とある探偵世界の冥土帰し   作:綾辻真

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毎回の誤字報告、及び感想ありがとうございます。


番外:揺れる警視庁【8】

SIDE:伊達航

 

 

眼鏡の男を間に挟む形で、俺と降谷(ゼロ)はようやく再会を果たした――。

 

長年追い求めていた『犯人』と、長い事音信不通になっていた親友の二人に同時に出会えたことで思わず俺の顔がほころぶ。

それはゼロも同じだったようで奴も俺に向けて笑みを返していた。

だが、そんな感動に入り浸る間もなく、俺とゼロに挟まれた眼鏡の男が動揺しながら騒ぎ立て始めた。

 

「な、何なんだお前たちは!?」

 

忙しなく俺とゼロに交互に視線を送りながらわめき立てる男に、俺はスッと顔を真剣な表情へと変えて懐から警察手帳を取り出して男に見せた。

 

「警察だ。ようやく見つけたぜ?爆弾魔さんよぉ」

「――っ!……な、何の事だ?」

「おいおい、今更とぼけるつもりかよ?」

 

この期に及んで白を切る男に俺は呆れた声を上げる。

そして、つい今し方まで男が双眼鏡で見ていた()()へと視線を向けながら、俺は淡々とした口調で言葉を続けた――。

 

 

 

 

「あそこ――帝丹高校(ていたんこうこう)に置かれた五つのドラム缶……そん中に入っていた爆弾はついさっき警察(ウチ)(モン)が全部解体しちまったよ」

 

 

 

 

「な、何ぃッ!!?」

 

俺の言葉に男の顔色が一気に変わる。そんな奴に俺は更に言葉を続ける。

 

「爆発物処理班が密かに学校に入り、お前が仕掛けていた盗聴器に気づかれんように音を立てずにな……。嘘だと思うんなら、試してみたらどうだ?……持ってんだろ?『リモコン』」

「……ッ!!」

 

そう俺に促された男は、慌ててポケットから携帯を取り出すと急いでボタンを打ち込む。

それを見て俺は男が間違いなく長年探し求めていた『例の爆弾魔』だと確信し、内心ほくそ笑む。

そうして震える指で何とかボタンを打ち込んだ男は直ぐに帝丹高校の建物へと視線を向けた。

 

――無論、爆弾解体の話は事実なため何も起こらない。

 

「……な、何で……?」

 

未だに信じられないのか、男は茫然とした顔を浮かべたまま、視線が帝丹高校と手元の携帯の間を行ったり来たりしている。

そんな男を前に、俺はやれやれとため息をつきながら、半ば放心状態の奴に声をかけた。

 

「そんなに信じられないか?あそこの爆弾が見つかったことが。……あの学校にあると言うヒントを教えてくれたのは、()()()()()()()だってぇのに」

「!!」

 

俺のその言葉に、男は茫然としたまま顔を上げる。その顔は「どうして分かったんだ!?」と今すぐに俺に問い詰めたいと言わんばかりなのがありありと見て取れた。

だが先にそれに答えたのは俺ではなく、男の後ろに立っていた親友からだった――。

 

「……お前が送って来た予告文のFAX。……その予告文の暗号から、東都タワーと爆破予告時間を意味する文を抜くとこうなる――。

 

 

 

『俺は剛球豪打のメジャーリーガーさあ延長戦の始まりだ……出来のいいストッパーを用意しても無駄だ最後は俺が逆転する』

 

 

                                         ……」

 

眼鏡の男がゼロへと振り返る。未だに茫然と見つめて来る男にゼロが鋭い目つきで静かに睨みながら、言葉を続ける。

 

「……『メジャーリーガー』と言うのは、()()()()()()というキーワード。『出来のいいストッパー』は()()()()()()()()の事。……英語で『延長戦』は、『()()()()()イニングゲーム』。『防御率』は略して『ERA』。そのエクストライニングゲームの『EXTRA(エクストラ)』から『無駄』な『ERA』を取ると『XT』が残り、その『XT』を縦書きにして最後に『逆転』させれば――『文』という漢字になる。そう……()()()()()()()()()にな」

 

険しい顔つきで淡々と説明するゼロを前に、男は言葉を詰まらせる。

そんな男に、今度は俺が口を開き、ゼロの推理の続きを語って聞かせた――。

 

