今回の話、当初はサクッと終わらせるつもりでしたが、気がつけばまたもや一万字近くにまでなってしまいました。
SIDE:木山智則
「――な、何ですって!?親父が意識不明の重体!?」
――ある日。『アフリカぶらり旅』の新作を書いている最中だった僕こと
『木山家具』という家具会社を一代で築き上げた親父が、車で移動中に誤って運転手と一緒に崖から転落したのだという。
急いで仕事を切り上げ、親父たちが搬送された病院へと駆けつける。
そして看護師に教えられるままに親父がいるという病室に飛び込んだ僕の目に映ったのは――。
――ベッドに横たわるミイラ男の姿だった。
それを見た俺は茫然と病室のドアの前で佇んでしまっていた。
何だ、これは?まさか、このベッドの上で包帯グルグル巻きになっているのが親父だとでもいうのか!?
全身を隙間なく幾重にも巻かれた白い包帯。そのわずかな包帯の隙間に無理矢理大小様々な管をねじ込み、多種多様の薬品をその管を使ってミイラ男に注ぎ込んでいるのが分かった。
そのミイラ男を囲むように見た事のない医療機器の数々が、ピッピッとそれぞれ規則的な駆動音を鳴らしている。
頭部も包帯が何重にも巻かれ肌のらしき色が一切見えることは無い。
口には人工呼吸器のチューブが差し込まれ、鼻の穴にも細い管が入れられている。
更に鼻の上にあるはずの目の部分にも包帯が巻かれ、所謂目隠しと似た状態になっていた。
ベッドで眠るそのミイラ男が親父だととても信じられず途方に暮れていると、ベッドの横でカルテを取っていた医師が僕に気づいて声をかけてきた。
「患者のご家族の方ですか?」
「……え、あ、はい……息子、です……。あ、あの、その人は本当に父……なのでしょうか?」
そう恐る恐る問いかける僕に医師は病室に置かれたテーブルの上へと視線を移して口を開く。
「あそこに患者の所持品を全て置いております。ご確認ください」
医師にそう言われて僕はすぐさまテーブルに駆け寄った。
……見覚えのある物ばかりだった。
仕事で使っている携帯電話(事故で破損状態)、名刺入れ、そして……長年、親父が気に入って使い続けている古ぼけた万年筆などなど……。
それらが、ベッドのミイラ男が親父であるとまざまざと物語っていたのだ――。
「お……親父ッ……!!」
ミイラ男が親父だと確信した瞬間、頭を鈍器で殴られたかのようなショックが襲う。
そうしてフラフラとした足取りでベッドに眠る親父に歩み寄ると、そばで見守っている医師に向けて問いかけていた。
「せ、先生……親父は……親父は治るのですか……?」
僕の縋るようなその問いかけに、医師から返ってきた答えは俯きがちに力なく首を左右に振る動作だった。
「そ、そんな……」
無慈悲なその返答に、僕はその場で膝から崩れ落ちた。
床に座り込んで項垂れる僕の頭上で、先生は「申し訳ありません」と一言言って、親父の状態を詳しく話し始めた。
「……非常に危険な状態です。頭の上から足先まで何十ヶ所も骨が折れたりひしゃげたりしている上、肺や腸なども潰れてしまっています。……正直に言っていつ死んでもおかしくなく、三日生きられるのがやっとかと」
「ああ……」
医師の口から出て来る親父の容体を聞いてますます絶望的な気分に陥り、僕は思わず両手で顔を覆った。
視界も一瞬真っ暗になり、反対に頭の中は真っ白になる。
「残念ながら私どもでは手の施しようもありません。……実は一緒に同乗していた運転手だという男性も同じような危機的状態で今は隣の病室に絶対安静の状態で寝かされております」
「……フフッ、事故を起こしたその運転手も親父と同じ状態じゃあ怒るに怒れませんね」
その医師の話を聞いて僕は半ば投げやりに力なくそう呟く。
