殺戮のダンジョンマスター籠城記 ~ヒッキー美少女、ダンジョンマスターになってしまったので、引きこもり道を極める~ 作:カゲムチャ(虎馬チキン)
「魔王様ぁあああ!?」
真っ先に正気に戻ったのは、忠犬意識の高いフェンリルだった。
無謀にも魔神に対して殴りかかる。
それに対して、魔神は軽く腕を一振り。
たったそれだけの動作で暴風が吹き荒れ、フェンリルの上半身が消し飛んだ。
続いて動いたのは、亀。
魔王を気にかけてた感じの亀が、倒れた魔王の盾になれるような位置へと移動した。
遅れて、私も正気に戻る。
混乱しながらも、今できる事を瞬時に考え、オートマタを魔王の下へと走らせた。
ついでに、近くに転がってたフェンリルの下半身を回収する事も忘れない。
「魔神様……何故……?」
「うん? まだ生きてたんだ? ごめんね、即死させてあげられなくて。
やっぱり封印されてる間に大分弱っちゃったみたいだなー。
黒槍も大した威力出なかったし」
倒れる魔王を一瞥しながら、でも、大して気にかけた様子もなく、魔神は呑気に自己分析をしていた。
不気味だ。
たった今、魔王を殺そうとしたというのに、その表情も、声音も、さっきと何も変わらない。
私ですら、命を奪う瞬間には、それなりに心が揺れるというのに。
普通、誰かを殺す時には、殺意なり、敵意なり、何かしらの感情が発生する。
でも、魔神にはそれがない。
まるで何事もなかったかのように、極めて自然体でいる。
その事が、何とも不気味で恐ろしい。
私達の事なんて、虫か何かくらいにしか思ってないような感じがして。
「何故……?」
「うーん、そうだね。冥土の土産という訳じゃないけど、君はこれまで僕の為に働いてくれたんだし、僕の目的くらいは教えてあげてもいいかな」
そうして、魔神は語り出した。
その目的とやらを。
他の連中もまた、魔神の圧倒的な威圧感に気圧されて手が出せず、黙って話を聞くしかなかった。
「僕は君に、いや、魔物全体に暗示をかけていた。人間と敵対せよという暗示を。
魔王である君には、魔王城のダンジョンコアを通して特に念入りにね。
でもね、それは嘘なんだ。
僕は別に魔物の事なんて何とも思ってない。
魔物を生み出した理由は、女神に封印された僕を解放させる為の戦力が欲しかったから。ただそれだけさ。
それが果たされた今、もう君達は用済みなんだ」
その言葉を聞いて、驚愕すると同時に、私はどこか納得していた。
魔神の話を魔王に聞いた時点で、私は魔神の危険性を理解した筈だ。
なのに、私は魔神復活の邪魔をしなかった。
やろうと思えば、危険を侵せばできた筈なのに。
もちろん、失敗して魔王や魔神と敵対したくないって気持ちが強かったのは事実だけど、そこに魔神による暗示の効果があったと言われれば納得できる。
何せ、今の私の種族はダンジョンマスター。
まごうことなき魔物。
魔神の影響を受けていても不思議ではない。
「そして、僕の目的。それはこの世界を滅ぼす事さ。
世界を滅ぼし、その星の守り神を殺し、そのエネルギーを奪い取る。
君達流にわかりやすく言えばLv上げ、あるいは食事と表現するのが近いかな?
僕はそれだけを目的として、遥かな昔、この世界へと降り立った。
僕のような依り代を持たない神は、そうして他の神からエネルギーを奪わないと、その内エネルギーが枯渇して消滅してしまうからね。
幸い、前回の戦いで女神は充分すぎる程に弱った。
自分で戦う事もできず、人間に細やかな加護を授けるのが精一杯で、不安定な異界の力に頼らざるを得ないくらいにね。
今なら、簡単に殺せる。
そして、世界の核である守り神を失えばこの世界は滅びる、という訳さ」
世界を、滅ぼす?
星の守り神を殺すとか、エネルギーがどうたらこうたらとかいう神様事情はよくわからないけど、世界を滅ぼすのが魔神の目的だという事だけはわかった。
それはダメだ。
絶対に私と相容れない。
世界が滅ぶとどうなるのかなんて具体的にはわからないけど、どう考えても生物が生きていける環境が残るとは思えない。
そうなったら、いくらダンジョンを強化して守りを固めたって意味がない。
引きこもってる家ごと、大災害で破壊されるみたいな話だ。
それを阻止するには、魔神を倒すしかない。
魔王の時みたいに、配下に下って命乞いなんて事はできない。
戦うしかない。
生き残る為には、戦って、勝つしかない。
この勝ち目の見えない怪物、いや、正真正銘の神を相手に!
なら、私がやる事は一つ!
まずは、勝てる確率を1%でも上げる!
私はオートマタを動かし、瀕死の魔王を肩に担いで戦線を離脱させた。
「うん? そんな事をしても無駄だよ? その娘はもう助からないと思うんだけどな」
魔神がそんな事を宣った瞬間、背後で轟音。
チラリと振り返ってみれば、どうやら亀が人化を解除して魔神に攻撃を仕掛けたらしい。
オートマタの、いや、魔王の撤退をアシストするつもりか。
「冗談ではないぞ! 我輩はそんな事の為に魔王の軍門に下った訳ではない!」
「世界が滅んだら死んじゃうじゃない!? 死ぬのは嫌ぁ!」
「不死鳥たるわたくしが死ぬ……それは看過できないのですよ!」
「魔物の為の世界……魔王様の夢を踏みにじりやがって!」
他の幹部も、今の話を聞いて魔神を完全な敵と見なしたのか、半分自棄っぱちな様子で攻撃を開始していた。
「攻撃開始! 女神様に仇なす魔神を討伐せよ!」
「まさか魔物と共闘する事になるとは……」
「事態が事態だ。仕方ないだろ!」
十二使徒に関しては、元々敵だと認識してるからか、迷いなく魔神に突撃していく。
共通の敵が現れた事で、人間と魔物が一時的にでも手を組んだ。
その状況が、今はありがたい。
少しでも時間を稼いで、魔神を消耗させてくれ。
そうして撤退する最中、他の奴らと同じく魔神に向かっていく神道と目が合った。
……不快だけど、今だけはこいつに頼るしかない。
こいつの真装の専用効果『
希望的観測をするなら、魔神にだって通用する筈だ。
今はこいつを利用して魔神と潰し合わせるしかない。
だから私は、オートマタの口を使って、言いたくもない言葉を吐き出した。
「頑張って」
届いたかどうかもわからない言葉。
その効果を確認する事もなく、私は神道から視線を外してオートマタを走らせた。
目的地は、魔神の攻撃範囲の外。
そこで先生ゾンビを召喚し、態勢を整える。
さっきの言葉で、神道が少しでもやる気になっていれば儲けものだ。
そんな事を考えながら、私はひたすらにオートマタを走らせた。