「――そんで、東都タワーの一つ目の爆弾の液晶パネルに表示されたヒントの『EVIT』ってぇのは……『探偵』の英語表記である『DETECTIVE』のつづりを()()()()()()()()()()()()だ。……んで、『探偵(たんてい)』を逆にすると『帝丹(ていたん)』ってなる。『帝丹』って名のつく学校は、小、中、高、大の四つあるが……()()()()()()、学校は基本休みだ。そんな中で()()()()()()()()()んのは、()()()()()()()()()()()()()、帝丹高校しかないってわけだ」

 

俺とゼロに全ての謎を解き明かされ、男は冷や汗を流しながら項垂れる。

そんな男を横目に俺は追撃の言葉を緩めない。

 

「……ちなみに、野球場に偽の爆弾を置かなかったのは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、だろ?」

「…………」

「まぁ、油断してこんな目立つ場所から双眼鏡であの高校を見ていた、お前の負けだな」

 

沈黙したまま俯いて微動だにしない男に、降谷は腕を組みながらバッサリとそう断言した。

 

――その次の瞬間だった。

 

「――ッ!があぁあああッ!!」

 

不意に男がガバリと頭を上げて奇声を上げると、持っていた双眼鏡を降谷に向かって投げつけたのだ。

 

「――ッ!!」

 

突然の事に一瞬行動が遅れた降谷だったが、何とか紙一重で投げつけられた双眼鏡をかわす。

 

「てめッ――!?」

 

俺も慌てて男に向かって怒声を上げようとするも、それよりも先に男は次の行動に出ていた。

降谷に双眼鏡を投げつけた、その一瞬の隙を突いて男は歩道橋の柵を乗り越え、そのままためらうことなく車の往来の激しい大通りへと身を投げたのだ。

「しまった!」と思う間もなく、突然の事に俺とゼロの動きが一瞬静止する。

男はそのまま大通りへと落下すると、下を走っていた大型トラックの上へと落下した。

トラックの上へと落ちた男はそのまま振り落とされないように天井にへばりつく。

それを見た俺はすぐさま首に着いた電極のスイッチを『全力』に切り替えると、杖を捨てて俺も男同様に歩道橋の柵を乗り越えてそのまま空中に身を躍らせた。

 

「伊達ッ!!」

 

と言う、歩道橋から俺を呼ぶゼロの声を背中に受け、俺は男が飛び乗ったトラックの後ろを走っていた大型ワゴンの上に着地する。

だが、俺が後方のワゴンに着地したのを見た男は悔しそうに顔を歪めると、今度はトラックの上から滑るように道路へと落ち、受け身を取りながら道路に体を打ち付けるとそのまま転がりながら俺の乗るワゴンの横を後ろへと通り過ぎて行った。

 

「!――待て、この野郎ッ!!」

 

それを見た俺もすぐさまワゴンから飛び降りる。走るワゴン車の上から上手く道路へと着地した俺は男の姿を目で追う。

するとあの状況下で運良く怪我をしなかったのかもう男は立ち上がり、そのまま必死に走りながら道路を横切って一角にある狭い路地へと入ろうとしていた。

その姿を見た俺もすぐさま全力で男の後を追う。

唐突に起こった普通じゃないその事態に、周囲の一般市民や車を運転している運転手たちが皆一様に目を丸くして俺たちを見つめる。

だがそんな周囲の奇異な目など気にする余裕もなく、俺は細く薄暗い通路へと逃げこんで行った男の背中を追って自らもその通路へと飛び込んで行った――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE:降谷零

 

 

「伊達ッ!!――クソッ!!」

 

男が歩道橋の柵を越えて走行するトラックの上に飛び乗り、それを見た伊達も同じように後方を走るワゴンの上に飛び降りたのを見た俺は、慌てて二人の後を追った。

歩道橋の階段を駆け下り、歩行者通路を全速力でかけながら、二台の車の上に乗る二人の姿を逃すまいと走り続ける。

すると突然、爆弾魔の男がトラックから飛び降り、それを追うように伊達もワゴンから飛び降りると、今度はとある一角にある路地へと二人が入って行くのが俺の目に飛び込んで来る。

それを見た俺は一度そこで立ち止まると、伊達たちとは()()()()()()飛び込んで行く。

 