事故を起こし、親父をこんな目に遭わせた運転手に最初は一言だけでも怒りをぶつけてやりたかったが、親父と同じく死の淵に立たされていると知り、その人を非難する気力は霧散していた。
「……その方が良いかと。今、その運転手の病室にも家族の方が来ていらっしゃるようなので」
僕が悲嘆にくれる運転手とその家族のいる隣の部屋に押し入ってわざわざ事を荒立てるのも得策ではない、か……。
医師の言葉に、考えを改め直した僕はため息を一つつくと医師に再び問いかけた。
「……本当に、もう治せる見込みはないのでしょうか?」
「うちの病院では残念ながら……ですが、東都にあるという『米花私立病院』なら、あるいは……」
「――!『米花私立病院』……?」
思わず顔を上げてオウム返しに問いかける僕に、医師は力の籠った目で強く頷く。
「はい。あそこの医院長は世界的にも有名な医師で、どんな病気も怪我も瞬く間に治せるという噂です。……しかし、今回は患者の容体が容体なだけに、治療できるかどうかは分かりかねますが……」
「……ですが、その人に頼めば助かる見込みがあるんですよね?……でしたら、お願いします。親父を助けてください!必要なら、僕の全財産をなげうってでも構わない!」
僕の必至の懇願に医師は「分かりました」と再び強く頷いていた――。
「……ふ~む」
診察室の中。僕の前で椅子に座るカエル顔の先生が小さく唸りながら親父と運転手のカルテとにらめっこをしている。
担当医師からの紹介で病院にやって来たその先生は、親父と運転手の容体を確認した後からここでカルテを見て何かを考えるように唸り続けているのだ。
僕はそんな先生の姿を見て不安になる。もしや、この先生でも親父たちを助ける事は出来ないのか?
そんな嫌な妄想が脳裏をグルグルと回り、不安をいっそう色濃くさせていく。
やがて沈黙に耐え兼ねた僕は、思い切って先生に問いかけていた。
「……せ、先生。あの……親父は、助かるので、しょうか……?」
恐る恐るそう問いかける僕に、カエル顔の先生はカルテから顔を上げるとゆっくりと口を開いていた。
「……ん?ああ、不安がらせてしまったようだね?……大丈夫。僕の腕なら治す事は出来るよ?」
「――!ほ、本当ですか!?」
今一番聞きたかった言葉をカエル先生の口から聞くことが出来、僕は歓喜に笑みを浮かべた。
しかし、その直後に「ただ……」と先生は言葉を続けると、再びカルテに視線を戻して険しい顔を浮かべながらその先を口にする。
「……お父さんの怪我はここの医師の見立て通り、とても深刻なものだ。骨や筋肉繊維はまだしも臓器に多大なダメージが与えられている……。もはや大半の臓器は治療したとしても再起はほとんど見込まれないだろうね」
「そ、そんな……!」
親父の身体の大半がもはや再生不可能と言う現実を突きつけられ、僕は膝から崩れ落ちそうになる。
しかし、何とか両足を必死に支えながら先生に縋るように声を上げた。
「……先生、何とか親父を助ける方法は無いんですか!?」
「お父さんを助けられる方法は一つ……それは『臓器移植』しかないね」
『臓器移植』。その言葉を聞いて一瞬僕の中に希望が見えるも、直ぐにそれは闇に飲み込まれた。
――無理だ。誰もが知る事だが臓器移植はドナー登録を行った他者から臓器をもらい受ける治療方法。
しかしそれ故に治療費はとても高く、臓器提供を待つ患者も順番待ちで多い事から治療を受けるまでに長い時間をかける。
そのため、必要な臓器移植が多くその上明日をも知れぬ命の親父が治療そのものを受けられる可能性は
「臓器移植なんて……間に合うはずがない……!親父はもう、ここまでなのか……!」
