なんでか知らないけど怒られた。
「テメェもっと早く言いやがれ」
人生の敵って不条理だと思うんだよ。
不死川とかいうらしいんだ。顔中体中傷だらけで、左腕が無い。見た目鬼でしょ、こういうのが。累の父さんとどっちが怖いって言われて少し悩むくらいの怖さなんだよ。
元・風柱なんだって。こんな奴がじいちゃんみたいに育手になったら被害者が可哀そう。
会うたびに「二度と来るな」って思うけど、無惨様のお気に入りなのか里に何度も来る。そのたびに無惨様に気安い口を叩いたりしてるから俺は嫌い。累も嫌ってる。
なのに無惨様が許可してるから不可解。というより無惨様って基本、この世の全てのものが「好き」か「すごく好き」か「とっても好き」かのどれかでしかないんだと思う。
その不死川がまた来た。前みたいな騒動を起こさないでほしい。
混ぜるな危険って言うんだよな。
「おい、何が言いてぇんだぁ? 冨岡ぁ」
ってめっちゃ喧嘩売ってた。俺が通りかかった時に限って、こういう運の悪いことが起きる。
絡まれた人、冨岡さんっていうらしいんだけど、この人も多分怖い人。
この人を最初に見た時、子供の鬼が土下座するくらい謝ってた。うわぁって俺思わず声に出たもん。遠かったから何を謝ってたのか知らないけど。
そんな怖い人と怖い人が混ざると怖い事しか起きない。
で、その冨岡さんが何を言いてぇかったのかというと・・・
「いや思っただけだ。左腕に行っていた分の栄養が脳に行かないのか? と」
空気が凍ったね。
音が静かだった。凪って感じで。多分、悪気とか無いんだろうな。本心なんだろうな。
でもって無神経でしょ冨岡さん。
この時俺、その隣にいるんですけど。
「上等だコラァ!」
起こるべくして怒ったね。不死川の大嵐。冨岡さん、他人が巻き込まれる位置にいるのに嵐を起こすから、きっとみんなに嫌われてる。
「何なんだよこの人たち。馬鹿なんじゃねぇの!?」
暴風雨に巻き込まれて、命からがら逃げた俺が思わず愚痴ったら、そこにいた人に殴られた。
「俺の兄貴を侮辱すんな!」
兄弟でしたか。たしかによく似てる。すぐ手が出るところが。
というのがあったから俺は絶賛警戒中。
でも今日の不死川は少し上機嫌な音がしていた。
「いよいよだな」
何が? 何でわざわざ俺に話しかけてきたのこの人?
「あ? テメェと猪坊主が見つけたんだろ? 青い彼岸花」
ああ、それ伊之助。そういえばあいつが俺以外にも自慢してた頃だったか? その頃から里がすごく忙しくなったのは。
人手が足りないっつうか、隠や隊士がどんどん里の外に出ていったんだよ。何か色々と買い出しに行ったり調達に行ったり。俺は里に残る班にいたから詳細しらないけど。面倒だったから。
あとそういえばその頃から珠世様が家っつうか研究室? に閉じこもってしまわれたせいでなかなかお会いできなくなったな。
「ついに完成したって聞いて、俺もグッときたぜ」
だから何が?
「鬼を人に戻す薬」
はい?
どうやら青い彼岸花、鬼舞辻無惨が必死に探し求めていたものらしい。
で、それを伊之助が見つけてから鬼殺隊が大騒ぎになって。
鬼舞辻無惨は元々鬼殺隊の当主の産屋敷様の一族だったらしく、元は人間だったのが何かのきっかけで鬼になったらしい。
おそらくその過程で関係したのが青い彼岸花。
それを手掛かりに青い彼岸花の大研究が始まって、珠世様は鬼殺隊の医療班である胡蝶様たちと一緒に色んな材料と調合したりしていたらしい。
皆でその材料集めを頑張っていたから、そのしわ寄せがきて俺たちの仕事が忙しくなってたんだと。
今初めて知った。
「鎹鴉から聞いてねぇのか?」
あぁ、カラスね。伝令用にってもらえる、隊士一人に一カラス。
俺の、スズメですけど。チュンチュン鳴いてるだけの。
なんか話によると、今日は鬼みんなでその薬を飲む日なんだって。
それに立ち会うために関係者がたくさん来るらしい。
どうりで朝から騒がしいわけだ。わっしょいわっしょい言うからお祭りでもあるのかと思ってた。
「もちろんテメェも参加するよな?」
しないという答え、言わせる気ありますか?
でもそんな重大な場面に立ち会わないわけにはいかないでしょ。行って損があるわけでもないんだし。
ということで俺はいつものように大きな日除け傘を持って累の兄貴を迎えに行って、みんなが集まる里の集会場に向かった。
会場は鬼と隊士と隠と無惨様と・・・とにかく人と鬼でいっぱい!
