SIDE:伊達航
「よぅ、久しぶりだ――」
『――伊達!今何処にいる!?』
……電話に出た途端、開口一番にコレだ。勘弁してくれ、耳がキーンってなったぞ。
旧知の友である
「……その口ぶりだともう察しはついてんだろ?お前の想像通り、東都タワーの
俺のその言葉に、電話の向こうのゼロが息を呑むのが聞こえた。
構わず俺は言葉を続ける。
「……しかも、今回の爆弾も三年前同様『水銀レバー』がついてやがってよぉ。その上、盗聴器も仕掛けられてるっつぅおまけ付きだ。だから俺も一緒に居る仲間の刑事も、迂闊にエレベーター内から動けない状態なんだわ」
『水銀レバーに、盗聴器もか……!』
携帯越しにゼロが忌々し気にそう呟く。
「ああ。……だがエレベーターに閉じ込められた折に、小学生の子供も一人、一緒に巻き込まれちまったんだが……その子の体重とか力とかならエレベーターや爆弾にあまり振動を与えずに済んでいるから、やむを得ずその子に爆弾解体をしてもらう流れになったってわけだ」
『小学生の子供に……。で、爆弾は今、どうなっている!?』
「…………あと、コード三本切りゃあ止まる」
『――!なら早くコードを――』
「――いや、
『!?……何を言って――』
俺の言葉に声を荒げて怒鳴ろうとしているゼロに向けて、俺は静かに口を開いた。
「……『勇敢なる、警察官よ。君の勇気を讃えて褒美を与えよう。試合終了を彩る大きな花火の在りかを、表示するのは……
『――ッ!?…………』
呆然か、それとも放心状態なのか、電話越しに絶句するゼロに俺は言葉を続ける。
「……これが、ついさっき液晶パネルに表示された文字らしいぜ?何とか子供の方だけでも避難させたい所だが、今後の二次被害を防ぐために、そのヒントを見てもう一つの爆弾の在りかを皆に伝えなきゃならねぇ。……松田がやったようにな」
『伊、達……』
言葉を詰まらせながら俺の名を呼ぶゼロの声を聞きながら俺はフッと笑って見せる。
「
『………………怒るぞ』
「親父やナタリーの事も…………頼む」
『…………馬鹿野郎ッ』
小さく、絞り出すように響くゼロの声が俺の耳に届く。怒りと悔しさをにじませたその声色は僅かな
「――っと、もうすぐ時間だ。……それじゃあな『ゼロ』。久々に声聞けて、良かったぜ」
『伊達ッ!!――』
何かを言いかけるゼロの声を遮るようにして、俺は一方的に電話を切るとフゥッと息を大きく吐いて天井を仰ぎ見る。
その視線が不意に、俺を見下ろしてくる高木の視線と重なった。
「伊達さん……」
心配そうに俺を見て来る高木に、俺は苦笑混じりにニカリと笑みを浮かべながら口を開いていた――。
「言いたい事は……全て伝えたさ!」
SIDE:高木渉
「――……なるほどぉ、あの予告文の暗号には、
伊達さんが古い友人だというその人との会話を終えて直ぐ、僕は伊達さんから予告文の暗号の答えを聞かされる事となった。
予告文の全ての謎が明かされ、思わず感嘆の声を上げる僕に、伊達さんは人差し指を口に当てながら言う。
「シッ!……あんま大きな声出すな。盗聴器で爆弾犯に聞こえるぞ」
その言葉に僕は慌てて口を閉じるも、直ぐに小声で伊達さんに続けて問いかけていた。
「……で、ですが、
「ああ。……爆弾犯に気づかれずに今から
「――ヒントを見て、ピンポイントで
「……分かってんじゃねぇか」
僕の言葉に伊達さんは二ッと笑って答える。
それを見た僕は今度は脱出口の
「本当にすまないコナン君……こんな事に巻き込んでしまって」
申し訳なくそう言う僕に、コナン君は首を振りながら口を開いた。
「ううん、気にしないで高木刑事。……それに多分僕、警察の人にヒントを気にせずコードを全部切るように言われたとしても……
「……え?」
予想外なコナン君のその言葉に、僕は呆けた声を漏らす。そんな僕の前でコナン君は上を見上げて何処か遠くを見つめるような仕草をしながら言葉を続ける。
「……いるかもしれないんだ。
「あ、いや……」
逆に謝られてしまった。普通、この歳の子ならあまりの理不尽さに泣きわめいてもおかしくは無いというのに。
なのにこの子に至っては妙に達観しているというか、
「…………」
ジッとコナン君を見据えていた僕は……この際だから
「なぁ……コナン君。ついでだから、もう一つ教えてくれよ……――」
「――き、君は一体……何者なんだい?」
――………………。
数秒とも、数時間ともとれる体感での沈黙。しかし実際、沈黙していた時間は一瞬で、僕が問いかけて直ぐに
「――……ああ。知りたいのなら、教えてあげるよ。――」
「――あの世でね」
「…………」
もう死が間近に迫っているというのに、怖がる様子を一切せず、おくびにも出さない。それどころか平然とした姿勢でそう言ってのける彼に、僕は思わずポカンとしていた――。
――そして。その時の僕は気づきもしなかった。
僕が間抜けな顔でコナン君を見上げている
SIDE:三人称視点。
爆弾の爆発が一分を切り、現場にいる機動隊たちにも退避命令が下された。
あっという間に東都タワー内に
刻一刻と残り時間を刻む時限爆弾のモニターをコナンは睨みつける。
「――あと、十五秒。高木刑事、用意できた?」
「ああ。予告文の暗号の解答は全て、メールに打ち込んだよ。……後は君が読み上げるヒントを打ち込んで、送信するだけだ!」
高木のその言葉を耳にしながらも、コナンはモニターから目を離さない。
やがて、モニターのの頃時間が予告された三秒前へと差し掛かる――。
「そろそろ出るよ……!最初の文字は――」
――残り時間……三秒。表示されたのは――。
「――アルファベットの……『E』!『V』!『I』!『T』!――」
――同時刻。東都タワーの外にいる佐藤は、何人もの機動隊に押さえつけられていた。
「いやああああああーーーーーッ!!!!」
涙目になりながら悲痛に泣き叫ぶその
――そして佐藤のその声は、彼女よりも更に東都タワーから離れていた降谷の耳にも確かに届いていた。
だが、降谷はその声に反応することなく、頑なに視線は東都タワーから外れない。
まるで銅像のようにジッとその場を動かず、タワーを見上げ続ける降谷。
しかし、その両手はギュッと拳を力強く握りしめ、そのせいで皮膚に爪が食い込み、血がにじみ出す。
顔も今にも泣きそうになるほどに歪み、だがそれに耐えるかのように必死に歯を食いしばっているのが見てとれた。
――爆発はもう目前。
凶悪な爆弾を抱えた東都タワーを中心に周囲はまさに混沌と化していた。
爆弾犯が作り出した理不尽による恐怖や怒り、そして悲しみが混ざり合いパニックとなって我先にと東都タワーから逃げて行く警察や一般人の人々。
その東都タワーの爆弾と運命を共にする事となったエレベーターの三人に向けて――。
――今、死神の鎌が大きく振り上げられた。
最新話投稿です。
今回凄く短いですが、このエピソードの最大の山場であるため、区切りもいいのでここで投稿とさせていただきました。
さて、次回はいよいよ解決編へと入って行きます。