殺戮のダンジョンマスター籠城記 ~ヒッキー美少女、ダンジョンマスターになってしまったので、引きこもり道を極める~ 作:カゲムチャ(虎馬チキン)
「復讐したいなら、あなたが殺ってもいいよ」
ご主人様に言われた言葉が、頭の中で何度も響く。
降って湧いた復讐のチャンス。
憎くて憎くて堪らない連中は今、全員、身動きできない状態で足下に転がってる。
ご主人様の言う通り、殺そうと思えば無力なボクでも殺せるだろう。
でも、それをしたら戻れない気がした。
相手は盗賊。
相手はお父さんを殺した奴らで、たった今、ボク達の事も殺そうとした連中。
殺したとしても誰にも文句を言われない。
それどころか感謝されるかもしれないくらいだ。
それなのに、ボクは躊躇していた。
人を殺すのはいけないなんて、薄っぺらな事を言う気はない。
でも、人を簡単に殺してしまったら、ボクもご主人様や魔王様みたいな魔物になってしまう気がした。
それが怖かったんだ。
脳裏に、魔王様によって更地にされた王都の光景が甦る。
あの時、何百人、何千人という人達が死んだんだろう。
それはボクがやった事でもある。
ボクが魔王様を王都に案内したから、あんな事が起きた。
命令された事だから仕方ない。
そうやって、ボクは自分の罪から目を背けてきた。
奴隷に拒否権なんてないんだから仕方ない。
そうやって言い訳しながら、ボクはご主人様に街や国の情報を教えてきた。
我が身可愛さに。
自分がご主人様に捨てられないように、ボクは他人を売った。
そして、今回の件だ。
ここで、自分の手で人を殺してしまえば、もう言い訳の余地はない。
人を殺したという実感が、確実にボクの心を襲うだろう。
それに、ボクは耐えられないかもしれない。
それが堪らなく怖い。
だから、ボクは動けなくなった。
「な、なあ、お、俺は殺さないよな? 俺は冒険者だぞ? 盗賊じゃないんだ。
冒険者を殺したとギルドにバレたら、どうなるかわかってるだろ?
だから頼む! 俺だけは見逃してくれ!」
「てめぇ! ふざけんな!」
「自分だけ助かろうとしてんじゃねぇよ!」
「このクズがぁ!」
「煩いカスども!」
そうしてボクが硬直した時、昨日ボク達に絡んできた冒険者の人が、自分だけ助かろうと命乞いをして、それを見た盗賊達が騒ぎ出した。
そして、冒険者の人に目を向けたご主人様が、彼に近づいて行く。
「な、なあ! 頼む、命だけは助けてくれ! 助けてくれたなら、あんたの言う事なんでも聞く!
俺はB級冒険者だ!
できる事は多いし、色んな所に顔が利く!
絶対にあんたの役に立つ筈だ!
だから……」
「煩い」
その言葉を途中で遮って、ご主人様は剣を振るい、あっさりと冒険者の人の首を飛ばした。
転がった首と、血飛沫がボクの所まで飛んでくる。
『うわぁあああああ!?』
盗賊達が恐怖で泣き叫んだ。
ボクは呆然とそれを眺めていた。
思えば、ご主人様が本当に人を殺すところを見たのは初めてかもしれない。
「殺らないなら私がやるけど、どうする?」
そう言って、ご主人様は手に持った剣をボクに差し出した。
震える手で、血塗れの剣を受け取る。
咄嗟に体がそう動いた。
まるで、殺れと命令されてるように感じたからかもしれない。
その剣を持って、まずは瀕死で倒れているお頭と呼ばれた男の所に行った。
緊張で乱れる息を整えて、剣を振り上げる。
「た、助けてくれ……」
お頭と呼ばれた男が、かすれた声で命乞いをしてきた。
その声を聞いた瞬間、━━ボクの中で何かが弾けた。
『た、頼む! この子だけは助けてくれ!』
脳裏に甦るのは、お父さんの最期の言葉。
最後の最後までボクを心配してくれた父の言葉。
そう言ったお父さんを、こいつはどうした?
嗤いながら殺したじゃないか。
ボクは、ありったけの力で、そいつに剣を突き刺した。
「ギャアアアアアアアア!?」
突き刺す。
突き刺す。
突き刺す。
もうどうでもいい。
難しい事を考えるのはやめだ。
今はただ、お父さんの仇を討たないと。
こいつを、できるだけ苦しめて殺さないと。
そうじゃないと、お父さんが浮かばれない。
その一心で、ボクは剣を突き刺し続けた。
何度も、何度も。
何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も。
そうする内に、剣の切れ味に助けられて、非力なボクの力でも、お頭と呼ばれた男をグチャグチャにする事ができた。
そして、ボクは他の盗賊達に目を向けた。
『ヒィ!?』
ああ、まだこんなにいるじゃないか。
殺さないといけない奴らが。
殺さなきゃ。
ころさなきゃ。
コロサナキャ。
「や、やめ……!」
「いだ、いだいぃいい!?」
「あ、ぁぁぁ……」
「うわぁあああああ!?」
「死ぬ……死ぬぅ……」
「助け……ガハッ!?」
そうして、どれだけの時間が経っただろうか。
無我夢中で剣を振るって、振るって、振るって。
殺して、殺して、殺して殺して殺して。
いつの間にか、盗賊達は全員死んでいた。
命を奪った感覚が、遅れてボクを襲う。
それに押し潰されそうになって、涙が出てきた。
でも、その時。
「お疲れ様」
ご主人様が、いつもの無機質な声でそう言いながら、胸の中にボクを抱き締めてくれた。
「よく頑張ったね」
そう言って頭を撫でてくれた。
涙が止まる。
いけないとわかってるのに、ボクはご主人様の温もりに縋ってしまった。
身を委ねてしまった。
人を殺したという嫌な感覚が遠ざかっていく。
ご主人様に抱き締められて、頭を撫でられて、安心してしまう。
そのまま、瞼が重くなっていくのを感じた。
心と体が疲れたと言ってる。
この微睡みに身を任せたら、本当に取り返しがつかないとわかってるのに。
ボクは、ご主人様の腕の中で眠ってしまった。