SIDE:カエル顔の医者(冥土帰し)
「なんだって?新一君が一時、元の姿に戻った?」
「おお、どうもそうらしい」
米花私立病院の応接室。今日の朝、突然やって来た
博士が言うにはこの間、関西の方から新一君と同じ高校生探偵がやって来て、当時風邪気味の新一君にその高校生探偵がとあるお酒を飲ませたらしい。
「……それがこの
「ああ……」
私と博士が見つめる先――お互いが向かい合って座るソファに挟まれるようにして鎮座している机の上に、
酒瓶を見下ろした博士は、私に話の続きを語る。
「残念ながら、ワシは新一が元の姿に戻ったところを見ておらんが、彼自身がそう言っておるし、その場には蘭君と毛利君らもいたみたいじゃから間違いないじゃろう」
「蘭君たちも?という事は、正体がバレたのかい?」
「いいや。何とかごまかせたらしい。……その後、風邪を治した新一はワシの所にこの酒を持って興奮気味に元の姿に戻った事を話した訳じゃ」
「ほぅ……」
私は興味深げに博士の話に相づちを打つ。それを見ながら博士の方もさらに話を続けた。
「じゃが、いざワシの目の前で新一がこの酒を飲んでも一向に元の姿に戻る様子が無かったんじゃ。恐らく、一度飲んで元に戻った時に
「その可能性もあるだろうが……この酒を飲んだ時、新一君は風邪をひいてたんだろ?風邪で体の免疫力が低下している時に、これを飲んだからこの酒の成分で元の姿に戻れたとも考えられるね?」
「じゃあ、また体が不調な時にこれを飲めば……」
博士の問いかけに私は頷いて見せる。
「可能性はあるね。だが、そんなのは合理的ではない。元の姿を維持するためには不健康な状態で居続けろって言ってるようなもんだからね?でも……」
そう言って私はソファから立ち上がると、白乾児の空き瓶を手に取り、続けて口を開いた。
「……大変興味深い話を聞かせてもらったよ。もしかしたら、この酒を使って解毒剤完成への道がつかめるかもしれない」
「ほんとか!?」
博士も驚いてソファから立ち上がり、私に詰め寄る。
私はそれに強く頷いて見せた。
「ああ。この酒の成分から解毒剤完成のための第一歩――試験薬を早速作ってみるよ。……それが完成した時は、新一君も呼んで一緒に来てくれるかい?彼を実験台にするようでなんだが、試せるのは今の所彼だけだからね?」
「ああ、分かった!」
こうして、白乾児を元に私は解毒薬を作り始め――。
――間もなくして、私は試験薬……その一作目を完成させた。
完成したその日の夜、私は博士と新一君に連絡すると二人は直ぐに米花私立病院へと駆けつけてきてくれた。
「カエル先生!試験薬が完成したって本当か!?」
「ああ、できたよ新一君。では、早速だけど服用してみるかい?」
「ああ、ああ!早く飲ませてくれ!」
診察室で目をキラキラさせながら早く飲ませてとせがむ新一君。本当に見た目通りの少年みたいだ。
だがその前にやる事がある。新一君の今の服装だ。
この試験薬を飲めば、まず間違いなく新一君は元の姿に戻るだろう。だがその時、着ている服が今着ている子供服のままだったのなら……最悪な事になるのは目に見えている。
私は前もって博士に頼んで持ってきて来てもらった、工藤邸にある新一君の衣服一着を彼に渡し着替えさせる。
小さい体にぶかぶかな服を纏った新一君は「準備OK」だと言わんばかりに大きく鼻を鳴らした。
それを苦笑しながら見た私は、自分の纏う白衣のポケットから小さな錠剤ケースを取り出し、その中から例の試験薬のカプセルを手に取ると、それを水を入れたコップと一緒に新一君に手渡した。
「これが……」
ゴクリと生唾を飲み込む新一君。そんなに意気込む必要はないと思うのだが。
やや呆れた顔を浮かべる私と博士を前に、新一君は一気にカプセルを口に含むとそれをコップの水で流し込んだ――。
――効果は直ぐに現れた。
