殺戮のダンジョンマスター籠城記 ~ヒッキー美少女、ダンジョンマスターになってしまったので、引きこもり道を極める~   作:カゲムチャ(虎馬チキン)

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100 迷いを断つ

 ゾンビ軍団に指示を出しつつ、気絶して転がってた指揮官を用済みとばかりにゾンビにしたりしながら、勇者狩りを続ける。

 途中で魔木ゾンビと剣ゾンビを参戦させ、顔をあらわにする事で、より神道の動揺を誘ったりと小技も使った。

 効果はそれなり。

 元々、手駒兼人質の連中を相手にして鈍っていた動きが、更に鈍った。

 

 その結果、フェンリルの攻撃がクリティカルヒットして、神道が吹き飛び、壁にめり込む。

 距離があって鑑定はできないけど、HPがかなり減ってると思う。

 そこへ間髪入れず、アラクネが操ったアイヴィとかいう女を突撃させた。

 これは、勝負ありかな。

 そう思って、少しだけ気が緩みそうになった瞬間。

 

「このぉおおおおおおおおおお!」

「!」

「あれ!?」

 

 なんと、アイヴィとかいう女が渾身の力でアラクネの支配に抗い、剣の軌道を逸らした上に停止した。

 

「あれ!? あれ!? 動かないよー!?」

 

 まさか、こんな事が……。

 いや、アラクネの能力だって万能じゃない。

 所詮は一つの真装の専用効果。

 抜け穴くらいあるのだろう。

 これは、似たような効果の調教も、あんまり過信はできないかもしれない。

 

 まあ、それも今はいい。

 アイヴィとかいう女がダメなら、他の戦力でトドメを刺せばいいだけの話だ。

 

「総攻撃。確実にトドメを刺しなさい」

 

 私の指示に従い、ゾンビ軍団が死にかけの神道に接近していく。

 偽勇者討伐軍とフェンリルも同じく。

 唯一、アラクネの操り人形達だけは、アラクネがアイヴィとかいう女に意識を割きすぎてるせいか動かなかったけど、それでも充分な戦力。

 今度こそ、

 

「チェックメイト……」

「《エアーボム》ゥ!」

「ッ!?」

「あ!?」

 

 そう思ったところで、更なる想定外の事態が起こった。

 アラクネに操られてる筈のエマとかいう女が、飛びかかっていった軍団に向けて風の魔法を放ったのだ。

 もしかして……アイヴィとかいう女に集中したせいで、他の奴への拘束が緩んだ?

 

「ニコさん」

「ごめんね☆」

「……次から気をつけて下さい」

「うん!」

 

 怒ってもどうしようとないと判断し、小言だけ言って戦闘に意識を戻す。

 幸い、エマとかいう女は完全には支配を振り切れなかったのか、さっきの魔法は大した威力じゃなかった。

 時間稼ぎにはなったけど、脱落したのは偽勇者討伐軍の雑魚が何人かだけ。

 大勢に影響はない。

 

 そう、思っていた。

 

「《聖闘気》ィ!」

 

 でも、エマとアイヴィとかいう二人の女が命懸けで稼いだ僅かな時間で。

 1分にも満たない、ほんの僅かな時間で。

 

 戦況は変わった。

 

 神道が、光のオーラに包まれる。

 勇者専用スキルの一つ、聖闘気のスキルを発動した。

 今までは多分、人質兼肉壁を殺さない為に使わなかったんだろうスキル。

 それを、このタイミングで発動したという事が何を意味するのか。

 それがわからない私ではない。

 

「ッ!? 退避!」

「《フォトンストリーム》!」

 

 神道が光を纏った剣を振り抜く。

 それだけで、神道の周囲一帯が光の奔流に呑み込まれて消えた。

 攻撃の為に近づいていた連中もろとも。

 逃れられたのは、咄嗟の私の指示に反応できるだけの速度を持っていた剣ゾンビと、野生の勘で避けたフェンリルだけ。

 残りは全員死んだ。

 アイヴィとかいう女も死んだ。

 神道が、自分の手で、殺した。

 そして神道は、勇者は、涙に濡れた目で、ハッキリとこちらを見据えている。

 

「……こうなる前に決着をつけたかったのに」

 

 オートマタ越しのモニターを見ながら、私は頭を抱えた。

 赤の他人どころか、仲間すら自分の手で消し飛ばした。

 それはつまり、覚悟が完了してしまったという事。

 今まで、私は人質を盾に、神道の精神的な弱さに付け込む形で優位を保ってきた。

 そのアドバンテージが、今、失われた。

 多分、ここからは純粋な実力勝負になる。

 

「シロさん、ニコさん、気を引き締めてください。相手が死にかけだからって油断しないように。ここからが本番ですよ」

「わかっている!」

「うん!」

 

