殺戮のダンジョンマスター籠城記 ~ヒッキー美少女、ダンジョンマスターになってしまったので、引きこもり道を極める~   作:カゲムチャ(虎馬チキン)

112 / 135
勇者と苦渋の戦い 2

「《ソニックランス》」

「くっ!?」

 

 僕の目の前に、槍による攻撃が迫る。

 そんなに速くもないし、強くもない。

 恐らく、普通に食らうだけならダメージにならないだろう。

 でも、その一撃は的確に僕の眼球を狙っていた。

 それはさすがに防ぐしかない。

 

「ユウマ! 避けろ!」

「ッ!?」

 

 槍の一撃をエクスカリバーで弾いた時、正面からアイヴィさんの警告が聞こえた。

 直後、槍使いの人の腹を貫いて、アイヴィさんのティルファングが突き出される。

 予想外の攻撃に対処できず、その攻撃を脇腹に食らってしまった。

 アイヴィさんのステータスなら、僕に対しても普通にダメージが通る。

 少しすればHP自動回復で治る程度のダメージだけど、今の状況では決して無視できない。

 

 そして、アイヴィさんに腹を貫かれた人は、一瞬でダメージを回復した。

 多分、これがこの人の真装の専用効果。

 なるほど、これがあるからこその今の攻撃か。

 見事にしてやられた。

 

 しかし、それを嘆く暇もない。

 

「うっ……! 《フェザーバレット》!」

「《サンシャインアロー》」

「《スピニングスタッド》」

「《大斬り》」

「《メガトンプレス》」

「《インパクトナックル》」

「クソッ……!」

 

 痛みで動きが鈍った一瞬の隙に、操られてる中でも特に強い人達が一斉攻撃を仕掛けてくる。

 多分、この人達は全員が真装使い。

 他の人達と違って目に光がないのが気になるけど、それを気にしていられない程に攻撃は激しい。

 今のラッシュで何発か食らった。

 このままだと、回復する暇もなくダメージを受け続けて死ぬ。

 

「《超熱血パンチ》」

「《スパイラルランス》」

「うぐっ!?」

 

 畳み掛けるように、今度はカルパッチョさんと、いつの間にか復活していた指揮官さんの攻撃。

 熱と水の同時攻撃を食らい、僕は吹き飛ばされる。

 

 カルパッチョさんはこの中で唯一、既に生のないゾンビだと完全に判明してる人だ。

 親しくしてくれた人とはいえ、あれは既に動く死体。

 だから、倒さなければならない。

 その覚悟は決めてきた……その筈だった。

 

「《フォトン……くっ!」

 

 光を纏った剣でカルパッチョさんを薙ぎ払おうとして……途中で体が硬直する。

 できない……!

 体が言う事を聞いてくれない!

 この人を斬るという事に、僕は大きな抵抗感と躊躇を覚えている。

 それこそ、こんな土壇場でも体が止まってしまうくらいに。

 

『偽勇者ぁああああ!』

『勇者様ぁああああ!』

 

 そうして僕が葛藤する間にも、敵は待ってくれない。

 今度は操られた兵士の人達が突撃してくる。

 敵意剥き出しの人達と、アラクネに操られた正気の人達。

 どちらも殺す訳にはいかない。

 

 でも、その人達の体が唐突に弾け飛んだ。

 

「《ウルフタックル》!」

 

 見れば、両腕を前で交差させたフェンリルが、操られた人達の後ろから突進してきていた。

 邪魔だとばかりに、その人達を粉砕しながら。

 なんて事を!

 

「ぐっ!?」

 

 フェンリルの突進を咄嗟に左腕でガードした。

 けど、その勢いを完全に受け止める事はできずに、吹き飛ばされる。

 しかも、ガードした左腕から嫌な音が鳴った。

 折れて……はいないと思う。

 確実に大きな罅は入っただろうけど。

 でも、この程度!

