あなたが落としたのはきれいな無惨ですか?   作:三柱 努

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とある隊士見習いの近況報告【前編】

努力するのが苦手です。地道にコツコツするのが一番しんどいです。

そんな俺は今、藤襲山で鬼の表の顔をやってます。

 

元々は鬼殺隊の隊士になるはずだったんだよ。だけど俺の修行中に鬼の親玉が倒されちゃったらしくて。

でも招集がかかった。隊士見習いの扱いで鬼の里に呼ばれた。

そりゃ『はぁ?』って思ったよ。だって意味不明だもんな。鬼と戦うために辛い修行をしてたのに。こちとら誰かと戦うのすら怖いのに。

そんなんで来てみたらまぁ鬼って平和! なんでこんないい奴らのこと殺そうとしてたの? 鬼殺隊って異常者の集まりなんじゃない?

なんでもここにいる鬼たちは無害で、今は人間みたいに普通に暮らしているらしい。

だけど日光が弱点なのは変わらないから、昼の活動に困っているそうだ。

里で作ったものを人里に出て売ったりとかの“表の顔”をする人間が必要なわけだ。

だけど鬼殺隊の人間って、鬼に家族や仲間を殺されたりして恨みのある人間が多い。

そこで俺に白羽の矢が立ったんだな。だって俺、鬼に直の恨みって無いもん。

 

この表の顔ってのは基本的に鬼一人につき顔役が一人。鬼の相棒って感じだな。

で、俺の相棒が発表されたんだけど、『累の家族』って聞いて最初は嬉しかった。

だってあの一家って美人揃いだろ? 俺的にはお母さんがよかった。あのふわっとたゆんっとした・・・

「くふっ。よろしく頼むぜ」

兄だった。クソ。

 

 

って感じで始まった俺の顔役生活。思ってたより快適なんだ。

鬼は皆優しいし、仕事もそんなにキツくないし。何より優しい音がする鬼が多い。

人間の音と鬼の音は違う感じがするから本当にそうなのかは分からないけど。

累のお姉さんの一人が、ちょっと嫌な感じの音だったりする気もするから、あんまり信じたくない気もするけど。

ただ、生まれてきて今までで一番優しい音がしたのは無惨様だった。

この鬼の里の長で、俺の事を特に気にかけてくれている。他の顔役から「ただの自意識過剰」とか言われたけど、俺の事を絶対に気に入ってくれてる。俺が言うんだから間違いない。

そんな無惨様が鬼の親玉の鬼舞辻無惨だったって聞いて、俺は生まれてきて今までで一番驚いた。

ちなみに二番目くらいに驚いたのは、俺の修行が終わって最終選別まで進んでいたら、この鬼の里で一週間、鬼と殺し合いをしなきゃいけなかったかもしれないって知った時だった。

 

 

「猪突猛進!」

コイツが厄介な伊之助。俺が三番目くらいに驚いたのは、コイツも無惨様のお気に入りだったこと。

頭突きが基本挨拶で、俺はたいてい地面に口づけさせられてた。俺の事、何故か子分だと思ってる。

イノシシの被り物した変な奴。唐突すぎる変な奴。誰にでも喧嘩を売る変な奴。

なんでこんな奴を気に入ってるのか分からないけど、コイツと話をしてる時の無惨様の心の音は気持ち良く高鳴ってるんだよなぁ。

だけどちょっと甘やかしすぎだと俺は思う。ちょっとじゃなくてだいぶ。すごく。

下手な隊士より腕っぷしが強いんだよコイツ。きっと最終選別とかに飛び入りで参加しても、普通に隊士になれちゃってたんじゃないか?