 今の神道が放つ謎の気迫を感じ取ったのか、脳筋二体がかなり素直な返事をした。

 それと同時に、神道が動く。

 残った右腕を天に掲げ、そのままこちらに向けて振り下ろした。

 

「《フォトンブレード》!」

 

 そして、光の斬撃がオートマタ達を襲う。

 

「《フェンリルロア》!」

「《カオスインパクト》」

「《スカイスラッシュ》」

「うぅ……《トルネードブラスト》!」

 

 それを、こっちの遠距離攻撃が迎撃する。

 今回の戦いの始め、エマとかいう女相手にやったのと同じだ。

 でも、その時よりも圧倒的にこっちが押されている。

 神道の攻撃の威力が予想以上なんだ。

 全員分の力を合わせて、軌道を逸らすのが限界だった。

 

 そして、その攻撃自体を目眩ましにするように、神道が駆けた。

 狙いは……アラクネ!

 

「ニコさん! 肉壁!」

「うん!」

 

 私の指示に素直に従って、アラクネが神道の進行ルート上に肉壁を用意した。

 選んだのは、エマとかいう女だ。

 仲間を盾として使って精神的に揺さぶった……訳じゃないと思う。

 単純に、神道の攻撃に間に合う速度を持った操り人形が、エマとかいう女以外にいなかったんだろう。

 でも、多分、これが最善手。

 

 しかし。

 

「斬ってください! シンドウ様!」

「……ごめん」

 

 覚悟を決めた神道相手には、やっぱり通用しない。

 攻撃の直前、神道の剣が更に強い光を纏う。

 何とかしようにも、オートマタの性能では対応できない。

 そして……

 

「《ブレイブソード》!」

「あ……」

「ニコーーー!」

 

 光の斬撃に呑み込まれ、エマとかいう女もろともアラクネが消し飛んだ。

 一応、疑似ダンジョン領域の中で死んでくれたから、私にもDPと経験値が入ってきたけど、素直には喜べない。

 それ即ち、オートマタのすぐ側に神道がいるという事なのだから。

 率直に言って、絶体絶命だ。

 

「仇は取ってやる! 《ウルフストライク》!」

「剣、魔木、サポート」

 

 多分、無策で突っ込んだフェンリルをサポートするように、剣ゾンビと魔木ゾンビに指示を出す。

 剣ゾンビはフェンリルの後ろに追従し、すぐに連続攻撃を仕掛けられる構え。

 魔木ゾンビは、フェンリルの攻撃前に神道へと魔法を放ち、注意を引く。

 

 しかし、神道はその全てに対処してみせた。

 

「《フォトンブレード》!」

「がっ!?」

 

 突き出したフェンリルの拳が、光を纏った剣にあっさりと消し飛ばされる。

 

「《クロスソード》」

「ふっ!」

 

 続いて放たれた剣の攻撃も落ち着いて対処。

 返し技で躊躇なく剣ゾンビを破壊してみせた。

 元クラスメイト相手でも容赦なしか!

 

「ッ!」

 

 次の瞬間、神道がオートマタの方を向く。

 モニター越しだというのに怖じ気が走った。

 そして、私が気圧された一瞬の間に神道は接近し、魔木ゾンビを消し飛ばし、オートマタを真っ二つに両断してみせた。

 オートマタの速度では、神道の速度に付いていけない。

 精神的に躊躇させられない以上、これは当然の結末だった。

 

「守、君に一つ言っておくよ」

 

 体の半分を失い、地に倒れたオートマタの眼前に剣を突き付けながら、神道が語りかけてきた。

 

「今の君がオートマタという魔物だというのはわかっている。その体が遠隔操作の人形に過ぎない事も」

 

 ……バレてたのか。

 そういえば、勇者の中に『鑑定』のユニークスキルを持ってる奴がいたっけ。

 多分、王都の時にそいつを取り逃がしてたんだろう。

 直接的な戦闘力がなかったから撃破優先度は下げたけど、その判断は失敗だったかもしれない。

 

「ここでその体を壊しても君は死なないんだろう。だからこそ今は一つだけ言っておく。

 ━━僕は必ず君との決着をつける。それがどんな形であっても、必ず君本人に会って決着をつけるよ」

「…………」

 

 最悪だ。

 悪質なストーカーが誕生してしまった。

 こいつは必ず殺さないといけない。

 元々殺すつもりだったけど、その理由が一つ増えた。

 撃破優先度が上がった。

 

「積もる話はその時にしよう。じゃあ、またね、守」

 

 そんな事をのたまいながら、神道が剣に光を纏わせ、大きく振りかぶり、振り下ろした。

 オートマタ視点のモニターが暗くなり、何も見えなくなる。

 

 こうして、勇者との戦いは終わった。

 完膚なきまでの敗北という、最悪の結果で。

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