SIDE:江戸川コナン
大阪城を出た俺と服部は、ひたすらに夜の大阪の街を走っていた――。
「クソッ!あの二人、一体何処行きおった!?」
「ああ……あの人達が泊まっているっていうホテルにも行ったが、帰って来てねぇって言うしな……!」
雨の降り続ける歩道――その道端で足を止めて呼吸を整えながら、そう言う服部に俺は答え返す。
最初の加藤さんの事件で福島さんたちが事情聴取を受けた際、彼らから聞かされていた宿泊しているホテルへと駆けこんだ俺たちだったが、そこの受付係から福島さんを除く糟屋さんと脇坂さんの二人は帰って来ていないという答えであった。
いよいよもってヤバい状況になって来たと予感した俺たちは、反射的にホテルを飛び出すと目的地も定まらずただ闇雲に二人を探して街中を駆け回り続けていたのだ。
「こりゃやべぇぞ服部。いったん大滝警部に連絡して二人を探してもらうしか――」
「――いや待て、工藤。見てみい」
切羽詰まった口調でそう服部に声をかけた俺の言葉を遮り、服部は車道を挟んで向かい側にある歩道へと指さす。
そこには傘をさして歩いている糟屋さんの姿があった。
「糟屋さんだ……!」
「どう見ても……泊っているホテルへと戻る方向やないなぁ。……こらぁやっぱり、
俺たちに気づかず何処かへと去って行く糟屋さんの背中を見据えながら服部がそう呟くのを耳に、俺はポケットからイヤリング型携帯電話を取り出す。
「よし、警察にこの事を――」
「――止め」
「?」
警察へと電話しようとした俺に、服部はすぐさま待ったをかけた。
怪訝に思いながら服部を見上げると、服部は糟屋さんを見つめたまま言葉を続ける。
「警察来て騒ぎになったら、逃げられてしまうかもしれへん。……ここは俺らだけで開けたろやないか?――『真実の扉』っちゅうヤツを……!」
そう言い終わるやいなや、服部は設置してあるガードレールを乗り越え、向かい側の歩道へと向かって車道を横切り走って行った。
「お、おい服部!」
一拍遅れて俺も服部の後を追って車が来ていないのを確認すると車道を横断し向かい側の歩道へと走る。
そうして俺と服部の二人は、糟屋さんに気づかれぬように尾行を開始したのだった――。
――だがその時、俺も服部も気づいてはいなかった。
――糟屋さんを追う俺たちの姿を、路地の影から複数の怪しい眼光がとらえていたのを。
SIDE:カエル顔の医者(冥土帰し)
「いやぁ、ホンマ今回はお世話になりましたわカエル先生」
「こちらこそ、大阪の観光案内をしてくださってありがとうございました」
新大阪駅のプラットホーム。そこで私は服部本部長とそう言って握手を交わしていた。
私のそばには荷物を持った吉野君。そして本部長の隣には遠山刑事部長と大滝警部の姿があった。
――大阪城で加藤さんが火ダルマになった事件からはや
ここでの役目をすべて終えた私は、大阪に別れを告げ米花町へと帰るためにここに立っていた。
既に工藤君たちは何日か前に大阪を
大阪城の一件で米花町へ帰る日が大幅にズレてしまったが、まあそれは仕方ないだろう。
「今後もカエル先生とは、親しい付き合いをさせてもらいたいものですわ」
「……そう思うのだったら、
本部長の言葉に、私は思わず素の口調でそう言って苦笑すると、チラリと視線を移動させる。
そこには少し離れた所に服部君と和葉君の姿があり、服部君は見るからにぐぬぬと呻かんばかりに本部長を睨みつけており、和葉君はそんな服部君を苦笑顔で見つめていた。
そんな私と服部君、和葉君を順に見やると本部長の方もバツが悪そうな顔を浮かべた。
「……まぁ、
「
「いや、先生。実は昨日もうその制裁は受け取るんですわ。……
私の忠告に本部長は苦笑しながらそう答えると、
何があったかは私が知る由も無いが、よっぽど手痛い目にあわされたようである。
「おやおや」と呟きながら、私はふと事件後に大滝警部から聞かされた事の顛末を脳内で振り返っていた――。
SIDE:三人称視点。
雨降る夜でも
懐中電灯などの明かりもつけず、夜目に慣れた眼だけで迷いなく歩き続ける糟屋の前に、一軒の大きな倉庫が出迎える。
糟屋はその倉庫へと迷わず足を進めた。
出入り口から入るとすぐそばに鉄製の階段がある。外よりもさらに暗い倉庫の中、糟屋はその階段の前でいったん立ち止まるとポケットからライターを取り出し、その火の明かりを頼りに階段を上り始める。
