とある探偵世界の冥土帰し   作:綾辻真

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毎回の誤字報告、及び感想ありがとうございます。


番外:『悪意と聖者の行進』(伊達航視点編)【2】

SIDE:伊達航

 

 

松田によく似た人物の正体は高木だった。佐藤同様、カツラとサングラスで変装をしていたらしい。

 

(――ったく、おどかしやがって!)

 

高木の様子(そもそも高木は松田の事は知らない)から故意では無い事が分かるが、正直心臓が止まりそうなほど驚いた。

そのため、一言文句でも言おうと口を開きかけるも、それよりも先に佐藤が高木に平手打ちを飛ばしていた。

佐藤の突然のその行動にその場にいる全員が驚きに目を見張る。

そうして佐藤は、「さっさと変装を解いて、持ち場に着きなさい」と一方的に高木に指示を出すと、頬を腫らしながら呆然とする高木をその場に残して人込みの中へと消えて行ってしまった。

 

「あの……なんか僕、いけない事したんでしょうか……?」

 

半ば放心状態でカツラを取りながら佐藤が去って行った方向を見つめてそう呟く高木に、俺は声をかける。

 

「……いんや。ただ、似てたってだけだ。()()()()……さっきのお前が」

「……?伊達さん、アイツって……?」

「……お前や()が本庁に配属される前、七日間だけ捜査一課に在籍していた……()()()()()()()、な……」

「……伊達さん?」

 

高木同様に目を細めて佐藤の去って行った方向を見つめてそう呟く俺に、高木は不思議そうな視線を送って来る。

 

そして……そんな俺たちの背後で宮本と白鳥が何とも言えない表情で()()見ていたなど、俺は終始気づく事は無かった――。

 

 

 

 

 

 

 

 

それから佐藤がその場を去った直後、パレードを見に来ている大衆の方からひときわ大きな歓声が上がった。

どうやら東京スピリッツで人気の選手である、赤木と上村の乗った車が来たようだ。

それに気づいた坊主たちは、さっきの佐藤の平手打ちの光景を一瞬で忘れたかのように一斉に群衆の中へと入って行く。

そんな坊主たちを見送る俺の横では、高木が宮本にここで何をしているのかと聞いていた。

宮本曰く、駐禁の取り締まりの応援らしく、車をほっぽりだしてパレードを見ようとする奴らが大勢出るからだと言う。

「高木君の車も早く移動させないと、きっぷ切るわよ」と宮本がチラリと高木の車を見ながらそう言うと、高木は慌てて車の方へと戻って行った。

そんな高木の背中を横目に、俺は再び視線を群衆へと戻す。

 

今の所、パレードは順調に行われている。このまま何事も起きなきゃ良いが……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE:三人称視点(コナンと灰原の会話)。

 

 

赤木たちの乗る車がやって来た事で群衆の中に入って行った少年探偵団の面々。

ワイワイと周りの喧騒が響く中、コナンは隣に立つ灰原に声をかけていた。

 

「……しっかし、さっきは凄かったよなぁ佐藤刑事」

「ええ。いきなりの事で私も驚いたわ。……直ぐに表面上は落ち着いた感じを装っていたけれど、結構取り乱してたわね」

「……取り乱してたと言えば、伊達刑事もだよな」

「え?」

「気づかなかったか?佐藤刑事程では無いにせよ、そばにいた由美さんや白鳥警部以上に結構動揺してたんだぜ?……おまけに由美さんと白鳥警部。佐藤刑事が去った後、伊達刑事の事を何とも言えない表情で見つめてたしな」

「……何かあったのかしら、佐藤刑事と伊達刑事(あの二人)。その七日間だけいたって言う人と」

「さぁな……」

 

二人がそんな会話をしていると、直後に光彦が何者かにビデオカメラを誰かに()られるという事態が発生し、そのまた直後に――。

 

 

 

 

 

 

――高木刑事の車が唐突に吹き飛んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE:伊達航

 

 

幸い、車が爆発する直前。高木はすぐさま車から離れたために無事だった。

高木が言うには車の下に鍵を落としてしまいそれを拾おうとした時、車体の下に『妙な紙袋』があるのに気づき、とっさに爆弾かもしれないと思い、慌てて逃げたのだと言う。

結果的にその判断のおかげで高木は九死に一生を得られたが、直後に駆けつけてきた佐藤の取り乱しようが半端なかった。

高木が無事なのにも気づかず、爆発で煙と高熱を帯びる車に駆け寄り必死にドアをこじ開けようとする。

 

