長くかかりましたが『大阪城財宝伝説殺人事件』のエピローグです。
SIDE:三人称視点。
「……ワシじゃよ。顔を変えねばならん理由が出来てしまってのぅ」
重く冷めた口調で言葉を吐く糟屋。その手に持つ銃口が服部と脇坂の二人を捉える。
「十三年前に仲間と一時解散した後に顔を変えたんで、ツアー参加者として再会した時は平野も加藤もワシじゃと気づきはしなかった。……まぁ、片桐のねえちゃんだけは薄々感づいとったみたいじゃがのぅ」
そう独り言のように服部たちに説明しながら、糟屋は拳銃を突きつけて服部と脇坂、そして自分自身の
糟屋は轟々と燃えるドラム缶のそばへと、服部と脇坂は糟屋の銃によって木箱と『例の懐中電灯』が置かれた場所の方へと追いやられる。
その瞬間、荒々しい足音を響かせながら階段を上って見知らぬ六人の男たちが姿を現した。
皆一様に拳銃を握っており、その銃口を糟屋同様服部と脇坂に狙いを定める。
糟屋と一緒に自分たちを囲って拳銃を向けて来る男たちを見て、服部はすぐさまこの男たちが糟屋の息のかかった者たちだと察すると彼らを睨みつけながら叫ぶ。
「俺はええけど、脇坂さんの口も封じるつもりか?宝の在りか分からんようになってまうでぇ!!」
「その分じゃと恐らく『虎の巻』はここに持って来てないじゃろう。……脇坂さんの住所は調査済みじゃ。家探しでもするわい」
何とでもないかのように涼しい顔でそう言ってのけた糟屋は、拳銃を持つ手に力を入れながら服部と脇坂に向けて続けて鋭く言い放った。
「さぁ!二人とも奥へ行け!!そこにある懐中電灯のスイッチを入れて……下に落ちてもらおう。犯人と少年探偵が炎に包まれながら転落死したようにな……!!」
七つの銃口に狙われ、悔し気に顔を歪ませる服部と脇坂はそれでもどうすることも出来ず、遂に懐中電灯のそばへと追い込まれてしまった。
服部が自身の足元に自分たちを殺しえる懐中電灯の存在を確認した時、そこで再び糟屋から声がかかる。
「……ところで、最後に一つだけ教えてくれんか?――
「フン!誰がお前なんかに――」
糟屋のその問いかけに冷や汗をかきながらも服部は強気にそう言い返そうとし――。
「――傘だよ!」
『!!?』
――言い終える前にその場にいる誰でもない
驚く服部、脇坂、そして糟屋とその仲間達は一斉に声のした方へと
そこには今よりも更に一段高い位置にもう一つ通路が伸びており、その通路の手すりにもたれかかってこちらを見下ろす小さな少年の姿があったのだ。
目を見開いて見上げて来る一同に対し、その少年――江戸川コナンは自信に満ちた笑みで言葉を続ける。
「……加藤さんが今わの際に掴んだあの傘は、
「――!(く、工藤!?……この倉庫に入った直後からいなくなってもうてどこ行ったかと思うてたら……何であんなとこに!?)」
得意げに推理を披露する、ライバルであり親友でもある
そんな服部を前に糟屋は慌てて声を荒げる。
「こ、小僧いつの間に!?……おい、降りて来い!お友達がハチの巣にされたくなければのぅ!!」
「!!――アカン、来るな!!」
糟屋のその言葉に服部は慌てて上にいるコナンに向けて叫ぶ。
しかし、コナンはそんな止める服部の声を無視し――。
「しゃーねーな!」
「あ、アホウ!!」
――気軽にコナンがそう言った直後に、手すりを乗り越えて黒い影が宙を舞った。
手すりを乗り越えてコナンがこちらに飛び降りて来たと思った服部は慌てて声を上げる。
そして、同じようにそれを見ていた糟屋はこちらに落ちて来る影を見てニヤリと笑う。
「フン、なかなか聞き分けの良い――」
だが、そこまで呟いた糟屋の声は唐突に途切れ、その両目は驚愕に大きく見開かれる事となった。
スタッ!!と言う音と共に服部と糟谷たちとの間に着地したその
着地して膝をついた状態からゆっくりと立ち上がるその人物は、
そんな眼光を前に、糟屋は目の前に降り立った人物を見て驚愕に叫んだ。
「お、お前は――」
「――服部平蔵!!?」
「お、親父……!?」
糟屋同様驚く服部を自身の背中に隠すように背後へと押しやる大阪府警本部長――服部平蔵は、糟屋たちを見据えながら鼻を鳴らした。
