子だと、貴女のストレスの源はどうやら夫の泰司氏だったみたいだね?」
「……!」
先生のその言葉に私は顔を俯かせて沈黙する。
それを肯定と受け取ったらしいカエル顔の先生は、フッと顔を小さく綻ばせながら続けて口を開く。
「……大丈夫、深く探ろうとも思わないよ。……何せ僕もこの歳になるまで、いろんな人たちと出会い、そして同時に様々な人間模様を見て来た身だ。きっと、貴女たちの夫婦間でも他人には早々言えぬ事情を抱えているんだろう。……でもね――」
そこまで言ったカエル顔の先生はスッと顔を真剣な表情に変えると、真っ直ぐな目で私を見据え、更に言葉を続けた。
「――泰司氏が既に僕に治療を頼みにきた今、彼はもう僕の患者なんだ。今更彼の治療を断る事も、彼を見捨てる事も僕にはできない。……だから貴女がどれだけ泰司氏を治すなと訴えても、僕はその願いを聞き入れるわけにはいかないね」
先生のその言葉に、私は俯きながら唇を強く噛みしめていた。
分かっている。この人は医者だ。あの男が治療を頼んだ以上、それに応える義務がこの人にはあるのだろう。
……だが、それなら私はどうなる?またこれまでのように夫の悪行に耐え忍んで行けと言うのか?
先生……アナタにとっては、私と夫の病気が治れば後はどうでもいいと言うのか?
――医者としての責務を果たせられればそれでいいと言うのか!?
「――心配はいらないよ」
目の前の医師に沸々と怒りがこみ上げ始めた時、ふいにその医師から声が上がった。
その声にフッと顔を上げてみると、先生は柔和な笑みで私を見つめていた。
その顔に思わず怒りがスッと治まり閉口する私に、先生は言葉を続ける。
「……泰司氏は僕の僕の患者だ。しかし奥さん、それは貴女も同じなんだ。僕は自身の患者を最後まで見捨てるつもりは無い。……だからこそ、もう僕の患者である貴女の抱えているその心の傷を癒すまで、僕は貴女を見捨てたりは絶対にしないよ」
「先生……」
優しくそう諭してくるカエル顔の先生に、私はやや呆気にとられながら聞き入っていた。
何故だろうか?医者という立場上、この人は私たち夫婦の間に割って立つ事など出来ないはずなのに、この人の存在自体が今の私にはとても心強い味方に見えた。
「……だからこそ今貴女に必要なのは、胃の治療とストレス解消のためのカウンセリングだ。泰司氏との問題解決はその後からでも遅くは無い。治療を受けて心身ともに楽になれば、ストレスで狭まっていた視野も広げることが出来るし、柔軟な思考も出来るようになるからね?」
「……でも……だとしても、それで夫との問題を解決する案を思いつくことが、私に出来るのでしょうか?」
「言っただろう?僕は貴女を見捨てたりしないと。もし案が浮かばなかったとしても、その時は僕も一緒に考えるよ――」
「――患者の心に寄り添って問題を解決しその精神の傷を緩和するのもまた、医師としての務めだからね?」
そう言っておどけた調子でウィンクをして見せた先生に、私は自然と笑みを零していた――。
――それから先生の言う通り、私の胃の病気は三日で完治を果たし、それから先はカウンセリングによる精神医療が始まった。
そして、それと並行して夫が正式に米花私立病院に入院する事となり、カエル顔の先生の手によって手術を受ける事になった。
最初こそカウンセリングは普通の病気や怪我を治すのとはわけが違うため、結構長い時間を労する事になるだろうと私は思っていたが、カエル顔の先生の技術が卓越していたのか、なんと夫の手術日の前日には夫への殺意をほとんど抱く事がないほど胸の奥が軽くなっていたのである。
久しぶりに新鮮な空気を思いっきり吸い込んだかのような素晴らしい解放感に、私は清々しい気持ちでいっぱいだった。
頭の中がクリアになり、心の中も大分余裕が出来たように感じる。
たとえそれが一時の感覚だったにせよ、憎き夫に対する計画を二つ三つ立てるのには十分なモノであった――。
「それじゃあ、これから手術を行うけど、心の準備は良いかね?」
「ええ、さっさと始めちゃってください。早くこの忌々しい病気とおさらばしたいんですよ」
カエル顔の先生と夫がそんな会話をしながら手術室の扉の向こうへと消えていく。
私はそれを見送った後、病院の外に出るとポケットから携帯を取り出して
(もう長い事会ってないけど……私の頼み、聞いてくれるかしら?)