 

「ハァアアアア!」

「ぬ!?」

 

 両足を地面に突き立て、強引に吹き飛ばされた勢いを殺した。

 そのまま足に力を籠め、フェンリルに向けて肉薄する。

 こいつは魔物であり、魔王軍の幹部。

 大勢の人々を殺す明確な敵。

 こいつにだけは、遠慮はいらない!

 

「《シャインストライク》!」

 

 光を纏った高速の突きを、突進の反動で動きが止まったフェンリルに向けて繰り出す。

 フェンリルは咄嗟に防御の構えを取ったけど、それは悪手だ。

 僕の真装の専用効果『勇者の聖剣(エクスカリバー)』は、魔物に対して特化ダメージを与える。

 あのドラゴンの鱗ですら、直接斬りつければバターのように斬り裂いた。

 単純な防御でこの一撃は防げない。

 

 もらった!

 

 そう思った瞬間、フェンリルと僕の間に、フードで顔を隠した人が割って入った。

 マモリの側に控えていた人だ。

 そして、その人は手に持った見覚えのある一本の剣で、僕の剣を受け止める。

 

「《カウンターストライク》」

「がっ!?」

 

 その人は、僕の攻撃を見事に受け流してみせた。

 しかも、カウンターで背中を斬り裂かれる。

 

 でも、僕は咄嗟に体を捻る事で、致命傷を避ける事ができた。

 

 知っていたからだ。

 この技を、この動きを。

 だってこれは、異世界に召喚されてからの訓練で何度も目にし、何度も食らった技なのだから。

 

「恭四郎……!」

 

 今の攻防でフードが捲れ、その人物の顔が明らかになった。

 彼の名は、(つるぎ)恭四郎(きょうしろう)

 僕の幼馴染で、小さい頃から剣道をやっていた、剣の達人。

 この世界でも、今までの経験を活かして、あっという間に実戦剣術を習得してみせた、自慢の友人だ。

 

「《エレメンタルブラスト》」

「ッ!?」

 

 咄嗟に恭四郎から距離を取った時、今度は一際強力な魔法が飛んできた。

 これも知っている。

 同時習得が極めて難しいとされる、全属性の攻撃魔法を混ぜ合わせた、必殺の一撃。

 初めて使った時、教官だったランドルフさんに褒められて恐縮していた魔法。

 弱点は、発動までに少し時間がかかる事。

 

 それが飛んできた方を見れば、やはり知っている顔がいた。

 守の側に控えている、フードで顔を隠していた、もう一人の人物。

 

「彩佳……!」

 

 彼女の名前は、魔木(まぎ)彩佳(あやか)

 恭四郎と同じく、小さい頃からずっと一緒にいた幼馴染。

 

 彩佳と恭四郎。

 異世界に来た時、心から守りたいと思った二人。

 それが今、敵として僕の前に立ち塞がっていた。

 

「ぐっ……!?」

 

 二人はゾンビにされているのか。

 それとも、ただ操られているだけなのか。

 救えるのか。

 救えないのか。

 判断がつかない。

 

 希望と絶望が、僕の心を大きく乱す。

 結果、動きは荒くなり、被弾が増え、尚一層追い詰められていく。

 

「隙あり!」

「がはっ!?」

 

 その隙を突かれ、一番攻撃力のあるフェンリルの蹴りを、諸に胸に食らった。

 肋が折れる感触。

 肺まで傷ついたのか、口から血が出てきた。

 痛い。

 

 その衝撃で吹き飛ばされ、砦の壁にめり込んだ。

 そこに、アイヴィさんが躍りかかる。

 

「《アポロスラッシュ》!」

「あ……」

 

 それは絶好のタイミングだった。

 僕は、動けなかった。

 ただ、迫りくる終わりを見ている事しかできない。

 

 でも、何故か少しだけ救われたような気がした。

 

 これで、やっと終われる。

 苦しい現実から解放される。

 攻撃が当たるまでの刹那の瞬間、僕は諦めと共に自分の死を受け入れた。

 