「……フン、十三年前に
平蔵がそう言った瞬間、いくつものカシャカシャという音と共に暗かった倉庫内が一気に眼が眩むほどに明るくなる。
見るといつの間にか何十人もの機動隊が糟屋たちにライトを当てながら取り囲んでおり、まるで獲物を捕捉した獣の如き眼光で睨みつけていたのだ。
気づかないうちに自分たちが囲まれていた事に気づいた糟屋たちは目に見えて狼狽する。
そんな糟屋に向けて平蔵は淡々と口を開いて見せた。
「――銃砲刀剣類所持等取締法違反、及び殺人未遂。……ほんで十三年前に
「ご、強盗殺人?……何の事じゃ?」
この期に及んでとぼけ顔でしらを切ろうとする糟屋に、機動隊の中に紛れて立っていた遠山銀司郎がピシャリと言い放つ。
「とぼけてもアカンぞ?……こっちには、被害者が留守電にとっさに入れたお前の『声』と、その電話切った時についたお前の『
「――ッ!!」
動かぬ証拠が既に揃っていたと理解した糟屋は絶望的な表情を顔に張り付けながら沈黙する。
そんな糟屋とその仲間たちに向けて、平蔵と銀司郎は容赦なく彼らへと鉄槌を振り下ろす。
「歯向かう
「怪我しとうなかったら!!」
「神妙にして、
平蔵のその
盾に警棒、そしてヘルメットなどの防具で身を包んだ機動隊員たちを前に小さな拳銃だけしか持っていない糟屋たちはどうすることも出来ず、一発も反撃できないまま次々と捕縛されて行った――。
――かくして、十三年に及んだこの事件は、大阪府警本部長の現場臨場という大捕り物で電光石火の如く解決したのであった。
SIDE:カエル顔の医者(冥土帰し)
「……糟屋とその一味は十三年もの間、私ら警察の目を暗ませて逃げ延び続けていた切れ者でしたさかい、是が非でも捕まえなければいけませんでした。それも糟屋のみならず一味全員を一網打尽にし、今回の事件の犯人である脇坂も一緒に。……そのために白羽の矢を立てたんが平次だったんですわ。アイツの行動は
服部本部長の説明を聞きながら私はウンウンと相づちを打つ。
実の息子を囮にしたことはまだ少々納得出来ない所はあるが、
新一君ことコナン君も、その倉庫に入った直後に大滝警部が保護していたらしい。
危険な場所に小さな子供を行かせるわけにはいかないとした本部長たちの配慮だったらしいが、コナン君本人にとっては余計なお世話だったかもしれないね。中身は平次君同様根っからの高校生探偵だし。
「糟屋さんの仲間も全員捕まえるためにあえて泳がしていたのは理解できるよ?しかし、脇坂さんの方はもう少しどうにか出来なかったのかい?聞けば本部長は、加藤さんが平次君の傘を掴んだあの時、それが脇坂さんを示すメッセージだと直ぐに分かったそうじゃないか」
私の言葉に本部長は小さく頷いて見せる。
「ええ。ですがそれだけでは確固たる証拠がないため脇坂を捕らえる事は不可能でした。それ故、糟屋同様見張りを付けて尻尾を出すのを待っとったんですが、まさか尾行を巻かれた上――」
「――片桐さんが襲われる事になるとは思ってもみなかった……」
本部長の言葉の続きを私が静かに口にすると、本部長は小さくため息を吐きながら「はい」と零して見せる。
……まぁ、その時の状況を考えればそれも仕方ないのかもしれない。
まさか、加藤さんに手を下したその足で直ぐ、片桐さんも殺そうとするなど誰が気づけようか。
しかも加藤さんの事件でまだ警察や野次馬が多く居る大阪城の極楽橋でだ。
尾行を巻かれたのならその後の脇坂さんの行動は『逃亡』だってあり得たのだ。それ故、本部長たちからしてみれば、容疑者を見失った直後に第二の事件が起こったのは不意打ち以外の何モノでもなかったのだろう。
「……予想外の事態とは言え、片桐が襲われたんはこちらの落ち度と言っても過言ではありません。ですから片桐の命を助けてくださった吉野さんやカエル先生には心から感謝しております」
「やれやれ、僕たちは知らず知らずのうちにそちらの尻拭いをしていた形になった訳だね?」
本部長のその言葉に私は肩をすくめてそう答え返す。そんな私に本部長が苦笑を浮かべる。
「そうなりますなぁ。しかし、おかげで本来なら死んでもおかしくなかった人命を救う事ができました。……ありがとうございます」