でもって鬼にも平気で喧嘩売ってる。まぁ鬼って女の子でも力が強いから、よっぽどのことがないと伊之助には負けない。だけど下手に勝つと伊之助が鬱陶しく再戦を求めてくるから皆逃げてる。

ある日、父さんの堪忍袋の緒が切れて、めっちゃ叱られてた。累の父さんな。

父さん怒ると顔が蜘蛛になるんだよ。怖ぇよ怪人蜘蛛男。

そん時、伊之助はこれでもか!ってくらいに叱られて、それからしばらく大人しくなってた。

周りの鬼たちにも「ゴメンネ」って日頃の無礼を謝って回ってた。

俺の所にも来た。

「ツヤツヤのドングリやるから、許せ!」

俺の所に来た頃には、大人しさが消えかけてた。いらねぇよ。

「じゃあ、この珍しい花をやる!」

いらねぇよ。なんだよこの彼岸花。青いのとか見た事ないけど。男に花なんか貰ったって嬉しくも何ともねぇよ。

「じゃあ、かまぼこの妹に貰った草履をやる!」

 

 

 

ええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!

いいの!?

本当にいいの!?

なんだよ伊之助、イイ奴じゃないか!

 

ところでこの草履、何処にしまってた? どっから取り出した?

「ん? ふんどしに挟んで」

表に出ろやクソイノシシ!

 

この時は俺まで父さんに叱られた。俺の顔、すっげぇボコボコなんですけど。喧嘩両成敗とか意味不明なんですけど。

 

 

 

あと無惨様のお気に入りって話で理解できないことといえば、甘露寺さんのことだな。

無惨様のところによく遊びに来てる鬼殺隊本部の隊士の人。

ちなみに鬼殺隊は鬼の親玉が消えてから、隊士の半分以上が辞めていったらしい。

悪い鬼が全然出て来ないから。それっぽい情報があって現場に行っても、人間の悪事ばっかりで鬼の気配も無いんだって。

それでも万が一に備えている隊士が半分くらい。残る半分が鬼の里で働いている感じ。

甘露寺さんはそんな風で本部からちょくちょく通ってる。無惨様も甘露寺さんに会うたびに、音が子供みたいに軽快になってる。

これは気があるんだろうな。鬼も人も男は誰だって好みは同じ。俺だってあのたゆん・・・

 

と思ってたら、無惨様が甘露寺さんに縁談話を持ち掛けたらしい。

しかもお相手はネチッこい隊士。俺、あの人苦手。なのに何故か無惨様は推しまくってた。

何故? 自分のお気に入りの子を? あんなのに?

しかも何故か上手くいってるらしいし。本当に理解できない。

 

 

あともう1つ理解できなかったのがつい最近、自分たちで里に来た鬼のふたり。

すっごい美人の珠世様って方と・・・由太郎、だっけ?

鬼の安住の地だって噂を聞いて来たらしいんだけど、無惨様の名前を聞いて警戒しまくってたからよく覚えてる。

あんなに乱れた音を俺は聞いたことがない。俺自身が女の人に騙された時だって、ここまで音が乱れたりしないのに。

そんな珠世様が無惨様にお会いした時に向けた顔が、軽蔑や侮蔑なんて言葉じゃ言い表せないくらい。あんな顔を女の人に向けられたら、もう男として自信無くすんじゃないか?ってくらい凄い顔だった。

なのに無惨様は平気そうだった。いや、嫌われるのが好きとかじゃなくって、しっかり落ち込んではいらしたんだけど。不思議なのが、何か懐かしいものを見た時みたいな音を出してた。

ますます不思議な方だよ無惨様。

ちなみに由太郎も凄い顔してた。その顔に対しては無惨様、すっごく落ち込んでた。ますます理屈が分からない。

まぁいいか。里に美人が増えることは良い事だ。大歓迎。野郎は増えるべきではない。

 

 

さてさてさて。そんな俺に朗報です。

隊士の先輩たちの噂話を小耳に挟んじゃいました。

 

美人が増えるぞぉ!

 

本部の胡蝶姉妹っていう美人さんが里に引っ越して来るんだって。

そういう任務が出来たんだって!

しかも他にも女の子がたくさんついて来るんだって!

鬼の里って基本的に転居してくる人がいないから、顔ぶれ変わらないんだよ。

最後に越してきたのも禰豆子ちゃんたちだけだったらしいし。それ以降で里に住むようになったひといないって。

何度でも言うよ。女の子が増えることは素晴らしいことだ。野郎不要。

さ~て明日から楽しみだ~

 

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