とある探偵世界の冥土帰し   作:綾辻真

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毎回の誤字報告、及び感想ありがとうございます。


番外:揺れる警視庁【3】

SIDE:三人称視点(鮫崎と宮本の会話)。

 

 

――米花私立病院、白鳥の病室。

 

「――よぅ、宮本。どうだ白鳥の様子は?」

「ああ鮫崎さん、いらっしゃい。大丈夫ですよ。カエル先生が直々に執刀してくれたんですから」

「ハハッ、まぁあの先生が担当してくれたんならそれもそうか!……にしても白鳥の奴、世間が今大変な時だってぇのに呑気に寝こけやがって」

「カエル先生の見立てでは、今日中に目を覚ますはずだって言ってましたけど……」

「そこまで分かるのか、すげぇな!……しっかし、一時は危険な状態だったってぇのに一晩でよくここまで回復できたもんだ」

「何せ爆発で頭打って急性硬膜下血腫(きゅうせいこうまくかけっしゅ)になってたって話ですからね。普通なら深刻な状況でしたよ。……で、そっちはどうなんです?捜査の方は何か進展があったんですか?」

「いんや、だめだ。発見された爆弾はどれも偽物で捜査本部は爆弾魔の掌の上で踊らされている状態だぁ。……俺も捜査に加わりたい所だが、何せ今はしがない『指導員』の身だし歳くった老兵にはもう現場仕事はきついからなぁ」

「え~、そうですかぁ~?鮫崎さんならまだバリバリ現場の指揮とかできそうですけどね。爆弾魔以上に現場の捜査員たちを振り回すことが出来るんじゃないですかぁ?」

「フッ、言いやがる。……そう言やぁ、三年前に死んだっつぅ松田だっけか?そいつも結構問題児っぽくて他の刑事たちを振り回していたって話じゃねぇか」

「ええ……。あれ?鮫崎さんは松田君に会ったことありませんでしたっけ?」

「ああ。当時俺は県外に逃走している容疑者(ホシ)を捕まえるために出張に行っててな。話を聞くにその時期に一課にやって来たみたいだな」

「へぇ~。でも今思えば鮫崎さん、彼と会わなくてよかったかもしれないですね。だって鮫崎さんと松田君って性格的に見て水と油っぽいし、ぜぇ~ったい派手に衝突してましたよぉ」

「……フッ、俺からしてみれば結構興味はあったんだぜ?手のかかる、しごきがいのありそうな若僧だったみてぇでよぉ。……剣道や柔道なんかでもんでやりたかったぜ」

「……うん、そうしてたら絶対バックレてたと思いますよ?松田君」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE:佐藤正義

 

 

「何ぃ!?また偽爆弾だと!?……ちゃんと確かめたのか?本物が混じっている事は無いんだろうな!?」

 

目の前に立って携帯で部下と電話をする目暮警部がそう声を荒げる。電話の相手はどうやら千葉刑事のようだ。

 

白鳥君が例の爆弾魔の手にかかって予告文がFAXで警視庁に届いたのを期に、警視庁ではすぐさま捜査本部が立ち上げられた。

そうして予告文の内容から南杯戸駅を走る赤い電車に爆弾が仕掛けられているかもしれないと推測した我々は直ぐに行動に移ったのだが……電車に仕掛けられていたのはどれも偽物ばかり。

一応その中に本物が混ざっている可能性も考慮して慎重に発見された爆弾を調べたり、推測した場所とは別の所に爆弾が仕掛けられている事も考えそちらにも捜査員を手配したりしたのだが……現時点ではどれも空振りに終わり、遂に夜が明けてしまった。

 

「そうか……。恐らく、捜査を混乱させるのが目的だろう。……とにかく、気を抜かずに捜査を続行しろ!」

 

目暮警部が千葉刑事にそう言って電話を切る。

するとほぼ同じタイミングで別の捜査員が私たちの元にやって来て、()()()()()()()()()()()へと声をかけていた。

 

「松本管理官」

「何だ?」

()()()()()()()()()()、オザキ班から報告です」

 

捜査員がそう言うと目暮警部が「で、どうだった?」と尋ね、捜査員は言葉を続ける。

 

「はい……都内にある大きな野球場は全て調べ終わりましたが、()()()()()()()()()()ようです。……引き続き、小さな野球場にも的を広げて捜査を続けるとの事です」

「ふむ……どうやら野球場の線はなさそうだな」

 

その報告に松本管理官がそう呟くと、座っていた椅子から立ち上がって捜査本部にいる捜査員全員に聞こえるように大きく声を上げた。

 

「――よぉし!都内の赤い電車は全線停止!野球場に割り振った捜査員を各駅に回して張り込ませろ!……一発目の爆破予告の正午までは、まだ五時間もある!我々の裏をかいて、これから仕掛けに現れるかもしれんからな!」

 

松本管理官のその言葉に、捜査員たちが『ハッ!』と声を合わせ、それぞれの役目を全うすべく動き始める。

その様子を松本管理官の隣で座って見ていた私は、静かに黙考し始めた。

 

(……それにしても、まさかまた現れるとはな……。前回からもう三年も経っているというのに……!)

