「提督、ご相談が………」
夕張が何か言いにくそうにしていた。
「夕張、何かあったのか?」
私は夕張に何かあったのか聞いた。
「はい………倉庫として使っている旧棟の事なんですが………」
夕張がポツリポツリと話しだした。
「旧棟って地下は無い筈なのに………一階部分の手摺が不自然な終わり方してるっていうか………その本来なら地下への階段があるかのような途切れ方なんです、それに床の色もなんていうか微妙に違うような気がします」
そう言うと、夕張は問題の階段部分の写真を机の上に並べた。
「確かに…手摺の最後部分なんていうか不自然な形で終わってますね…」
いつの間にか青葉も写真を覗き込んでいた、
「確かにな、何者かが切断して帳尻を合わせたような感じになってるな…現地調査するかなぁ」
私は、内線で明石を呼ぶことにした、
「明石、至急執務室迄」
それから直ぐに明石はやって来た。
「提督何か?」
私は夕張から聞いた話を明石にも話した。
「うーん………写真で見る限り、無理矢理地下を封鎖したような感じですね…図面では地下は無い筈ですけど………図面では」
私は明石と夕張、青葉を連れて旧棟の階段踊り場に行くことにした。
「………どういう事だ?!?!」
私は眼を疑った、何故なら、夕張の撮影した階段は眼の前にある階段とは違っていたのだった。
「確かに私この階段で………」
撮影した本人も理由が分からなくなっていた。
「階段手摺の模様が………」
私は実際の階段手摺と写真の手摺を見比べた。
「この写真は………一体何処の手摺なんだ」
私達は混乱した。
「だが旧棟の階段はここしか無いし………嫌な予感がする…一度執務室に戻ろう」
私達は一旦執務室に戻る事にし、旧棟を出た。
「どういう事だ?」
私達は旧棟を出ると、眼の前には有り得ない光景が飛び込んできた、其処には在りし日の軍港の姿があったのだ。
「何故…どういう事だ?」
そして驚くは、私達の眼の前には軍艦『大淀』が錨を下ろし停泊していたのだった。
「まさか旧棟は…過去への入口だったのか…全員旧棟ヘ戻るぞ」
私は今出てきたばかりの旧棟へ戻る事にした。
「もしそうだったとしたら…」
そして私達はあの階段踊り場迄戻った。
「それじゃ戻るぞ………」
私達はまた旧棟から外に出た。
「元に戻っている…」
港には艤装を付けた艦娘艦隊が出港しようとしている光景が目に入った、
「へーい、提督行ってくるネー」
金剛が手を振ってきた。
「気を付けていけよ」
私は金剛に答礼をした。
「ふぅ………どうやら元の世界に戻ることが出来たようだな…夕張、旧棟には何か必要な荷物とかあるのか?」
私は旧棟で保管しているものの確認した。
「いえ、これから使う予定だったので何も置いていません」
私は夕張の答えを聞くと、
「現時刻をもって旧棟への立ち入りを禁ずる、明石は速やかに旧棟の外周を物理的に封鎖してくれ」
「了解です、ブロック塀で宜しいですか?」
「構わない」
それから直ぐに旧棟は二重にしたブロック塀で封鎖された、あの現象の調査を打ち切りにして。
「結局、あれは一体何だったんですかね」
「そうだな、時空のねじれというかタイムパラドックス的な………判らん」
結局以降調査は打ち切り、資料は封印された。
………はずだった、翌日衣笠が血相を変えて執務室に飛び込んてきた、
「青葉が夜中にふらっと出掛けて行って帰ってこない」
「何だと、明石を」
私は大淀に明石を呼ぶように指示を出したの
「提督!」
「どうした」
「明石並びに夕張も昨晩から所在不明です」
「何だと…!」
「直ぐに北上を」
「はい」
大淀が工作艦もこなせる北上を呼び出していた。
「緊急事態発生!北上は執務室へ………」
それから程なくして北上が執務室にやって来た。
「やっほ~北上さんだょ」
「北上済まないが………青葉、明石、夕張が行方不意になった…鎮守府敷地内で」
それまでユルユルだった北上の表情が険しくなった。
「提督何処でなの?」
「恐らくは鎮守府外れにある旧棟…」
「あそこは………」
北上も何かに気がついた様子だった。
「提督ごめん………彼処は近付いては…その上手く言えないけど、禁地なんだよ………多分提督も…彼処に入ったなら…青葉達と同じく…」
北上はそれだけ言うと、執務室から足早に出ていった。
「仕方ない…私一人で行くか」
「私も同行致します」
大淀が名乗り出た、
「イヤ、駄目だ…昨日あの旧棟に入ったメンバーだけが行方不明となっている以上新たな犠牲者を出すわけにはいかない」
私は大淀の申し出を断ると、旧棟へと向かった。
「やはりか………」
入口付近のブロック塀が壊されていた。
「青葉っ!…明石っ!…夕張っ!…」
私は3人の名を呼びながら昨日同様に階段踊り場迄来た。
「明石っ!」
階段踊り場には明石と夕張が倒れていた。
「夕張しっかりしろ…何があった!」
私は夕張を揺さぶり起こした。
「提…督…此処は?」
夕張は自分がいる場所を理解していない様子だった。
「旧棟の階段踊り場だ、君達は昨晩フラフラと寮から出ると行方不明になった…まさかと思ってここに来たら居たというわけだ…残るは青葉だけなのだが…」