――幸いな事に、ここ一帯の地域は何度か()()()()()()()一緒に来た事があったため、ある程度の地理は把握していた。

 

俺はその当時の記憶を頼りに、彼らが逃げる先を予測しながらスピードを落とす事無く路地を疾走し続けた――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE:三人称視点(佐藤と高木)。

 

 

時間はほんの少し前に遡る――。

 

目暮警部から伊達が爆弾魔を発見したという一報を受けた佐藤と高木は、車でその目的地へと急いでいた。

 

「だ、伊達さんが独断で犯人と接触したって目暮警部から……!」

「……急ぐわよ!」

 

警部から伝えられた内容に半ば信じられない面持ちでそう呟く高木に、佐藤は険しい顔でそう返して運転する車のアクセルをさらに深く踏み込む。

やがてその爆弾魔と伊達がいると言う(くだん)の歩道橋を視認できる距離にまで差し掛かった時、突然高木が声を上げた。

 

「さ、佐藤さん!あ、あれぇッ!!」

「!!」

 

助手席から対向車線の方へ指をさしながら絶叫する高木の声を聞きながら、佐藤は高木の指さす方向を目で追い――そこにあった光景に高木同様、驚愕の表情を浮かべる。

それもそのはず、その対向車線を走る大型トラックとワゴンの屋根の上に、それぞれ一人ずつ人間が張り付いていたのだから驚かないわけがない。

しかもその内の一人は自分たちがよく知る、仲間の(伊達)刑事なのだからなおさらだ。

 

佐藤と高木が目を丸くして驚いているのをよそに、トラックに乗っていた眼鏡をかけた男がそこから飛び降り、それを見た伊達もワゴンから飛び降り、男を追いかけて路地裏へと入って行く。

 

「――!高木君、運転お願い!」

「え、さ、佐藤さん!?」

 

路地へと消えていく二人を見た佐藤は、すぐさま車の運転を高木に押し付けると、まだ走行中にもかかわらず走る車から外へと飛び出して行った――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE:伊達航

 

 

細く曲がりくねる路地を男の背中を見失わないようにと俺はひたすらに走り続けた。

ここまで来て、逃がす訳にはいかない。その思いだけが今の俺を突き動かしていたのだ。

やがて、前方を走る男の先に人通りの多い大きな通りが見えて来る。

あそこに紛れ込まれたら厄介だ。そう思った俺は男がその通りに出る前に捕まえようと更に力を入れて加速しようとし――その前に通りに出る出口で一つの影が俺の前を走る男を通せんぼするように立ったことでその必要が無くなった。

 

「――ッ!?」

「往生際が悪いな!」

 

俺と同じように前方の影に気づいて驚き立ち止まる男の前で、その影――ゼロは呼吸を整えながら男を睨みつけてそう言った。

それを見た俺も男の数メートル手前で止まり、呼吸を軽く整える。

ゼロと俺に挟み撃ちにされた男はこっちとあっちに視線を激しく移動させながらワタワタと慌てて見せた。

 

(――ったく、手間とらせやがって……!)

 

そう内心で悪態をついた俺は、奴を逮捕すべく一歩近づく。

すると、それを見た男が両手で俺を制するようにこちらに向くと、汗を流して引きつった笑みを浮かべながら口を開いた――。

 

「…………は……はは…………ま、待てっ!……お、おお、俺じゃ、ないんだ……!」

「……はぁ?」

「……?」

 

震える声で唐突に呟かれた男のその言葉に、俺は呆けた声を漏らし、ゼロも怪訝そうに眉根を寄せる。

そんな俺たちに挟まれながら、男は続けざまに――俺たちに向けて、()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「ほ、ほら……!よくあるだろ?……頭の中で、子供の声がしたんだよ……!け……『警察を殺せ!』って……!いや……『誰でも良いから殺せ!』って……!!」

「…………」

「…………」

「そ、そうさ……!な?だから、俺のせいじゃ――」

 

 

 

 

 

 

 

「――もういい、黙れ」

 

 

 

 

 

 

 

――男の声を遮るように、その場に感情の全く籠っていない無機質な声が響き渡る。

それが()()()()()()()()()()()()だと気づくのには少し時間がかかった。

……おかしいなぁ?今、俺は何故か()()()()()()()()()()()()()()()()()()。頭に血が登ってもおかしくねぇ戯言(ざれごと)を聞かされたってぇのに。……は、ハハッ。どうやら感情が一周廻って振り切っちまったみてぇだ。

 

――七年前の最初の事件で、爆弾魔(コイツ)の相棒は警察によって死に追いやられた。

だからこそ、三年前と今回の事件は、その相棒の(かたき)を討つために仕組んだ事なのだと……そう思っていた。

相棒を死なせた警察への復讐。それがコイツの動機なんだと……!