 

七年前といい三年前といい。奴は飽きもせず年数を跨いで私たち警察を翻弄し続けて来る。

しかもタチが悪い事に、目的は金ではなく七年前に相棒を死に追いやった私たち警察に対する『復讐』。

正直、ほとんど本人たちの自業自得だと思えるのだが、そんな事は奴にとっては関係の無い事なのだろう。

 

(あの()は……美和子は大丈夫なのだろうか……?)

 

脳裏に最愛の一人娘の顔が浮かぶ。

三年前の大観覧車の事件後、その事件で亡くなった松田陣平君と美和子がお互い両想いだったことを小耳に挟んだ時は、父親として大いに驚いた。

男勝りな性格を持つあの娘が、それも出会ってまだ数日しか経っていない相手とそのような関係になるなど、予想しろと言う方が無理な話だ。

そんな意中の彼が、三年前のあの一件でいなくなってしまった時、一体どんな思いだったか……。

親の私から見ても想像しがたいモノだっただろう。

そしてそんな彼の命を奪った爆弾魔が再び現れた……。基本、職務に忠実なあの娘でも動揺を抑えきれていないはずだ。

 

一方で爆弾魔の方も、また三年前と同じことを繰り返す可能性がある。

私たち警察官の中の最低一人を自身の手中に絡めとり、松田君同様理不尽な『選択』を突き付けてくるかもしれない。そう――。

 

 

 

――この東京に住む、1200万人もの人間を人質にして……!

 

 

 

「……ふん、『まだ五時間もある』か……。本当は『あと五時間しかない』と、言いたい所だがな」

「ええ……」

 

思案する私の横で、椅子に座り直しながらそう呟く松本管理官に目暮警部が頷いて見せる。

……そう、捜査しなければならない場所は想像以上に広大だ。

予告文の内容から爆弾が仕掛けられている可能性のある場所をしらみつぶしに当たる必要がある。

それも限りある捜査員たちを総動員して。

だが捜査範囲である東京全体はその総動員でも五時間以内で探し出すのは到底不可能であったのだ。

 

それを察している松本管理官と目暮警部に同調するかのように、私も眉間にシワを寄せて深刻な顔をしながら今後の対策について思考を巡らせ始めた――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE:江戸川コナン

 

 

一晩明けた朝のファミレスで、目の前で眠たそうにしている元太たちを見ながら俺と灰原は注文したコーヒーを飲んで眠気を飛ばしていた。

チラリと店内から窓の外を見れば、佐藤刑事と眠たそうな高木刑事が何か会話を交わしている。何を話しているかまでは流石に聞こえなかったが。

視線を戻してうつらうつらとしている元太、歩美、光彦の顔を見ながらズズッとコーヒーを一口すすると灰原が俺に声をかけてきた。

 

「どう?予告文の暗号の謎は解けた?」

「いんや全然。最初に推理した南杯戸駅の方も、佐藤刑事達の様子から察するに進展は無かったみたいだし、空振りと見ていいだろうな」

 

俺の言葉に灰原も「そうね」と短く答えて、俺と同じようにコーヒーを一口飲んだ。

そして一息入れた所で再び口を開いて来る。

 

「……佐藤刑事、いつも以上にえらく気を張り詰めているわね。はたから見ていてもピリピリしているのが丸分かりだわ」

「まぁ、由美さんから聞いた松田刑事との関係を知ったら、そうなるのも仕方ねぇとは思うけどな……」

 

灰原の言葉に俺はもう一度、高木刑事と話をしている佐藤刑事へと目をやった。

少し前に、交通課の由美さんから佐藤刑事と松田刑事の関係を詳しく教えてもらっていたのだ。

 

――()()()()()()()()()()

 

