注:今回の日記帳は短めとなっております。
――&月×日(晴れ)
今日、仕事が終わるころになって新一君から電話があった。
「最近、病院の中や周囲で何か変わったことは無かったか」と。
私が新一君に何かあったのかと問いただした所、先日またもや殺人事件に遭遇したらしく、その事件自体は直ぐに解決したから良かったのだが、問題はその事件の最中に高木刑事から聞かされた話にあったという。
――なんでも毛利君の事を密かに調べている人物がいるかもしれないのだというのだ。
詳しく聞いてみると、警視庁から毛利君が今まで探偵として手がけた都内の事件の調書がごっそりと盗まれていたらしい。
幸いにも事前に調書の控えを取って保管していたため、裁判には支障は無かったらしいのだが、その調書が驚く事に、その殺人事件の前日に本庁にまとめて送り返されて来たという。それも差出人不明の封書で。
しかもさらに驚く事に、その調書が紛失したのは偶然か必然か、新一君たちが巻き込まれたバスジャック事件の日の事だったらしい。
それを聞いて私の脳裏に『組織』の影がちらついた。もちろんそれは新一君も同じだったようで、「とにかくそっちで何かあったらすぐに俺に電話してくれ」と言って締めくくると電話を切っていった。
調書を盗んだ犯人が誰なのかは実際の所、今はまだ分からない。
それに、何故わざわざ盗んだ調書を送り返してきたのかも。
だが『組織』が何かしら関係しているのではないかと、私は思わずにはいられなかった。
――&月〇日(晴れのち曇り)
調書紛失の話を聞いた数日後、再び新一君から電話があった。
先日の調書紛失の事で何か進展があったのかと思ったが、電話に出るなり新一君から「『XXX』がどういう意味なのか先生は何か知らないか?」と聞いて来た。
……………………………。
『XXX』?何だろうかそれは?新手の暗号か何かなのだろうか???
詳しく聞いてみると、今日も殺人事件に遭遇したらしくその時蘭君たちが話していたのを耳にしたらしい。
例によって事件は直ぐに解決し、その後に蘭君に聞いてみたら『ダメ』って意味だって答えたらしいのだが、いまいちしっくり来ないのだという。
私も分からないと答えると、新一君は「ありがとな、先生」と言い残して電話を切った。
どうやら用はそれだけだったらしい。
……………………………。
彼は一体、何をしたいのだろうか???
――&月▲日(曇りのち晴れ)
例の調書紛失の件でコナン君(新一君)の正体を知る関係者が集まり、相談する事となった。
相談の場として
余計な事で不安がらせるのはどうかと言う新一君なりの配慮であの姉妹には黙っている事となったのだ。
そうして集まったのは新一君、私、
どうやら調書紛失の一件や今日の相談の事をまた博士には話していなかったらしく、その事に関して博士はへそを曲げていたが、新一君が一人悩んでいるようだと反面、心配してわざわざ平次君を呼び寄せたらしい。
初対面である平次君と伊達刑事とのあいさつを済ませてようやく調書の事で話となった。
本庁から盗まれ、そして返されて来た調書の一件は、そこの人間である伊達刑事から見ても気になる案件だったという。
そして、その不可解な状況からもしかしたら犯人の狙いは毛利君では無く、そこに居候しているコナン君(新一君)なのではないか、と。先日、私と新一君が出したのと同じ結果に伊達刑事も辿り着いていた。
……まぁ、状況が状況なだけにまだ確信の域にまで至ってはいない。もしかしたら本当に狙いは毛利君の方という線も捨てきれてはいないし、ただの悪戯っていう可能性も無いわけではない。
だが、この一件には不可解な部分が多くみられるのも確かであった。
中でも特に私たちが疑問に思ったのは、犯人は何故、盗んだ調書を
普通、盗んで用済みとなったのなら処分すれば良いだけの事。返す必要はない。
なのに犯人は匿名で調書を送り返してきた。これでは不審がらせて警戒させるだけだというのに、だ。
新一君、服部君、そして伊達刑事が考え出した推測は、『そっちの手の内は全てお見通しだ』っていう意味の不敵なサインか。もしくは――。
――
しかし、そう考えるとおびき出そうっていう相手はコナン君(新一君)という事になるらしいのだが、もし仮にそれが本当に罠なのなら、犯人は何故そんなややこしい方法を取ったのかが分からないのだという。おびき出そうっていうのなら他に方法はいろいろあるというのに、だ。
だが、これ以上はいくら考えても答えが出ることは無く、この問題はここでいったん切り上げという事になった。
そうしてこのままお開きになるか……とも思われたが、そこで服部君が新一君に「まだ何か隠してる事があるんじゃないか?」と指摘して来た。
そう言うのも、こんな大事な話を
その場にいる全員の視線を受けて観念した新一君がゆっくりと語りだのは、この前あった杯戸シティホテルで『組織』と接触した一件だった――。
その一件で新一君は、ピスコこと桝山憲三が何故持っているはずのないハンカチを持っていたのかがずっと引っかかっていたのだという。
殺人のトリックに使われたという紫のハンカチ。それが警察の取り調べでチェックされるなど、ピスコには予想できない。何故ならピスコは報道陣のカメラに自身の犯行を映してしまうという失態を犯してしまっている。彼に予備のハンカチを用意するという周到性があるのなら、あんな致命的ミスは見逃さずカメラマンを始末してフィルムを回収しているはずなのだ。
だとしたら可能性があるのは一つ――。
――それはあの会場、ひいてはあの時容疑者となった残りの六人の中に、ピスコの『仲間』が潜んでいたのかもしれないという可能性。
それもピスコよりもずっと用意周到で用心深く、そして狡猾な存在がそこにいたんじゃないかと新一君は睨んでいた。
そしてそれは、同じく現場にいた伊達刑事も疑問に思っていた事らしく、新一君の推測に賛同していた。
だがそれがもし事実だとしたら、あの時容疑者になっていた人間の内、誰がピスコの『仲間』だったというのだろうか?
