とある探偵世界の冥土帰し   作:綾辻真

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毎回の誤字報告、及び感想ありがとうございます。


カルテ29:加藤祐司/片桐真帆【4】

SIDE:江戸川コナン

 

 

「秀吉の宝ぁ~?なんや、親父らにしては珍しく浪漫ちっくな事言うやないか」

 

服部本部長たちが唐突に口にした太閤秀吉の宝の伝説に、服部は露骨に呆れた顔を浮かばせる。

そんな服部の心境など知らぬ存ぜぬとばかりに、服部本部長は被害者が所持していた焼き物の欠片を手にすると、()()()()を俺たちの方へと向けながら口を開いた。

 

「よお見てみぃ、この焼き物の裏っ側。所々光る粒っぽいモンがこびりついてるやろ?」

 

そう言われて俺たちは全員、焼き物へと目を凝らして見る。するとそこには確かに光るキラキラした粒状の何かが内側にいくつもついているのが見えた。

すると、いち早くそれの正体に気づいたらしい服部がハッと声を上げる。

 

「おい、ひょっとしてそれ、『金』か……!?」

 

服部のその言葉におっちゃんらも驚きに目を見開く。

それを見た本部長は言葉を続ける。

 

「せや。鑑識に調べてもらう前やけど恐らくは間違いない。これと同じのが前の二件で見つかった焼き物二つにも、同じようについとったからのぅ」

「……しかも、その二件で見つかった焼き物には、それぞれ()()()()()()があったからなぁ」

 

服部本部長に同意するように刑事部長もそう声を上げた。

 

「特徴的な部分?」

 

首をかしげながらおうむ返しにそう訊く服部に対し、本部長はすぐさまそれに答えた。

 

「そや。……最初に見つかった焼き物にはまるで()()()()()()のような小さい穴があってな。そんで、二つ目に見つかったモンには表面に『八百四十八』っちゅう漢数字が描かれとった」

「――ッ!お、おい、まさかそれって……!」

 

本部長が言う『瓢箪の口』と『八百四十八』の漢数字。その二つのキーワードと先の『秀吉の宝』で何を意味しているのか気づいた俺はハッと目を見開き、それと同時に同じ結論に至ったであろう服部が大きく声を上げた。

それを見た服部本部長は強く頷いて見せる。

 

「……そう、太閤秀吉が(いくさ)で手柄挙げる(たんび)に、小っちゃい瓢箪を一個ずつ足してできたっちゅう金色の馬印――」

 

 

 

 

 

 

「――千成瓢箪(せんなりびょうたん)やないかってな……!!」

 

 

 

 

 

 

「せ、千成って事は……!!」

「まさかぁ……!?」

 

おっちゃんと大滝警部が驚愕に声を上げ固まる。

無理もない。俺も内心動揺している。唐突に現れた宝の存在を前に――。

 

「そういうこっちゃ。……もしもこの焼き物の破片が元は瓢箪の形をしててその中にぎっしり金が詰まっとって、そしてもし同じような物が千個あったとしたら大層な宝物や。……歴史的価値も足したら値段なんぞつけられへんやろうて」

(……なるほど。『瓢箪の口』に『内側に着いた金』、そして『八百四十八』が『一』から『千』までの()()()()()()()()()だったとしたら……自ずとその仮説にたどり着くって訳か)

 

遠山刑事部長のその言葉に、俺は一人納得する。

 

「……まぁ、せやから。似たような焼き物の破片持っとったその三人の被害者たちは、その宝を(ねろ)てて……それを独り占めしたろと(おも)てた誰かに殺害されたっちゅう可能性も……無きにしも(あら)ずやわなぁ?」

 

そう言いながら本部長はギロリと横目で福島さんたち四人を睨みつけ、その眼光に気圧された四人はビクリと肩を震わせた。

だがそんな本部長に小五郎のおっちゃんが異議を申し立てる。

 

「し、しかしそんな漫画みたいな事……。第一、本当にそんな宝があるかどうかまだ分かりませんし……この焼き物の破片だって瓢箪の口みたいな部分があるってだけで本当は全く別の形をしていたという可能性も否めないじゃないですか」

「……フッ、確かにそうですなぁ」

 

おっちゃんのその指摘に、本部長は()()()()()引き下がって見せた。

 

(……?)

