Liveデュエルモンスターズ/シャーク   作:永瀬皓哉

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この作品では、デュエルのテンポをよくするために、
カードの効果の説明をせずデュエルを進行します
また、結果が変わらない場合は演出を優先した描写・プレイをします
上記のことをご了承の上、ご覧ください


Prologue
Liveデュエル、オンエアー!


 Liveデュエル。

 それは10歳から19歳までの未成年デュエリストたちの祭典『デュエルシティ』で行われる戦いを、動画配信サイトを通じて生配信し、世界中の観客に熱狂を届けるデュエル。

 ある者はエンターテイメントとして、ある者はデュエル講座として、またある者は別の夢のために顔を売るため。理由はさまざまだが、彼ら彼女らの目指すところはひとつ。

 6つのデュエルジムを攻略し、決勝トーナメントでチャンピオンと対峙し、未成年デュエリストの頂点に立つこと。

 

 そして今――そんな『デュエルシティ』ジュニアリーグに出場するため、その開会式に参加する少女が一人。

 

「では、こちらがLiveデュエル配信用のデュエルディスクになります。デュエルシティ参加用のエントリーネームを登録しますので、ご希望があれば仰ってください」

「エントリーネーム? 名前かな? シャルクでお願いします」

「エントリーネーム「シャルク」ですね。かしこまりました。……はい、登録完了しましたよ。では、ご健闘をお祈りします」

 

 エントリーネームの登録を終え、意気揚々とスタジアムへ入ろうとすると、一人のスタッフが何か不安気な表情でシャルクに声をかけてきた。何事かと思いながら、どうしましたか、と声をかけてみると――。

 

「あの……今しがた登録されたエントリーネームですが、ご本名と同じようでしたが、問題ありませんでしたか?」

「えっ? 本名じゃなくていいの?」

「はい。というか、むしろLiveデュエルで配信される名前ですので、秘匿性の高いニックネームのようなものを付けるのが通例なのですが……シャルクさんの場合ですと、ご本名をそのまま使われているようなので……」

 

 しまった、という声すら出なかった。

 元々、D-LIVEのアカウント自体は持っていたが、そこではネットマナー的に「サメ娘」という名前で配信しており、それなりにリスナーも居たものの、こうした大舞台で名前を大々的に晒すというのは、あまりにもまずい。

 今からでも「サメ娘」に戻せるものなら戻したいが、そのスタッフに聞いてみると、一度登録したエントリーネームは原則的に変更不可能らしい。もはや叫び声を上げることしかできない状況に、周囲からクスクスという笑い声が聞こえる中、一際大きくゲラ笑いしている声がひとつ。

 顔を仮面で隠した、そこそこ長身の少年だった。

 

「あんにゃろ……もし大会中に会ったら絶対にボコってやる……!」

 

 怒りはともあれ、エントリーネームの件については肩を落としつつも、デュエルシティが始まってしまえば名前など気にならないだろう、あるいは、リアル寄りのエントリーネームだと思われるくらいだ、と思いながら、シャルクはゲラゲラと笑う仮面の男を記憶に刻み付けて、開会式の始まるスタジアムへと向かった。

 

 

 

 

 開会式が終わり、受付でLiveデュエル専用のデュエルディスクを受け取った紺色の髪の少女――シャルクは、その季節外れな長いマフラーを翻しながら、さっそく第一のジムを目指して、始まりの街を出た。

 見渡せば、そこかしこで行われているデュエルモンスターズたちのぶつかり合い。11歳にして初参加のシャルクは、その興奮を抑えきれず、駆け足で荒れた道を進んでいく。

 

「あっ、君もLiveデュエリストだな! 視線が合ったらデュエル! 常識だよね!」

 

 走り始めてすぐ、短パン少年のゴローが勝負を仕掛けてきた。

 そう、この大会において、なんらかの理不尽な賭け事などをふっかけられない限り、仕掛けられた勝負は必ず受けなければならない。故にLiveデュエリストの間では「視線が合ったらデュエル」が基本なのだ。

