殺戮のダンジョンマスター籠城記 ~ヒッキー美少女、ダンジョンマスターになってしまったので、引きこもり道を極める~   作:カゲムチャ(虎馬チキン)

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勇者VS魔神

 悠然と構える少年、魔神に向けて、僕は剣を振るう。

 その立ち姿は、少しでも戦いの技術を学んだ者からすると、隙だらけに見える。

 もしかしたら、魔神には武術の経験がないのかもしれない。

 でも、その代わり、魔神にはこれ(・・)がある。

 

「《闇のヴェール》」

 

 魔神が発動させた闇の魔法。

 まさにヴェールのような薄い防壁が、僕の剣を阻む。

 『勇者の聖剣(エクスカリバー)』の効果は魔物本体だけではなく、魔物が放った魔法などにも有効なのは知ってる。

 ウルフェウス王国の王都で、魔王の魔法を相殺して即死を防いでくれた時に気づいた事だ。

 にもかかわらず、破魔の聖剣はこんな薄い闇すら切り裂けない。

 

 その理由は単純明快。

 この魔法には、その薄さに反して、相性差を覆して余りある程の膨大な魔力が籠っているからに他ならない。

 あの魔王ですら霞む、圧倒的な魔力。

 まさに神の力。

 

 だが、それでも勝たなければならない。

 

 魔神の目的は世界の崩壊。

 こいつを倒せなければ未来はない。

 僕はこいつを倒して、勇者としての使命を果たす!

 これまで、大切な人達を失い、仲間を切り捨ててまで進んできた。

 その犠牲を決して無駄にはしない!

 して堪るものか!

 

「《フォトンブレード》!」

 

 その思いで、僕はエクスカリバーに神聖魔法による光の力を纏わせ、闇のヴェールを強引に切り裂いた。

 そのままの勢いで距離を詰め、魔神に向かって斬りかかる。

 

「おっと」

「なっ!?」

 

 そんな僕の攻撃を、魔神はあっさりと素手で止めてみせた。

 まるで、最初に会った時の魔王のような行動。

 そして実感せざるを得ない、魔神と僕との大きすぎる実力差。

 魔神と僕との間には、あの時の魔王と僕と同じかそれ以上の力の差がある。

 それが、わかってしまった。

 

「痛たた……さすがに勇者の攻撃はちょっと痛いな。さすが異界の力。苦し紛れでも女神が喚んだだけの事はある。

 今まで勇者には幾度となく苦汁をなめさせられてきたし。

 その仕返しもかねて、少し本気でいこうか」

 

 そう言って、魔神はエクスカリバーを手で掴み、もう片方の手を僕へと向けた。

 特大の悪寒が体を駆け抜ける。

 その感覚に従い、僕は咄嗟にエクスカリバーを手放して、斜め前へと飛ぶ。

 

「《闇神の裁き》」

 

 魔神の掌から、超高出力の闇の波動が放たれた。

 前にウルフェウス王国の王都を破壊したドラゴンのブレスや、エクスカリバーで防いで尚、僕を瀕死に追い込んだ魔王の魔法。

 それらとは比較にならない威力。

 その攻撃は進路上にあった全てを破壊し、地平線の彼方までも消滅させてみせた。

 

「ぐっ……!」

 

 でも、僕は生きてる。

 向けられた掌から逃れる為に、咄嗟に斜め前へと飛んでいたおかげで助かった。

 ここで横か後ろに逃げていたら即死だったと思う。

 それに比べれば、避けきれずに右半身が消し飛んだ事なんて些事だ。

 その負傷も十二使徒の一人、ミランダさんの真装の能力『天使の微笑み(ミカエル)』の効果ですぐに回復……

 

「え?」

 

 しない。

 回復しない。

 これは、まさか、今の攻撃でミランダさんが!?

 

「あれ? 避けられちゃった。人間にしてはやるなぁ。さすが勇者」

 

 魔神が呑気な声でそう宣う。

 避けられたのは、魔神の動きが大雑把で、狙いが丸わかりだったからだ。

 そんな適当な攻撃でも、多くの人達が殺された。

 更に、この場の最高戦力である僕が重傷を負い、回復の要だったミランダさんも戦死。

 慌てて自分に回復魔法をかけるけど、『天使の微笑み(ミカエル)』に比べれば遅すぎる回復速度だ。

 おまけに、唯一の希望だったエクスカリバーも手放してしまった。

 そのエクスカリバーを、魔神は片手で握り潰す。

 

「ッ!?」

 

 真装は壊されても再展開ができる。

 でも、それにはしばらく時間がかかってしまう。

 しかも、僕は傷を治すだけでも数分の時間を有するだろう。

 その間は、さすがに戦えない。

 これは……万事休すか。

 

「《タートルプレス》!」

「おっと」

 

 そう弱気になった時、目の前の魔神に大亀が攻撃を仕掛けた。

 巨大すぎる足による踏みつけ。

 この距離だと、僕も巻き込まれる。

 

「《バウンドウィップ》!」

「うわっ!?」

 

 そう思っていた時、どこからか飛んできた鞭が僕の体に巻き付き、大亀の踏みつけの範囲から逃がしてくれた。

 鞭の使い手を見れば、魔王軍幹部の一人であるヴァンパイアロードの姿が。

 まさか、助けてくれた?

 その事に驚く僕の目の前で、大亀の踏みつけが炸裂する。

 でも、その一撃は魔神に片手で受け止められてしまった。

 

 しかし、それで動きの止まった魔神に対して、魔王軍幹部達が一斉に攻めかかる。

 同時に、ヴァンパイアロードが僕に向かって話しかけてきた。

 

「勇者よ。誠に、誠に遺憾だが、魔王様のいない我輩達では奴には勝てん。

 この場で奴に勝てる可能性があるとすれば貴様だけだ。

 故に、早く傷を治せ。

 その間の時間くらいは稼いでやる」

 

 そう言って、ヴァンパイアロードもまた魔神へと突撃していく。

 

「魔神を討つぞ! 突撃!」

『オオオオオオオオ!』

 

 そこへ、十二使徒の人達と、防壁から合流した聖騎士団と兵士の人達、更に彼らと戦っていた筈の魔物の群れまでもが、一斉に魔神へと牙を剥いた。

 元々、決戦の為にこの街の避難誘導は殆ど完了していた。

 魔神が復活してしまった今、防壁を守る意味はないと判断してこっちに合流したのだろう。

 それにしても、まさか知性のない魔物まで魔神に向かっていくとは思わなかった。

 もしかしたら、彼らも本能的に魔神の危険性を理解しているのかもしれない。

 

 かくしてここに、恐らく史上初であろう人魔の連合軍が完成した。

 敵は、全ての元凶である魔神。

 それを討伐すべく、一時的にでも人と魔物は手を組んだ。

 

 なら、僕も僕にできる事をやろう。

 僕は戦いを彼らに任せ、傷を治す事に専念した。

 それが最善の行動だと信じて。 

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