 

俺は本部長のその反応に少しばかり違和感を持つも、それを考えるよりも前に福島さんたちから声が上がる。

 

「……で、でも、考えられなくは無いですよ?秀吉は死んだ後も、家康を恐れさせるほど大阪城に莫大な金銀を蓄えたと言いますし……」

「……秀吉が井戸水を清めるために、天守閣の目の前にある『金明水井戸(きんめいすいいど)』に大量の金を沈めたという伝説も残っています」

「い、いやぁでも、しかしですなぁ……」

 

福島さんの言葉に脇坂さんがそう言って賛同するも、おっちゃんは未だに信じられないのか渋るような難色を示す。

するとその瞬間、俺の隣で今まで成り行きを見ていた服部がハッと顔を上げた。

 

「伝説……まてよ、まさか……!」

 

そう小さく呟いた服部はすぐさま大滝警部に駆け寄ると――。

 

「大滝はん、ちょっとその巻物借りるで!」

「え、あ、へ、平ちゃん!?」

 

――未だに大滝警部が持っていた巻物を奪い取り、周囲から少し距離を置いた場所まで走って行く。

それを見た俺も慌てて服部の後を追った。

 

「お、おい!どうしたんだよ服部?」

 

しゃがんで巻物を広げ始めた服部の背中に、追いついた俺がそう声をかけると、服部はこちらを振り向かずに淡々と説明をし始める。

 

「この大阪城にはな、桜門(さくらもん)の右と左に天守閣を守ってる竜虎石(りゅうこせき)っちゅう石があるんや。……雨が降ったら龍と虎の絵が浮き出るゆうて昔から言われてんねん」

 

そこまで聞いた俺は、服部がしようとしている事にすぐさま感づく。

 

――『龍』という一文字しか書かれていなかったこの巻物。もしもこの巻物にその『竜虎石』と似たような仕掛けが施されているのだとしたら……。

 

俺は服部の手元を覗き込んだ。焼けてあちこちが無くなった何も書かれていない白紙の巻物。その巻物に今なお降り続けている雨が落ち、紙に染み込んで行く――。

すると、それ程間を置かずして紙の表面に変化が起きる。

 

「「!!」」

 

息を呑む俺と服部の前で白紙の紙に()()()()()()()()()が浮かび上がり始めたのだ――。

 

(……やっぱ大阪城の『竜虎石』みてぇに、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のか……!)

 

俺がそう思っている間も巻物に書かれた内容が完全に見えるようになり、それを見た俺たちは更に驚いた。

文字の部分は焼けて失っていた所が多々あった為、内容は残念ながらほとんど分からなかったが、絵の部分はほとんど焼け落ちていなかったためその全容がはっきりと浮かび上がっていた。

 

――そこには紛れもなく『瓢箪』のような形をした図形が描かれていたのである。

 

「は、ハハハハハッ……!どないする工藤。親父たちの仮説が現実味を帯びてきよったで」

 

巻物の絵を見ながら空笑いを浮かべる服部に俺も苦笑を浮かべながら「ああ」と頷いて見せる。

これはもうほぼ間違いないと見ていいだろう。

今回被害にあった加藤さんを含む三人の被害者が持っていたという金の粒が着いた三つの焼き物の欠片。そのうちの二つには『瓢箪のような口』と『八百四十八と書かれた漢数字』がそれぞれついており、加藤さんに至っては『竜虎石』のように濡れれば文字が浮き出る仕掛けの施された『龍』の巻物を所持しており、更にその巻物にも瓢箪のような絵があった。

そして、その三人全員がここ大阪城で被害にあっている。

もはや秀吉の宝――『千成瓢箪』がこの事件に深く関わっていると見て間違いないだろう。

 

「……思えば加藤さんが大阪城から落ちた時、今わの際に握った傘……あれはこの巻物の秘密を指してたのかもしれへんなぁ」

「……ああ、そうだな」

 

服部の言葉に俺がそう返していると、後ろから大滝警部たちがぞろぞろとやって来た。

 

「どないしたんや平ちゃん。巻物持って急に走り出して……」

 

そう言いながら大滝警部は服部の手元にある巻物を覗き込む。

 

「こ、これは……!?」

 