そんな一抹の不安を抱きながらも、私は電話口に出たその人物へと声をかけていた――。
――手術を受けて数日後、病室のベッドに寝そべる夫は上機嫌だった。
「アッハッハッハ!凄い!流石は世界一とうたわれた医者だな!手術を終えた途端、心臓に痛みが走らなくなったし、苦しくなる事も無くなった!おまけに以前よりも体が軽くなったのがはっきりと分かる!」
「……そう、よかったわね」
豪快に笑いながらそう言う夫の横で、私はリンゴの皮をむきながら素っ気なくそう返した。
多分に棘を含んだつもりだったのだが、夫はそれに気づいていないらしく言葉を続ける。
「ああ、全くだ!いっそのこと、あの先生を俺専属の医師にしたいくらいだよ!あの人がいればもう何も怖いモノなど無いからな!これで思う存分、舞台に身を入れられるってもんだ!」
そう言いながら再び笑いだす夫を、私はリンゴをむく手を止めて冷ややかな目で睨みつけた。
「……よく言うわよ。アナタが身を入れたいのは舞台じゃなくて若い女の方でしょうに」
「……何?」
私のその返答にカチンときたのか、夫は高笑いとフッと消すと私の方へと睨み返してきた。だが私はそれに怖気ず、ツンとした態度で言葉を吐き出す。
「……
「!?」
「今アナタが狙っている若手俳優の女性。……私が知らないとでも思った?彼女、この前私に相談しに来たのよ、アナタにしつこく迫られてるって」
まさか私に今狙っている女性の事を知られているとは思わなかったのか、夫は一瞬面食らった表情を見せる。
しかし、直ぐに夫は鼻を鳴らしながら開き直って見せた。
「ハッ!何を言っている?それは彼女の勘違いだ。俺は一俳優としてまだなって日の浅い若手と親睦を深めようとしていただけだ」
「あくまでも彼女の誤解だって言いたいわけ?こんなトラブルを起こすのはもう一度や二度じゃないって言うのに。……説得力の
「フン!何が言いたいんだお前は?離婚か?……前にも言ったと思うが、ロクに働いた事のないお前が一人で生きて行けると思ってるのか?お前が今の暮らしが出来ているのは俺の稼ぎがあるからなんだぞ?」
そこまで言った夫は今度はニヤニヤと気持ちの悪い笑みを浮かべながら言葉を続ける。
「……まぁ、お前がそれでも離婚したいって言うんなら俺は止めはせんがな。何せ金はたんまりと稼いでるんだ。慰謝料の一つや二つ払った所で痛くもかゆくもないし、それにお前と離婚できれば俺は若い女を嫁に取ることだって出来る。……金を貰っても路頭に迷うしか未来の無いお前は、一人寂しく余生を送ればいいさ!」
(言わせておけば、この死にぞこないがッ……!!)
あまりにもあんまりなその暴言に私の視界が一瞬真っ赤に染まり、リンゴの皮をむいていたナイフを握る手に力が入る。
いっその事、今このナイフでコイツの心臓をえぐり取ってやろうか!!という衝動に駆られるも――。
――私はその殺意を必死に押さえた。
(落ち着け私、ここで取り乱したら
そう――自分に必死に言い聞かせて何とか冷静さを取り戻す。
静かに深呼吸をすると血が登った頭がクリアになって来る、そのタイミングを見計らって私はフッと小さく笑みを浮かべた。
「?」
それを見た夫は私に怪訝な顔を向けて来るも、それに構わず私はため息交じりに口を開いた。
「……そうね。アナタの言う通り、私じゃあいくらお金があろうが路頭に迷うのが目に見えてるわね。……だから、安心して頂戴。離婚なんて考えてないから」
「?……なんだ、意外とすんなり引くんだな。俺としては離婚してくれた方が嬉しかったが?」
「勘弁してよ。アナタ無しじゃ私は生きていけないんだから。これからも、アナタの良き妻としていさせてよ」
「ハッ!急に物分かりがよくなったな。まあ、お前がそう言うんなら、これからは俺に逆らわず妻として俺を盛り立てて行ってくれよな?」
私の言葉に気分がよくなったのかそう言いながら鼻を鳴らしてふんぞり返る夫。
――だが、それを好機と見た私は、そこで夫に対して反撃を開始し始めた。
「ええ、だから……これからも良き妻で居続けるために、
「…………はぁ?」
私の言った言葉が今一つ理解できなかったのか、夫は呆けた声を上げる。
だが、私はそれに構わず言葉を続けた。
「実はね。アナタにこれからもっと仕事に身を入れてもらうために、
そう私が病室の扉に向けて声をかけると、待ってましたと言わんばかりにその扉が開かれ、そこから
「「はいは~い♪」」と答えながらベッドのそばに立つ強面二人組を見て、夫は見るからに狼狽し始める。
「な、なな、何だお前らは!?」
「さっき言ったでしょ?新しいマネージャーだって」
声を震わせながらそう言う夫に、私はすぐさまそう答え、そして言葉を続けた。