――直後に宮本が佐藤を止め、高木が無事であることを教えるとようやく落ち着きを取り戻したものの、高熱のドアをこじ開けようとした事で佐藤は両掌(りょうてのひら)に火傷を負ってしまった。

 

「どうやら、さっき佐藤さんが助けようとしていたのは……」

「ええ……松田君だったのかも、しれないわね……」

 

火傷の手当てをするためにその場を後にする佐藤の背中を見ながら、白鳥と宮本はそう静かに呟く。

そんな二人の言葉を耳にしながら、俺も佐藤の後姿を見つめて物思いにふける。

 

(……まさかあの佐藤がここまで取り乱すとはなぁ。……それだけ佐藤の中で()()()()存在は大きくなってたって事なのか)

 

正直、警視庁に配属されるまで夢にも思ってなかった。男勝りな佐藤と、色恋沙汰にはとんと興味なさそうだった()()()()、たった七日間で互いを意識し合う仲になっていたなんて……ぶっちゃけその話を聞いた時は我が耳を疑ったもんだ。

 

「たかが七日、されど七日、か……」

 

佐藤の姿が人込みの中に消えたと同時に小さく響いた俺の声は、誰の耳にも届くことなく虚空の彼方へと消えて行った――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

高木の車が爆発した直後、目暮警部たちも現場に駆けつけて来て事態が忙しなく動く中、あっという間に現場検証が終わった。

検証結果で分かった事は以下の部分だ――。

 

・爆弾の種類はプラスチック爆弾。

 

・起爆装置は時限式ではなく無線式。恐らく携帯電話か何かを使って作動させたと見る。

 

・そのため、犯人は高木が車に近づくのを近辺で見ていて、起爆装置を動かした可能性がある。

 

・そしてそれは……爆弾の形態は違うものの、()()()()()()()()()()()()使()()()()()()()()()()()()()()()であることが極めて高いという事だった。

 

だが、目暮警部からのその説明を受けてもなお、俺の中でこの一件は三年前の犯人とはまた違った人物で、目的もまた異なっているんじゃないかという考えが残っていた。

根拠があるわけじゃない。まだ情報がまるで足りてないわけだしな。

だが、今日あの予告文を見た時から、今回の事件はあの時の犯人とは『匂い』が違い、別人であることを内心確信していた。

言うなれば、これは俺の長年の経験から来る刑事の勘ってヤツなのだが、これが案外的外れで無い事は俺自身がよく分かっていた。

 

すると直後に、意外な所からまた新たな情報が舞い込んで来る。

 

情報提供者は眼鏡の坊主どもと一緒に居た円谷と言う少年だった。

彼は爆発が起きる直前まで、車の近くでビデオカメラを回しており、それに何か映っている可能性があるのだと言う。

しかもその証拠に、車が爆発する直前にパレードの人込みの中で彼は何者かにビデオカメラを盗まれるという被害に遭っていた。

幸いにもその時撮った映像を記録したビデオカメラのテープは、盗まれる直前に新しいテープと交換していたため無事だったようだ(ビデオカメラ自体も、その後すぐテープだけ抜かれて近くの駅のごみ箱に捨ててあったのが発見された)。

 

しかし、そこまで聞いた俺はそのテープに重要な手掛かりがある事を確信する。

わざわざ子供の持つビデオカメラを狙うってことは、そこに映ってほしくない何かが映ってしまった可能性があるって事だからな。

 

 

 

――だが、期待交じりにそう考えていた俺の予想は、思いもよらない形で裏切られる結果となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺たちはすぐさまそのテープを近くの電気店にある商品のテレビを借りて中身を見てみたのだが……。

 

――結果だけ言うと、()()()()()()()()()()()

 

ほとんど円谷の坊主の脚ばかりが映っており、あとは坊主たちが何かを会話している声や高木が佐藤にひっぱたかれたシーン。例の高木の車も少しは映ってはいたが遠目でぼやけていて近づく人物たちも犯人なのかただの通行人なのかまるで分らなかった。

遂には映像自体も終わってしまい。俺たちに分かった事は、このテープには()()()()()()()()()()()というだけであった。

しかし、それだと俺の中でまた新たな疑問が湧いて出て来る。

 

(……何で犯人は何も映っていないこのテープをわざわざ盗もうとしたんだ?)

 

テープを盗むリスクをおかしてまでそんな事をしたって事は、このテープに犯人にとって不都合になる何かがあったってぇのは間違いないはずだ。

だが実際には、テープには犯人らしき人物も不審な点も見当たらない。どういう事だ?ただ単に犯人が勘違いしただけなのか?