「……佐藤刑事の様子も気になる所だけど、俺は伊達刑事の事も気になってんだよなぁ」

「あれは驚いたわよねぇ。……まさか伊達刑事が七年前に亡くなった萩原って人と、三年前に亡くなった松田刑事の二人と親友だったなんて」

「ああ……。それも警察学校時代からの古い付き合いで、苦楽を共にした仲間だったって言うじゃねぇか」

 

ほぅ、とため息交じりにそう呟く灰原に、俺は小さく頷きながらそう答える。

由美さんからの話を聞くに、警察学校時代は相当松田刑事らとやんちゃしていたらしく、周囲は色々と手を焼かされていたらしい。

……まぁ、だからと言うべきか、伊達刑事と松田刑事、そして萩原さん。この三人の信頼関係はとても深く結ばれたモノであり、何ものにも代えがたい(えにし)だったことは想像に難くなかった。

だからこそ、七年前と三年前の一件で立て続けに大事な仲間を失ってしまった伊達刑事の犯人に対する怒りは相当だったに違いない。

 

「……ひょっとしたら、犯人に対する憎しみは佐藤刑事以上かもしれないわね。もし犯人を特定できたとして、伊達刑事がその犯人を目の前にした時……あの人は正気を保っていられるのかしら?」

 

ほんの少し、不安げな口調でそう響く灰原に……俺はフッと小さく笑みを零す。

 

「……いや、そこは心配ねぇんじゃねぇか?」

「あら?どうしてそう言い切れるの?」

 

小首をかしげてそう尋ねて来る灰原を前に、俺は自信を持って答えて見せた――。

 

「……分かるさ。何てったってあの人は――」

 

 

 

 

 

 

「――生粋の『警察官』、だからな」

 

 

 

 

 

決して私情を優先するような人じゃない。

たとえ恨みつらみがあったとしても、市民の安全と平和を第一に考えて行動する強い信念を持った人たちだからな、警察官っていうのは――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE:伊達航

 

 

「クソッ!またハズレか……!」

 

南杯戸駅のホーム。目の前のブルーシートに奇麗に並べたてられた爆弾のダミーの数々を見て、俺は苛立たし気に地団駄を踏んでいた。

もう夜も明けちまった。恐らく、この駅にはダミーばかりで本物は無いとみて間違いないだろう。

 

「……伊達さん。やっぱりこの駅には本物の爆弾は仕掛けられていないのでは……?」

 

俺と同じ考えに至ったのか、背後から千葉がそう声をかけて来る。

それに俺は振り返らずに頷き、口を開く。

 

「ああ、多分そうだろうな。このダミーにしたって、俺たちが予告文の暗号を間違えて解読した時にわざと愚弄するために置いたモンだろうよ」

「クソッ!ふざけやがって……!」

 

俺の返答に千葉が虚空を睨みつけながら悪態をつく。全く同感だ。

そんな千葉を横目に俺は一度落ち着くために小さく息を一つ吐くと、ポケットから昨晩警視庁に大量に送られて来た例のFAXの予告文の紙を取り出し、それを広げて文面を食い入るように見つめた。

 

(……やっぱり本物の爆弾の在りかを突き止めるためには、この文面の暗号を『正しく』解読する必要がある)

 

この予告文が三年前と同様のモノなら、一つ目の爆弾の在りかは警察をおびき寄せるためにあえて解けやすくしているはずだ。

そう考えた俺は予告文の文面を上から下まで何度も何度も往復しながら目を走らせ続けた。

 

「何かわかりそうですか?伊達さん」

 

不安げな口調で恐る恐るそう尋ねて来る千葉。――って言うか、お前もちっとは俺に頼らず自分で考えてみろよな。

内心、大きくため息をつきたい気持ちにかられるも、俺は千葉からの問いにあえてスルーしながら、予告文の文章を一字一句逃さないと言わんばかりに集中して読み続けていく。

 

――そうして、何度目かの往復後。俺の目はある一文で自然と止まっていた。

 

(……やっぱ、何かしっくり来ねぇよなぁ。()()()()

 

俺が目を止めたのは予告文の終盤に記されている『血塗られたマウンドに貴様ら警察が登るのを鋼のバッターボックスで待っている』という所だ。

これは俺の刑事としての直感でしかないが、どうにもこの一文の中に一つ目の爆弾の在りかが隠されているんじゃないかと、そう思えてならなかったのだ。

 

(……『しっくり来ない』と言やぁ、さっき目暮警部からの情報共有の連絡の中で伝えられた、『野球場に本物どころかダミーの爆弾も仕掛けられていなかった』という情報もそうだったな)

 

予告文の中に『剛球豪打のメジャーリーガー』や『マウンド』、『バッターボックス』といった野球用語の単語が散りばめられていたのにもかかわらず、それに関係する都内の野球場にはダミーの爆弾一つ見つからなかったというのだから妙な話である。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()……?でも何のために?)

