とある探偵世界の冥土帰し   作:綾辻真

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毎回の誤字報告、及び感想ありがとうございます。

今回から再び長編へと入って行きますが、ぶっちゃけカエル先生はほとんど出てきません。
何度か視点が変わりますが、メインは伊達刑事の視点で進行します。

注:爆弾処理班コンビである例の二人の命日は、原作同様11月7日とさせていただきます。


番外:『悪意と聖者の行進』(伊達航視点編)【1】

SIDE:伊達航

 

 

 

「……伊達、どう思う?この予告文を」

「…………」

 

デスクに座る目暮警部にそう促され、俺は今し方警部から渡されたFAXの文面に視線を落とす。

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

私はアンチスピリッツ

 

優勝パレードで

 

面白い事が起こる

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

――今日は10月24日の日曜日だ。

この日で『優勝パレード』と言えば、恐らくプロサッカーチーム『東京スピリッツ』の優勝パレードの事だろう。

この文面はそのパレードで何かが起こると指示していた。

一見、曖昧な予告文と言うだけで考えによっちゃあ単なるイタズラともとれる。

だが俺はその文面からキナ臭い何かを感じていた。

 

「伊達。もしかするとこれは、お前も知っている三年前のあの事件の――」

「――いや、多分それは無いと思います」

 

目暮警部の予想に俺はすぐさま否定の言葉を吐く。

驚いて目を見開く警部に、俺は自分の意見を口にする。

 

「俺も以前の予告文は資料で調べて見てはいますんで……確かに文面は()()と似ちゃあいますけど、前のは一部報道で公開されていたはずです。……恐らくそれを見た誰かが文面を真似て書いて警視庁(ここ)に送って来たんじゃないですかね?」

「……()()()()では無い、と?」

「……ええ、恐らくそうだと。……良くてただのイタズラか……最悪、三年前の事件を模倣しようとしている(やから)の仕業だと考えられます」

「ふぅむ……だがもし『後者』だったとしたら、何が起こるか分からん、最悪、大変な事態になるかもしれん。一応警戒はしておいた方が良いだろう」

 

そう呟いた警部はすぐさま捜査一課の面々を集め、もうすぐ始まる優勝パレードに()()()()()警戒に当たるように指示を飛ばす。

もし万が一、この予告文を送ってきた人物が例の三年前の犯人なら……俺はともかく、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

一通りの打ち合わせを終え、各々変装をして優勝パレードを行う現地へと向かう事となり、俺も変装をしてそこに向かおうと捜査一課の部署を出る。

と、そこへ足早に佐藤が俺へと駆け寄って来た。

その顔にやや曇った表情を張り付けて――。

 

「伊達さん、あの予告文……やっぱりただのイタズラでしょうか?」

「さぁな。今の所は何とも言えん。……だが、単なるイタズラとも思えん。警戒するに越した事はねぇだろう」

「そう……ですよね」

 

そう呟いて、やや俯きがちに何かを考え込む佐藤。俺はそんな佐藤を横目に言葉を続ける。

 

「……だが、()()()()と無関係だって事は、俺は確信を持って言えるぜ?」

 

驚いて顔を上げる佐藤を横目に、俺は小さく笑みを作ってみせる。

 

 

 

 

 

 

「――匂いが(ちげ)ぇよ。あの文面から放たれる『悪意』の方向性(タイプ)……それが三年前と今回とじゃ、全く毛色が違うってのが丸分かりだ」

 

 

 

 

 

目を細めて虚空を睨みながら俺はそう呟く。ぼんやりと()()()()()()()()()が幻影となって見えたような気がした――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒のベースキャップに色付き眼鏡。マスクにジャケットを身に着けた俺は、『東京スピリッツ』の優勝パレードへとやって来ていた。

適当に服を選んで変装したんだが……うん、見事に怪しさ満点だな俺。これ下手すりゃあ俺がしょっ引かれる事態にならねぇか?ならないよな?

そんな事を考えながら警戒に当たっていると――。

 

「コラッ!駄目じゃないの、そんな所に乗っちゃ!」

 

――唐突に佐藤の声が聞こえ振り向くと、そこには(カツラ)とサングラスで変装した佐藤と、()()()()()()()()()()()()()()()()()()の姿があった。

 

 

 

 

 

眼鏡の坊主(江戸川コナン)と灰原の嬢ちゃんに阿笠博士。そして初めて会ったが他に三人の少年少女を含んだ彼らは、この優勝パレードを見物にやって来ていたらしい。

しかし予想以上に人が多く、なかなかパレードが見れなかったので、近くにあったポストの上によじ登ってカメラ撮影をしていた所、佐藤に見つかってしまったのだとか。

尤も、ポストに上がっていたのは眼鏡の坊主たちの連れである小嶋元太(こじまげんた)円谷光彦(つぶらやみつひこ)(あとに残った少女は吉田歩美(よしだあゆみ)というらしい)の二人だけらしいのだが……。

まぁとにかく、見知った人物たちだったため俺も挨拶交じりにそいつらに声をかけ、一足遅れて何故かパトカーに乗った交通課の宮本に同じく変装をした白鳥の奴までやって来ると、坊主たちから何故変装しているのかと問われ今回の一件をさらりと佐藤と白鳥が説明する事となってしまった。

 

……本当なら、職務中の内容を一般人に教えちゃうのはダメなはずなんだがなぁ。

 

俺がそんな事を思っていると、不意に白鳥の口から佐藤が来週、高木とデートをする予定であることを耳にした。それもデート場所は今度出来たばかりのトロピカルマリンランド。

正直、初耳だった。おまけに佐藤と高木がデートする日、同じ日に休暇届を出す奴(白鳥を含む)がわんさかおり、警務課に保管されている双眼鏡や通信機材もその日に貸し出し予約でいっぱいになっているのだとか。

 

……うん、お前らホント何やってんの!?

 

反射的にそう突っこむと白鳥から「既に奥さんがいる身の勝ち組は黙っていてください!」とぴしゃりと言い返されてしまった。

ぐぅの音も出ずシュンと肩を落とした俺は、ため息交じりにいつものように爪楊枝を咥える。

するとほぼ同時に、()()()()()()()が俺たちがいる歩道の対面にある路上に一時駐車するのが見えた。高木の車だ。

俺と同じように、パトカーからその車に気づいた宮本は「あららぁ~?噂の彼のご到着みたいよぉ~?」と(はや)し立てて見せる。

 

(……全く、宮本の奴は。高木の奴も来るのが遅すぎ……――なッ!!??)

 

 

 

 

 

 

――車から降りてきた人物を視認した時、俺の思考は強制的に停止し、目を大きく見開いた状態で無意識に加えていた爪楊枝をポロリと落とす。

 

短いボサボサの黒髪に同じく真っ黒いサングラスをかけたその人物は、俺のよく知る男に酷似しており――そして同時に、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

(まつ)……()……?)

 

旧友とよく似た姿をした人物がこちらにやって来るのを凝視しながら、俺は心の中で茫然とその名だけを絞り出していた――。




今回も驚くほど短いですが、キリが良いのでここで一区切りとさせていただきます。

今後のエピソードは、しばらく長編連載がいくつも続きそうです。

……書ききれるかなぁ(遠目)。

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