「ぐっ……!?」
自分を抱きしめ、急に苦しみ始める新一君。すると――。
「おお……!」
「なんと……!」
驚く私と博士が見ている前で、新一君の体は見る見るうちに大きくなり、ついには私たちの良く知る高校生探偵の工藤新一君の姿へと完全に戻ったのである。
「おお、すげぇー!戻ったぜ
自分の元に戻った体を確認し、新一君は大いにはしゃいで見せる。
「やったぜ!高校生探偵、工藤新一!今ここにふっかつぅ――ってえええぇぇぇ!!??」
だが、歓喜していた彼の顔が途中で驚愕に変わった。
新一君の体がまるで膨らんだ風船がしぼむように小さくなり始めたのだ。
しゅるるるる、という擬音が聞こえるかのように彼の体は小さくなっていき、ついには先程までの江戸川コナンの身体へと逆戻りしてしまった。
呆然とする新一君と博士を置き去りに、私は顎に手を置いて口を開く。
「ふむ……やっぱり試験薬の効果が弱すぎたようだね?でも最初の一発目にしては上々な出来だよ。……それにしても、まさか身体がこんな風に変化するなんてね?驚いたよ僕も」
そう呟く私に新一君は声を張り上げる。
「おい、カエル先生、どうなってんだよこれ!1分もしないうちに子供に戻っちまったぞ!?」
そう、噛みついてくる新一君に向けて、私は淡々とした口調で説明し始める。
「当たり前だよ。まだ
「……スタートライン?」
首をかしげる新一君に私は頷いて説明を続ける。
「そう。何せ白乾児という糸口をつかんだとは言え、それでも毒薬に関するデータもサンプルも無いゼロからの出発なんだよ?それも僕ですら前例を知らない未知の毒薬が相手と来た。どんな副作用があるかもわからないのにいきなり完成したものを作れるわけもないだろう?」
「うっ……」
「……今キミが服用したカプセルだって、その副作用が出る事のないように成分を極力薄めて作ったんだ。結果がこうなる事くらい目に見えていたよ?」
「うぅぅ……じゃあ、解毒薬が本当の意味で完成するまで、俺はまだ小学生活を続けるっきゃねぇのか……」
そう呟く新一君に、私は苦笑しながら小さく鼻を鳴らす。
「そうだね。これから初めて出来たこの試験薬に副作用が出ないように少しずつ、慎重に、改良に改良を重ねて完成へと進めていく必要があるからね。時間はそれなりにかかると思うよ?何せ暗闇を
「はぁ~っ、いくらカエル先生でもそう簡単に解毒薬が作れるほど、現状甘くねぇのかぁ……」
その場にしゃがみこんで深くため息をついてそう言う新一君に、私は「残念ながらね」と首を振る。
「現状を早く解決したいのなら、やはりその毒薬のデータか、もしくはサンプルでも手に入らないとどうにもならないね。……まぁ、今は時間をかけてやっていくしか方法はないよ」
「だよなぁ~」
私の言葉にさらに深く項垂れる新一君。私と博士はそれを苦笑を浮かべながら見つめている事しかできなかった――。
しばらくの沈黙後、ふと腕を組んで何かを考える仕草をする博士が唐突にそれを呟いた。
「……それにしても、一体誰がどんな目的でこんな毒薬を作ったんじゃろうなぁ?こんなとんでもない薬を作れる以上、その人は間違いなく天才の部類に入る人物だとワシは思うぞ?」
「そいつに興味でもわいたのか博士?……止めとけよ。こんな毒薬作っちまうような奴だぞ?ロクな人間じゃないのは目に見えてる」
「確かに……そうなのかもしれないね?」
冷ややかに博士に向けてそうたしなめる新一君に、私もそれに同意した――。
――だがそれからしばらくして、私たちは毒薬を作り出したその開発者と予想外な出会い方をする事となる。
もっともその出会い自体には、少し前に起こったとある強奪事件が大きなきっかけとなったのだが――。
今回は軽いキャラ説明は無しです。
次回は個人的にも名探偵コナンの死亡キャラの中で一番助けたいと思っていた人にスポットを当てます。