 

そこまで考えた俺は小さくハッとなり、首を軽く振ると再び目の前の予告文の文章に集中しだした。

いかんいかん。野球場の件も疑問に思う所だが、今はこっちが最優先だ。

こうしている間にも時間は刻々と迫って来ているのだからな。

 

(『血塗られた』は、恐らく『赤』を連想させるための文章だと思う。それに『鋼のバッターボックス』は金属製の箱と言う意味……。『赤い』……『鉄の箱』……?)

 

ムムムムムと、唸りながら俺がそんな事を考えていた時だ。

 

「あ、あのー?伊達さん?さっきから一体何を考えて――」

 

恐る恐るそう尋ねてきた千葉に、考えがまとまらず頭に血が登っていた俺はついイラッと来てしまい、声を荒げながら千葉に食って掛かっていた。

 

「だぁーッ!うるせぇぞ千葉ッ!人が必死こいて考えてるって時に横からごちゃごちゃと!!」

「ひぃっ!?す、すみません……」

 

俺の迫力に押されて、千葉は顔を青ざめながら縮こまる。

そんな千葉に、俺は苛立たし気に持っていた予告文の紙を差し出すと言葉を続けた。

 

「いいからテメェも考えろ!この予告文の『血塗られた』の部分から連想される『赤』で何か思いつくモンはねぇか!?」

「え?あ、赤って……と、突然そんな事言われても……」

 

俺の言葉に千葉は弱々しくもそう返答するが、直ぐに『赤』について何か考え始めたようであった。

腕を組んで首をひねりながら『消防車……ポスト……』と小さく呟きながら天を仰ぎ見る。

そんな千葉を横目に、俺も思考を予告文を見ながら再開する。

 

(……赤い色のモンなんてこの世にごまんと存在する。だが一つ目の爆弾の暗号が比較的わかりやすいモンだと考えると、その赤いモノは()()()()()()()()()()()()。それも都内に仕掛けられているとなれば、それは警察でなくても都内に住む住人なら連想してもおかしくはないモノのはずだ)

 

俺がそんな事を考えていた。その時だ――。

 

「赤……赤…………あ。赤って言えば伊達さん。()()()赤いモノじゃないですか?」

「?」

 

――唐突に千葉がそんな事を言い出したを聞き、反射的に顔を上げて千葉の方を見ると、千葉は明後日の方へと視線を固定している。

俺もそれにつられるようにして千葉のその視線の先を追っていた――。

 

 

 

――そこにあったのは南杯戸駅のホームの壁に貼られたポスターだった。

 

 

 

観光案内を目的として作られたらしいそのポスターには、()()()()()()()()()()の写真が、デカデカとそのポスター一面に大きく写されていたのだ。

 

 

 

 

 

 

「――でかした、千葉ぁッ!!!!」

 

 

 

 

 

それを視認した瞬間、俺の口から歓喜と感謝と興奮を含んだ千葉への言葉が無意識に、そして唐突に大きく上がる。

そうして大きく目を丸くして驚いて呆然と立ち尽くす千葉を置き去りに、俺は杖と脚を必死に動かしながら駅のホームを飛び出していた――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE:降谷零

 

 

――成田空港へと向かう飛行機。

 

その中で俺はノートパソコンをカタカタと鳴らしながら、七年前と三年前の事件の洗い直しと、今現在東都で起こっている爆弾事件の現状把握に勤しんでいた。

伊達からのメールを受け取った後、直ぐに荷物をまとめてホテルを飛び出した俺は、日本に到着する最短時間のコースをすぐさま割り出し、いくつかの乗り継ぎを経て今へと至っていた。

飛行機の窓の外は既に明るい。日本はとっくに朝だろう。

 

(到着まで、後数時間。か……)

 

そんな事を思いながら、はやる気持ちを抑えて俺は情報整理と、伊達から送られて来た予告文の解読に集中力をフルに使う。

そのせいか、海外に出かけた時に起こる時差ボケや体調変化などはまるで気にも留めないほど微々たるものであった。

……まぁ、それだけ今回の一件を経て過去の因縁にケリを着けたいという意志が強いという事なのだろう。

 

(……ん?)