 

だから……松田と萩原、この二人を殺した張本人とは言え……相棒が死んだそもそもの原因が自分たち(犯人側)にあるとは言え……!

 

コイツにはこんな凶行を犯させるほどの、ある程度納得のいく動機があったんだと……そう思っていた……!!

 

……だが、フタを開けてみれば何だ?コイツの口から出たのは何なんだ!?

相棒を死なせた警察(俺たち)に対する恨み節一つ無ければ、『相棒』の名前一つ口にしねぇ……!!

ただ、頭の中で子供の声が聞こえただのという、命乞いにも似た反吐の出る言葉のみ……!

 

……ああ。今、よぉく分かった。結局コイツは、『相棒を死なせた警察に対する復讐』という理由を()()()()()、ただ遊び半分で人を吹っ飛ばしたかったただの快楽殺人鬼だ。

復讐にとり憑かれた悲しい人間なんかじゃない。ターゲットにした警察官にふざけた選択肢を突きつける事で相手の反応を楽しみ、警察組織をかき乱し、混乱して破滅していく(さま)を子供のようにはしゃぎながら眺めたかっただけの……ただの下らない犯罪者に過ぎなかったんだ……!!

 

こんな……こんなふざけた奴に、萩原と松田は爆弾で吹っ飛ばされて、殺されちまったって言うのか……?……こんな――。

 

 

 

 

 

 

――こんな、クソ野郎にぃィィッッッ!!!!

 

 

 

 

 

静寂に満ちていた腹の内が一気に沸騰し、グツグツとマグマのように煮えたぎりながら瞬く間に脳天へと突き抜ける。

視界が真っ赤に染まり、歯がギリリと軋みを上げ、痛いくらいに固く握られた両拳を中心に腕がブルブルと震え、それが全身へと伝播(でんぱ)していく。

 

「ひ、ひぃッ!??」

 

俺の纏う空気を感じ取ったのか、男の方から小さく悲鳴が上がる。

ギロリと男を睨みつけてやると、その向こうでゼロが俺と同じく激怒のオーラを纏わせ、両腕を震わせながら顔を歪ませ俯き、(たたず)んでいるのが見える。

そんなゼロに俺は必至に感情を押し殺しながら静かに声をかけた――。

 

 

 

 

 

 

 

「悪い、ゼロ。……()()()

「……ああ。……()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE:三人称視点。

 

 

――その短い会話を皮切りに、伊達と降谷は男へ向けてゆらりと一歩踏み出す。事前に示し合わせていたわけではないのに、二人のその一歩は全くの同時に踏み出されていた。

 

「な、何だ……?何なんだよ、オイ……!??」

 

二人の異様な雰囲気に気押されてか、眼鏡の男は伊達と降谷へ視線を交互に動かしながら小鹿のようにブルブルと両足を震わせて恐怖に怯える。その様子に構わず二人が更に二歩、三歩と幽鬼のような足取りで男に近づいていくと、それに比例してか男の冷や汗を滝のように流す顔が段々と恐怖に歪んで行く。

 

だがそこに来て、二人を交互に見ていた男の視線が『別の物』を捉える――。

すぐそばにある建物が居酒屋か何かなのだろう。路地の端っこの方にビールケースの山が邪魔にならない程度に地面に置かれており、その中には無数のビール瓶が隙間なく収納されていた。

それを視界に収めた男は何を思ったのか飛びつくようにそのビールケースの山に駆け寄ると、そこからビール瓶を二本取り出し、それを両手に()()()持って武器の代わりにしたのだ。

 

「ち、近づくな!……俺に近づくんじゃない!!」

 

ビール瓶を両手に持ってそう威嚇して来る男。だが、()()二人にとってビール瓶を武器に持とうがそんな事……()()()()()()()()()()()