珠世様が大風呂敷に包んだ薬を運んできた。
小瓶に針がついていて・・・
てっきり飲み薬だと思ってた。注射なんだ。太くて痛そう。
「今日はお集りいただきありがとうございます。長きにわたり私たちは鬼舞辻無惨によって鬼の体となり苦しめられてきました。家族や友達を喰い、太陽に嫌われ、鬼殺隊の方々に追われる日々。ですがこちらの無惨さんのご尽力もあり、一つ一つの呪いを乗り越えることができました。今では人として暮らしていけるまでになりました」
珠世様の演説に、鬼のみんなが歓声を上げて喜んでる。俺も胸がジーンってきちゃうくらいさ。無惨様は照れながら「そんなことは」って謙遜してたよ。いや、このひとのお陰でしょ?
「そして今日、その最後の呪いを克服する日が参りました。鬼を人に戻す薬。私は一足先にこちらを使い、人の体に戻る事ができました」
そう言うと珠世様は小刀で自分の指を切った。痛そう。
だけどその傷が治らないってことは、もう鬼の体じゃないって証拠。
それから皆の元に薬が渡されていった。
鬼のみんな、なかなか興奮が治まらないけど、ここで下手に瓶とか割っちゃったら元も子もないから慎重に渡していかなきゃならない。
薬を貰った鬼から、待ちきれずに自分の腕に刺し始めてたよ。
子供の鬼だったり女の子の鬼だったりは、注射がちょっと怖そうだったけど、そういう子には無惨様が直々に手を握りに行ってくださっていたから、みんな安心して人の体に戻っていった。
でもって最後に残ったのは無惨様。
「あ、私は打ちませんよ」
????
「え? 無惨様?」「どうして?」
みんな口を揃えるさ。俺だって目ぇ丸くしたくらいだもん。
「人に戻ってしまえば、鬼の彼岸に旅立つことができなくなってしまうでしょう。先に逝った妓夫太郎さんや梅さんたちにお会いできなくなってしまいます」
俺は面識がないけど、先に死んでいった鬼にもイイひとがいたらしいんだ。
生きてるうちから死んだ後のことを心配しているとか、無惨様の想いの深さは俺には真似できない。
って思ってたら、出しゃばってきたのは案の定の不死川。
無惨様の手から薬をヒョイと取ったかと思うと、薬を無惨様に打っちゃった。
「「「何やってんだ! アンタは!」」」
もう非難轟々さ。無惨様も口をパクパクさせてる。俺ももう開いた口が塞がらなかったね。
「あ? これでいいんだよ。死んでいった奴らがアンタに望むことを考えろよ。鬼舞辻無惨の最後の最後の呪いっつうのは、アンタが鬼の生き方に縛られることだ」
俺は怒り半分で聞く耳持たなかったけど、けっこう皆冷静だったみたいで不死川に言い返せなかった。
「それにアンタならどうせ閻魔様にもゴネ倒して、人の天国と鬼の地獄を行き来できる通行手形でも手に入れるだろうが。そいつを死ぬまで楽しみにしとけよな」
不死川がニヤリと笑うと、無惨様も苦笑いしながら「はい」って答えてた。
ちなみに注射がめちゃくちゃ痛かったらしい。
なにはともあれ。これでこの世に鬼はいなくなった。
考えてみれば凄いことだよな。
集会場から出た皆が、お日様の下に出た事を涙流して喜んでた。
俺までもらい泣きしそうだったよ。
だけどまだ我慢。俺の視界が涙で塞がってはならないのだ。
「お兄ちゃん!」
「ああ、禰豆子! お前もやっと人間に戻ったんだ!」
炭治郎、抱き合ってるところすいませんが、いったん視界から脳内消去させてもらいます。
ギャィィアアアアアァァァァァァ!!
可愛すぎて死にそう!
月明かりの下の禰豆子ちゃんも素敵だったけど、太陽の下の禰豆子ちゃんもたまらなく素敵だよ!
素晴らしいよ!
禰豆子ちゃんは可愛い。可愛すぎて有罪だ。もう俺を有罪にしてくれ。一緒に有罪になろう。
禰豆子ちゃんの目は瞳は両目はまるで瑠璃みたいに綺麗で奥まで透き通ってとにかく可愛い。瑠璃なんて見たことないけどとにかく可愛い。眉もおっとりしてキリッとして凛として可愛い。眺めているだけで鬼の里の仕事なんていくらでもこなせるぜチクショウめ。何なら斧を二本持ってこい。二刀流で薪を割り尽くしてやる。でもって「まぁカッコいい。こんな方の妻になれたらどんなに幸せなんでしょう」って言ってもらって炭治郎の義弟になりたい。頬っぺたがプルンとしてクリンとして柔らかそうで可愛い。ツンって指で突いたら伊之助を背負い投げできるくらい可愛い。ツンって俺の頬も突いてほしい。一緒に突き合いっこできたら死んでもいい死にたくない。もう目元だけで俺の筋肉は九割九分は増量したのが五臓六腑から実感できる。この時のために俺は生きてい
【平安コソコソ噂話】
今回は物理的ツッコミ要員が揃っているので、後編を割愛せずに済みました。