SIDE:伊達航
目暮警部たちが電気店を去った後、それから俺たちは三回も映像を見返していた。
最初に撮ったという人込みの映像からテープを交換する時になった最後まで。
しかし、一向に怪しい人物や不審な点を見つけることが出来ない。
「……おい、高木。お前の方はどうだ?何か気づいた事はあったか?」
「…………」
俺は隣に立っている高木に声をかけるも、一向に奴は返事をしない。
不審に思って視線を向けると、完全に上の空な顔を浮かべてぼんやりしていやがった。
「おい、高木!」
「……へ?あ、はい!何でしょう伊達さん」
何でしょう、じゃねぇだろうが。気の抜けた顔しやがって。
「お前、ちゃんと見てんのか?」
ほら見ろ、小嶋の坊主にも言われてんぞ。
「み、見てるよ三回も……。でも、何度見ても同じさ。……人込みなんて、怪しいと思えば誰でも怪しく見えるし……。怪しくないと思えば怪しくなくなっちゃうもんさ。だから、この中から爆弾犯を特定するなんて、無理だよ」
小嶋の坊主の言葉に高木はそう返答して見せる。
……いや、だが確かにそうだ。長年刑事やってる俺の目からでも、何度見返してもこの映像に不審な人物がいる様子もおかしな点があるようにも見えない。
もし、人込みの中に犯人がいてそれを撮られたと思っても、怪しまれる行動も何もしてないようなら、ただの一般人としか見られないはずだから、わざわざテープを盗む必要はない。
犯人の方もそれは分かってたはずだ。……なのに盗んだ。何故か?
「もしかしたら、撮られたと犯人が思っただけなんじゃないの?……何も映ってないのに」
灰原の嬢ちゃんがそう呟く。
(何も映っていないのに勘違いをして盗んだ……。やっぱそうとしか考えられないよなぁ。なにも映ってないって分かってんなら、最初から盗もうなんざ……――いや、待てよ?)
そこまで考えた俺は
(何か撮られたと勘違いしたから盗んだんじゃなく……
坊主の方も俺と同じ事に気づいたらしく、視線を俺の方へと向け、坊主と視線が重なる。
そして直ぐ、眼鏡の坊主がビデオカメラを手に取り、早送り再生で進めながら食い入るように映像を見つめる。俺もその横で画面を睨みつけながら、頭の中で今日、坊主たちと会った時の
俺たちの突然の行動に不思議そうな顔を浮かべて見つめる面々の中――やがて、テープの映像が切れ、画面端に表示される録画時間が02:38PMで止まった。
SIDE:江戸川コナン
(そうか……!)
録画映像をすべて見終えた俺は、
そんな俺に歩美ちゃんが不思議そうな顔を浮かべながら声をかけてきた。
「ね、ねぇコナン君。何か映ってたの?」
「
俺のその返答に「じゃあダメじゃないですか」と後ろで光彦の声が上がった。
しかし俺はそれをすぐに否定する。
「いや、そうでもないさ。……恐らく犯人は、何かが映っていたからじゃなく、
「「「「「???」」」」」
俺のその言葉に、元太、光彦、歩美ちゃん、博士、そして高木刑事の五人はそろって首をかしげる。
ただ二人――伊達刑事は意味ありげに二ッと笑い、灰原が皆の代弁をするかのように俺に問いかけて来る。
「……どういう事なの?」
「その前に、あと一つ確認しなくちゃいけない事があるんだ」
灰原の問いに俺はそう答える。ここで俺の推理を話すにはまだ確証が薄い。
犯人の狙い――その目的を『憶測』から『確信』に近づけるためにも、一度
そう考えた瞬間、俺は電気店を飛び出し、『目的地』に向けて走り出していた。
後ろから一足遅れて他の皆も追いかけてくる足音が聞こえる。その中で元太たちが何かを言っている声がしていたが俺の耳には入って来ず、その意識は真っ直ぐ『目的地』だけに集中していた。
――やがて俺の脚は、『目的地』の前へと止まり、後ろから追いかけて来ていた博士たちも俺の後ろで止まった。
(やっぱり……やっぱりそうだ!)
