とある探偵世界の冥土帰し   作:綾辻真

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毎回の誤字報告、及び感想ありがとうございます。


番外:揺れる警視庁【2】

SIDE:伊達航。

 

 

――事の始まりとなった七年前の爆弾騒ぎの事件。あの時犯人は()()()()

 

七年前。爆弾犯は都内にある二つのマンションに爆弾を仕掛け、10億円もの要求をしてきたのだ。

おまけに、そのマンションの住人が一人でも避難すれば、即爆破するという条件付きだったらしい。

……二つの爆弾の内、一つは何とか時間内に解体することが出来たが、もう一つの方が手間取ってしまい、仕方なく爆弾犯の要求を飲まざるを得なくなってしまったのだ。

その後、爆弾犯との取引の末、起爆装置のタイマーは爆弾犯のリモコンによって止められ、住人は全て避難し、事件はひとまずの終わりを迎えたかに見えた……。

 

……だが、それから三十分後に突然犯人から警察に電話が入ったのだ。

 

 

――『爆弾のタイマーがまだ動いてるって、どういう事だ!?』と。

 

 

恐らく、その頃テレビで流れた事件を振り返るVTRの部分だけを見て勘違いしたと思われ、警察は爆弾犯を確保する絶好のチャンスだと踏んで、話を引き延ばして逆探知に成功し、電話ボックス内にいる爆弾犯を発見する事となったのだ。

 

しかし……運悪く、慌てて逃げた()()爆弾犯は逃走中に車に跳ねられて死亡してしまう事態となってたのである。

 

当初は被疑者死亡と言う結末で事件は幕を閉じるかに思えたが、ここで爆弾犯が二人いるという事実が()()()()()明るみになる――。

 

 

 

――爆弾犯が車に跳ねられて死亡した直後。……()()()()()()()()()()()()()()()()()()……爆弾が爆発したのだ。

 

 

 

……その結果、爆弾の解体作業を行っていた爆弾処理班を含む多くの機動隊隊員たちが犠牲となる大惨事となってしまった。

 

事故死した爆弾犯の住所は、直ぐ突き止める事が出来たが……分かったのは、()()()()()()()()()()()事だけだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――本庁の資料室で、七年前の事件資料を漁り、事件当時を振り返っていた俺はそこで呼んでいたファイルをそっと閉じ瞑目(めいもく)する。

 

(恐らく、もう一人の爆弾犯は思ったろうな……。俺ら警察が、嘘の情報をテレビで流し、仲間を罠にはめて殺したと……)

 

だが正直それは逆恨みもいい所だ。

確かに奴の相棒を警察が追い詰めて結果的に死に追いやる形になってしまったが、そもそも爆弾を使って大金をせしめようと考えて多くの警察や一般市民を巻きこまなければこんな事にはならなかったはずだ。

テレビでのニュースにしても、()()()()()()()()()()()()()()()()()()だろう。

爆弾のタイマーが止まったのは、タイムオーバーになる()()()()()()()。爆破予定時刻をあらかじめ決めていた犯人たちが、爆破するまでの残り時間がどれほどあるのか知りえていないわけがない。

なのにタイマーが止まって、犯人が電話して来るまで()()()()()()()()()()()()()()()

 

――つまり、タイマーが止まっていないのであればとっくの昔に爆発しているのだ。

 

もちろんその時はニュースで爆弾が爆発したという放送はしていないわけだから、ニュースで『タイマーが動いている』と犯人たちが聞いていても、これはおかしいと気づくはずなのである。

だからこそ、爆弾がまだ動いていると勘違いして警察に電話してしまったのは犯人たちの落ち度と言わざるを得ないと思う。

 

……だが、だからと言って、警察(こちら)側には何の落ち度も無かったと言えば、それは『否』だと言えるだろう。

犯人からの電話を好機ととらえ、犯人側が複数犯である可能性を考慮に入れず。また、まだ爆弾が解体できておらず、安全を確保できていない現状で逮捕に踏み切ってしまったのだから。

――結果、犯人の一人を事故で死なせてしまい、逆鱗に触れたもう一人の犯人によって爆弾が再起動される(生き返る)事となり……最悪の結末へと至ってしまった。

 

「萩原……」

 

天井を仰ぎ見ながら俺はとうにこの世にいない親友の名を呼ぶ。

七年前のあの日――爆発した方の爆弾処理に当たっていたのは萩原だった。

あの時萩原は、タイマーが止まっているのを良い事に防護服を脱いでいたと聞く。

だが爆発した爆弾の威力は、爆弾を仕掛けていた階層を丸々吹っ飛ばすほどのモノだった。

たとえその時、防護服を着ていたとしても、ただでは済まなかっただろう。

 

……もしあの時、爆発した本命の爆弾の解体を当たっていたのが、萩原じゃなくもう一方を解体していた松田だったら、結末は変わっていたのだろうか?