映像とにらめっこしながら俺がそんな事を考えていると、不意に目暮警部の携帯が鳴る。

 

「はい、目暮ですが。――」

 

 

 

 

 

 

「――何ぃ!また爆弾が破裂しただと!!?」

『!!?』

 

 

 

 

 

警部に届けられたその知らせて、その場が一気に緊張状態となった。

何でもそれを連絡して来た刑事に話によると、二度目の爆発が起こったのは杯戸町公園前の電話ボックスらしい。幸い周囲に人はおらず、負傷者も出ていなかったようだ。

しかし、爆弾の形態からして高木の車に仕掛けられたものと同じらしく、恐らくは同一犯による仕業ではないかとその刑事は言っていた。

連絡を終え、目暮警部は険しい顔つきで高木に声をかける。

 

「……おい、最初に高木の車の爆発が起きた場所から、杯戸町公園に向かう道と言ったら……」

「……あっ!す、スピリッツの優勝パレードの道順です!!」

 

ハッとなった高木が思わずそう叫ぶ。

 

(――つまり、被疑者の狙いは元々警察じゃなく、東京スピリッツに対する度が過ぎた嫌がらせだったと……?)

 

そう考えた俺は思わず首をかしげる。……本当にそうか?もしも本当に犯人の目的が俺たち警察じゃなかったとしても、東京スピリッツへの嫌がらせってぇのも何かしっくりとこねぇ。

後頭部をガシガシとかきながら俺が色々と考えてる間に、両手の治療を終えた佐藤が戻って来る。

そしてそれと同時に、目暮警部は近辺にいる警察官を総動員し、パレードのコースに先回りして近くにいる一般人を避難させ、被疑者の確保及び爆弾物の発見に全力を尽くすよう、周りにいる刑事たちにそう指示を飛ばした。

指示を受けた刑事たちはすぐさま電気店を出て各々の任務にあたる。

佐藤も他の刑事たちとともに現場に向かい、白鳥は目暮警部に念のため爆発物処理班を呼んで待機してもらうよう言われていた。

そして高木はと言うと、同じく目暮警部の指示でここに残って円谷の坊主のビデオ映像を引き続き検証するようにと指示を受けた。

渋々と言った(てい)でその指示を受ける高木。だがその指示を耳にした俺は、思わず手を上げて目暮警部へと声をかけていた。

 

「警部、俺もここに残ってこのビデオ検証してて良いっすかね?」

「んー?別に構わんが。……お前がそう言うということは、やはりこの映像には何かあるのかね?」

 

目暮警部のその問いかけに俺は肩を落としながら首を振る。

 

「さぁ……それは今はまだ何とも……。ですが犯人がこれを狙った以上、このテープには俺らがまだ知りえていない『何か』があると、俺はそう睨んでるんですよ」

 

確証は何もない。だが、この映像にはまだ何か秘密があると俺の刑事の勘がそう叫んでいた。

 

「むぅ……分かった。何かあればすぐに連絡するんだぞ」

 

内容的にはひどく曖昧だったのにもかかわらず、目暮警部は俺の言葉を信用してくれたようだ。

俺に一言そう言い残すと、警部も電気店を後にしていった。

それを見送った俺は、すぐにさっきから俺同様に映像とにらめっこしている眼鏡の坊主(工藤新一)へと声をかけていた。

 

「……どうだ?何か気づいた事はあったか?」

「いいや、まだ何も……。そもそも犯人の目的ですらまだ分からない点が多い。最初は警察を狙った犯行だと思わせておいて、次はスピリッツに対する嫌がらせ……一体犯人は何がしたいのか」

「だよな」

 

俺もそこは疑問に思った。

犯人は三年前の犯人を装って警察にFAXを送り、警察の車を爆破……かと思えば、今度は警察に関係の無い電話ボックスを爆破している。

犯人の真の目的は、一体何処にあるのか……。

 

ただ一つだけ分かる事は、円谷の坊主の撮ったこのビデオ映像に手掛かりがあるという事。

一見、不審なモノは何も映っていないように見えるこの映像に、犯人を指し示す『何か』があるのは間違いない。……だが、それが一体何なのか――。

 

低く唸りながら頭の中をフル回転させ、坊主たちと一緒にその映像を隅々まで俺は見続けていた――。




アニメでの前編部分はここで終わりです。
次からは後編部分へと入って行きます。

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