カンカンと小さな金属音を響かせながら糟屋がその階段を登ると、倉庫の壁に沿って細い廊下が伸びていた。
倉庫の二階は吹き抜けとなっており、足場の面積は一階の半分も無い。その中を糟屋の歩く足音だけが静かに響き続けていた。
そこからまた更に階段が現れ、糟屋は二階から三階へと更に上へと上がって行った。
そうして三階へと着き、そこの廊下を歩き始めて直ぐに、糟屋は
細い廊下の先にあった少し開けた場所。そこにはメラメラと燃える可燃物を入れたドラム缶が置かれており、その場を炎が仄かに照らし出していた。
そして――その場所に、ツアー参加者の一人である男性が静かに佇んでいる姿があった。
その人物を視界に収めた糟屋は軽い口調でその者に向けて声をかける。
「……おお、待たせて悪かったのぅ――」
「――脇坂さん」
糟屋に声をかけられた人物――脇坂は頭に手を置きながら「いえ……」とこちらも軽く返答して見せる。
そんな彼に糟屋は歩み寄りながら更に口を開く。
「それで、
「あそこです……あそこにある箱の中に」
そう言って脇坂が指さす先――そこには少し離れた所に大きめの木箱が置かれているのが
それを見た糟屋は「おお、そうか!」と声を弾ませながらその木箱に駆け寄る。
木箱の前にしゃがみ込んだ糟屋は火のついたライターを片手にその中を漁り始める。しかし、直ぐにまた背後にいる脇坂に向けて声をかけていた。
「……じゃが、目当ての物以外にも色々な物が入っている上に、暗くて何が何やら分からんのぅ」
糟屋の言う通り、木箱が置かれていたその場所はドラム缶の明かりが届いていない所にあり、ライターの明かりも心許なく手元に何があるのかさえ分かりにくい状態であった。
一個一個、木箱の中の物を取り出してライターの明かりをかざしながら確認していく糟屋に、背後に立つ脇坂は静かな口調で声をかけた。
「じゃあ……箱の横に置いておいた、
「ん?……これか?」
脇坂に言われるがままに糟屋が木箱の横へと視線を移すと、そこには確かに
それを手にする糟屋に脇坂は更に言葉を続ける。
「それで照らせば直ぐ見つかりますよ。……お目当ての、『虎の巻』が」
そんな彼の表情に気づかない糟屋は、流れるままにその懐中電灯のスイッチを押そうとし――。
「――つけたらあかん」
「「!?」」
唐突にその場に響いた第三者の声に、糟屋と脇坂は反射的に動きを止めて硬直する。
そして二人同時に声のした方へと目を向けると、そこには大阪城で出会った色黒の高校生探偵が立っていた。
驚く二人を前にその高校生探偵――服部平次は、糟屋に視線を向けながら言葉を続けた。
「それつけたら、
「…………」
視線を脇坂に移動させてそう問いかける服部に、脇坂は顔を背けながら沈黙する。その顔に薄っすらと冷や汗を浮かばせながら。
そんな脇坂の様子から事実だと察した糟屋は、慌てて懐中電灯から手を離すと服部と脇坂の元に駆け寄りながら口を開いた。
「じゃ、じゃあ……加藤さんをあんな目に遭わせたのは……!」
「ああそうや。この脇坂さんや。……そんで、爺さんは知らんかったやろうけど極楽橋で片桐さんを殺そうとしたのも、な……」
「ええっ!?」
服部の言葉で片桐が殺されかけた事を今初めて知った糟屋は驚愕に目を見開いて脇坂を見る。
そんな糟屋を見つめたまま服部は言葉を続けた。
「そうや……爺さん、さっきのアンタの場合と一緒で加藤さんも片桐さんも、『虎の巻の在りか教える』っちゅうエサで釣ってな……」
そこで言葉をいったん区切った服部は視線を糟屋から脇坂に移動させながら再び口を開き、説明を始めた。
「……加藤さんの時は簡単や。その巻物を『天守閣の屋根の、どっかの瓦の下に隠した』とでも言うたらええんやからな。……屋根の上に出るんは人の多い昼間を避けて夜まで待たなあかんし、暗なってから降りたんはええけど明かりが無いとそれがどの瓦か分からへん。……仕方なしに加藤さんは持ってたライターの火で辺りを見回しとったら、
「――
「なるほど……加藤さんはライターより便利な懐中電灯を見つけ、思わずスイッチを入れてしまったというわけか……」
服部の言葉に合点がいったとばかりに糟屋が納得しながらそう言って俯いたままの脇坂を見据える。
そんな糟屋に服部は頷きながら言葉を続ける。
