SIDE:高木渉
「こ、コナン君!早く次を――」
三秒以内にヒントを見なければならない一刻一秒を争うこの状況下。
唐突に、コナン君の声が聞こえなくなった僕がそう声を上げながら天井を見上げるのと――その天井の救出口からコナン君がこちらに飛び降りて来るのがほぼ同時だった。
「いィッ!??」
あまりにも突然の事に僕は目を丸くする。
そんな僕に向けて落ちてきたコナン君は狙いすましたかのように僕の足元へと着地していた。
「おわっ!?」
だがそんな彼の行動にすぐさま対応しきれず、反射的に体をのけ反らしており、その拍子にバランスを崩して僕は後方へと派手に尻もちをつく結果となった。
コナン君が着地したと同時にエレベーター内に
「な、何を!?揺れたら爆弾が――え?あ、あれ?」
エレベーター内に響いた揺れはそれなりに大きなモノだった。
僕は思わず水銀レバーで爆弾が爆発すると思い、とっさに身構えたのだが……いくら待っても
不思議そうな顔を浮かべる僕に、着地したコナン君がすっくと立ちあがると、何でも無い事のように僕に向けて口を開いた。
「やっぱり、死ぬの怖いから
「えぇっ!?」
驚く僕を前に、コナン君は「ごめんね」と短く謝罪する。
そんな彼に僕は内心呆気にとられながらも、確認を取るかのように訊ねてみる。
「……じゃあ、ヒントの途中で?」
「うん。『E』『V』『I』『T』だけじゃ、もう一つの爆弾の場所は分からないね」
そんなコナン君の返答に、僕はヒントを得られなかったという残念さと助かって良かったという安堵の混ざった何とも複雑なため息を吐いていた。
だが今となってはもう過ぎた事。仕方ないと割り切って次にどうするかを考えるしかない。
「……まぁ、仕方ないさ。とにかく、レスキュー隊を呼んでここから助け出してもらおう!」
コナン君を元気づけるようにそう励ますと、僕は直ぐに手に持った無線機を使ってレスキュー隊の要請を対策本部へと頼み込んでいた――。
SIDE:江戸川コナン
「……オイ、坊主」
「!」
高木刑事が対策本部と連絡を取っている姿を見上げていた俺に向けて、不意に背後から小さく声がかけられる。
振り返って見ると、そこには俺に目線の高さを合わせるようにしゃがんで見て来る伊達刑事の姿があった。
爆弾のタイマーは止めたものの、まだ爆弾に内蔵されている
だからこそ、小声で声をかけているのだと察した俺は、耳を傾けて伊達刑事の次の言葉を待つ。
伊達刑事は俺にしか聞こえないほどの音声で問いかけた。
「……
「
ニヤリと笑った俺のその返答に、伊達刑事はフッと小さく笑みを零す。
「
さっきとは一転して僅かに不安の色を顔に浮かべてそう言う伊達刑事に、俺は自信をもって返す。
「大丈夫、絶対に間違いないはずだから。……何せ――」
「――俺が
SIDE:三人称視点。
それからしばらくして、東都タワーのエレベーターに閉じ込められていた三人が救助されたというニュースがテレビで報道された。
自身の探偵事務所で一人、紅茶をすすっていた毛利小五郎の耳にも、デスクの上に置かれた小型テレビからその知らせが入って来る。
『お聞きください、この大歓声!爆弾は、無事止められました!……しかも、何と爆弾を解体したのは、エレベーターに閉じ込められていた少年だったのです!では、その少年に聞いてみましょう!――怖かったでしょう、ボク?』
「?……!?コッ……!??」
窓辺に両腕を置いてお茶を飲みながらくつろいでいた毛利が、ニュースキャスターの言った『少年』と言う単語に妙な感覚を覚え、恐る恐るテレビの方へと振り返って見てみると、嫌と言うほどに見知ったその少年の顔が画面いっぱいに映し出されていたため、思わず声を詰まらせる。
――同時刻。白鳥警部が巻き込まれた爆弾事件後、自宅に帰っていた阿笠博士も、同じニュースを見て絶句していた。
「しっ、新一!?」
『――うん!でも、警察のおじさんたちが、分かりやすく教えてくれたから、簡単に分解できたよ!』
目を丸くする博士の前で、テレビに映るコナンは見た目同様の子供らしい言動でニュースキャスターの質問にニコニコと笑ってそう答える。
――そして、更に同時刻。米花私立病院にて、カエル先生もまたロビーに設置されているテレビからそのニュースを見ていた。
「おやおや、知らない内にまぁたとんでもない綱渡りをしていたみたいだねぇ?」
テレビに映るコナンの顔を見て呆気にとられた顔でそう呟くカエル先生。するとそこへ、白鳥の見舞いに付き添っていた宮本が駆け寄って来ていた。
「カエル先生!すみません、すぐに来てくれませんか!?白鳥君が……!」
「おや……まあ、
意味深げにカエル先生がそう呟くと、やや急ぎ足で宮本と共に廊下の奥へと消えていった――。
SIDE:伊達航
――ブーッ!ブーッ!