いや、そうでなくても、犯人がテレビのニュースを勘違いしていなければ……もしくは警察が犯人逮捕に先走らなければ、もしかしたら……もしかしたら……!

 

そこまで考えた俺はハッとなり、頭を激しく振って冷静さを取り戻す。

 

(……『たられば』の話を今更考えた所でどうにもならないだろ、伊達航。お前が資料室(ここ)に来たのは、()起こっている事件の予告文の暗号を解読する糸口を見つけるために、何か手掛かりはないかと過去の資料をあさってんだろうが……!)

 

それに事件内での落ち度や『もしも』の話をいくつも並べ立てた所で結局は、事件を引き起こした爆弾犯が一番の元凶である事には間違いない。ならば、俺ら警察は全力を以って奴を見つけ出し、捕縛するまでだ。

 

そう自分に言い聞かせ、決意を新たにした俺は()()()()()()()()()に手を伸ばし、それを開いてみる。

その捜査資料は萩原が亡くなってから四年後――つまり、今から三年前に起こった……松田が爆死した事件だ。

 

 

 

 

――三年前の当時より以前から、警視庁には意味不明なFAXが毎年届いていた。

 

三年前が『3』。二年前が『2』。一年前が『1』というように、紙にでかでかと大きく数字が一つ書かれているだけのモノだった。

だがそれを知った松田は、それらのFAXが爆弾のカウントダウンを表していると見抜き、事件当日新たなFAXが届くのを待って待機していたらしい。

そうしてその時届いたFAXには以下の事が書かれていた――。

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

我は円卓の騎士なり

 

愚かで狡猾な

 

警官諸君に告ぐ

 

本日正午と14時に

 

我が戦友の首を弔う

 

面白い花火を

 

打ち上げる

 

止めたくば

 

我が元へ来い

 

72番目の席を空けて

 

待っている

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

――この予告文の内容を知った松田は、文章の冒頭と最後の部分にある『円卓の騎士』と『72番目の席』から、円卓=円盤状で72もの席がある杯戸ショッピングモールの大観覧車に一つ目の爆弾が仕掛けられていると推定。

その推理を頼りに警察がそこへ駆けつけると、既に大観覧車の制御盤が設置されている小屋から爆発が起こり、観覧車が止まらなくなっていた。

しかし幸いな事に、その時にはもうそこの従業員たちが観覧車から客を降ろしていたので誰もけが人は出ていなかった。

 

観覧車のそばに駆けつけた松田が、72番目のゴンドラに入るとやはりそこには爆弾が設置されているのが発見される。

それを見た松田は一人、ゴンドラに入ると爆弾を解体し始めたのである。

予告までの時間までまだ余裕があり、爆発物処理のプロがいるのだからきっと大丈夫だと、この時現場にいた目暮警部たちは松田を信じ、そう思っていたらしい。

 

――だが、その願いは直ぐに打ち壊されてしまう事となる。

 

松田の乗ったゴンドラが頂上に届いた時、誰もが予期せぬ事態が起こった。

制御盤のある小屋が二度目の爆発を起こし、完全倒壊。そのせいか、大観覧車が止まってしまう事となったのである。

そのため、松田の乗るゴンドラも頂上付近で止まってしまい、完全に孤立。

しかも最悪な事に、観覧車が止まりゴンドラが揺れた振動で爆弾のトラップが作動してしまったのだ。

 

『水銀レバー』と呼ばれるそれは、僅かな振動でもガラスの容器内にある玉が転がって、同じく容器内にある輪っか状の金属線にその弾が触れれば爆発する仕組みであった。

 

しかし、その時点で爆破予告まで五分を切っていたものの、松田の腕なら三分もあれば簡単に解体できる代物だった。

 

――何も問題は無い。()()()()()()松田も、そう思っていただろう。

 

爆弾のカウントダウンを表示する液晶パネルに、『()()()()()』が表示されたのはこの時だった。

 

 

