指揮官は悶々としていた。その理由は、一部のKAN-SENによる過激なスキンシップである。
胸の谷間や太ももなどを露出させて目のやり場に困る服装をしているのに、指揮官の腕やら体に胸を押し付けてきたり、色々と妄想してしまう意味深な言葉を投げかけてきたり、指揮官を押し倒してきたりと、健全な男ならば反応に困ってしまうことが多々あった。
特に赤城やら大鳳やらの愛が重い面々に至っては言うまでもない。
止めるように言っても聞かない、控えるように言っても収まらない。
いったいどうすればいいのかと思い悩む指揮官の脳に、とあるひらめきが生まれた。
目には目を歯には歯を、ならば、ヤンデレにはヤンデレを。
普段、KAN-SENが指揮官に対して行っている振る舞いや言動をそのままやり返せば、自分が指揮官にどう思われているのか気がつき、言動を改めるのではないかと思い、指揮官は早速、考えを実行に移すために準備を始めた。
ある日のこと。大鳳が眠りから目覚めると、彼女が愛してやまない指揮官の寝顔が視界に写りこんだ。
「……あら?私、まだ眠っているのかしら?」
大鳳自身が指揮官の寝床に潜り込んで朝を迎えたことはあったが、その逆はない。
なので、まだ自分は夢の世界にいるのだと思った大鳳は、自分の頬をつねる。
「痛い」
頬をつねった痛みに、大鳳は顔をしかめる。しかし、大鳳の目の前から指揮官は消えない。夢から目覚めるためには、まだ刺激が足りないと思い、大鳳は拳で自分の顔を殴ってみた。
「い、痛い……ということは、これは現実……!?いえ、そんなはずは……指揮官様、失礼します」
まだ、目の前の光景が現実のものであると信じられない大鳳は、指揮官の眠りを妨げないように、指揮官のにおいを嗅ぎ、汗を舐め、肌を触る。
肌触りも、体臭も、汗の味も、何もかもが大鳳の愛する指揮官のものだった。
「んん……?」
目蓋が震えて、指揮官の目が開く。
「大鳳、おはよう」
「お、おはようございます指揮官様」
眠りから目覚めた指揮官からの挨拶に、驚きの抜けない大鳳はドモりながら挨拶を返した。
とりあえず、大鳳には良妻として指揮官に言わなければならないことがあった。
「他の子にこんなことをしたら、少し罰を与えますわよ?」
「ごめんなさい」
思わず、頭を下げて謝る指揮官。すぐに、このままだといつも通りになってしまうと立ち直り、事前に考えていたことを思い出す。
「よろしいですわ。まあ、驚きましたけど、正直なところ、嬉しくもありましたし……指揮官様が望むのでしたら、これからも……」
「大鳳、驚かせてしまって本当にごめん。その上で、改めて頼みたい。これからは俺と同じ部屋で寝てくれ。」
ようやく普段の調子に戻った大鳳は、頬を赤らめて言葉を続けようとする。しかし、指揮官はそれを遮る形で自身の言葉を述べる。
「……私と、指揮官様が同じ部屋で寝泊まり?」
指揮官が望むのならという名目で、自身の欲望を叶えようとしていた大鳳は、指揮官の口から飛び出た言葉に、自身の耳を疑った。
「ああ。大鳳が良ければ、毎日、大鳳と同じ布団で寝ようと考えているんだが、いいかな?」
「ま、毎日!?私と指揮官様が毎日同衾!?」
「ああ、そうだ。その、嫌か……?嫌なら、遠慮せずに断ってくれ」
「いいえ、嬉しいです!むしろ、もっと……キャッ」
赤くなった顔を、大鳳は両手で覆い隠す。その脳内では、ピンク色の妄想が次々と浮かんでいた。
少なくとも、何を考えていたのか大鳳と同類である赤城に知られたら、キャットファイトではすまないくらいには危ないものだった。
「指揮官様が毎日、私の部屋で……いいえ、指揮官様にご足労させるのはダメ……私が毎日、指揮官様のお部屋で……指揮官様の香りに包まれて……うふふふふ」
今後、指揮官との密月の日々を妄想して興奮する大鳳。
そんな大鳳を指揮官が引いた様子で見ていると、こんこんと扉が叩く音が部屋に響き、来客を告げた。
「こんな朝早くから誰だ?大鳳……大鳳?」
喜びのあまり、妄想にトリップして戻ってこれなくなっている大鳳に代わり、指揮官は来訪者の対応をすることにした。
指揮官が部屋のドアを開けると、ユニオン陣営に所属する潜水艦の一人、アルバコアがいた。
「えへへ、朝早くの、サプラーイ、ズ……えっ!?」
部屋から出てきた大鳳を驚かせようとしていたアルバコアは、早朝に大鳳の部屋から指揮官が姿を表したことに、逆に驚かされた。
「おはよう、アルバコア。大鳳に何か用事か?」
部屋を間違えたのだろうかと困惑するアルバコアは、指揮官の言葉からそうではないと現実に引き戻された。
「ほ、本物の指揮官なの?」
「本物って……ずいぶんな言いようだな?正真正銘、本物の指揮官だよ」
驚きのあまり、目を皿のように丸くしているアルバコアの言葉に、指揮官は苦笑しながら答えた。
「そ、そうだよね!ごめん、私、用事を思い出したから!」
早朝から大鳳にドッキリをかましてやろうと思っていたアルバコアは、予想できないまさかの事態に出鼻を挫かれたので、大人しく退散することにした。
(これ、誰かにバレたら……とんでもないことになる!ば、バレないようにしなきゃ!)
大鳳と指揮官が朝チュンしていた、と言いふらすことはサプライズなんてものでは済まない事態を招くとアルバコアは判断して、黙っていることに決めた。
慌ただしい様子で走り去っていくアルバコアを見送った指揮官は、大鳳の部屋の中に戻る。
「し、指揮官様と……ウヘヘヘ」
今も夢の世界にトリップしている大鳳。その表情は、もはや乙女のものではなかった。
「さあ、大鳳。着替えようか。いつまでも、寝巻きのままじゃ格好がつかないだろう?」
「……お着替え?」
大鳳はきょとんとした表情を浮かべる。何か、とても良いことを聞いたような気がするが、喜びで脳がショートして、理解が追いつかないのだ。
「ああ、着替えるんだ」
「し、指揮官様の、生着替え……あっ」
そこまで言うと、大鳳は鼻から血をドパッと流して倒れた。
「大鳳!?」
「あっ……あっ……あっ……」
指揮官が大鳳の下に駆け寄ると、大鳳は失神していた。
彼女の顔には、口も目も緩みきった歓喜と欲望の入り交じった表情が浮かんでいた。
このまま放っておくことなどできない指揮官は、大鳳をお姫様抱っこすると、医務室に向かった。
「朝早くから何をやっているんですか」
医務室に担ぎこまれた大鳳が、何故、早朝から気味の悪いアへ顔を晒して気絶しているのか知ったヴェスタルの呆れた表情と声を前に、指揮官は平謝りすることしかできなかった。