そうして巻物に浮かび上がった絵を見ると驚きに声を上げ、それを聞いた他の皆も何事かと大滝警部同様に巻物を覗き込み、同じように驚きに目を見開いていた。

 

「ほぉう、こいつは……平蔵、どうやら俺らの仮説。案外的外れでもなかったみたいやのぅ」

「そのようやな、遠山」

 

遠山刑事部長と服部本部長がそんな会話を交わす。

そんな二人に対して服部は頷きながら口を開く。

 

「ああ。桜門の竜虎石みたいに雨で濡らせば何か出て来ると思うてそうしたら、大当たりやったわ。恐らくこの巻物は『龍の巻』や。ちゅうことは――」

「――『()()()』も、どっかにあるかもしれへんなぁ。竜虎石みたいに雨に濡れて瓢箪の絵図が浮き出る仕掛けがあったんなら、その巻物と対になる『虎の巻』があってもおかしくない。……しかも恐らくそれには、その瓢箪の隠し場所が書いてある可能性が高い。……そう言う事やろ?平次君」

 

服部の言葉を引き継ぐように、遠山刑事部長がそう言って見せる。

そう言った刑事部長に再び頷いて見せた服部は続けて口を開いた。

 

「そうやと思う。恐らく犯人もその『虎の巻』を探しとるんとちゃうかな」

「それを探す手がかりはあるんか?平ちゃん」

 

大滝警部の問いかけにすぐさま服部が(かぶり)を振った。

 

「いやぁ、そこまではまだ分からん。加藤さんが燃えた原因もまだ分からずじまいやし……こっから先はまた城の周辺を調べる必要があるわ」

 

服部のその言葉に、俺も内心で同意する。正直に言って今はまだ手掛かりが少ない。ここから先を推理するには服部の言うように、また事件現場やその周辺を捜索する必要があるだろう。

俺がそう思っていた時だ――。

 

 

 

 

 

 

――クゥ~ッ。

 

 

 

 

 

 

唐突にその場に気の抜けるような音が小さく響いた。

何だ?と思って音のした方へと目を向ければ、そこには顔を赤くして恥ずかしそうに俯く蘭の姿があった。

 

「……ああ、そう言えばウチら今日、お昼も晩御飯もまだ食べてへんかったわ!」

 

蘭のその様子を見た和葉がパンッと両手を打ちながら声を上げる。

どうやら先程の気の抜けるような音は蘭の腹の虫だったらしい。

まあ、和葉の言う通り事件の直前に昼を食べに行こうして結局事件に巻き込まれ、昼どころか晩御飯すらまだ食べていない状況なのだ。

そりゃ腹の虫の一つもなるだろう。

和葉は未だに恥ずかしがっている蘭を横目に服部に提案をする。

 

「なぁなぁ平次。ここはいったん休憩して晩御飯食べに行かへん?事件はお父ちゃんらに任せればいいし、平次だって飯食わへんと頭の回転も鈍くなるやろうし」

「そうやなぁ。平次君、和葉の言う通りここはワシらに任せて飯食いに行ったらええ」

 

刑事部長も和葉の提案に賛同する。その後押しを受けて和葉はそうしようと言わんばかりにうんうんと頷いて見せる。

 

「そやそや!……アタシ、大阪城新橋の向こうにええ店知ってんねん!そこで晩御飯しよ♪」

 

そう言って服部にニッコリと笑いかける和葉。

しかし、事件に熱中している今の服部にとってその提案自体が反発を掻き立てるモノだったようだ。

 

「じゃかぁしぃッ!!……目の前で事件が起こってるっちゅうのにやな、呑気に飯なんか食――」

「…………(ギロリ)」

「…………(ギロッ)」

「!!……く、く食えるわけ……ないじゃございませんか……?」

 

反発して和葉にそう怒鳴る服部だったが、本部長と刑事部長(二人の父親)に睨まれてその口調が瞬く間に委縮してしまう。

流石の服部もこの二人を前に強気に出るのは不可能のようだ。

 

「せ、せやから俺の事はほっといて、え~蘭ちゃんと食うて来てもろてもええねんで。かか、和葉ちゃん?」

 

二人の眼光に戦々恐々としながら、和葉の肩に手を置いてそう絞り出すように言う服部。

そんな服部を前に和葉は――。

 