「ぽ、
――そう、俺がやって来たのは最初に高木刑事の車が爆破された事件現場。そしてそのそばにある、事件直前まで元太と光彦がパレード見たさにカメラを構えてよじ登っていた『郵便ポスト』だった。
俺は追いついて来た博士たちに向けて振り返りながら口を開く。
「光彦がポストの上に乗った時間、分かるよな?」
「そんなのいちいち覚えてねぇよ」
「ビデオテープを見ればわかるんじゃない?……時間も録画されていたから」
俺の言葉に、元太が口をとがらせながらそう答え、次に灰原が持っていたビデオカメラを掲げながらそう言った。
それを聞いた光彦が「そうですね!」と言って、灰原からカメラを受け取ると早速映像を確認する。
「え~っと……あれは確か、遠くのヒデ(赤木英雄のこと)をズームで撮った時ですから…………あ!ありました!――午後二時二十三分です!」
「……そして、俺たちはその後佐藤刑事と会って……光彦が撮影を止める午後二時三十八分まで、
光彦の言葉に俺が続けてそう言うと、高木刑事は首をかしげながら俺に問いかけてきた。
「そ、それがどうしたって言うんだい?」
「んじゃあ、これを見てみてよ。……このポストに表示されている
そう言って俺は皆に、ポストの横に表示されている回収時間の
表示されている回収時間はいくつかあるが、問題なのは、日曜である今日が示す『休日』の部分……そこに表示されている最後の回収時間の部分だ。
「休日は『14時30分ごろ』……つまり、午後二時三十分ごろって書いてあるでしょ?」
「え?ああ……」
博士が曖昧ながらもそう呟くと俺は言葉を続ける。
「ってことは、俺たちは本当なら
そう言った瞬間、歩美ちゃんが「分かった!」と言わんばかりに声を弾ませて言った。
「そっかぁ!
「――あ!そう言えば、一度も回収に来ませんでした!」
歩美ちゃんの言葉に光彦も同じように気づいてそう言う。
しかし博士は未だに怪訝な表情のまま、俺に言葉を投げかけてきた。
「じゃがのぅ……パレードで道が塞がっていたから、来られなかったんじゃ――」
「――あ、いえ。そういう、公務に支障をきたさないように、パレードのコースは決めているはずです。……現にパレードは、
博士の言葉に高木刑事が即座にそう否定するも、今度は元太の方から疑問の声が上がった。
「けどよぉ、道が混んでたりしたら八分くらい簡単に遅れるんじゃねぇの?」
「いいえ、それは無いわね。……特に車が渋滞している様子は無かったし、ポストに表示されている回収時間は五分単位。……前後に五分以上誤差が出るなんて、
元太の疑問に灰原がそう否定の言葉を口にする。
「……でも、光彦君のビデオテープ盗もうとしたの、爆弾犯なんでしょ?」
「そうですよぉ、郵便局の車と一体何の関係が?……それに、どうしてわざわざビデオテープを盗もうとしたんですか?そのまま放っておけば、気づかれないかもしれないのに……。むしろ、そんな事をしたら、そのテープに何かあるって言ってるようなもんじゃないですか」
歩美ちゃんと光彦が矢継ぎ早にそう疑問を投げかけ、今度は俺がそれに答えた。
「ああ……。奴らも盗る気はなかったんだろうぜ?……
そう、俺が言った瞬間だった――。
「――
――唐突に高木刑事達の更に背後から声が響き、全員が反射的に視線をそちらへと向ける。
するとそこには、肩でゼェゼェと息を整えながらジトリ目で
伊達刑事の姿を見た途端、俺はそこで
(ゲッ!やっべぇ、しまった……!伊達刑事、今
事故の影響で
だが彼には首のチョーカーを使って『全力モード』に切り替える事で事故前の状態で走る事が出来る。
ならばそれを使えばよかったのではないかと言えば、そうでもない。
なにせ『全力モード』は充電の消費速度が半端なく、時間制限があるためいざという時にしか使う事が出来ないのだ。
そのため、俺が走り出した時も貴重な電力を無駄に出来るわけがなく、結果伊達刑事は杖をつきながら必死になって俺たちを
「ったく!いきなり走り出しやがって!」と言わんばかりに俺を睨む伊達刑事に俺は空笑いを浮かべながら心の中で手を合わせて謝った。
そんな俺の心の声が通じたのか伊達刑事はハァとため息を一つ零すと、皆に向けて俺の推理の続きを喋り始めた。
