アズレン妄想SS集   作:八十八

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指揮官グッズ・ぬいぐるみ

指揮官が日々の業務に勤しんでいると、部屋の扉がコンコンと叩かれた。入室を許可すると、緑色の髪と猫耳を特徴に持つ少女──明石が部屋の中に入ってきた。

 

「指揮官、お願いがあるのにゃあ」

 

明石の媚びるような声色と表情に、指揮官はろくでもない話なのだろうと予想したが、内容を聞かずに拒否するのは失礼なので、とりあえず、話だけは聞いてみることにした。

 

「実は、明石の店に、新商品を追加したいのにゃ」

 

勝手に新商品を追加しては騒動を起こす明石にしては、わざわざ許可を取りにくるなんて珍しいことだと指揮官は思った。密造、密売くらいは平然とやりそうだと考えていたからだ。

 

「新商品は、指揮官グッズだにゃ」

 

予想できなかった新商品の内容に指揮官は思わず固まる。しばらくしてから、硬直から復帰した指揮官は、どんなものを作るつもりなのか明石に聞いてみた。

もし、変なものを作ろうとしているのなら、絶対に許可は出さない腹積もりだ。

 

「安心するにゃ。明石は、変なものは作らないにゃ。作ったのは、ぬいぐるみだにゃ。これがサンプル品だにゃ」

 

明石が持ってきた鞄から取り出したぬいぐるみは、簡略化した軍帽と軍服を着た人型のものだった。ぺたりと尻餅をついて座るぬいぐるみの姿に、むさ苦しい風貌の軍人をぬいぐるみに相応しいように上手くデフォルメしたな、と指揮官は感心した

これならば商品として取り扱うことを許可してもいいが、指揮官には懸念していることがあった。

 

「大丈夫にゃ。明石は重桜のKAN-SENだから、ちゃんと分かっているにゃ」

 

指揮官の考えていることを察したのか、明石は、赤城や大鳳ら愛が重い一派への対策はきちんと考えていると自信満々に胸を張って答えた。

本当に大丈夫なのだろうか、と一抹の不安はあったが、明石がここまで言うのだからきちんと考えたことだと指揮官は明石を信じて許可を出した。

 

「ありがとうにゃ!お礼に、このサンプル品を贈呈するにゃ!」

 

自分をモデルとしたぬいぐるみを渡されて、指揮官は微妙な気持ちになったが、明石の好意を無下にはできず、サンプル品のぬいぐるみを受け取った。

誰かに渡そうかとも考えたが、そうした場合、絶対に何かしらの騒動が起こることが容易に想像できたので、指揮官はサンプル品のぬいぐるみは自分で保有することにした。

 

 

 

 

 

明石に新商品販売の許可を与えてから一週間後、明石から今日から新商品を売り出すと報告がきた。明石は一部のKAN-SENへの対策をきちんと考えていると自信満々に言っていたが、本当にそうなのか確認するために指揮官は、その日の業務に一段落がつくと、明石の売店に向かった。

 

指揮官が売店に到着すると、売店前の広場では多数のKAN-SENが集まっていた。

そのKAN-SENたちの前には、明石がいる。明石の前に設置された机の上には、大きな箱が置かれており、明石の後ろにはどこから調達してきたのか分からない電光掲示板があった。

 

「これから抽選を始めるにゃ!渡した抽選券はちゃんと持っているかにゃー!?ぬいぐるみは、それと交換で渡すから絶対に落としたり無くしたりしないように注意するにゃ!」

 

嫌な予感を感じながら、指揮官は集まったKAN-SENたちに視線を向ける。赤城や大鳳といった何か騒動を引き起こすのではないかと指揮官が懸念していた面々は当然いた。

 

「早く始めなさい」

 

赤城の言葉は並んでいる多くのKAN-SENが思っていることだったらしく、同意する言葉が次々と出てくる。

 

「分かってるにゃ。じゃあ、最初の当たり番号を発表にゃ」

 

そう言うと、明石は箱に手を突っ込んで入れて、箱の中を掻き回すように腕を動かすと、数字の書かれたピンポン玉を1つだけ掴み、箱の中から取り出した。

 

「最初の当たり番号は、123、123にゃ!抽選券に書かれた番号が123のKAN-SENは、抽選券をきちんと持って、店の中にいる不知火のところに行くにゃ。そこで、抽選券と商品を引き換えるにゃ!」

 

明石が大きな声で宣言すると、電光掲示板に、123と大きな文字が浮かび上がった。

当たりか外れかは、その番号を見たKAN-SENたちの表情を見れば分かった。外れたものは差はあれど、落胆か悲しみの表情を浮かべている。

 

「うう、最後の一桁だけ違う……」

 

番号が近いものは、何度も自分の持つ抽選券に書かれた番号と電光掲示板に浮かんだ番号を見比べて、肩を落とす。

 

「やったぁ!山城、当たりました!」

 

喜色満面の笑顔を浮かべた山城は、売店の中に入っていった。引き換えを済ませて店から出てきた山城の腕には紙袋が抱えられていた。

 

「えへへ、嬉しい」

 

るんるんと明るい様子でスキップを踏みながら、山城は自室に戻っていった。

 

「次の番号を発表するにゃー!」

 

明石の言葉で、KAN-SENたちの様子が変わる。一部の者に至っては目が血走っていた。

 

「次の当たり番号は、456!456にゃ!」

 