 だが。

 

「このぉおおおおおおおおおお!」

「ッ!?」

 

 僕は死ねなかった。

 死ななかった。

 攻撃が外れたのだ。

 アイヴィさんの業火を纏った剣の軌道が逸れ、僕の左腕を斬り飛ばすだけの結果に終わった。

 

「ユウマ……諦めるな!」

 

 攻撃の為に接近したアイヴィさんが叫ぶ。

 その体は、小刻みに震えていた。

 まるで、絶対の支配に抗うかのように。

 

「お前が諦めれば……人類は終わりだ……勝手に喚び出した私達が言えた義理ではないが……それでも恥を承知で頼む……どうか、諦めないでくれ……『勇者』!」

 

 ……勇者。

 人類の希望。

 魔王を倒し、世界を救う者。

 ただの高校生が背負うには、あまりにも重すぎる立場。

 

 もう嫌だ。

 辛い、苦しい、悲しい。

 いっそ終わってしまいたい。

 死んで楽になりたい。

 それは嘘偽りのない僕の本音だ。

 

 でも。

 

「う、ぉおおおおおおおおおおお!」

 

 それでも、僕は立った。

 エクスカリバーを杖代わりにして、震える足で立ち上がった。

 終わってしまいたい。

 死んで楽になりたい。

 それは嘘偽りのない僕の本音だ。

 

 でも、僕の心にあるのは、それだけじゃない。

 

 まだ死ねない。

 まだ終われない。

 やり残した事があるんだ。

 終わるのなら、死ぬのなら、せめて最後の最後まで足掻いてから死ぬ!

 

「……ありがとう、ユウマ……よく立ち上がってくれた……。

 ならば……私も意地を見せる時だな……!

 ハァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」

 

 そんな僕の前で、息も絶え絶えになりながら、アイヴィさんが叫ぶ。

 そして、アラクネによる支配を強引に絶ちきり、━━その剣で自分の心臓を貫いた。

 

「アイヴィさん!?」

「ユウマ……これで私は死ぬ……だが、このままでは……死んだ後も奴らの手駒だ……。

 お前に更なる業を背負わせる事になるが……すまん……頼む……お前の手で……死体も残さず消してくれ……!」

「!?」

 

 絶句した。

 その覚悟の重さに。

 背負わなければならない、命の重さに。

 拒絶反応で体が震える。

 悲しみで、涙が溢れてくる。

 

「ユウマ……勇者とは人類の希望だ……!

 魔王の手先に操られ……勇者を害する事を望む者など……誰一人としていない……!

 断ち切れ……ユウマ……! 私の死と共に……迷いを!」

「ッ!」

 

 頭の冷静な部分が、それしか生き残る方法はないと訴えってくる。

 頭ではなく、心が、感情が、やりたくないと悲鳴を上げる。

 

 けど、僕は震える手で剣を構えた。

 

 ここで逃げれば、ここで臆せば、アイヴィさんの命懸けの想いを無駄にしてしまうから。

 僕が覚悟を決めようとしていると気づいたのか、そうはさせじと他の人達が一斉に飛びかかってくる。

 それを振り払うように、僕はとあるスキルを発動させた。

 殺してしまわないように、今の今まで封印していた、あるスキルを。

 

「《聖闘気》ィ!」

 

 聖なる光のオーラを纏い、ステータスを爆発的に上昇させるスキル、聖闘気。

 これを使った状態で手加減なんてできない。

 その状態で僕は、迷いを断ち切るように、残った右腕で剣を振るった。

 

「《フォトンストリーム》!」

 

 光の奔流が、操られた人達を消し飛ばしていく。

 既に瀕死となっていた、アイヴィさん諸共。

 

「ありがとう、ユウマ……」

 

 最後に、そんな声が聞こえた。

 そして、僕は涙で滲む目を見開き、残りの敵を見据えたのだった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。