僕は顔を両手で覆って絶望にむせび泣く。脳裏には親父との思い出が走馬灯のように駆け抜けていく。
一つ一つの思い出に優しい親父の笑顔が映され、それが絶望に沈む無力な僕を責めさいなんでいるように感じた。
――だが次の瞬間、目の前に座るカエル顔の先生からの声でその感情が一時的に止まる。
「……?何を言ってるんだい?さっき言っただろう『僕の腕なら治す事は出来る』って。キミのお父さんはもう僕の患者なんだ。だから僕の目の黒い内は絶対に死なせたりはしないよ」
「――!……で、ですが臓器移植なんて……提供してくれるドナーが現れるのにどれだけ時間がかかると思ってるんですか……!いくら何でも間に合いませんよ……!」
そう僕が先生に噛みつくように叫ぶ。すると先生は何故かきょとんとした顔を浮かべると……信じられない言葉が飛び出してきた。
「……誰がドナーを探すって言ったんだい?」
「……え?」
「そもそも僕は最初っから誰かから臓器を提供してもらおうとは考えていないよ?キミのお父さんの容体から見ても間に合わないのは分かり切ってるしね?」
「で、でも、臓器移植が必要だって今――」
「――うん、だから……――」
「――その必要な臓器を
……………………………………。
「えぇッ!!??」
最初こそ先生の言っている事の意味が分からず、ポカンと棒立ちになって沈黙していたものの、しだいに理解が追い付いて来て僕は思わず叫んでいた。
作る?臓器を!?一体どうやって!?
しかし僕が呆気に取られている間に、先生はその方法を説明しだした。
「まずこれから行う手術を二段階に分ける。最初の一段階目は使えなくなった臓器を人工臓器に移し替えるんだ」
「じ、人工臓器?」
「うん。僕が友人の発明家と鈴木財閥の研究チームと共に作り上げた最先端の代替治療機器さ。それを使ってまずはキミのお父さんを延命させる。容体が容体なだけに複数の大小さまざまな機械に繋がる事になるから身動きできなくなるだろうけど一時的な処置だから理解してほしい」
「…………」
目の前で人差し指を立てて人工臓器の説明をする先生に、僕は口を半開きにしながら聞き続ける。
「……そして次の二段階目で患者を人工臓器で延命させている間に、取り出した元の臓器からまだ生きている細胞を摘出し、それを
「親父の体は……治る?」
思わずそう呟いた僕に先生はしっかりと頷いて見せた。
……確かに人工臓器も臓器培養も聞いた事はあるが、果たして現実にそれは可能なのだろうか?
しかし、そんな僕の疑問が顔に出ていたのか、先生はその疑問にあっさりと答えた。
「出来るよ。何せさっき話した友人と研究チームの協力のかいあって既に実用化は済んでるんだ。……まぁ、済んだと言ってもほんの数年しか経ってないから世にはまだあまり広く広まってはいないんだけどね?」
苦笑交じりにそう言った先生を前に、僕はもう言葉を返すことも出来ず、目をパチパチとしばたたかせるだけであった――。
――それから数日後。
「……う、うぅ…………こ、こは……?」
「――!お、親父ッ……!!」
カエル顔の先生の治療(正確には第一段階)を受けた親父は目を覚ました。
内臓の半分以上を大小さまざまな人工臓器の機械で補っているため、ベッドから起き上がる事は出来なかったが、親父の意識ははっきりとしており、ちゃんとした受け答えも取れていた。
親父が目覚めたと知ったカエル先生も病室へやって来て、軽い検査を行っていく。そうして終えた検査でも特に問題は無さそうであった。
「……でもよかったよ目を覚ましてくれて。事故でいつ死んでもおかしくないって言われた時は、もうどうしたらいいかと――」
「――事故……?――!そ、そうだ!