「……恐らく犯人は、ポストの前でパトカーに乗る宮本と仲よく話をする坊主たちを見たから、ビデオテープの隠滅を計りやがったんだよ。……そうなれば、そのそばで爆弾事件が起こるとお前らの持つビデオテープに犯人が録画されてるかもしれないって事になって、当然警察はテープを検証するって流れになるはずだ。……しかも、坊主たちが警察官の知り合いなら、検証に至るまでの時間はかなり短縮される。……奴らはそれを恐れた」
そこで伊達刑事は一呼吸挟むと、さらに続けて言葉を紡ぐ。
「……たぶん、奴らが円谷の坊主のビデオカメラに気づいたのは、爆弾をポストの向かいに停めてあった高木の車の車体下に
淡々と紡がれる伊達刑事の推理、それは俺が組み立てた推理と微塵の違いも無いモノであった――。
SIDE:伊達航
――そうしてそこで話をいったん終えた俺は口を閉じると、高木たちから一斉に「はぁ~」っと感嘆の声が小さく沸き起こった。
眼鏡の坊主に至っては「やるじゃん」と言いたげにニヤリと笑って見せている。
……どうやら坊主が組み立てた推理とほぼ一緒だったみたいだ。
俺がそんな事を考えていると阿笠博士が高木の方を見ながら再び疑問を問うていた。
「……しかし分からんのぉ。犯人は警察にFAXを流して犯行を匂わせていたんじゃろう?」
「え、ええ」
博士の問いに高木は頷き、それを見た博士は言葉を続ける。
「わざわざ刑事を呼び寄せてその車を爆破したら、警察は躍起になって犯人捜査に乗り出す事は分かっていたじゃろうに」
「
灰原の嬢ちゃんは博士の疑問にそう素っ気なく答えてみせる。
――そう、犯人がFAXを送った理由は恐らく
最初っから感じていた通り、あの予告状での狙いは三年前の犯人と同じく『警察』というわけでもなく、かと言って東京スピリッツに対する嫌がらせだったわけでもない。犯人の真の目的はもっと別の所にある。
だがそれらの謎は、俺も……そして目の前に立つ眼鏡の坊主も既に察しはついていた――。
「問題は犯人の目的ですね」
「ああ……。恐らく狙いは警察官じゃない。スピリッツに対する嫌がらせでもない。……俺と伊達刑事の推理が正しければ、
円谷の坊主の言葉に眼鏡の坊主はそこまで答えていったん言葉を区切ると、一拍置いて言葉を続けた。
「――フッ、でもまだ確証がねぇから、おめぇらと高木刑事に調べてほしい事があるんだけど」
眼鏡の坊主の頼みに小嶋の坊主が「おう、任しとけって!」と威勢よく啖呵を切って見せる。
……ほう。まだ小さいガキ共のクセに、えらく頼りがいがあるじゃねぇか。それに引き換え、
「おい、高木!いつまで腑抜けてるつもりだ!?今の話聞いてたよな!?ガキ共がやる気になってんのに大の大人のお前がそんなんでどうするつもりだ!?」
「――へあッ!?す、すみません伊達さん!ちゃ、ちゃんと聞いています!!」
俺が奴の尻を蹴飛ばしてそう叱りつけると、尻の痛みと俺からの叱咤で呆けていた
――それから少しして、俺と眼鏡の坊主と博士は郵便局の前へとやって来ていた。
高木の車が吹っ飛ばされた最初の事件現場のポストから、手紙の回収時間に沿って近場のポストへと探偵団の協力で順番に辿っていく。
正確には、探偵団一人一人に事件現場から郵便局までにあるいくつかのポストを調べてもらってそのポストがある場所と回収時間を眼鏡の坊主にバッジ型の無線(?)で知らせ、それを眼鏡の坊主が地図に記して行くという流れだ。
そうして郵便局前にあるポストの回収時間を確認し、それを地図に記した時、俺はある事に気づき声を上げていた。
「今までのポストと回収時間からみて、
地図に記された各所のポストを回収時間の順番で事件現場のポストから郵便局までそれぞれを線で結び、一つの道順にすると、それがパレードのコースから離れて行っている事が如実に表れていた。
俺の言葉に眼鏡の坊主は地図を見つつ頷きながら、口を開く。
「……おまけに今日は
「――ああ。そうだとすりゃあ、郵便車が回収に来なかった原因は……ほぼ
眼鏡の坊主を引き継ぐように俺がニヤリと笑みを浮かべてそう答えると、坊主の方もフッと小さく笑みを返していた――。
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