とある探偵世界の冥土帰し   作:綾辻真

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毎回の誤字報告、及び感想ありがとうございます。

今回はテレビアニメでは2時間スペシャルとして放送されたエピソードです。
本作の時系列的には第1の事件『剣道大会殺人事件』後の第2の事件である『大阪城財宝伝説殺人事件』から話が始まります。

再びの『????』サブタイトルです。しかも今回は二名。
原作を知っている人なら、直ぐに誰だか分かると思います。




カルテ29:加藤祐司/片桐真帆【1】

SIDE:カエル顔の医者(冥土帰し)

 

 

――その日、私は秘書の吉野綾花君を連れて大阪を訪れていた。

 

大阪城のすぐそばに建つ病院――その病院の院長からとある患者を助けてほしいと言う、直々の依頼が舞い込んだのだ。

大阪府警の重役に立つというその人物は、大腸癌(だいちょうがん)で余命いくばくもない状態なのだと言う。

私はその依頼を受け、大阪に飛んで病院にやって来ると、数日後にはその患者の手術を行った。

 

大腸癌の手術はもう数えきれないほどに経験している。そのため私は、その手術を難なく終わらせることが出来た。

 

手術を終えた私は、一息吐きながら手術用マスクを外し手術室を出る。

するとすぐさま患者の家族たちが私に駆け寄って来た。

 

「先生、手術は……?」

「安心してください。手術は無事、成功しました」

 

親族の一人の問いかけに私がそう答えると、その場にいた全員の顔がパッと明るくなり、皆一様に胸をなでおろしていた。

 

「お疲れ様でした。先生」

 

そう私に声をかけながら吉野君も歩み寄って来る。

そんな彼女に私も返事をしようとした所で、廊下の向こうから数人のスーツ姿の男性数人がこちらにやって来るのに気づき、開きかけた口を閉じた。

吉野君もその集団に気づき、「何でしょう?」と首をかしげる。

やがてその集団が私たちの前までやって来ると、先頭に立つ髭を生やした細目の男性が私に声をかけてきた。

 

「……いきなりで失礼します。××××(今回私が執刀した患者の名前)の手術を行った先生はアナタですか?」

「ええ、そうですが」

 

私がそう答えると男性はやや険しい顔つきで言葉を続けた。

 

「先生、彼の手術はどうなりました?」

「大丈夫です。問題なく、成功しましたよ」

 

そう返答すると、その男性を筆頭に後ろについて来ているスーツ姿の人たちもホッと安堵のため息を漏らした。

 

「……ありがとうございます、先生。彼は私の直属の部下の一人でしてね。癌になったと聞いた時、どうなるもんかと冷や冷やしておったんですわ。ホンマに……助かって良かった」

 

そこまで言った細目の男性は、「おっと!」と声を零しながら続けて口を開く。

 

「……まだ、自己紹介をしてませんでしたな。……私は大阪府警で本部長をしております――」

 

 

 

 

 

「――服部平蔵(はっとりへいぞう)いいます。以後よろしゅう」

 

 

 

 

 

「『服部』……もしかして服部平次君の御父上ですか?」

 

私の問いかけに細めの男性――平蔵氏は小さく頷き言葉を続ける。

 

「先生、アナタの話は息子から何度か聞かされてます。……ウチの阿呆(息子)が先生にご迷惑かけとるようで……」

「いやいや、そんな事は全然ありませんよ?彼とは何度か話をした事があるくらいで……」

 

平蔵氏の言葉に慌てて私がそう言って訂正していると、先程私が手術をしたばかりの患者がストレッチャーに乗せられ、他の医師や看護師に囲まれながら私たちの脇を通り過ぎで集中治療室(ICU)の方へと向かって行った。

それを視線で見送りながら、私は同じく廊下の向こうへと消えていくストレッチャーに乗った患者を見つめる平蔵氏に声をかける。

 

「……彼は一度、集中治療室に入る事になりますが、二、三日もしない内に大部屋へと移る事になるでしょう。その頃にはもう、元気になっていると思いますよ?」

「ハハッ、凄いですなぁ。信じられんくらいの回復速度ですわ……なら、それまで先生は彼の担当医としてこの病院に留まるので?」

 

平蔵氏のその問いかけに私は(かぶり)を振る。

 