男の威嚇の叫びを何処か他人事のように聞き流しながら、伊達と降谷は男に近づく歩みを一切止めない。

それを見た男の精神がついに崩壊を起こす。

 

「……ち、近づくな!!近づくな近づくな近づくなちかづくな来るな来るな来るな来るなくるなくるなくるなくるなくるなくるくるくるくるくるあああああああああッあ、あがあぁぁぁぁあぁぁああぁぁあッッーーーーー!!!ぢがづぐなっでい゛っでんだろうがぁああぁぁーーーーーーーッッッ!!!!」

 

パニックになった男は両手に持ったビール瓶をめったやたらに振り回し始める。

それを冷めた目で見ていた伊達は小さくポツリと呟く。

 

「……嬉しいねぇ。これで『公務執行妨害(こうむしっこうぼうがい)』。……『正当防衛』の成立だ」

 

そう呟いたと同時に伊達は一気に距離を詰めるために男へと駆け出す。

それを見越していたのか降谷の方も伊達とほぼ同じタイミングで地面を蹴っていた。

一瞬にして男が持つビール瓶の間合いに入る二人、だが素人丸出しの男の攻撃が彼らに当たるわけもなく、振り回されるビール瓶の攻撃を伊達と降谷はひらりひらりとかわして見せる。

そうして降谷が右拳を思いっきり引き、伊達が大きく体を捻って右足を遠心力の力で斜めに振り上げられると――。

 

 

――次の瞬間には、双方の拳と脚が半狂乱になっている爆弾魔の頭部へと吸い込まれるようにして全力で打ち込まれていた。

 

 

 

 

 

 

 

「――ガッ!!??」

 

伊達の脚と降谷の拳に頭部をサンドイッチにされた爆弾魔の口から短い悲鳴が上がる。

衝撃で男のかけていた眼鏡のレンズが割れ、フレームがひしゃげて宙を舞うと同時に、両手に持っていたビール瓶がそれぞれあさっての方向へと放り出されていた。

二人の渾身の一撃よって振るわれた上段回し蹴りと右ストレートで、一瞬にして意識を吹き飛ばされた男はブシュッ!と鼻血を噴出(ふきだ)しまき散らすと、白目をむきながら膝から崩れ落ちて行った。

地面に倒れ伏して行くその男を静かに見降ろしながら、伊達と降谷は心の中で()()()()()()()()()に向けて言葉を紡いだ――。

 

((松田……萩原……――))

 

 

 

 

 

 

 

((――(かたき)は、取ったぜ(ぞ)……))

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE:伊達航

 

 

地面にうつ伏せに倒れ、白目をむいてピクピクと痙攣(けいれん)しながら気絶している男を見降ろしながら、俺はフゥッと小さく息を吐いた。

 

――終わった。

 

実に七年にも渡るこの爆弾魔との因縁。それが今、終わったんだとじんわりと実感する。

ふと顔を上げると俺と同じように一息つきながら爆弾魔を見下ろすゼロの姿。

犯人逮捕に協力してくれた事による感謝やら、ここ数年連絡も無しに一体何処で何をしていたかなど、言いたい事、聞きたい事がたくさんあったが、とりあえず気を失って地面に倒れ込んでいる爆弾魔(コイツ)手錠(ワッパ)をかけようと思い立ち、ポケットに手を突っ込もうとする――。

 

 

――ガチリ。

 

 

「「!?」」

 

――だが直後、その場に金属音が鳴り響き、俺とゼロは()()()()()()()()()()

 

 

 

それはとても()()()()()――()()()()()()()()()……!

 

 

 

それが()()()()()()響いた音だと気づいた瞬間、俺は勢い良く振り返る。

そうして音の出所が視界に入った途端、俺は思わず目を見開いていた――。

 

「さ……とう……!?」

 

――そこには、俺と同じ捜査一課に所属する佐藤の姿があった。

佐藤は今までに見た事の無い鬼のような形相で、目尻に涙を溜めて呼吸を荒げながら、()()()()()()()()()()()()()()()()()――。

 

 

 

 

 

――そうしてその手には、黒光りする拳銃が握られており、銃口から奈落の底のような暗闇を覗かせていた。




最新話投稿です。

次回はようやくこの事件の最終話になる予定なのですが、文字数によってもしかしたらもう一話分追加する事になるかもしれません。
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