僕が言った言葉の中の『事故』と言う単語に反応して親父が反射的に体を起こそうとするのを僕とカエル先生が慌てて止めに入る。
「運転手なら心配ないよ。……親父と同じ治療を受けて今、隣の病室で寝てるから」
親父の体を抑えながら言う僕に、親父は安堵の息を漏らす。
――そう。事故を起こした運転手も、親父がカエル先生の治療を受けた直ぐ後に、その人も親父同様の治療を受け一命を取り留めていた。
それ故、その人も今は同じく複数の人工臓器の機械に繋がれており、ベッドから動くことが出来ない状態となっているのだが。
「ああ、よかった……。田沼君にもしもの事があったら、彼の家族に何てお詫びすればよかったか……」
「……全く、自分も今大変な状態だっていうのに人の心配している場合かよ」
目尻に涙を溜めてそう言いながら、再びホッと安堵の息を吐く親父に、俺は呆れながらそう返した。
すると、そばで見守っていたカエル先生も親父の言葉に苦笑を浮かべるも、直ぐに「そうだ」と小さく呟いて親父に一つ提案を投げかけた。
「何でしたらその運転手の方と会話してみますか?流石に今はベッドから動かす事は出来ませんが、パソコンを使っての
先生からのその提案に親父は即行で乗っていた――。
――そうして田沼のお見舞いに来ていた彼の娘……確か
『しゃ、社長!良かった、無事だったのですね!』
「ハハッ……完全に無事とは言い難いがね。君の方こそ、元気そうで何よりだよ」
機械に繋がれながらも画面越しに互いに生きている事を喜び合う二人。
しかし、何度か言葉を交わした後、不意に田沼さんが暗い顔を浮かべて押し黙ってしまった。
「……?どうかしたのかね田沼君。傷が痛むのかい?」
『あ……いえ、そう言うわけではないのですが……』
親父の問いかけに、田沼は歯切れが悪そうにそう答える。そして数秒間、何かを想い詰めるようにして考えるそぶりを見せた後、意を決して親父に向けて口を開いていた。
『……あの、社長。先日の事故の事で少し話しておきたい事があります』
「ん?なんだい?」
『覚えておられますか社長。あの日、あの事故が起きる直前の事を……』
田沼の問いかけに、親父は小さく頷く。
「ああ。……確か、急にブレーキが利かなくなったと言って君が慌てだして、その直後に車がガードレールを突き破ったんだよね……」
『はい……。ですがおかしいのです――』
そう前置きをして田沼が語った話に、僕は思わず眉根を寄せた。
――なんでも田沼は毎日、親父を乗せる車の手入れ点検は欠かさずやっているらしく、それ故突然ブレーキが壊れるなんて事はありえないはずなのだという。
現にあの事故が起こる少し前までは、車はちゃんと正常に走行出来ていたと言っていた。
……だが僕からみればこんな話。単なる責任逃れの言い訳にしか聞こえず、正直彼の言う事はそうそう信じられそうになかった。
しかし、チラリと親父の方を見れば、僕とは反対に真剣な目つきで田沼の話に耳を傾けている姿があった。
本来なら何の根拠もない話だと聞き流してもおかしくはないというのに、親父は真摯に田沼と向き合っていたのだ。
僕は親父ほどこの田沼という人物の事は知らないが、それ程までに信の置ける者なのだろうか?