 この大会で自身のデッキを――ひいてはそのデッキのモチーフとなった「ある動物」をアピールするため、シャルクもまたそのルールに則って積極的にデュエルを受けた。

 

「「オープンチャンネル! Liveデュエル、オンエアー!」」

 

 この大会に参加するデュエリストは200人以上。その誰もが頂点を目指し、その多くがトーナメントに辿り着くことなく脱落する。

 勝負の世界は非情だ。必ず勝者と敗者を二分する。しかし敗者が得られるものは勝者よりも多い。繰り返されるデュエルの中で、どれだけの敗北を次の勝利に繋げられるか。それがデュエリストの強さだとシャルクは知っている。

 だからこそシャルクのデュエルに後退の二文字はない。常に見えているのは「勝敗の向こう側」だけ。

 

 何度も勝って、何度も負けて、そしてその度に学習して強くなり、やがてトーナメントに食らいつく。それはまるで、狡猾にして獰猛なサメのように。

 

「これで終わりだよ! 《No.32海咬龍シャーク・ドレイク》で《セイバー・ビートル》を攻撃!」

「ぼくの《セイバー・ビートル》が……! でもライフはまだ残って――」

「サメの咬牙は逃がさない! シャークドレイクの効果発動! 戦闘破壊したモンスターを、攻撃力を1000下げて蘇生し、追撃ができる! 行け、シャークドレイク! デプスバイト!」

「う……うわあああああっ!」

 

 記念すべきデュエルシティ最初のデュエルを勝利で収めると、シャルクは力強くサムズアップし、対戦相手を讃えるように決まり言葉を投げかける。

 

「ブラヴォー! 楽しいデュエルだったよ、またやろうね!」

「うん! 君も大会がんばってね!」

 

 Liveデュエルを終え、その内容に対するコメントを振り返ってみると、やはり評価は様々であった。

 

「『相手の動きをよく読んだいいデュエルだった!』ありがとー! 『妨害の仕方がえげつない』まぁ妨害なんてみんなえげつないもんでしょ? 『性格悪そう』そこまで言う!?」

 

 シャルクの得意な動きは、パワーカードにあまり頼らず相手の動きを先回りして妨害したり、あるいは相手モンスターにデバフをかけて無力化したりと、良く言えばテクニカルでクレバー、悪く言えばパッと見が地味で陰湿なプレイング。

 それだけにLiveデュエルをエンターテイメントとして見ているリスナーからは不評だが、逆に戦略性の高いカードゲームとして見ている者からは好評を得ているようだった。

 彼女にとって幸いだったのは、彼女自身のメンタルがそうした辛辣な意見に対して極端に弱いわけではなかったことだろう。皮肉には皮肉で返し、称賛を素直に受け取る性質であったことが、彼女自身を救っていた。

 

「『なんでミラフォ使われた時にカウンター打たなかったの?』あれはですねー、あの時点で既に伏せには相手のターンで妨害できる札が伏せてあったのと、フィールドを一旦空っぽにした方が動きやすい手札だったからですよ。墓地に《ライトハンド・シャーク》いましたし」

 

 コメントを返しながら歩き続けていると、少し開けた空き地のような場所で、それなりに大人数の人だかりができていた。

 デュエルシティの参加者の中には、前年度にも参加していたLiveデュエリストもおり、そうした人物たちは前回のデュエルシティで得た固定ファンが既にできているため、こうして人だかりができていることもある。

 ただ、まだ開会式を終えて一時間ほど。ほとんどの参加者が最初のジムを目指して必死に進んでいる中、こうも足を止めてひとつのデュエルを見ているとなると、さすがのシャルクにも気にならないことはなかった。

 シャルクはデュエルディスクのLive機能を切ると、その人だかりを掻き分けて、その中で行われるデュエルを覗き見た。

 