「ああ。……そしたら懐中電灯が粉々になる代わりに、加藤さんの指紋がついたライターは屋根の上に残って、自分で火ぃ着けて自殺したように見えるやろ?……屋根にあったライターの下の、乾いた跡が扇形やったんがその証拠や。筒状の物のけて角ばったライター置かなあんな跡でけへんし、爆発で飛んだ焦げた乾電池が城のそばに落ちとったしな」
「むぅ……」
唸るような相づちを打つ糟屋を横目に、服部は未だに俯き続けている脇坂を前に肩をすくめて見せる。
「ちなみに、片桐さんの時も何か仕掛けようとしてたみたいやけど……運悪くそれを実行する前に偶然やって来た和葉らにその現場見られて不発に終わってしもた。……それも
「動かぬ証拠?」
首をかしげながらオウム返しにそう問いかける糟屋に服部はそれに答える。
「片桐さんのコートに残っとったんや。脇坂さん……アンタの服に飛んだ片桐さんの返り血が。片桐さん抱えた時に着いてしもた
「――脇坂さん。
「――ッ」
服部の指摘に脇坂はピクリと肩を震わせながら反応する。
それを見た服部は二ッと小さく笑みを浮かべる。
「……つまり、アンタが今も付けてるその信長の家紋調べたら、もう言い逃れ出来ひんちゅうこっちゃ……!」
脇坂の胸に着いたバッジを見据えながらそう言う服部に、次の瞬間そばで聞いていた糟屋は戸惑いながら声を上げた。
「じゃが……どうしてワシやあの二人を……!?」
「アンタらだけやない。このツアーの発案者っちゅう
服部がそこまで言った瞬間、今の今までだんまりだった脇坂がようやく口を開いて見せた。
「――ああ、そうだよ……。平野さんを殺し、そして加藤さんと片桐さんも僕が手を下そうとしたんだ……。秀吉をこよなく愛して殺害された……
「お、お爺ちゃん?」
「……!」
自虐的に呟く脇坂の言葉に服部は首を傾げ、糟屋は何かに気づいたようにハッとなる。
脇坂の「お爺ちゃん」という単語に服部は数秒思考を巡らせると、直ぐに思い当たる節に気づき懐から『例の古い写真』を取り出すとそれを脇坂に見せるように掲げながら口を開いた。
「ひょっとしてそのお爺ちゃんっちゅうんは、この写真の真ん中で巻物広げて見せてる爺さんの事か?」
服部の問いかけとその写真を前に、脇坂は「どうしてその写真を持ってるんだ?」と言わんばかりに驚いた顔を一瞬浮かべるも、直ぐに真剣な目で頷いて見せる。
「……そうさ、この人が僕のお爺ちゃんさ。……お爺ちゃんは僕によく話してくれたよ。発見した巻物の事を。それに書き記された秀吉の宝の事を。それから……宝探しを中断して、その巻物を国に
そう静かに話し続ける脇坂の顔が小さく歪む。
一拍沈黙する脇坂だったが、そこからまた絞り出すようにその続きを語りだす。
「そして十三年前……お爺ちゃんは『仲間を説得しに行く』と、大阪に行ったっきり……
「……!まさか、十三年前に堀で見つかった焼死体っちゅうんは……!」
服部の言葉に、脇坂は小さく頷いて見せる。
「……
そう悲しそうに呟く脇坂を前に、服部は「加藤さんの殺害が失敗した後、なおも犯行を続けようとしたのはそれが理由か」と内心一人納得していた。
しかし次の瞬間、脇坂が続けざまに呟いた言葉に服部は思わず硬直する事となる――。
「だけど、そこまでの過程――仲間の尻尾をつかむのに、結構苦労したよ。お爺ちゃんは生前、仲間の事を詳しく話さなかったし、唯一の手掛かりはお爺ちゃんも持ってたその写真だけだったから……まさか――」
「――まさか、あの中の一人が
「……!!?」
諦めを含んだ脇坂のその言葉を耳にした瞬間、服部の体に戦慄が走る。
顔を変えていた?この写真に写る加藤と片桐は若いが顔を変えた様子は無い。同じく平野も福島が直ぐに彼だと気づいているため違う。写真の中央に立つ正清も言わずもがなだ。
なら、残っているのは一人だけ。そして、今までの事実と脇坂が
「ほ、ほんなら、この写真の爺さんの左に写っていた、おっちゃんは……!!」
服部が驚愕と共にそう呟いた、次の瞬間だった――。
――カチャッ!
「「!?」」
小さな金属音と共に服部と脇坂は同時に息を呑み硬直する。
彼らの視線の先は、この場にいる
「……
冷徹な眼光と共に冷たく言葉を吐いた糟屋のその手には、同じく冷たく光る拳銃が握られていた――。
最新話投稿です。
意外と長くなりましたのでここでいったん切ります。
そのため次回が今回のエピソードの最終話となります。
長々となってしまい申し訳ありません。