「あら、当たりました」

 

次の当たりを引いたは、山城の姉である扶桑だった。

扶桑は妹と同じように売店の中に入っていき、一つの紙袋を抱えて出てきた。

 

 

 

それから、明石は次々と当たり番号が発表されていく。

新たな当たり番号が発表される度に、ある者は喜び、ある者は嘆き、様々な反応を見せる。

そうこうしているうちに、一部のKAN-SENたちから、不穏な空気が漂い始めた。

 

「おかしい、おかしいわ……どうして、私の番号が当たらないの……」

 

「ご主人様ぁ、ダイドーを捨てないでください……」

 

「……当たった高雄ちゃんから、ちょっとだけ借りようかしら」

 

「あー、皆、指揮官が見ている前ではしたない真似をしちゃダメにゃ。ぬいぐるみ以外の商品の開発許可が、出なくなってもいいのかにゃ?」

 

中々自分が当たりを引けないことに、業を煮やした一部のKAN-SENが暴走する前に、明石は待ったをかける。

指揮官が見ている。その一言で、不穏な空気を漂わせていた者は動きを止めた。

 

「えっ……指揮官様が、見ている?」

 

「姉様、あそこにいます」

 

赤城に付き合わされて並んでいる加賀が指揮官がいる場所を指差す。

明石は指揮官が心配して様子を見に来ることを計算に入れて、対策は取ったと言ったのだ。

それを察した指揮官は、次からは許可を出さないようにしようと心に決めた。

 

「あらぁ?指揮官様の存在に気が付かないなんて、それで指揮官様を愛しているとよく言えますわね?」

 

大鳳の煽りに、赤城のこめかみがピクピクと震える。

お前も気が付いていなかっただろう、と大鳳に言い返したい赤城だったが、愛する指揮官の前でそんなみっともない真似はできない。

ここは、先達として大人の態度というものを見せるべきか、と引き下がることにした。

簡単言うと、無視である。

それを見た大鳳も、これ以上煽り続けるのは自分にとって良くないと判断し、煽ることは止めて、次の当たり番号の発表を待つことに決めた。

 

「では、次の当たり番号は、333にゃ」

 

「うふっ」

 

次の当たり番号は、赤城の持つ抽選券に書かれた番号だった。赤城は笑うと軽やかな足取りで売店の中に向かった。

 

「んふふっ」

 

「ど、どうぞ」

 

喜びを抑えきれない赤城は、笑みを浮かべて、笑い声を口の端から漏らしながら、不気味なものを見る眼差しを赤城へ向ける不知火に抽選券を手渡し、目的の品を入手した。

その姿を大鳳は、歯軋りをしながら睨み付けていた。

 

「くっ……よりにもよって、赤城さんに先をこされるなんて……」

 

「まあまあ、大鳳さん。そう焦らないでください。まだ、あんなにあるんですから、これからですよ」

 

「そーそー。果報は寝て待てってね」

 

鈴谷と熊野は大鳳を励ます。しかし、似た者同士である赤城に先を越された大鳳への効き目は薄かった。

 

 

 

そうこうしているうちに、当たりの番号は次々と発表されていく。やがて、明石の口から次が最後だと宣言する言葉が出た。

 

「つ、次が最後……」

 

自身の持つ抽選券の番号が発表されず、次が最後であるとの言葉を聞いた大鳳の精神は、すっかり打ちのめされていた。

 

「た、大鳳、しっかりして」

 

熊野の励ます言葉も、今の大鳳では、耳をすり抜けて言ってしまい、意味をなさない。

熊野の姉妹艦である鈴谷は、少し前に、当たりを引いて自室に帰っていた。帰る時、鈴谷の鼻息が荒かったことは、熊野は見なかったことにした。今ごろ、鈴谷が部屋で何をしているのかも考えないことにした。

 

指揮官も午後の業務をこなすために、執務室に戻っていったので、この場にはいない。

だからなのか、大鳳の精神から自制の念が消えつつあった。

 

「ふ、ふふふ……こうなったら、最後の手段を……」

 

「最後の当たり番号を発表するにゃー。最後の当たり番号は、194、194にゃー」

 

疲れた様子で明石は最後の辺り番号を発表した。

 

「……えっ?」

 

電光掲示板に浮かび上がった番号と、自分が持つ抽選券に書かれた番号を大鳳は見比べる。それも、一度や二度ではなく、何度も何度も見比べる。

大鳳の持つ抽選券に書かれた番号と、電光掲示板に浮かぶ番号は、同じものだった。

それを認識した瞬間、大鳳の狂気的な笑みが、ぱあと花が咲くような笑顔に変わる。

 

「当たった?」

 

「はい!行ってきますね!」

 

熊野の問いに、大鳳は嬉しさの爆発した声で答えると、早足で売店の中に入っていった。

 

「ふふふ、指揮官様……」

 

売店の中から出てきた大鳳は、指揮官ぬいぐるみが入った袋を、大切そうに抱えていた。

 

 

 

 

 

「指揮官、次はブロマイドにゃ!」

「ダメだ」

「なら、フィギュアにゃ!」

「ダメだ」

「じゃあ、抱き枕カバーにゃ!」

「ダメだ」

「どんな商品なら、許可を出してくれるんだにゃー!?」

「とにかくダメだ」

 

後日、明石から新しい指揮官グッズの開発および販売の許可を求められたが、指揮官はその全てを却下した。

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