ニュースキャスターのインタビューを受けている眼鏡の坊主を少し離れた所で見ていた俺の携帯が、唐突に鳴り出した。
携帯を取り出し、相手の名前を液晶で確認した俺はフッと笑みを零す。案の定、
通話ボタンを押して携帯に耳を押し当てると、開口一番にアイツから声が上がる。
『命拾いしたようだな』
「ああ、おかげさんでな。……近くにいんのか?」
『今、お前が電話しているのが見えてる』
アイツの――ゼロからのその言葉に、俺は反射的に辺りをキョロキョロと見渡す。
だが、俺の肉眼がアイツの姿を捉える事はなかった。
俺は諦めて電話口のゼロの会話へと意識を戻す。
「ったく、久しぶりなんだから会いに来てくれたっていいだろうに」
『……色々、
「おいおい、怒ってんのか?」
『当たり前だ!!』
また耳がキーンってなった。今日で二度目だぞ全く。
「悪かったよ。……でもお前だって
『……さっきのお前との電話で、お前が【いざって時は】って言ってたのが少し引っかかってはいた。……確証は無かったがな』
少々不貞腐れたようにそう言ったゼロは、その後「ハァ……」っとため息を一つ付くと、今度は真剣な口調で俺に口を開く。
『……伊達。次の爆破予告時間はあと二時間半ほどだ。もうあまり時間が無い。こうなった以上、人海戦術でしらみつぶしに当たって行くしかないだろう。俺も出来うる限り協力はす――』
「――あー待て待てゼロ」
『……何だ?』
唐突に俺に言葉を遮られて訝しむゼロに、俺は問いかける。
「お前の事だから、予告文の方の暗号はもう解けてんだろ?」
『ああ。……だがアレは三年前の時と全く同じだった。
「その事なんだがな――」
――そう言って俺は、ゼロにその先を聞かせる。
話し込んでいる最中にチラリと横を見ると、俺と同じように助け出されたばかりの高木が、佐藤に何かしら耳打ちしているのが見える。その様子を見るに、どうやら今俺がゼロに聞かせているのと同じ内容を高木が佐藤に話しているようであった。
俺の話を聞いた後、ゼロが息を呑んで驚いているのが電話越しに伝わる。
『……本当なのか?』
「ああ、多分間違いねぇ」
『だがお前も知ってるとは思うが、
「確かに。だがなゼロ、俺は
『……ほぅ?』
そう言った俺にゼロが意外だとばかりに呟く。
『お前がそう言うとは……それほどまでに信頼しているのか?その人の事を』
「ああ……少なくとも、推理力ならお前や松田なみに信の置ける奴だぜ?」
ゼロにそう答えながらチラリと眼鏡の坊主の方へと目を向ける。坊主は既にインタビューを終え、やって来た少年探偵団との再会をはたしていた。
そんな光景を見ている間にもゼロが俺に向けて声をかけて来る。
『……だが、それでも確固たる証拠があるわけじゃ無い。万が一
「みなまで言うな。その時は、責任なりクビなり、なんだって受けてやるよ!……ま。そうはならないけどな!」
爪楊枝を咥えてそう言ってニカリと笑ってやると、電話向こうのゼロも一瞬面食らった様子を見せ、そしてその後すぐフッと笑う声が微かに耳に届いた――。
『お前が自信満々にそう言ってのけるとは……。一度会ってみたいもんだな、
「…………は?」
『ん?その推理はお前と一緒にエレベーターに閉じ込められていたっていう仲間の刑事のものなんじゃないのか?』
「えっ!?あー、うん。そうなんだ。スゲェだろ?ウチんとこの優秀な
ゼロの勘違いに俺は笑って誤魔化すしかなかった。まさか同じく閉じこめられていた
・
・
・
・
・
SIDE:三人称視点。
東都タワーの爆弾事件解決からおよそ二時間後――。
とある大通りを跨ぐ歩道橋の上に、一人の男の姿があった。
眼鏡をかけたやせ気味のその男は片耳にイヤホン、片手に双眼鏡を持ちながら
時折双眼鏡から目を離して腕時計で時刻を確認し、ニヤリと笑う様は周囲の歩行者たちからは不気味に映っていた。
男が双眼鏡で見つめる先――そこには
だがそんな高揚した気分が唐突に終わりを告げる事になる――。
「あのぉ、すみません。少しよろしいですか?」
「――!?」
突然、自分に声をかけてくる人物がいるのに気づき、男は跳ね起きるように持たれていた歩道橋の手すりから離れると、声をかけてきたその人物へと凝視する。
そうして男に凝視されたその人物は、口角をニヤリと吊り上げていた――。
SIDE:伊達航
ゼロとの電話を東都タワー前で終えてから約二時間後――。
腕時計の時間を確認しながら双眼鏡で
(……恐らく、いや……間違いなくあの男だ。……こんな人通りの多い所で
隠れてこそこそするわけでもなく、堂々と人目の多い場所で
するとそこに携帯が鳴り、出ると目暮警部からだった。
