幻想今昔譚~the old stories   作:冬の大三角形

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 まさかこんなに遅くなるとは...紅霧異変始動です。


1章~紅霧異変
紅い霧の異変


 夏。陽の光がさんさんと降り注ぐ人里。高い気温の中、忙しなく仕事に勤しむ者、甘味処で暑さを凌ぐ者、寺子屋にて学問に励む者。今日も今日とて幻想郷はいつも通りだった。そんな中、私こと皐月(さつき)(不便なんで名前つけてみた)は、一風変わった貸本屋、鈴奈庵に来ていた。特にそれといった用事がある訳でもなく、単に来たいから来た。それだけのことである。

 

 「あの~」

何を探す訳でもなく本棚を眺めていると、隣で声がする。

「何かお探しですか?」

振り返ると、そこにはここの店主、本居小鈴がこちらを見上げていた。

「いや、そういう訳では......拙かったか?」

そう言うと彼女は笑顔を見せ、言う。

「いえ、本が好きな方を追い出したりしませんよ」

「そうか。......よくやっているな」

「まあ、大事なお店ですから」

妖怪の私からはもちろん、人間の目から見てもまだ若い少女である小鈴。従業員も雇わず、これだけの蔵書をたった1人で管理している彼女は、それでも笑顔を絶やさない。その健気でありながら誰からも愛される存在であるのは、彼女の明るい人格と、何より本を愛する心の賜物だとここに来る度に思う。全ての人がこんな人間だったら......まあ、過ぎたことを悔いても仕方ないのだが。

 そんな短い会話の後、「ごゆっくりどうぞ」と言って小鈴は受付に戻っていった。......せっかくだ、何か借りて行こうか。そう思い、私は本格的に古本の物色を始めた。

 

 しばらくして。私は外の異変に気付く。様子がおかしい。先程までの活気は何処へやら、大通りには人っ子一人残っておらず、空を見上げると、紅い霧が空全体を覆い尽くしていた。

「......始まったか」

 

 

 

 夏。青く晴れ渡る空。博麗神社はいつも通りだった。いつも通り日差しが照りつけ、いつも通り巫女は茶を啜り、いつも通り参拝客は訪れない。変わったことがあるとすれば、「あの妖怪」がいないことくらいだろうか。

 「ああ~、退屈!」

飲み終わった茶を置き、苛立ち半分伸びをしながら口に出すその思いは、今の博麗霊夢の魂の叫びであった。最近日常に刺激が無い。妖怪退治の依頼は愚か、賽銭を入れてくれる参拝客すら来ない。その上今日は「あいつ」も来ていないと来たもんだ。退屈この上無い。

 

 「久し振りに掃除でもしようかしらねぇ...」

神社の掃除を怠る巫女など通常は有り得ないのだが、此処は(すべ)てを受け入れる幻想郷。常識なんてものに囚われてはいけないのである。そう結論付け縁側を立った、その時だ。

「何...あれ...」

視界に映る紅い影。あれは...霧? 広がりつつある何かを眺め、そう思うと同時に、博麗の巫女特有の、そしてその中でも特に強い霊夢の勘が、彼女に非常事態を告げている。放っておけば瞬く間にあの影は幻想郷中に広がり、日の光を完全に遮るだろう。現に今、あの霧の真下に当たると思われる部分は他と比べ明らかに暗い。

 「本っ当に、退屈しないわ...」

さっきの発言など何処吹く風、「異変」を解決するため、紅白の巫女は準備に取り掛かった。

 

 

 

 夏。ジメジメとした湿気が漂う魔法の森上空。見習い魔法使い、霧雨魔理沙は、普通に空を飛んでいた。見習いとは言え、師匠がいる訳ではない。独学である。誰が何と言おうと独学である。

「う~、暑いぜ」

今日は特にアテも無くブラブラしているだけだったが、こんな日には霊夢のところで駄弁るに限る。いつも通り行き当たりばったりで予定を変更した少女が進行方向を変えようとしたその時、前方から何かが飛来してくるのが見えた。黒くて丸い...ってか速い!