そう言って本部長は深々と頭を下げる。最後の言葉には『心から感謝している』という感情が深々と見て取る事が出来た。
するとそれを合図にしてか、ホームにアナウンスが流れ私たちが乗る予定の電車が線路の向こうから小さくやって来るのが視界に入る。
それを確認した私は、最後に一つだけ本部長に質問を投げかけていた。
「最後に一つ、聞きたいんだがね。……今回の事件、豊臣秀吉の財宝が絡んでいたという話だったけど、結局その財宝についてはどうなったんだい?」
私の質問に本部長は「ああ」と小さく答えながらその続きを話し出した。
「それについては脇坂が取り調べの中で話してくれたんですが、残念ながら『虎の巻』は確かにありましたがその中身は宝の在りかを記した地図ではなかったようです。……『虎の巻』の内容。その正体は『宝は確かに頂戴した』という、
「梶助?」
オウム返しに聞き返した私に本部長はすぐさま答えてくれた。
「梶助は昔、秀吉の黄金を狙って金明水井戸に潜ったと言われている盗賊ですわ。……つまり、宝は何百年も昔にとっくに盗み出された後だったって事ですなぁ」
(なるほど。……多くの人間の人生を狂わせた今回の事件。その根源にあった伝説の宝は結局、その存在を歴史の闇の彼方へと消し去って行ったという訳か)
服部本部長の話を聞き終え、私がウンウンと頷きながら感慨深くそんな事を考えてると、タイミングよく電車がホームへと滑り込んで来る。どうやら時間が来たようだ。
私は見送りに来てくれた一同を見渡しながら、口を開いた。
「大変お世話になりました。予定よりも長い滞在となったから何かと迷惑もかけてしまったかもしれないけど、本部長さんたちの心遣いには心より感謝しています」
そう言って頭を下げると、まず遠山刑事部長が――。
「またいつでも遊びに来てください。今回案内出来んだ大阪の観光名所、連れて行きますんで」
次に大滝警部が――。
「捜査にご協力、ありがとうございました。今度はゆっくりと旅行にでも来てくださいね」
次に平次君と和葉君が――。
「今度来た時はおすすめの『てっちり』のうまい店紹介したるわ!」
「じゃあ私は、たこ焼きとお好み焼きのうまい店にしようかな!」
――そして最後に、服部本部長が私と吉野君に見送りの言葉をかける。
「お元気で。また気が向いた時にでもいらしてください。いつでも歓迎しますんで」
それに私は小さく二ッと笑いながら力の籠った口調で答えていた――。
「――必ず、また」
最新話投稿です。
ようやくこのエピソードも終わり、次の話へと行けそうです。
いやぁ、長かったぁ……。(しみじみ)
今回、7話に渡った今回のエピソードはぶっちゃけますと平次ら大阪組にカエル先生の手術の腕前をお披露目するのが主な目的だったりします。
彼らの驚く顔が見たくて見たくて(笑)。
以下、軽いキャラ説明(原作とは違う結末を辿った者たちのみを掲載)。
・脇坂重彦
単行本第31巻~32巻に収録。テレビアニメでは第263話にて2時間スペシャルで放送。その中の第2の事件である『大阪城財宝伝説殺人事件』の犯人。
作中では原作が始まる前より平野を殺害し、その後ツアー中に加藤と片桐も殺害してる。
しかし、この作品では冥土帰しの手で加藤と片桐は助かっているため、この二人に関しては殺害未遂となっている。
だが平野を殺害しているため重罪になるのは避けられないが、原作よりは刑が軽くなるのは確かである。
恐らく原作の事件後では死刑判決を受けている可能性が高い(日本では二人以上殺害すれば極刑はほぼ確定なため)。
それ故、今作で加藤と片桐の二人が未遂になった分、死刑は免れているものと思われる。それでも長いおつとめをする事にはなるだろうが。
・加藤祐司と片桐真帆
原作では脇坂に殺害されている二人。
しかしこの作品では冥土帰しの手で助かるものの、十三年前の一件が明るみになったため、退院後に直ぐ警察に逮捕される事となる。
また、片桐は脇坂によって後頭部に重傷を負ったため、伊達同様『デバイス』を付けての生活を余儀なくされる事となった。