『ワシだ。たった今、
――グッドタイミングだった。目暮警部からのその朗報に俺の口角は自然と吊り上がる。
これで……心置きなく、
「……目暮警部。たった今、俺の方でも犯人らしき人物を発見しました。……時間を確認しながら双眼鏡で『例の場所』を見ているのでほぼ間違いないと思います。場所は××通りの歩道橋の上です」
『おお、そうか!今すぐワシたちもそっちに向かう!お前は――』
「――今から被疑者確保に向かいます。では」
『えっ!?お、オイ!伊達!?――』
電話越しに慌てて呼び止めようとする目暮警部の声を無視し、俺は電話を切る。ついでに電源も。
このまま目暮警部の指示を受けて、『待機』なんかを言い渡されでもしたら、俺はそれに従わなければならなくなる。……そうなる前に、俺はヤツと
まぁそうでなくても、独断専行は始末書もんだが、長年追いかけていた
俺は男に気づかれないように静かに歩道橋の階段を上って行く――。
――長かった。……本当に長かったよなぁ。松田、萩原。
萩原が死んで七年。松田が死んで三年。
この事件を解決するのに随分とまぁ歳月がかかったもんだ。
それに……その長年の苦労に、今ようやく終止符を打つことが出来るんだから大目に見てくれよな。
――そんな事を考えながら階段を上り終えようとしていた俺は、男がこちらに気づいていないかもう一度確認するために、奴に視線を送る。
男はまだこちらに気づいていないようで、未だにニヤニヤと笑いながら双眼鏡で
「?」
すると、男を見る俺の視界が端で何かが動くのを捉え、俺は半ば無意識に視線をそこへと移動させる。
歩道橋の向こう――今俺が登っている階段とは反対側の、道路の向こうにある歩道橋の階段から誰かが上がって来て、そのまま双眼鏡を構える男の下へと近づいて来るのが見えた。
最初こそ遠目でよく見えなかったその姿が、双眼鏡を構える男へと近づくにつれてはっきりとしてくる。そして――。
「……!!」
――その人物が誰なのかはっきりと視認した時、俺は僅かながらにハッと息を呑んでいた。
SIDE:降谷零
その男を見つけたのは、本当に偶然だった――。
東都タワーの爆弾が止められ、ヒントが完全に見れなかった以上、爆弾魔はもう二つ目の爆弾の在りかは突き止められないと高をくくっているはず。
ならば、警戒心が緩んだそいつは、二つ目の爆弾が破裂する様を見届けるためにどこか
――警察との長年の戦いにフィナーレを飾る
そう考え、
忙しなく視線を双眼鏡と自身の腕時計へと交互に移動させる眼鏡の男を見て、俺はこの男で間違いないとそう確信する。
生唾をゴクリと飲んだ直後、俺の携帯が鳴る。電話の相手は風見だった。
『――降谷さん。たった今、警視庁から連絡がありまして、
「!――そうか……!」
風見からのその報告を受けた俺は、歓喜に小さく笑みを零す。もうこれで、
俺は風見との電話を終えると、意を決してその男に向けて歩き出した。
歩道橋の階段を上り、通路を歩み、男へと近づいてゆく――。
そうして男から数メートル手前で足を止めると、小さく深呼吸をしてから、何でもない風を装いながら軽い口調で男に声をかけていた。
「あのぉ、すみません。少しよろしいですか?」
「――!?」
突然、声をかけられた男は飛び跳ねるようにその場を後ずさり、俺を凝視する。
しかし、激しく動揺するその男を前に、俺は口調を一切崩さず男に問いかけていた。
「少々お聞きしたいのですが、こんな所で双眼鏡片手に何をしているんですか?こんな街の真ん中でバードウォッチングをしていたわけでもないでしょうし……ひょっとして、アナタが先程まで見ていた
「――
段々と声のトーンを落としながら目を細めてジト目で睨みつけてやると、眼鏡の男の顔は明らかに
「……クッ!!」
「!」
不意に眼鏡の男が踵を返し、逃げようとする動きを見せる。
俺はそれに反応し、すぐさま男との距離を縮めようと走り出そうとし――。
――その動きがすぐさま中断する事となった。
それは逃げ出そうとしていた目の前の眼鏡の男も同じで、面食らった表情を浮かべて逃げ出そうとしていた先を凝視したまま立ちすくむ。
俺も男の背中越しに同じ方向へとジッと視線を固定したまま、動かせないでいる――。
――俺たち二人が向ける視線の先には、男が立っていた。
――杖をつき、両耳と首を繋ぐコードを揺らしながら、
「――
小さくも、されどはっきりとした口調で紡がれた
最新話投稿です。
いよいよこのエピソードもあと二話ぐらいで終わる予定となりました。
次回はいよいよこの二人による推理ショーと解決になります。