「いいえ。今回の手術でもう山場は越えましたし、後はこの病院の医師に引き継いでもらっても問題は無いでしょう。……僕と秘書であるこちらの吉野君は、明日帰る予定ですので、役目を終えた今、この後少し大阪観光でもしようと思っているんですよ」

 

私がそう言った瞬間、何故か平蔵氏の細い目がキラリと光ったように見え、次の瞬間には驚きの言葉が平蔵氏の口から放たれていた。

 

「ほぅ……なら――」

 

 

 

「――私に大阪の案内をさせてもらえませんか?」

 

 

 

『!』

 

これには私と吉野君だけでなく、平蔵氏の後ろに控えている彼の部下らしき人たちも、全員が目を見開いていた。

それもそうだろう。まさか一介の医者の大阪巡りに大阪府警本部長が直々に案内を買って出ると言うのだから。

驚く私たちをよそに、平蔵氏はハッハ!と笑いながら言葉を続ける。

 

「なぁに遠慮はいりません。大事な部下の命を救ってくれはったんですから、これぐらいして当然ですわ!」

「し、しかし良いのですか?アナタも立場上、忙しい身の上でしょうに」

「構いまへん。幸いにも今日は重要な予定は何もありませんし……それに実を言うと先生とは一度ゆっくりと話をして見たい思うておりましたんですわ」

 

そう……私の平蔵氏の身を案じるその問いかけにも、彼は豪快にも笑い飛ばして答えてみせた――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そうして紆余曲折の果て、観光のための準備を終えた私と吉野君は、平蔵氏を連れて現在、病院の玄関口に立っていた――。

 

「それで?まずは何処へ向かいましょうか、先生?」

 

平蔵氏にそう問われ、私は視線をすぐそばに見える()()へと向けながら答えた。

 

「そうですねぇ……まずは直ぐそこにある大阪城へ行ってみましょうか」

「分かりました。それでは早速……」

 

そう言いながら平蔵氏は先頭を切って歩き出し、私と吉野君はそれに続く。

しかし歩き始めて直ぐ、平蔵氏がふと空を見上げて「む?」と顔をしかめた。

 

「……雲行きが怪しくなってきました。どうやら一雨来そうですわ」

「おや、そのようですな。え~っと……」

「あ、先生。傘でしたらちゃんと用意してますよ」

 

平蔵氏の言葉に、私は傘はあったかな?と考えながら肩にかけている()()()()()()()に手を入れようとするも、それよりも先に吉野君がバックから折り畳み傘を二本取り出していた。

流石は私の優秀な秘書だ。

吉野君から傘を一本受け取った私は、平蔵氏へと向き直る。

 

「服部本部長は傘をお持ちで?」

「いや、生憎持ってこなかったんですわ。ですが、直ぐそこにコンビニがありますんでそこでひとっ走り行って買ってきます」

 

そう言って私が何か言うよりも先に平蔵氏はコンビニへと向かって走って行ってしまった。

私たちのためにわざわざ傘を買ってまで観光に付き合ってくれる平蔵氏に少し気が引けたが、もうコンビニに行ってしまったため、ここは平蔵氏の気づかいに甘えるしかなかった。

 

――それから五分と経たずして平蔵氏は傘を片手に戻って来るも、雲行きは先程よりもより一層怪しさを増し、大阪城公園に入って少しする頃にはポツリポツリと雫が落ち始めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE:江戸川コナン

 

 

「……最悪や」

「どないしょ……」

 

俺の頭上で服部と和葉のため息交じりの声が降って来る。

大阪へとやって来た俺、蘭、おっちゃんの三人は、今日、服部と和葉の二人の案内で大阪見物を楽しんでいた。

大阪城の天守閣でそこから見える景色を楽しんだ後、俺たちは昼食をとるために適当な店へと向かったのだが、その途中、和葉が財布を無くした事に気づき慌てて皆で大阪城前まで戻って来ていた。

すると直後に雨が降り出し、俺たちは蘭が持っていた一本の折り畳み傘の中でぎゅうぎゅうに身を寄せ合いながら雨をしのぐ。

しかし、小さい傘の下に五人もの人間が固まっているため、近くの軒下に雨宿りしようにも迂闊に動けない。

にっちもさっちもいかず途方に暮れていると、不意に俺たちに向けて声がかけられた。

 