青葉だけが行方不明のままだった。
「あっ提督…どうして此処にって?何で私此処に?」
どうやら明石も同じように自分の意志で来たようではなかった。
「青葉は一体何処に…旧棟から出てしまったのか?」
私は旧棟出口からそっと外の様子を覗った。
「!」
外の様子は、至る所が破壊され瓦礫の山と化していた。
「まるで爆撃でも受けた様な有り様だな…」
私は外に出ると、青葉を探すことにした。
「貴様何者だ!」
振り返ると、ボロボロの軍服を纏い血だらけの兵士が小銃を私に向けて構えていた。
「私は…」
名乗ろうとした瞬間、
「失礼致しました!少将閣下とは知らず」
その軍人は痛みを堪えながら私に対して敬礼した。
どうやら私の階級章をみたようだ。
「君に尋ねるが、この女性を見なかったか?」
私は青葉の写真を見せた。
「この女性なら、敵の諜報員の疑いありとして営倉に留置しております!」
私は青葉が無事なことに安堵した。
「彼女は私の部下だ、直ぐに営倉から出して私の所に連れてきてくれ」
「はっ」
その兵士はまた敬礼すると恐らくは怪我をしているであろう脚を引き釣りながら、営倉のある建物に入っていった。
「何がどうなっているのやら………」
私は近場にあったブロック片に腰を降ろすと、先程の兵士が青葉を連れてくるのを待つことにした。
「少将閣下、お待たせ致しました!」
先程の兵士が青葉を連れて戻ってきた。
「青葉………無事で良かった」
「提督!」
青葉が私に抱きついて泣き出した、
「明石も夕張も無事だ、私達の鎮守府に帰ろう」
私は青葉の頭を撫でながら小声で語り掛けた。
「はい」
「君、名前は?」
私は青葉を連れてきた兵士に名前を尋ねた。
「自分は『小鳥遊 優一』二等兵であります!」
「そうか………小鳥遊二等兵、貴様も傷の手当を」
「はっ、お心遣い有り難うございます」
小鳥遊二等兵と名乗った兵士は恐らくは救護施設があるであろう場所へと向かっていった。
「私達も旧棟へ戻ろう」
私は青葉の手を取ると、旧棟へと入っていった。
「提督、青葉良かった………」
階段踊り場では明石と夕張が私と青葉を待っていた。
「それでは帰ろう私達の鎮守府へ」
そうして私達は元の鎮守府へと帰還することが出来た。
「しかし、この旧棟はどうすべきなのか?」
「爆破処理が妥当なのでは?」
明石が爆破処理を提案した。
「そうだな、また中に入ったら………今度は戻ってこれるという保証は無いからな」
私は必要書類を作成すると、明石に爆破処理の準備を開始させた。
それから数日後。
「此れより旧棟の爆破を行います、規制ライン迄下がっください」
北上が構内放送を掛けた。
「規制ライン内に残留者なし」
大淀が各部署からの点呼結果を報告した。
「爆破5分前」
北上がカウントダウンを掛けた、
「ドローンによる爆薬設置位置問題なし、旧棟内に熱源なし」
明石が最終安全確認を行うと私に報告した。
「爆破を許可する」
明石は私からの最終許可を確認すると北上へと向き直った。
「点火最終安全装置解除」
「安全装置解除確認、点火迄あと三分」
北上と明石が点火に向けて準備を進めた。
「保護メガネ並びに防塵マスク着用…点火十秒前…九…八…七…六…五…四…三…二…一、爆破…点火を確認!」
夕張が点火をスイッチを押し込むと同時に旧棟が爆破の轟音と共に崩れ落ちた。
爆破確認って!何アレ!」
その場に居た全員から驚きと驚愕の声が上がった。
「旧棟に地下が!」
私は旧棟跡地に空いた空洞を覗き込んでいた。
「何かの研究施設があったようだな………まるでフィラデルフィ実験みたいな………?これは?」
私は地下施設の瓦礫を見下ろした
「酷い………人が壁から………」
明石も夕張も顔を背けた。
「この地下施設は一体…兎に角破壊は完了したようだな」
私は瓦礫の上を歩く海鳥が消えること無く此方に向かって来る事を確認した。
後日談………。
私は司令部資料室で隠し金庫を発見した、
「この金庫………中に何が?」
幸いにも金庫には鍵が掛かっていなかったので中身を確認した。
「これは…そうか………あの時の小鳥遊二等兵が…」
私は小鳥遊二等兵からの時代を超えた手紙をポケットに仕舞うと、食堂へと向かった、
「提督、結局アレは一体何だったんでしょうか」
明石が昼食時に聞いてきた、
「簡単に説明すると、1943年フィラデルフィア港でアメリカ海軍によるある極秘実験“フィラデルフィア計画”が行われた、これは敵のレーダーから消え、味方の船を探知されないようにすると云うステルス実験を駆逐艦エルドリッジに対して行ったんだ、日本でも行おうとしたが…結果は見るまでもなくだけどな…本家もエルドリッジの乗員を犠牲にして…確か生存者は2名だけと聞いている」
私は小鳥遊二等兵からの手紙を二人に見せた。
余りに酷い実験内容に流石の明石と夕張も顔をしかめていた。
「殆ど人体実験ですね、酷すぎます」
「それだけ当時は戦局が切迫していたということだよ…」
後日旧棟跡地は埋め立てられ慰霊碑が建立された。