そんな事を僕が考えていると、最後に田沼は親父に向けて気になる事を一つ話し出した。
『それと社長。……実は事故が起きる直前――私が会社前で待つ社長の方へ車を回そうと地下駐車場に向かっていた時、そこから出て来る
「――!馬島君と……?」
田沼のその証言に親父の眉根が僅かにピクリと反応した。
温厚で人が良さそうな人に見えたが……。
『はい……。あの時間、副社長はいつも仕事中のはずでしたし……すれ違った時、
それを聞いて親父の目が僅かに見開く。そしてそれは僕も同じだった。と同時に、脳裏に嫌な想像が駆け抜ける。
人気のない地下駐車場。その一角にある親父の専用車の横でしゃがみ込み、そこで工具片手に
……そう言えば今までで親父のお見舞いに来てくれた木山家具の社員たちやその取引先の会社の人たちは、親父が回復に向かっていると知って皆誰もが安堵の笑みを浮かべてくれてはいたが……ただ一人、馬島さんだけはその笑みがぎこちなかったような気がする。
そうして田沼からの話を聞いた親父は目を閉じて「ふ~む……」と唸りながら考える仕草をする。
たっぷり一分ほど考え込むと、やがて親父は目を見開き、真剣な表情で田沼に向けて口を開いた。
「……田沼君、キミの話は良く分かった。だが今の君の話だけでは正直判断材料に欠ける。気を悪くするだろうが、君が自分の失態を誤魔化すためにあえて作り話をでっちあげているという可能性だってあるんだ」
『……ッ、はい……』
画面の向こうでシュンと俯く田沼。そんな田沼に親父は言葉を続ける。
「……だからこの件はひとまず私に預からせてほしい。そしてしっかりとした裏取りを行ってから改めて真偽のほどを確認させてもらうよ?」
『……はい、分かりました』
諭すような親父のその言葉で田沼は一応納得してくれたのかしっかりと頷き返し、この通話は終了となった――。
田沼との通話を終えた親父は、僕から携帯電話を借り受けると早速木山家具の重役社員たちの中で親父が最も信用の置ける者たちにだけに連絡を取り、事の仔細を話した上で秘かに調査してほしいと頼み込んでいた。
そうしてその人たちとの打ち合わせを一通り終えた親父に、貸してた携帯を返却してもらうがてら、僕は親父へと問いかけていた。
「親父。田沼さんの言う事、本当だと思うかい?」
その答えに返って来たのはキョトンとした表情を浮かべる親父の顔だった。
「……ん?本当も何も、私は最初っから田沼君の事をこれっぽっちも疑ってなんかいないよ。何せ彼とは木山家具創業初期からの付き合いだからな。彼がどういった人間なのかは私もよぉ~く知っているつもりだ」
その言葉に僕は内心驚いていた。まさか親父と田沼がその頃からの付き合いだったなんて今初めて知った。
すると親父は次に真剣な目つきで虚空を睨みつけながら、やや重い口調で言葉を続ける。
「……むしろ田沼君の言う通り怪しむべきは馬島君の方だろう。彼は社の中で一番業績が良かったんだが、その分黒い噂がついて回っていてな。その噂の一部が私の耳にも入っていたんだ。……彼が手にした業績にしたって、大半が結構あくどいやり方で手に入れたという話もあるくらいだ」
「……でも、やっぱりまだ少し信じられないよ。……馬島さんが車に細工して親父たちをその……」
「うん……私も大事な社員を疑うのは正直、すごく心苦しいが……こればっかりは結果を見てみない事には、な」
僕の言葉に親父はそう答えると、首だけを病室の窓へと向け、そこから見える空をぼんやりと見上げ始める。
その双眸は心なしか寂しさと悲しさが入り混じっているように、僕には見て取れた――。
――それから数週間後、馬島さん……いや、馬島は警察に逮捕された。
親父の指示を受けた重役社員たちの調べで馬島について回っていた黒い噂……そのほとんどが事実であったと確認されたのだ。
不正経理から始まり、自身の部下の手柄をさも自分の功績だと平気で偽って自身の株を上げるのを日常的に行っており、他にも会社の取引先のいくつかに賄賂を贈り贈られたりを繰り返して懐を潤すと同時に、他社からの後ろ盾を確立させていたのだという。しかも賄賂に使ったそのお金は自分の財布からではなくなんと会社の金から横領して出していたと言うのだから驚きだ。
これだけでも許せない悪行ではあるが、副社長の座に収まった奴は今度は親父を亡き者にして社長の椅子を手に入れようと画策したのだ。
その証拠は地下駐車場に設置されていた防犯カメラがしっかりと捉えていた――。
――かくして、動かぬ証拠である監視カメラのその犯行映像と重役たちが集めた馬島の部下の証言や賄賂に使った会社のお金の使用の証拠などによって、馬島は殺人未遂及びその他もろもろの罪で逮捕され、実刑がつく事となったのであった。
「……しっかし、馬島はどうして地下駐車場で車の細工なんてしたんだろうね?副社長なんだからそこに監視カメラがある事くらい知っていたはずだろうに」
馬島が逮捕された数日後、木山家具会社の社長室に僕と親父の二人がいた。
カエル先生からの二度目の手術を受けた親父(と田沼)は、たった数日で見る見るうちに元気になり、丸一日リハビリをしただけでその翌日には元気に退院することが出来たのである。
……うん。事故が起きてからまだ一月も経っていないと言うのに、この目まぐるしいくらいの回復速度は一体何なんだろうね?
