殺戮のダンジョンマスター籠城記 ~ヒッキー美少女、ダンジョンマスターになってしまったので、引きこもり道を極める~ 作:カゲムチャ(虎馬チキン)
僕達が部屋を出た時、既に砦のあちこちから断続的に爆音が聞こえてくるようになっていた。
それだけじゃなく、武器のぶつかるような音、大勢の騒ぎ声、怒号、悲鳴、色んな不吉な音がする。
嫌な予感を確信に変えながら走り、騒ぎの起こっている現場、砦の外に辿り着いた。
そこで見たのは……地獄だった。
「や、やめろぉ!」
「なんでこんな事をする!?」
「全ては、神敵を滅ぼす為に!」
「おとなしく偽勇者を差し出せ!」
「そんな事ができるか!」
そんな事を言い合いながら、あちこちで人同士が殺し合ってる。
人類の敵である魔物相手じゃない。
人同士の殺し合いだ。
「何が、起こって……?」
あまりの光景に思考が停止しかける。
なんで、魔王軍なんて脅威がすぐそこにいるこの状況で、人同士が、味方同士が殺し合ってるのか。
わからない。
どっちの味方をすればいいのか。
それどころじゃない。
誰が敵で、誰が味方かすらわからない。
最近はわからない事だらけだ。
もう、いい加減にしてほしい。
「死ね! 偽勇者! 《アトランティスブレイク》!」
「ッ!?」
「危ない、ユウマ! 《アポロスラッシュ》!」
当然放たれた凄い水流の攻撃を、動けなかった僕の代わりにアイヴィさんが防いでくれた。
炎の熱が水を即座に蒸発させ、水蒸気を作り出す。
でも、敵はその水蒸気の中を突破して接近してきた。
「《ソニックランス》!」
「くっ……!?」
今度は自分でなんとか防ぐ事ができた。
でも、僕は明らかになった敵の姿を見て驚愕する。
なんで、この人が……!?
「指揮官さん!?」
「《タイダルウェイブ》!」
僕とのつばぜり合いを嫌ったのか、指揮官さんは至近距離で水の魔法を発動させ、その流れに乗って距離を取る。
その隙に、アイヴィさんが僕を守るような位置に立った。
「サブマリーン殿! 血迷ったか!?」
「敵と語る事などない! 《ウォーターカッター》!」
「ッ! 《フレイムソード》!」
指揮官さんは、問答無用とばかりに攻撃を続行する。
どうなってるんだ。
つい先日までとは、まるで別人。
僕はどうすればいい?
戦うしかない。
でも、どうやって?
襲って来る人達を殺すのか?
……いや、そんな事はできない。
なら、これしかない!
「指揮官さん、すみません……! 光れ━━《エクスカリバー》!」
僕は戦う意志を示すように、自分の真装を顕現させた。
それによって、僕のステータスが大幅に上昇する。
既に発動されているアイヴィさんの真装。
その専用効果『
どれだけ強くても、普通の人では対処できないくらいに。
その圧倒的なステータスを使って、僕は指揮官さんに攻撃を仕掛けた。
「ハッ!」
「ぐはっ!?」
放ったのは、スキルでもアーツでもなく、何の変哲もないボディブロー。
ただし、指揮官さんでは対処できない速度と威力で放った。
その一撃を食らって、指揮官さんが意識を飛ばして気絶する。
「ふぅ……アイヴィさん、これって……」
「ああ、おそらく洗脳か何かで操られているのだろう。魔王軍の策略か、別の何かか……。
いずれにせよ、私達は私達にできる事をするしかない」
「……そうですね」
「では、まずは……」
アイヴィさんが何かを言おうとした、その時。
「シンドウ様!」
空から聞き覚えのある声が聞こえてきた。
もう一人のパーティーメンバー、エマだ。
真装の翼を顕現させて空を飛んでいる。
でも、その様子がおかしい。
なんだか、とてつもなく焦ってるみたいで……
「避けてください!」
「え?」
「《フェザーストーム》!」
突然の言葉の意味を理解する暇もなく、エマが高威力の風の魔法を放った。
僕に向けて。
なんで……!?
まさか、エマまで操られて!?
「ユウマ!」
「あ……」
またも咄嗟に動けなかった僕は、アイヴィさんに突き飛ばされて、魔法を避けた。
でも、代わりにアイヴィさんが被弾する。
「ぐっ……!」
「アイヴィさん!」
すぐに駆け寄って抱き起こす。
そして、次の魔法を放ってきたエマからなんとか隠れ、傷の具合を見た。
……傷は深い。
命に関わる程じゃないけど、戦闘の継続はキツそうな程のダメージだ。
でも、僕もアイヴィさんも回復魔法を使えない。
パーティーの回復役はエマなのだから。
一応、持っていたポーションを慌てて飲ませたけど、魔力のステータスが二万を超えるエマの回復魔法に比べれば効果は薄い。
クソッ!
こんな事なら、戦闘力ばかりを優先して強化すべきじゃなかった!
でも、僕には後悔している暇すらないらしい。
指揮官さんやエマの代わりに、敵は次から次へと湧いてきた。
「偽勇者ぁ! その首貰った!」
「俺の手柄だ!」
「死ね! 我が国を蝕む害虫がぁ!」
明らかに正気を失ってるような人達が、次々に襲いかかってくる。
一人一人が弱かったから殺さずに制圧できたけど、いつまでそんな余裕が続くか。
余裕がなくなった時、果たして僕はどうするのだろう。
覚悟を決めて、人を、殺せるのだろうか……?
