そして翌日、俺が家から絵を持っていって遠山に渡したら喜んでいたので持ってきて良かった。何故か絵を遠山に渡したときに八神がこっちをずっと見ていた事に関しては未だに謎だ。
そんな感じで時間は流れ、一週間が経った。最初は慣れるのに時間が掛かると思っていたが予想以上に早く慣れた。
それは前の感覚が戻ってきているという事なのだろうか。だが、どう考えても前に比べて仕事量が違いすぎる。
誰だよ、俺にメインプログラマー兼ディレクターなんて面倒な役職を付けた奴は。最近は家に帰る事が少なくなってきた。それは決して仕事に追われて泊まり込みでやっているわけではなく家に帰るのが面倒だからという理由で職場に泊まり込みをしてしまったりする。泊まり込みをするように気づいたが、どうやら八神も泊まり込みをする事が多いようだ。あいつは仕事が早いだろうから僕と同じように帰るのが面倒なのだろうか。そして八神は一人になると何故かパンツだけになる。
本人はどうやら俺が泊まり込みをしていることに未だに気付いていないようだけど.....俺はすぐに気付いた。だがさすがに「見てしまった」と言う勇気も無くて俺は未だに黙っている。それに言ってしまったりしたら俺の社会的地位を揺るがしかねない。まあ、それで済めばいいが一生、軽蔑されるかもしれないからな。良いタイミングがあれば八神に言うが....そのタイミングが無ければ一生、言わず墓場まで持っていくだろう。
正直な事を言うとこのまま時々、会社で寝泊まりしていれば八神も気づくのではないだろうか。
そして話は現実に戻り今、俺は今日のノルマをこなしている最中である。予想以上に仕事が難航しており頭を悩ませている。こんな面倒な仕事を振りやがって。少しは休ませろ。一週間でここまで疲れるとはな。
「さて、どうするか....この仕事は午前中の内に片づけておきたいんだよな」
「順調かい?」
陽気な声と共に聞き覚えのある声がブースに入ってきた。こいつは俺と違って暇そうだな。
「...この顔を見て順調そうに見えるんならお前は病気だ」
俺は葉月に鬼の形相のような顔を見せた。こいつもしかして面倒な仕事を全部、俺に振っているんじゃねぇだろうな。
「お前は随分と暇そうだな」
「......暇ではないよ。仕事に追われて疲れているよ~...今は少しだけ休憩を取っているだけだよ」
葉月は俺から目線を外しながら言っていた。こいつ......。責めて嘘を付くならもっとうまく付けよと思ってしまうな。こいつが嘘を付く時の癖はやっぱり変わらないな。こいつと俺が出会った時からこいつのその癖だけはずっと変わらねぇな。
「お前....まあ、今回はお前の嘘に騙されてあげるけどこれから同じように俺の仕事を増やしたらその時は容赦しないからな」
葉月はバレているのかというような顔をしながら俺の言った事を聞いていた。こいつは何で自分の嘘がバレないと未だに思っているんだろうか。こんなの誰でも分かるだろう。
「..は...い~...」
耳を澄ませても聞こえるか聞こえないぐらいの声で葉月は言った。
「なあ、葉月」
「何?」
「涼風は最近どうだ?俺は最近、あっちのブースの方に行けてないんだ。俺が仕事を終わるぐらいには帰ってるしな」
「今のところは順調だよ。マニュアルを少しずつこなしているよ。このまま行けばすぐにでも初仕事が来るんじゃないかなと私は思ってるよ」
そうか。それなら問題は無さそうだな。俺が行かなくてもちゃんとどうにかなっているという事は八神や遠山が教えてやってくれているという事か。あいつらなら俺より教え方がうまそうだからな。
「なら俺が行かなくても大丈夫そうだな」
「でも、行けるときがあったら言ってあげたほうが良いと思うよ。葵にしか教えられない事もあると思うしね。確かに八神や遠山くんもこの会社に入社してかなりの時間が経ったしもう慣れていると思う。でも、君ほど長くこの会社に携わっている訳ではないからね。歴が全てとは思わないけど歴が長ければ教えられることは多くなると思うんだ。だから暇な時は行ってあげてくれ」
俺から見ればもう八神や遠山は俺よりこの仕事に慣れているように見えるけどな。まだ一週間ぐらいしか一緒にいないから全てを分かっているわけではないけど今の段階ではそう見える。
「...じゃあ、俺の仕事を少しは減らしてくれ。そうじゃないと俺は暫く涼風の方には行けないからな」
俺がそういうと葉月はそそくさとブースを後にした。
時は進み、今は午後一時。この会社でも普通の会社と同じように昼休みがある。今はその最中であり俺も休みたい。だけど、そうもいかない。葉月が去ってから急いで仕事をこなしているがまるで終わりが見えない。
そんな感じで俺は10秒〇ャージを口に銜えてパソコンと向かい合っている。昼食はいつもこんな感じだからさほど違和感がないしこれで良いと思ってはいる。
下手におにぎりとかサンドイッチを食べるより10秒〇ャージの方が楽で時間を取らないから良い。もし、そんな事を遠山とかに言ったら怒られそうだけどな。あいつは何かそういう事にうるさそうな気がするからな。
「鯉塚さん!!!!」
後ろから自分が呼ばれていることに考え事をしていた性で遅くなった。後ろを振り向くとそこには少し怒ったような顔をしている遠山が居た。
「あ、遠山か。一体どうしたんだ?僕に何か用?」
用が無ければこのブースに来ることはないだろうから確実に何か用があるとは思うが.....思い当たるような事はないな。まだ背景の方と話し合いをするような事はないだろうしな。
「...あの鯉塚さんって毎日、昼食はそれだけ何ですか?」
遠山が俺の銜えているものを見ながら言った。遠山は栄養管理とかそういう事はちゃんとしそうだからな。これを見て何て言うのか。
「うん。仕事も残っているしこれが楽だから」
「それじゃ体に悪いですよ」
「そうかな。これも一応、栄養を取れていると思っているんだけどな」
少し偏りがあるかもしれないけどそこまでじゃないだろう。
「もう少し体に気を使ってください。その銜えているものだけダメです」
そう言いながら俺のデスクにおにぎりを二個と野菜サラダを置いた。
「これはお前が買ったものだろう。俺は大丈夫だから。遠山が食べたほうが良いよ」
後輩にそこまで心配されるわけにはいかない。それにこの仕事を片付ければ一時間ぐらいの休みは取れるだろうからそこで買ってくればいいか。俺としてはこれだけで良いと思うが遠山がそれじゃ納得してくれなさそうだからな。
「ダメです。今、食べてください。後で食べたと言われても信用できません」
俺ってそこまで信用が無かったっけ。まだ一週間ぐらいしか共に仕事はしていないのに信用が既になくなっている。俺としては信用を無くすような事をした覚えはないんだけどな。
「大丈夫だよ。自分の体はさすがに自分で管理はできるよ」
多分......できていると思う。
「聞きましたよ」
「何を?」
「葉月さんから」
「何を?」
「鯉塚さんはまともな食事をとる事がほとんどなくて仕事がない日でも楽に済ませてしまうと」
あいつ勝手に後輩に言ったな。それじゃ俺がまるで自分じゃ体の管理が出来ない人みたいじゃないか。
「それはそうだけど極たまにちゃんとした食事も取るよ。だから大丈夫だよ」
「それが大丈夫じゃないと言っているんです!!」
こんなやり取りを俺たちは昼休みが終わるまで続けていた。お互いに一歩も引くことがないために長引いてしまった。
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