――『勇敢なる警察官よ、君の勇気を讃えて褒美を与えよう。もう一つの、もっと大きな花火の在りかのヒントを表示するのは()()()()()。健闘を祈る』

 

 

もう一つの爆弾の在りかが爆発3秒前に表示されるというメッセージ。

それが液晶パネルに表れた事で()()()()()()()()()()()()()()のだ。

恐らく解体を続行すれば電源が落ち、二度とそのヒントを見ることが出来ない仕組みだったのだろう。

 

――つまり、爆弾魔は最初っから警察の誰かを一つ目の爆弾が積んであるそのゴンドラに乗せ、メッセージを見せるつもりだったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――二つ目の爆弾の在りかのヒントをちらつかせることで、一つ目の爆弾を解体しているその警察官に、『爆弾を解体して自身が助かる代わりに二つ目の爆弾で多くの犠牲者を生む』か、もしくは『自分を犠牲にヒントを手に入れて二つ目の爆弾による被害を食い止める』かという最悪な二者択一(にしゃたくいつ)を迫るために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……だが、それでもその時点で二つほど分かった事があった。

 

 

一つは爆弾魔が大観覧車のすぐ近くにいるという事。

奴の狙いが、爆弾のあるゴンドラに警察官(この場合は松田)を乗せる事だったのなら、松田が乗り込むのを直接目で確認している必要があったからだ。

またその過程で、その場に一緒に居た佐藤や白鳥、目暮警部などの面々の顔も爆弾魔に覚えられた可能性があるが、もはやそれはどうしようもなかっただろう。

その上、大観覧車の周囲には未だに衆人環視(しゅうじんかんし)の目が多く観覧車を見上げていた。

その中から爆弾魔を探し出す事など、現時点では不可能に近かった。

 

そして残る二つ目だが……これは二つ目の爆弾がある()()()場所。それは松田がとうに見当を付けていた。

FAXの予告文に書かれていた『我が戦友の首』という一文。

円卓の騎士が存在した時代は中世のヨーロッパ。その頃の騎士は大抵()()()()()()()()()()()()をかぶっていたのだ。

 

そしてその『十字』から連想されるのは――()()()()()()()

 

つまり、二つ目の爆弾の在りかは都内にある病院のどれかにあるという事だった。

 

 

 

 

 

 

……だが、それ以上の手がかりを得るにはやはり爆弾に表示されるヒントを見る必要があった。

()()()()()()()()()()()()()()()松田は、そこまでの情報を電話で佐藤に伝えると、電話を切って()()()()()()()()

 

やがて爆破3秒前にそのヒントが液晶に表示されると、松田は持ち前の手先の器用さで携帯のボタンを素早く打ちこんで、出たヒントをメールで佐藤へと送信していた――。

 

 

――『米花中央病院』。

 

 

松田から送られて来たメールにはその名前が書かれていたという。

佐藤からそれを聞いた目暮警部たちは直ぐに米花中央病院へと駆けつけ、そこに設置されていた爆弾を解体する事に成功した。

 

――こうして、警察の手によって二つ目の爆弾の爆破は未然に防がれ、多くの死傷者を出さずに済むことが出来たのだ。

 

 

 

……ゴンドラの中で吹き飛ぶことになった、一人の警察官を犠牲にして。

 

 

 

 

 

 

 

 

――二冊目の捜査資料を読み終えた俺は、フゥッと小さく息を吐く。

萩原が死んだ七年前の捜査資料を見た時もそうだったが、やはり見知った人間が亡くなった資料を見るのは(こた)えるモノがある。

 

……だが、それでも収穫はあった。

 

今回送られて来たFAXの予告文。やはり三年前同様、この文章の中に二つの爆弾の在りかが書かれているのは間違いない。

しかも三年前と同様なら、一つ目の爆弾の場所は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

三年前の松田の時は、まだ爆破予告時間よりも前だったというのに、犯人は大観覧車の制御盤のある小屋を爆破して警察をおびき出していた。

それは一つ目の爆弾で警察官を一人、確実に殺す事を目的にしていたからだ。

それに三年前の予告文にしても、一つ目の爆弾の在りか(大観覧車)二つ目の爆弾の在りか(米花中央病院)が記された部分を比べてみると、一つ目の在りかが書かれた場所の暗号文の方が比較的に単純になっており分りやすくなっていた。

 

(……一つ目の方は松田同様、警察官に『選択』を迫るためのモンだからな。暗号が解けようが解けまいが最後には犯人(向こう)から何かしらのアクションを見せて来る。俺ら警察をおびき出し、()()()()()()()()()()()()()()。……ふざけやがって!)