「受けてもらうぞ、《レッド・デーモンズ・ドラゴン・タイラント》でダイレクトアタック!」

「うおおおおぉぉぉ、アッチィィィィィッ!!!!」

 

 Liveデュエル特有の、デュエル中の周囲に現れるLiveチャットパネルを覗いてみると、『いやそうはならんやろ』『BFでレッドデーモンズドラゴン……?』『変態デッキの見本市かな?』『そうはならんやろ』と困惑の言葉が連なっている。

 事実、シャルク自身もその場面だけを見て、この仮面の男が【BF】軸で《レッド・デーモンズ・ドラゴン・タイラント》という謎構築のデッキを使っていることがわかった。

 

「ターンエンドだ! デッキトップのドロー1枚で戦況は覆せるかもしれんぞ」

「できねーよ!!!」

「ちなみに、手札が0枚の場合《煉獄龍オーガ・ドラグーン》は1ターンに1度、相手の魔法・罠カードの発動を無効にして破壊するぞ」

「勝 て る かぁ!!」

 

 そのデッキが強いか弱いかはひとまず置いておくとして、ギリギリ納得のいく構築理由を捻りだしてみると、「BFの手札消費の激しさを《煉獄龍オーガ・ドラグーン》でアドバンテージに変えている」とも取れなくはない。

 まったく理解の届かない構築とプレイングではあるが、彼はそのまま圧倒的なパワープレイによって勝利を収めてしまった。すると、その謎構築デッキと非合理的なプレイングに反して、彼には周囲から拍手喝采が浴びせられた。

 確かに、彼のプレイングは大量のカードを一気に吹き飛ばす豪快な効果や、高火力で一気にライフを削り取る大型モンスターがいて、デュエルに詳しくない人からしてもその強さをわかりやすくアピールできていた。

 また、彼は序盤の動きが遅く、おそらくその構築ゆえの手札事故を起こしていたのだろうが、逆境に追い込まれてようやくそれが解消されたのか、そこからは怒涛の勢いで巻き返していったこともあって、「逆転劇」というエンターテイメント性の高いデュエルを見せていた。

 シャルクのようなタイプが「戦略家のデュエリスト」だとするのなら、彼は間違いなく「エンターテイナーのデュエリスト」だろう。引きの強さや、相手の動きなど、自身の実力ではどうにもならない「運」のようなものも鑑みた上で逆転に成功するところを見るに、彼は地力もそれなりにある方だろう。

 

(……なんか納得いかない。あんな戦略性も駆け引きもないデュエルなのに、こんなにも人々から認められるなんて……。それに何より!)

 

 緻密な戦略、ブラフの駆け引き、思考の読み取り。運や偶然ができる限り絡まないよう理論的に構築された安定性の高いデュエルを行う彼女にとって、その仮面の男は対極の存在であり、直感的に「敵」となるべきものであった。

 そして、そんな相手を見つけてしまった以上、デュエリストならば掛ける言葉は一つしかない。

 

「あなたさっきエントリーネーム登録してた時に思いっきり爆笑してた奴じゃん! さっきのアレめちゃくちゃ恥ずかしかったんだからね!」

「む? なんだ小娘、貴様も今回の大会の参加者か。よかろう、我が圧倒的な暴力で捻じ伏せてくれる! 我が名は蛮族! 名を名乗れぇい!」

「あたしはシャルク! ここで会ったが一時間目! デュエルだ!」

「では手加減なしでいくぞ! 全力でかかってこい!」

 

 蛮族と名乗るその男は、力強くデュエルディスクを構えると、その背後に巨大なドラゴンの幻影が浮かび上がったように見えた。

 

「「オープンチャンネル! Liveデュエル、オンエアー!」」

 

 シャルクと蛮族。これから幾度となく別れと出会いを繰り返し、互いを磨き上げていく二人の出会いは、こうして始まった。


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