まぁとにかく、退院して元気になった親父に僕がそう疑問を口にすると親父は少し複雑そうな顔を浮かべながらそれにすぐ答えてくれた。
「……実はいつも車を停めているあの一角の監視カメラは少し前から不調を起こしていてな。事故が起きる前日まで修理に出していたんだ。……だが馬島君は、あの監視カメラが犯行の前日には修理から帰って来ていたのを全く知らなかったらしい。その原因は彼の直属の部下が馬島君に伝え忘れていただけだったらしいが……なにぶん常日頃から彼に色々と責任やら何やらを押し付けられていたらしくあまり会話したくなかったとも言っていたね」
正に因果応報、自業自得。部下の手柄を取ったり責任を押し付けたりして嫌われた果ての末路だったわけだ。
「本当に……残念で仕方ないよ。……馬島君もこの会社の事を好いてくれているものとばかり思っていたんだがね……」
そう呟きながら小さくため息をつく親父。親父にとって、馬島もまた大事な会社の社員の一人だったために、この裏切りは相当ショックだったようだ。
僕はそんな親父にかける言葉が見つからず、黙って親父の背中を見つめる事しか出来なかった。
心身共に親父が受けた傷の深さは計り知れない。その傷は時間が癒してくれるのを祈るばかりだ。
「……あ、そうだ親父。お世話になったカエル先生に今度開かれる僕の写真展の招待チケット贈ろうと思うんだけど、どうかな?」
「……ん?おお良いじゃないか。……そうだな、なら私は我が社自慢の高級家具を先生に贈るとするか!デザインは何がいいだろう?智則、一緒に決めてもらえるか?」
そう言いながら親父は木山家具のカタログを取り出してウキウキ顔で僕の前に開いて見せる。
声を弾ませてページをめくる親父を見て、傷心が癒えるのもそう遠くないかもしれないな、と僕は自然と笑みを零していた――。
軽いキャラ説明(原作とは違う結末を辿った者たちのみを掲載)。
・木山智則
アニメオリジナル回、『水流るる石庭の怪』に登場する犯人。
『木山家具』の先代社長である実父を馬島によって事故死に見せかけて殺されており、その復讐のために犯行に及ぶ。
同じく馬島に恨みを抱いていた『木山インテリア』社長の
しかしこの作品では、父親と運転手の田沼は冥土帰しの手によって助かっているため犯行を行う事は無くなり、同じく遠藤の方も馬島が逮捕されたため事なきを得た。
・馬島道吉
社長の椅子を狙って先代社長と運転手の田沼を事故死に見せかけて殺害した犯人であり、同時にそれを知った智則によって殺害される被害者。
この作品では冥土帰しの手によって助かった田沼の証言をきっかけに、先代社長が調査に乗り出し、結果事故の犯行とこれまでの悪行が全てバレる事となり、馬島は警察に逮捕される事となった。
・先代木山社長と田沼
原作では既に故人。
しかし今作では冥土帰しによって救命され、現在は今まで同様の平穏な生活を送っている。