 

俺は内心で悪態をつく。

だが、何もしなくても一つ目の爆弾が発見されると分かっても、()()()()()()()()()()()()()

犯人のアクションを待ってからでは、俺ら警察官の中の誰が犯人の犠牲に選ばれるか分かったもんでもないし、松田と同じあのような酷な『選択』を迫らせるわけにはいかないだろう。

 

(だとしたら、やはり予告文の暗号を解いて犯人が何か仕掛ける前に一個目の爆弾を早期に発見する必要がある。――だが、まだ何処にあるのか分からない上、三年前と同様なら下手に手を出せば二つ目の爆弾の在りかも分からなくなる恐れがある。どうすりゃいい……?)

 

俺がそんな事を思いながらムムムと唸っていた時だ。

 

「おお、伊達!こんな所にいたか……!」

 

不意に資料室のドアが開かれて、目暮警部が入って来たのである。

 

「目暮警部?」

「一体何をやっとるんだこんな所で?」

 

突然の登場に目を丸くする俺に対し、警部がそう問いかけて来る。

俺は過去の資料を洗い直すことで今回来た予告文の暗号を解けるヒントが見つかるんじゃないかと思って資料室(ここ)に来た事を打ち明けた。

 

「……そうか。だが伊達、一つ目の爆弾の在りかなんだが、分かったかもしれん」

「――!本当ですか!?」

 

驚く俺に向けて、警部は一つ頷くと話し始めた。

 

「ついさっき佐藤や高木が車に同乗させている少年探偵団からの意見なんだが……爆弾は『南杯戸駅(みなみはいどえき)』に隠されているんじゃないかと言う話だ」

 

……何で佐藤や高木が運転する車に眼鏡の坊主らが乗っているのかは少し謎だったが、俺はそれを顔には出さず、黙って警部の話に耳を傾け続ける。

 

「三年前の事件で爆弾が仕掛けられた『杯戸ショッピングモール』の大観覧車と『米花中央病院』。その二か所に面した道路の()()()上で交差する場所にあるのが東都中央線の南杯戸駅なんだ」

「ですがそれって『延長戦』と『延長線』をこじつけただけですよね?それだけじゃ理由としては弱……いや、まてよ?……そうか!『ストッパー』!」

 

警部の話に最初こそ胡散臭く思えてそう意見した俺だったが、途中で()()()に気づきハッとなって叫んでいた。

俺の様子を見た警部も内心を察してくれたのか強く頷きながら言葉を続ける。

 

「そうだ。予告文にあったストッパーは、二つの道の交差地点にある南杯戸駅の踏切……『遮断機』のことだ。そして同じく予告文にあった『鋼のバッターボックス』は鉄の箱……電車の事を指していたんだ」

「って事は、『血のマウンドに登れ』っていうのは……赤い車体の上り電車……!」

 

そう呟く俺の言葉に、目暮警部は再び強く頷いていた。

 

――つまり、一つ目の爆弾は南杯戸駅から東京へ向かう東都中央線の赤い電車の車内……!

 

 

「既に南杯戸駅に捜査員を多く向かわせている。伊達、お前もそこに向かって彼らと合流し捜査に当たってくれ!」

「はい!」

 

目暮警部からの指示に俺は力強く了承し、資料室を飛び出す。

 

「…………」

 

だが、いざ現場へと向かっている最中、俺は少年探偵団が出したその推測に少なからずの疑問を感じていた。

と言うのも、確かに筋は通っているように見えるのだが……刑事の直感と言うべきか、俺にはどうにもそれが本当に『正解』だとは思えなかったのだ。

しかしこちらに明確な否定的根拠が無い上、警部から直接指示が下った以上、俺は現場に向かわなきゃならない。

 

後ろ髪を引かれる思いだったが、俺は同僚の運転する車に揺られながら深夜の夜の街を南杯戸駅に向かうしかなかった――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――それからすぐ、南杯戸駅の電車の車内で、爆弾らしき不審物が多く発見されるも、それらは全て偽物(ダミー)であり、本物らしきモノは一つとして発見されず、俺たち警察は爆弾魔に振り回されながら朝を迎える事となったのである。




最新話投稿です。

区切りが良いのでここで投稿させていただきました。
次回から事件二日目に突入です。
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