「もうええわ!……行こう蘭ちゃん。アタシらだけで!」

「あ!ちょ、ちょっと、和葉ちゃん!?」

 

――不貞腐れた顔でそう言い捨てると、蘭の腕を取ってそそくさと行ってしまった。

そんな服部と和葉のやり取りをはたで見てやれやれと首を振りながら、俺は去って行く和葉と蘭の背中を見送る。

すると、同じようにそれを見ていた福島さんたちがそこで声を上げた。

 

「……あの、僕たちも夕食を食べてきてもいいですか?」

「へ?」

 

脇坂さんの言葉に、大滝警部が呆けた反応を見せる。

 

「ワシら昼からなーんも食べてなかったからのぅ」

「じゃあ私、雨で服が濡れちゃったから着替えにいったんホテルに」

「あー!ちょっとぉ!?」

 

糟屋さんと片桐さんが脇坂さんに引き続いてそう言い残すと、早々に現場を後にし始めた。

それを慌てて止めようとする大滝警部に福島さんが口を開く。

 

「直ぐ戻りますよ。我々が泊まってるホテル、近いから」

「……ほんなら早ぉ戻って来てくださいよ?」

 

呆れた目を浮かべながら渋々そう了承する大滝警部。

ツアー仲間があんな目に遭ったばかりだというのに、軽い調子でそれぞれが好き勝手行動する彼らに、何処か思う所があるようだ。

そんな大滝警部を横目に、俺は服部とこれから何処を調べようかと相談をし始めた――。

 

 

 

 

 

 

 

SIDE:三人称視点。

 

 

コナンと服部は気づかなかったが、現場から去って行く福島たち四人の後姿を鋭い眼光で見つめる二つの影があった。

 

「…………」

「…………」

 

それは、服部と和葉の父親である平蔵と銀司郎。

二人は四人の姿が見えなくなるまで見据え続けると、そばに立つ大滝に銀司郎が声をかけた。

 

「オイ、大滝」

「はい」

 

呼ばれた大滝はすぐさま銀司郎のそばに歩み寄る。

銀司郎は寄って来た大滝の耳に口元を寄せると――。

 

「いいか。――……」

 

――小声で何かを耳打ちし始める。

そうして耳打ちした内容をすべて聞いた大滝は途端に顔を険しくさせた。

 

「――え?……わ、分かりました。部下に言うときます」

「気どられんようにな」

 

重い口調でそう念を押す銀司郎に大滝が小さく頷くとその場を離れ、それを見送った銀司郎は後ろに立つ平蔵へと視線を移す。

銀司郎のその視線を受けた平蔵は小さく頷いていた――。

 

 

 

 

 

 

 

SIDE:毛利蘭

 

 

お父さんたちと別れた私と和葉ちゃん()()は、夕食を取るための店へと向かう道すがら、夜の大阪の街を散策していた。

事件が起きる前から降っている雨は未だ降りやまず、手に持つ傘にその水滴が落ちる度に、このまま永遠に降り続けるのではないかと言う錯覚すら覚えて来るほどだった。

不意に私は横で一緒に歩く和葉ちゃんへとチラリと視線を送る。

服部君と別れる際は凄く不服そうにしていた和葉ちゃんだったが、今はもう全くそんな様子は無い。

さっきまでの事が嘘のように、平然とした横顔がそこにあった。

 

その横顔を見ながら、私はさっきまでの事を思い出す。

服部君たちと別れて直ぐ、彼らとある程度離れた所で和葉ちゃんは一度、服部君の方へと振り返っていた。

そしてそこで和葉ちゃん(自分)の父親と何かを話しあっている服部君を遠目から見つめると――。

 

『……♪』

 

――フッと小さく笑っていたのを。

それを見て私は気づいた。彼女が敢えて夕食に行こうと誘ったのは、服部君により事件解決に集中してもらうために邪魔になりそうな自分たちを事件から遠ざけるための方便。

わざわざ憎まれ口をたたいてまでその口実を作ったのだ。

素直じゃないなぁ、と内心苦笑しながら和葉ちゃんを見つめていると、不意にその彼女の脚が止まり、私もそれにつられて止まってしまう。

 

「どうしたの?」

「ねぇ、あれって吉野さんちゃう?」

 