 

すると、ノートパソコンにメールが届く。

()()で情報収集にあたってくれている風見(かざみ)からだ。

俺はすぐさまメールの中身を見る。内容は警視庁の現状捜査の進展具合についてだ。

 

(……やはり、現状は良くはないな。完全に爆弾魔に振り回されている状態か)

 

最初の爆破予告は刻一刻と迫っている。歯がゆい思いだ。早く到着しろと気ばかり焦ってしまう。

 

 

 

 

 

――『落ち着けよゼロ。……焦りは最大のトラップだぜ?』

 

 

 

 

「――ッ」

 

ふと、脳裏にかつて親友からかけられた言葉がよみがえり、俺はハッとなる。

そして、一度軽く頭を振ってから静かに深呼吸をして冷静さを取り戻す。

 

(……落ち着け俺。こんな事で集中力を欠いてどうする?)

 

ここで()いているようではそれこそ爆弾魔の思うつぼだ。

幸いな事に、最初の爆破予告よりも少し前には日本の東都に到着する予定になっている。

()()()()()、まだ余裕はあるのだ。

 

……だがしかし、それは爆破予告まで()()()()()()の話である。

 

三年前の事件で、爆破予告前に小規模の爆発で騒ぎを起こし警察をおびき出して、結果……松田が犠牲になったという前例がある。

爆弾魔(ヤツ)が何もせず、爆破予告した時間まで大人しくしている証明は何処にも無いのだ。

 

(……ならばここはやはり、爆弾魔が()()()()()()()()()、一つ目の爆弾を見つけ出す事が最善手(ベスト)か……?だが三年前と同じ手口なら、二つ目の爆弾の在りかのヒントがそれに表示される可能性が高い。どうすれば……)

 

んん……。と小さく唸りながら、俺はノートパソコンを操作する。

すると、先程伊達がメールで送って来てくれた予告文を別のテキストで文字起こししたものが画面に表示された。

 

(いずれにせよ、後の事よりまずは爆弾の発見が先決か……。幸いにも、一つ目の方は()()()()()()()()()()()()()()

 

そう思いながら、俺は予告文の最後の方の文章を睨むように見据えた。

 

(『血塗られたマウンドに、貴様ら警察が登るのを、鋼のバッターボックスで待っている』、か……。恐らく血塗られたは『赤』を連想し、鋼のバッターボックスは『鉄の箱』を意味しているのだろう……。そして、事件が起こっているのは必ず()()()。警察だけでなく東都住人なら誰しも『赤』でイメージ出来てなじみ深く、かつそこに『鉄の箱』がある場所と言えば……)

 

俺はノートパソコンの画面から視線を外し、シートポケットに挟まっている来日する乗客のための『しおり』を手に取ると、それを開く。

そこには東都に関する観光案内の内容も載っており、()()()()()()()()()()()()()()()も大きく載っていた。

俺はその写真を見ながら小さく響く――。

 

 

 

 

 

 

「――『東都タワー』。……そのエレベーター内、か」

 

 

 

 

 

 

あまりにもザックリとした推理だが、一つ目の爆弾が警察官を殺害するために仕掛けられるモノなら、その暗号も二つ目と違って単純に出来ていると見ていい。

文章内にある『登る』と『鉄の箱』は昇り降り出来るエレベーターを意味し、そのエレベーターがある『赤い』建物でなおかつ東都市民なら誰もが知っている場所と言えば、あそこが真っ先に浮かぶ所だ。

 

(……だが、あまりにザックリしているため、決め手に欠けているのもまた事実だ。この推理だけで風見たちを動かす訳にもいかないだろう)

 

何せ公安の方もこの騒動の影響でてんやわんやしている状況だと聞く。

そんな状態の中、俺の確証の足りないこの推理のみで彼らを東都タワーに向かわせるのは難しい事だろう。

時間が押しているこの最中、もし俺の推理が間違っていたのなら目も当てられないしな。

 

――ならばここは、俺が直接現場に出向いて確認すべきだろう。

 

そう考えた俺は、パタンとノートパソコンを閉じて空港に到着する時を静かに待ち続けた――。

 

 

 

 

 

 

――だが、この時俺は知りもしなかった。

 

同じ頃、俺と同じ推理に辿り着いた伊達が、同様に確証を得るべく単身()()()と向かっていたという事に……。そして――。

 

 

 

 

 

――爆弾魔の姦計(かんけい)にかかり、伊達が()()()()()()()()()()()()()()()()結果となってしまった事に……。




最新話投稿です。

盆休み前で仕事が忙しく、時間がかかってしまいました。申し訳ありません。

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