「……おや?キミたちどうしてここに?」

「え……か、カエル先生!?」

 

凄く聞き覚えのあるその声に俺たち全員が反射的に振り向くと、そこには傘を差したカエル先生と秘書の吉野さん。そしてもう一人、昨日の晩にてっちりを俺たちと一緒に囲んだ人物がそこに立っていた。

驚き声を上げるおっちゃんの横で、服部が嫌そうな顔をしてその人物を見つめる。

 

「お、親父……」

「なんや平次。お前らも大阪城に来とったんか」

 

その人物――大阪府警本部長の服部平蔵さんが服部にそう声をかけていた。

 

「カエル先生。先生も大阪に来ていたのですか?」

「ああ、そうだよ毛利君。仕事の依頼を受けてね。……そう言えばキミたちは平次君の剣道大会と『てっちり』を食べに大阪(ここ)に行くって言ってたね?」

「あー……はい。そうです」

 

カエル先生の言葉に苦笑を浮かべながらおっちゃんはそう答えた。

それからおっちゃんたちが会話しているのを横目に、俺が辺りを見渡しているとある一点に目が止まり、思わず和葉に向けて声を上げた。

 

「ねぇ、もしかしたらあのお店かもよ?財布忘れたの。……ほら、和葉ねえちゃんあそこで使い切りカメラ買ってたよね?」

「……あ、そう言うたらそうやわ」

 

和葉がそう呟くと続いて蘭が「じゃあ私たち、ちょっと行って聞いて来るから」と言って、和葉を連れて俺が指したお土産屋へと雨の降る中走って行った。

 

「ったく……ん?」

 

二人を見送った服部は雨空を見ながらそう悪態をつくも、直ぐに視線が違う方へと向き固定された。

俺も半ば無意識に服部の視線の先を追うと、そこには()()()()()()()()()()()()()()()()()()が傘を差さないまま言い合いをしているのが見えたのだ。

 

「ワシはあっちの方を探してみようと思うんじゃが……」

「もう探したわ!」

 

聞こえてくる会話の内容や彼らの焦りと困惑が混ざったようなその表情で、何かのトラブルが起こったらしいのが見て取れた。

 

「……?キミたち、あの人達と知り合いなのかい?」

 

俺たちに視線の先に気づいたカエル先生にそう尋ねられ、俺は「あー、うん」と曖昧な返事をする。

その間に服部とおっちゃん、そして()()()()()()()()()()()()()()()()()がその四人組へと近づいて行った。

 

「……どうかしたんですか?」

 

おっちゃんがそう声をかけると四人組はそれに気づき、その中の一人である糸目の男性が最初にそれに答えた。

 

「ああ、先程の……実はさっき言っていた()()()()()が見つからないんです」

(!……そう言えば天守閣でその人が何処かへ行ったとか言ってたっけ)

 

男性の言葉に俺がぼんやりとそんな事を思っていると、男性に続いて他の三人も次々に口を開く。

 

「大阪城やここの出店……トイレの中も探したんじゃが……」

 

と、髭を生やし背の低い老人がそう言い。

 

「……何処にもいないんですよ」

 

と、茶色の背広を着た、四人の中で一番背の高い男性がそう言い。

 

「どこに行っちゃったのかしら?」

 

と、眼鏡をかけた、四人の中でただ一人の女性が明後日の方に視線を向けながら最後にそう呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

――その、次の瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――ドゴオォォォン!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――唐突に太く、耳をつんざくような爆発音がその場に轟き渡った。

 

「な、何や!?」

 

そう叫びながら服部が辺りを見渡す。それは俺を含むその場にいる全員も同じであった。

すると近くにいた旅行客らしい男性が、突然大阪城の方へと指をさしながら叫んだ。

 

「な、何だあれは!?」

『!?』

 

それにつられてその場にいる全員が大阪城の天守閣付近へと視線を送る。……するとそこには――。

 

 

 

 

 

 

「ギャアアアアアアアアァァァーーーーーーッ!!!???」

 

 

 

 

 

何故か大阪城の()()()()()で全身火ダルマになっている男の姿があったのだ――。




今回は導入部だけなので短めです。

それではこの話で今年は投稿納めとさせていただきます。
皆様良いお年を!2022年もお元気で!
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