「これからアナタにもっと仕事に精を出してほしいと言う私の心からの配慮よ♪この二人にはアナタが仕事に復帰しだい、家から仕事場までの送迎からスケジュール管理、身の回りの世話などの一切を任せるつもりだからそのつもりでいてね♪」
「ふ、ふざけるなぁ!?い、いい一体、何なんだコイツらはぁぁぁッッ!!??」
絶叫にも似た夫のその問いかけに、私は何でもないかのように答えて見せた――。
「――フフッ♪『ヤ』のつく職業の所で『親分』をやっている私の
――私の亡くなった父には、
どういった理由でその世界に足を踏み入れたのか経緯は不明だったが、伯父がその世界に足を踏み入れた時、伯父の両親(私にとっては父方の祖父母)は伯父に絶縁宣言を突きつけたらしい。
家族に迷惑をかけたくなかった叔父はそれに素直に了承し、やがて
両親とはそれ以降、顔を合わせる事の無かった伯父だが、弟である父とは仲が良かったため密かに交流が続いていた。
父が結婚した後は、時折ふらりと我が家にやって来くるようになり、たわいの無い会話をしながらお酒を酌み交わしたりなどもしていた。
そして当時幼かった私も、時々やって来る伯父に次第に懐き始めるようになり、やがて家族同然に親しい間柄となったのである。
伯父がとある組織を束ねる『親分』に昇進して以降は疎遠状態になっていたが、先日夫の手術があった日に連絡を取り、私がとある『お願い』を持ち掛けると伯父はいともあっさりと私のその『お願い』を快く引き受けてくれたのだった――。
「――それで、その『お願い』って言うのがもう分かっての通り、こういう事。アナタを支えるマネージャーとして伯父がこの二人を快く私に貸し出してくれたってわけ♪」
「ふ、ふざけるなぁ!!?聞いてないぞお前にそんな物騒な伯父がいたなんて!?」
涼しい顔で説明をし終えた私に対して夫がたまらずそう叫ぶ。
すると、今まで黙っていた強面二人組の内の一人が夫へと凄みのある顔で覗き込んで来た。
「あぁん?テメェ、ウチのおやっさんに何か文句でもあんのか?」
「ヒィィィッ!?」
恐怖で縮みあがる夫。それを見て内心、ザマぁ見ろと思う私だったが、こんなのはまだ序の口だ。
「フフッ♪彼らの支えがあれば俳優業に更に力が入るだろうからもう
そう言って不気味な微笑みを浮かべる私を見て、マネージャーとなった男たちに凄まれて言い返す事の出来ず青ざめて黙ったままの夫は、まるでバケモノを見たかのような恐怖に塗りつぶされた顔で私を見つめ返してくるだけであった――。
――それから直ぐ、夫が退院してからの私の生活は一変した。
夫の女性関係の問題が奇麗さっぱり無くなっただけでなく、俳優業にも今まで以上に身が入るようになり、稼ぎもこれまで以上に良くなったのだ。
そうして私は、夫が稼いだそのお金で悠々自適な生活を送っている。
もう何にも悩む事も無く、もう何にも苦しめられなくなった生活はただただ清々しいの一言であった。
――だが、そんな私とは反対に、仕事から帰って来る夫は日に日にやつれていくのが見て取れた。
「あら、お帰りなさいアナタ♪先にお風呂にする?それともご飯?」
「……た、頼む……も、もう勘弁してくれ。このままじゃあまた近い内に体が壊れてしまう……」
「あらあら、何言ってるの?もう女性関係でゴタゴタも起きないし、私とも喧嘩する事も無くなった。アナタの大好きな仕事にも力が入って稼ぎも高くなったから私もアナタもウィンウィンじゃない♪それに――」
そこまで言った私はげっそりとやつれて半ば放心状態の夫の耳にそっと口を寄せると、夫を凍り付かせる一言を囁いて見せた――。
「――たとえまた心臓がおかしくなっても大丈夫じゃない。アナタが深々と信頼しているあのカエル先生に頼めば、またすぐに治して元気にしてくれるわよ……――」
「――そう、何度だって、ね?」
軽いキャラ説明(原作とは違う結末を辿った者たちのみを掲載)。
・小宮山敦子
アニメオリジナル回『四回殺された男』に登場した真犯人。
本作では叔父と連絡を取って彼の部下を使い、見事泰司との夫婦の上下関係を逆転させることに成功を収める。
泰司を飼い殺し状態にしながら毎日を悠々自適に過ごしている。
・小宮山泰司
敦子によって殺された被害者。
しかし本作では、殺される事は無くなったものの、敦子の策略によってマネージャーたちに睨まれた、飼い殺し状態の日々を送る事となった。
・新倉弓子
泰司殺害の容疑者の一人として登場。
しつこく泰司に言い寄られていたものの、本作では敦子の策略で泰司が大人しくなり、言い寄られる事も無くなった。
原作では殺してはいないものの傷害罪になりえる行為を行っていたが、それも無くなった。
同じく、新倉同様傷害罪を起こした
少し遅くなりましたが、最新話投稿です。
またもや一万字越えとなりましたw
今回は敦子の身内や泰司との喧嘩理由などオリジナル設定多めでお送りさせていただきました。