「よっと」

しかしと言うかやはりと言うか、それでも魔理沙はあっけなくその物体を回避するのであった。これでも幻想郷最速を掲げているのだ。あの物体に足りないもの、それは威力、追尾性、そしてなにより!はやさがたr「わはーーっ!」ずどん。とてもとても痛そうな音と悲鳴がしたが、少女は無かったことにした。私は何も見なかった。そう自己暗示を掛け、直進する。が、

 

 「おっと、これは一体どういうことだぜ」

気づけば辺り一面が深い霧に包まれている。それに何処か肌寒さを感じる。おまけにこの妖気だ、並の人間なら30分...並じゃなくても30分程度は持つであろう霧だが、30分も此処にいる訳にもいかない。今日は此処を探索すると決めたのだ、まずはこの霧を晴らさなければ。

 それなら、どうするか。...ここはやっぱり火力(パワー)で押し切ろうか。そう思い、愛用のミニ八卦炉を取り出す。念を込めて、恋符...!

「待った!」

「何っ!?」

ふっと目の前の霧から飛び出してきたのは、氷の羽を持った妖精...にしてはやけに威勢が良い。

「ああ、もしかしてお前あれか?確か...」

「あたいはチルノ!氷の妖精だよ!」

「チルノ?ということは、此処は湖か。情報ありがとうなんだぜ」

 それ以上会話を続ける気も意味も無く、此処が思い描いた湖なら必ずある筈の島を探す。しかし、見つからない。

「う~ん、無いな。まさか移動してるのか?」

そんな疑問が浮かぶ。もしそれが本当なら、中々に大規模な魔法が掛けられていることにもなる。それはそれで、魔理沙の興味を惹き付けるには十分だった。

 

 「ん~......お、もしかしてあれか!」

半ば確信を持って、一瞬見えた影に接近する。しかしその途中、

「ちょっと!勝手にいなくなるな!」

「何だまたお前か。今私は忙しいんだぜ?妖精風情に付き合ってる暇は無いのぜ」

チルノである。魔理沙にとっては腹の足しにもならないような相手だが、面倒であった。

「うるさい!ただでここを通す訳無いでしょ!」

「何だよ、言っておくが私の秘蔵の魔道書コレクションは渡さないぜ?借り物だしな」

借り物である。霊夢にはよく「また盗んできたのね」等とよく言われるが、あくまで借りただけなのだ。ちょっと貸し出し期間が長いだけである。

 「いらないわよそんなの」

「そんなのとはどういうことだぜ?あれには百合の米でも及ばないような価値が」

「そんなのはどうでも良いのよ!先に進みたいならあたいを倒してみな!氷符「アイシクルフォール」!」

魔理沙の正面でいきなりスペルカードを宣言するチルノ。この至近距離で不意打ちの弾幕を避けられるはずなど無い。しかし魔理沙は、いや、『このスペルカードは』違っていた。

「どうした?」

平然とその場から動かない魔理沙に、チルノの攻撃が届くことは無い。チルノの両脇から放たれる冷たい光弾は、波打つように左右に広がり、途中で内側に折り返し、交差する。それは文字通り、凍てつく滝のような光景を創り出しているのだが、単純で、それでいて致命的な欠陥があった。

 「正面がガラ空きだぜ、妖精」

「う、うるさいわね!それくらい分かってたんだから!」

誰が見ても嘘と分かるような見栄を張るが、一度宣言したスペルはその場で止められない。時間切れを待つか、その前にスペルの耐久力が切れるのを待つか。今のチルノに残された選択肢はそれだけだった。

「そうか、じゃあこれからどうなるかも......分かるな?こっちは邪魔されてちょっとばかしイライラしてるんだ。さあ、私の魔砲(十八番)を受けてもらうぜ!恋符「マスタースパーク」!」

その時、チルノの顔に浮かんだのは、恐怖でも、不安でもない。ただ、この状況に対する絶望だけだった。直後、増幅された魔力の塊が極太の光線として、チルノの視界を埋めた____




 とりあえず紅魔郷2面まで。魔理沙編が長いのは仕様です。何か冷酷に見えるのも仕様です。
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