私の問いかけに和葉ちゃんがそう答え、それを聞いた私は前方へと視線を向けた。

見ると彼女の言う通り、そこには通りの人込みに紛れてこちらへとやって来る吉野さんの姿があった。

吉野さんの方も私たちに気づいたようで遠目ながらも「あっ」と表情を変えたのが分かった。

 

「蘭ちゃん和葉ちゃん。どうしたのこんな所で、他の人たちは?」

「お父さんたちはまだ大阪城で、私たちは一足先に夕食を食べにこっちまで来たんです」

 

歩み寄って来た吉野さんにそう問われて私がそう返答する。

すると今度は和葉ちゃんが吉野さんに声をかけた。

 

「吉野さんはどうしてここに?」

「私も貴女たちと一緒。カエル先生に先に食事に行くように言われてさっきまで近くのレストランで食べていたの。……()()()もう食べに行く店は決めているの?」

「はい、そうで――……え?二人?」

 

吉野さんの言った『二人』という単語を耳にして私の言葉が強制的に止まる。

――そして、そこに来て私は()()()()()()()、慌ててキョロキョロと周りに視線を回す。

でもやっぱり()()()()が私たちについて来ていない事を再認識するだけに終わった。

突然慌てだした私を見て不思議そうな顔を浮かべる吉野さんと和葉ちゃん。

その和葉ちゃんに向けて私は少々焦った口調で口を開いた。

 

「いっけない、どうしよう和葉ちゃん。コナン君連れて来るの忘れてた……!」

「え?あっ!ホンマや!」

 

私にそう言われて、和葉ちゃんの方もようやくコナン君がいない事に気づいたようだった――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE:江戸川コナン

 

 

「……オイ、服部。見ろよ。妙な所に妙な物が落ちてるぜ?」

 

服部と二人で大阪城の周辺を捜索していた俺は、その途中で『ある物』を発見し、それをハンカチに包んで持ち上げた。

そばに立つ服部もそれを覗き込んで見つめてポツリと声を漏らす。

 

「……乾電池?」

 

そう、それは単一の乾電池だった。それも()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()――。

 

「何でそんなモンがこんな所に……まてよ?それがもし、加藤さんが燃えた時の物やったとしたら……」

「ああ……。あれはおっちゃんの言う『自殺』じゃない。『殺人』だったって事だ」

 

服部の言葉に俺は強い確信をもってそう答える。

――まぁもっとも、カエル先生が加藤さんを助けてるから正確には『殺人未遂』、だがな。

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE:毛利蘭

 

 

コナン君がいない事に気づいた私は、和葉ちゃんと吉野さんを連れて元来た道を引き返し、大阪城の堀を跨ぐ『極楽橋(ごくらくばし)』のそばへとやって来ていた。

 

「大丈夫やって。平次や蘭ちゃんとこのおっちゃんが、あの子と一緒に居てるんやから。……それに、ここには警察がぎょーさん来てんねんで?もう事件なんて起こらへんて」

 

口ではそう言いながらも、和葉ちゃんは私と吉野さんの先頭に立って歩いて行く。

何だかんだ言いつつも付き合ってくれる彼女に、私は嬉しさと感謝を感じながら大阪城へと向かう。

そうして未だに降り続く雨の中を、傘を差しながら極楽橋の上を渡り始めた時だ――。

 

「……?ねぇ二人とも、何かしらあれ」

「「?」」

 

最後尾を歩いていた吉野さんが前方に視線を向けながらそう私たちに声をかけてきた。

何だろう?と思いつつ私たちも吉野さんの見る視線の先を追う。

見ると極楽橋のちょうど真ん中あたりに、誰かが立っているのが見えたのだ。

男か女かは分からない、遠目でしかも雨の中なので視界も悪く、その上どうやら立っている人物はフード付きのコートを纏っており、そのフードを頭にすっぽりとかぶっているようであった。

それだけなら特に気にする程の事でもなく、ただの通行人だと思えたのかもしれないが、その人物が()()()()()()()()()()を見た瞬間、その考えは霧散していた。

 

「ちょ、ちょっと、あれって人ちゃう!?」

 

隣で和葉ちゃんがそう叫ぶも、私は目の前の光景から目が離せずにいた。

彼女の言う通り、それは正しく人だった。

だが、抱えている人物同様、雨と遠目からではっきりとはよく見えない。

しかし、しかし抱えている人物がそれを所謂お姫様抱っこで持っており、そこから四肢のようなモノがぶらりと垂れ下がっているのがかろうじて見えたため、それが人間であることは間違いなさそうだった。

何があったのだろうか?もしかして、何かしらの原因で抱えられている人物が倒れてしまい、それをもう一方が抱えて病院へと運ぼうとしているのだろうか?