私の疑問に新一君は直ぐに答えてくれた。
どうやら彼は独自にあの事件後の六人の足取りを調べていたらしい。
その結果、杯戸シティホテルの事件後直ぐ、休業宣言をして姿を暗ました人物が一人だけいたのだという。その人物の名は……アメリカのムービースターにして大女優、シャロン・ヴィンヤードの一人娘でもある――。
――クリス・ヴィンヤード。
色々調べた結果、容疑者だった六人の中で最も疑わしかったのは彼女だったと新一君はそう言った。
その後、何かの役に立つかもと言って新一君は博士にクリス・ヴィンヤードのファンのサイト――そのインターネットアドレスを書いたメモを渡していた。そこに上手く潜り込んで何でもいいから情報を集めてほしいと。
そうして一段落着いた時、クリス・ヴィンヤードと同じく『怪しい外国人』繋がりで蘭君の学校の新人の英語教師であるジョディ先生の話へと移っていた。
話を聞いてその人に興味を持った服部君は、「今から会いに行こう」と提案すると、私たちが止める間もなく新一君を引っ張って医院長室を出て行ってしまった。
それを見た伊達刑事も付いて行こうとするも、伊達刑事はバスジャック事件や先日の事件(『XXX』を聞いて来た時の事件らしい)などで何度かジョディ先生と顔を合わせているので刑事である彼が一緒についてきたら怪しまれてしまうと服部君に引っ張られる新一君にそう指摘され、伊達刑事は渋々断念する事になった。
――こうして今回の集会は終わる事となったのだが……それからすぐ、伊達刑事と服部君、新一君の二人はその日の内に再び顔を突き合わせることになったと、後から伊達刑事に電話で聞かされる事となった。
それも新一君、服部君がジョディ先生の住むマンションにやって来た直後、そのマンションで転落死事件が発生したからだという……。
……………………。
彼らには『死神』でもとり憑いているのではないだろうか……?
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――$月&日(雨)
今日、血相を変えた新一君(コナン君)から電話があった。何と蘭君が倒れたのだという。
直ぐに私は蘭君が運ばれたという横浜の病院へとかけつけてみたのだが……診てみると何のことは無い、ただの軽い体調不良だった。この分なら一晩寝れば退院できるだろう。
新一君が大げさに騒ぎ立てるものだからつられて私まで慌ててしまったよ、まったく……。
聞くところによるとどうやら蘭君は最近、部活で忙しかったらしくその上今日は明日の日本史のテストに備えて勉強詰めだったらしい。恐らくそれらの事が原因で根を詰めすぎて体調を崩したのだろう。
話の流れでどうして横浜に来ていたのかと新一君や一緒に居た毛利君に尋ねてみた所、蘭君が福引で横浜の中華街の食事券を当てたのでそれで食べにやって来たのだとか。
そして……毎度の事ながら、事件に巻き込まれたのだという。
何でもやって来た中華料理店で先に食事をしていたとある映画関係者の人たちと何の因果か一緒に食事する事になったらしく、その席で映画プロデューサーの
……まあ、それも毎度の事ながら、新一君が毛利君を眠らせて直ぐに事件を解決したというのだが、店に着く前からすぐれなかった蘭君の体調がその事件の間に悪化し、解決直後に高熱で倒れてしまう結果になったのだとか。
しかしその話を聞いている途中、被害者を殺害した犯人の名前が
新一君の話では一年前にヒロイン役だった新人女優の
だがその事故は、実は川端四朗が危険なアクションシーンを周囲に黙って独断で彼女とスタントマンを入れ替えて行ったのが発端だったらしい。しかも、入れ替えた本人は彼女が死んだ後、「映画は大ヒットした!」と薄ら笑いを浮かべていたようで、それで更に磯上海蔵の恨みを買ってしまう事となったのだと……。
だが、そこまで聞いて私も
実は一年前に死んだというその利華と言う女優は、
だが結局、彼女は搬送されている間に救急車の中で亡くなってしまい、私の元に来た時にはもうどうすることも出来ず手遅れとなっていた……。
彼女と対面した当時、顔の損傷が激しく元の顔がどんなのだったのか私には分からずじまいで、唯一知れたのが彼女の名前が「利華」というだけだった。
こういう事はよくある事だが、治療の手を付ける事無く患者を見送らねばならなくなるのは本当に心に来るモノがある。
その
――そう。それが磯上海蔵監督だったのだ。
その事実を新一君と毛利君に話すと、新一君は悲しそうな顔で俯きながら「……監督さんが利華って人に惚れてたって言うのは、本当だったんだね」と小さく響いていた。
医者は『神』ではない。それは私とて同じだ。
助けられる命もあれば、助けられなかった命も数えきれないほど、前世を含めて私にはある。
だがそれでも、私が医者である限り患者がどんな状態であろうと死の淵に立つその命を私は全力で手を伸ばし、救命し続けていくつもりだ。
そう……この命と身体が、動き続ける限り。
……おっと。どうやらそろそろ眠っている蘭君が目を覚ましそうだ。そばで見守っていた新一君と毛利君もそれに気づく。
今日の日記の記載はここまでにするとしよう――。
日記形式を使った時系列すっ飛ばし、その3でしたw
したがって今回の軽いキャラ説明はありません。