心が壊れそうだ。
「吠えろ━━《フェンリルフォース》!」
「ッ!?」
でも、そんな事を考える余裕すらすぐになくなってしまった。
一人の獣人っぽい人が、体にオーラみたいなものを纏いながら突撃してくる。
その攻撃を、なんとかエクスカリバーで受け止めた。
でも、力で無理矢理押し込まれる。
この人、強い……!
それも尋常じゃないくらいに!
正直、万全の状態のアイヴィさんよりも上だ!
「お前が勇者だな?」
「…………」
答えられない。
他の人達の言葉を聞く限り、この人達は何故か勇者である俺を狙っている。
この状況で、わざわざ自分が標的ですと名乗り出る訳にはいかない。
「答えないのならばそれでもいい。どうせ殺す事に変わりはないのだからな。
だが、お前が名乗らなくとも、俺は名乗る!
俺は誉れ高き魔王軍幹部! フェンリルのシロ!
お前を殺す者の名だ! せいぜい胸に刻んで死ね!」
「!?」
魔王軍!?
このタイミングで現れるって事は、この状況はやっぱり魔王軍の策略か!
だったら、幹部を名乗る目の前のこいつを倒せば、事態が好転するかもしれない。
少しだけ希望が出てきた。
「《ウルフスラッシュ》!」
「《フォトンブレード》!」
お互いの攻撃がぶつかり合う。
結果は……僕の方が強かった。
「ぬ!?」
押し負けたフェンリルが吹き飛んでいく。
どうやら、ステータスでは僕の方が上みたいだ。
さっきみたいに不安定な体勢で受けさえしなければ、当たり負ける事はない。
多分、一対一なら普通に勝てる。
でも、今は……
「死ねぇ偽勇者! 《スラッシュ》!」
「《スマッシュ》!」
「《フレイムランス》!」
「《ボルティックランス》!」
「《アースバレット》!」
「くっ……!」
フェンリルが現れても、お構いなしとばかりに、周囲の人達は攻撃をやめない。
そう、ここは戦場。
一対一でなんて戦える訳がない。
四方八方からの攻撃をなんとか防ぐ。
反撃を……ダメだ、殺せない!
覚悟を決めようとしても、意志に反して体が動いてくれない。
せいぜい気絶させるのが精一杯だ。
でも、そうして殺さないように注意しながら戦っていたら、敵の数はまるで減らない。
むしろ、次から次へと増援が来る。
更に、操られた人達を盾にするようにしながらフェンリルまで攻撃に加わってきて、僕は防戦一方になってしまった。
このままじゃ……マズイ!
「《ファイアーウォール》!」
「え!?」
その時、僕の周囲を凄い勢いの炎の壁が覆った。
これは、僕への攻撃じゃない。
むしろ、他の攻撃から僕を守る為の魔法。
「アイヴィさん!」
僕は、この魔法の術者の名前を呼ぶ。
視線の先で、フラつきながらもアイヴィさんが立ち上がっていた。
「ユウマ! 私もまだ動ける! 他の連中は私に任せろ! お前は大物を狙え!」
「……助かります!」
本当は、あんな大怪我を負った人に戦ってほしくはない。
けど、そうも言っていられない。
アイヴィさんの為を思うなら、僕にできる事は一つ。
それは、一秒でも早く戦闘を終わらせる事!
僕は、覚悟を決めてフェンリルに向かって行こうとした。
「遊ぼう!」
その時、小さな女の子みたいな、場違いな高い声が聞こえた。
そして、━━次の瞬間、僕の腹から剣が生えていた。
「……え?」
「なっ!?」
自分の間抜けな声と、アイヴィさんの驚愕の声が聞こえた。
それはそうだろう。
今、僕の腹から生えている剣には見覚えがある。
これは、僕がこの世界で初めて見た真装。
アイヴィさんの剣、ティルファングだった。
「ユウマ!? クソッ! どうなっている!? 体の……自由が利かない!?」
そう叫びながら、アイヴィさんは僕の腹に刺さった剣を抜き、そのまま斬りかかってくる。
それを咄嗟にエクスカリバーで受け止めた。
痛みで力が入らない。
でも、止められた。
いつものアイヴィさんの攻撃より、随分弱い。
「わーい! 新しいお人形さんだー!」
「ぐっ……!?」
さっきの声がまた聞こえた。
その声の主に向かって、アイヴィさんの体が引き寄せられるように飛んだ。
僕は、その方向に目を向ける。
そこには新しい魔物がいた。
巨大な蜘蛛の下半身を持った、10歳くらいの女の子。
地球ではアラクネと呼ばれていた魔物の姿そのものだ。
「わーい! わーい! お人形さんが沢山だー!」
そして、アラクネの周りには沢山の人達がいた。
アイヴィさんと同じように自由を奪われてるのか、苦悶の表情で武器を構える人達。
その中には、エマの姿もある。
こいつか。
こいつが、他の人達を操ってたのか。
いや、違う。
それだけじゃ説明がつかない。
「わーい! わーい!」
「ニコ! 遊んでいないで真剣にやれ!」
「それはあなたもですよ、シロさん。あまり勝手な行動はしないでくださいと言った筈ですが?」
「ぬ!?」
アラクネとフェンリルの会話。
それに混ざる人物がいた。
フード付きのローブで顔を隠した怪しげな二人を筆頭に、何人かの護衛みたいな人達を引き連れた少女。
その姿を見て、僕は目を見開いた。
だって、その少女は、会いたくて、でも会いたくなかった彼女の姿をしていたのだから。
「勇者はここで確実に仕留めます。二人とも、気合いを入れてください」
「はーい!」
「ふん! わかっている!」
そうして彼女は、手に持った剣を僕へと向けた。
「行きなさい」
それを合図とするかのように、僕を目掛けて、大勢の操られた人達が襲いかかってきた。