だとしたら、私たちも手伝った方が良いだろう。

携帯を取り出して、私はその人たちへと駆け寄ろうとした。しかし次の瞬間――。

 

――抱えた人が起こした行動に、私たち全員が凍り付いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

――その人は橋の欄干(らんかん)まで歩み寄ると、何のためらいも無く手に抱えた人を欄干の向こう側である堀の下へと落とそうとしたのだ!

 

 

 

 

 

 

「えっ、ちょ……!?」

「ちょっと!そこで何やってるの!!」

 

あまりの光景に言葉を詰まらせる私に代わるかのように、後ろにいた吉野さんの怒号が飛ぶ。

それを耳にしたその人物は見るからにビクリと肩を震わせてこちらを見、そして私たちの姿を視認するや否や明らかに動揺した様子を見せた。

それを見た私と和葉ちゃんはタイミングを見計らったかのように一斉にその人物へと駆け出していた。

そして、それを見たその人は更に動揺と焦りを見せ、私たちが辿り着くよりも先に手にした人を無造作に橋の上に転がすと、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだ。

 

「「あっ!!」」

 

私と和葉ちゃんの声が重なると同時に堀の中からザバン!!という大きな水音が響き渡る。

和葉ちゃんと一緒に欄干から下を除くと、堀に大きな波紋が一つ広がっているのが見えた。

逃げられた。そう思っている暇など私たちには無かった。急ぎ橋に転がされたその人物へと二人で駆け寄る。

 

「大丈夫ですか――って、片桐さん!?」

「あ!ホンマや!!」

 

私と和葉ちゃんが驚きに声を上げる。

そこで倒れていたのは紛れもなく、ついさっきまで私たちと一緒に事件現場にいたツアー参加者の一人の片桐真帆さんだった。

頭から大量の血を流し、ピクリとも動かない。

 

「二人とも、私にその人を診せてちょうだい!」

 

そう言いながら吉野さんが私たちにより一拍遅れて駆け寄って来る。

そして、片桐さんのそばにしゃがみ込むと()()()()調()()で彼女の呼吸と脈を確認しだした。

 

「まずいわ。頭部の出血が酷い。もう虫の息だわ」

 

吉野さんの言葉に私と和葉ちゃんは息を呑む。

その間にも吉野さんは持っていたバックから清潔そうなハンカチを取り出すとそれを片桐さんの頭部の傷口へと押し当て、応急処置を施して行く。

 

「……二人とも、早く救急車を!あと警察も!」

「あ!ほんならアタシ救急車!」

「私はお父さんを!まだ大滝警部たちと一緒に居るはずですから……!」

 

私たちに向けて指示を飛ばす吉野さんに答えて、和葉ちゃんは救急車を、私がお父さんに携帯で電話をする。

 

「カエル先生から頭部外傷への応急処置の仕方を教えてもらっといて良かった……」

 

お父さんに電話をする(かたわ)ら、吉野さんが独り言のようにそう呟くと、彼女も私たちと同じく携帯を取り出し、何処かへと電話をし始めた。

 

「…………あ、カエル先生ですか!?3、40代くらいの女性一名が現在、大阪城極楽橋の上で頭部を損傷し重傷!至急、こちらに!応急処置は今行ってます!」

 

肩と頬に携帯を挟み込んでカエル先生に要点を的確に伝えながら、冷静に片桐さんへの応急処置を続ける吉野さん。

半ばパニックになりながら電話をする私や和葉ちゃんとはまるで違うその頼りがいのある姿に、私は場違いながらも憧れの目を向けずにはいられなかった――。




最新話投稿です。

前回の投稿から2ヶ月以上、本当にお待たせしてすみませんでした!
もうすぐこのエピソードも佳境に入ることが出来そうです。
次回はいつになるかは分かりませんが、頑張って書いていきたいと思います。
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