殺戮のダンジョンマスター籠城記 ~ヒッキー美少女、ダンジョンマスターになってしまったので、引きこもり道を極める~ 作:カゲムチャ(虎馬チキン)
「やぁ!」
「ギギィ!?」
エミーリア様のレイピアが、ゴブリンの喉を串刺しにする。
すぐに引き抜いて振るわれた二撃目、三撃目で、他のゴブリンも危なげなく仕留めていく。
最後に残った大物。
巨体のホブゴブリンさえも、エミーリア様は危なげなく倒してしまわれた。
「ふふん。このくらい余裕ね!」
「油断しないでください。それに、雑魚を倒して良い気になっていては、お里が知れますよ」
「……それは、あなたなりの冗談なのかしら?」
本気で言っています。
しかし、エミーリア様のお里はこの国であり、もっと言えば国の中心部である王都。
この表現は、適切ではなかったかもしれませんね。
しかし、油断するなというのは、至極適切な助言でしょう。
どんな強者でも、油断すれば死にます。
エミーリア様に死んでほしくはない。
いつも言っている事ですが、今回はより口を酸っぱくして言うべきでしょうか。
そう考えていたのですが、その暇はなさそうです。
「……来ましたね」
無数の足音が聞こえ、それからすぐにゴブリンの大群が現れました。
ホブゴブリン以上の巨体を持つゴブリンの上位種、ゴブリンチャンピオンに率いられて。
ゴブリンチャンピオンは、ゴブリンでありながら、魔王と戦う精鋭達に匹敵する力を持った強力な魔物。
おそらく、これが今までの冒険者達を葬ってきた魔物達なのでしょう。
これは、エミーリア様一人では荷が重いかもしれませんね。
「エミーリ……エミリー様、ここは二人で……」
「手出し無用よ! 私一人で十分だわ!」
「あ!?」
言うが早いか、エミーリア様はお一人で突っ込んで行ってしまわれた。
私の胃がキュッと引き絞られる。
ああなってしまったら、エミーリア様は聞かない。
助けてしまえば、凄まじく不機嫌になられる。
幸い、荷が重いというだけで、決して勝ち目が薄い訳ではない。
仕方ありません。
ここは静観し、いざとなったら助けましょう。
それまで私の胃が保てばいいのですが……。
「踊りなさい━━『フランチェスカ』!」
エミーリア様が今まで振るっていたレイピアを鞘に戻し、ご自身の真装を展開させました。
その形状は、鞘に戻した物と同じレイピア。
ただし、華美な装飾が施された美しい真装です。
「《クイック》!」
エミーリア様が、真装の専用効果『
そして、一直線に群れの中の一体、ゴブリンシャーマンを狙ってレイピアで突き殺しました。
まずは遠距離攻撃を潰しましたか。
正しい判断です。
「《ブレードスピン》!」
続いて、回転しながらレイピアを振り回すアーツが発動。
そこから発生したいくつもの斬撃が飛び、ゴブリン達を減らしていきます。
しかし、さすがにチャンピオンは倒せず、ホブゴブリンも耐えました。
「グォオオオオオ!」
チャンピオンが咆哮を上げながら棍棒を振り上げ、エミーリア様に襲いかかる。
エミーリア様の防御力でまともに食らえば、一撃死もありえる程の攻撃。
しかし、エミーリア様は回転しながら、流れるような動きでチャンピオンの棍棒にレイピアを添え、華麗に攻撃を受け流しました。
「《ツイストスティング》!」
「グォオオオ!?」
「《ツイストスティング・クインテッド》!」
「ギャオオオ!?」
そのまま、反撃の連続突き。
手首に回転を加え、それがアーツによって強化された突きは、チャンピオンの体にいくつもの風穴を空けていきます。
「グォオオオオオ!」
しかし、さすがの生命力と言うべきでしょうか。
チャンピオンはダメージを物ともせずに棍棒を振り回します。
しかし、エミーリア様は冷静な判断で距離を取り、次の攻撃手段に魔法を選択。
「《ホーリーアロー》!」
いくつもの光の矢がチャンピオンに突き刺さり、ついでに、いくつかはホブを貫いて絶命させました。
チャンピオンにも、確実にダメージを刻んでいます。
そして、エミーリア様は弱ったチャンピオンに駆け寄って行きました。
走りながらジャンプし、レイピアを構え、その姿勢から次なるアーツを放ちます。
「《レインテンポ》!」
刺突の雨がチャンピオンの体を穿ち、貫き、斬り裂き。
そうして、ゴブリンチャンピオンは血塗れになって倒れました。
エミーリア様は私の方を振り向き、満面の笑みでピースしています。
……可愛い。
「どうよ!」
可愛い。
ではなく、素晴らしい戦いでした。
荷が重いと思っていましたが、結果はこの通り。
エミーリア様は、凄まじい速度で成長しているという事でしょう。
Lvも、技も。
心は……ノーコメントで。
しかし。
「まだ甘いですよ、エミーリア様」
「へ?」
「グォオオオオオ!」
血塗れの体で起き上がったゴブリンチャンピオンが、エミーリア様に向けて拳を振り下ろしました。
勝利の瞬間こそ、最も油断し、最も死にやすい。
しかし、私の目の前で、むざむざと主をやらせはしません。
「ハッ!」
私は踏み込みながら腰の剣を引き抜き、チャンピオンの首に向けて一閃します。
チャンピオンの首が切断され、その断面から噴水のように血が噴き出しました。
確実に絶命しているでしょう。
「エミーリア様、ゴブリンの生命力は凄まじいのです。これは他の魔物にも言える事ですが、しっかりとトドメを刺すまで安心してはいけませんよ」
「むぅ……」
ああ。
結局助けてしまったせいか、不機嫌になってしまわれた。
頬を膨らませていらっしゃる。
精神がこんなに未熟では、まだまだ戦場には出せませんね。
「先に進みましょうか。拐われた女性達を助け出すのでしょう?」
「わかってるわよ!」
そうして、拗ねたエミーリア様と共に洞窟を探索する事、少し。
私達は、目的の場所に到達する事ができました。
しかし……
「うっ……!?」
「これは、酷いですね」
エミーリア様の光魔法で照らされた場所にいたのは、裸に剥かれた上に傷だらけの女性達と、その女性達を弄ぶ大量のゴブリン達。
あまりにおぞましい光景に、エミーリア様が顔を青くされた。
ゴブリン達が私達に気づき、襲いかかってくる。
このような悲劇、一刻も早く終わらせねばならない。
そんな思いで、私達は剣を振るい、その場のゴブリン達を皆殺しにした。
そうしてゴブリン達を殲滅し終え、傷ついた女性達に回復魔法をかけようとした、その時。
「何やら騒がしいと思えば。どうやら俺様の住み処に小虫が入り込んだようだな」
そんな声が聞こえて来た。
人のものとは思えない、暗く淀んだ声。
途轍もない威圧感に満ちた、聞いているだけで冷や汗が出てくるような、異形の声。
その声の方へ目を向ければ、そこには一匹のゴブリンがいた。
ゴブリンとは思えない、強者のオーラを纏った一匹の魔物。
それなりに修羅場をくぐり、鍛えられた戦士としての感覚が、全力で警鐘を鳴らす。
あれには、勝てないと。
「俺様は魔王軍幹部、ゴブリンロードのギランだ。歓迎してやるぞ、小虫ども」
そんな絶望的な事を告げる、ゴブリンロード。
そして、その背後から、大量のゴブリン達が現れた。