登場人物の色々な特徴が反転した世界を描きます。
炭治郎 → 竈門家に現れたのが汚い無惨だった場合の炭治郎。つまり原作炭治郎。柱稽古の途中の頃。
無惨 → きれいな無惨だけど、鬼ではなく人間。本作最終決戦後、人間に戻る方法を模索していた頃。
この2人が出会います。
2人以外のメンバーも色々反転します。2人以外のメンバーのほうが反転度合いが激しいです。
それでは どうぞ
きたない無惨に出会った炭治郎と、きたない無惨を乗り越えたきれいな無惨
「・・・ここは?」
まどろみの中、ふと意識を取り戻した炭治郎は自らの置かれている状況に困惑していた。
記憶では他の隊士仲間たちと共に柱の元で稽古に励んでいたはず。
だが目の前の景色はどう見てものどかな町の中。
道行く人こそ少ないが、誰もが温かな日陽の下で幸せに過ごしている。
誰一人として、走ったり、柔軟体操をしたり、木刀を振り回したり、滝に打たれたり丸太を担いだり岩を押したりしていない。
誰一人として、打倒鬼舞辻無惨のために鍛えたりなど・・・
「あれ? 炭治郎?」
炭治郎に声をかけた青年がいた。長めの黒髪を纏め、上品な雰囲気を漂わせ、炭治郎にとって見覚えのある顔の・・・
「き・・・鬼舞辻・・・無惨・・!?」
「え? はい」
炭治郎は全身の血が沸騰するのを感じた。
親の仇、多くの人々と鬼を苦しめてきた全ての元凶。最も憎むべき鬼。
その鬼舞辻無惨の接近を許してしまったことに、炭治郎は自分でも驚くほどに瞬時に戦闘態勢に入った。
だが腰に日輪刀は無い。鬼を唯一、倒すことのできる手段が。
そう、日光以外に弱点のない鬼を・・・
「・・・え? あ? え?」
その事実に気付き唖然とする炭治郎。それもそのはず。
晴れている。気持ちのいい日光がさんさんと降り注いでいる。
否。それ以前の大前提。
無惨があまりにも呑気・・・素っ頓狂と言った方がしっくりくる。
「あの、どうかしましたか炭治郎?」
敵意も無いし害意も無い。
とても親し気に話しかけてきた無惨は、臨戦態勢でこちらを睨む炭治郎の意図を読むことが出来ず、彼の視線を追って周りをキョロキョロする有様であった。
本当に鬼舞辻無惨なのかと炭治郎は自信がなくなってきた。
思えば浅草で一度だけしか会ったことがない。あの時は夜。しかも初めて見た都会の明るさに困惑しながらだ。
そして今。唯一の頼りである匂いも何か違う。記憶が曖昧になってきているせいかもしれないが、そもそも鬼特有の悪臭がしない。鬼であるかどうかすらも怪しく思えてくる。
しかも目の前の無惨は鬼特有の紅梅色の瞳や縦長な瞳孔ですらない。
「あ・・・あの、あなたは・・違っていたら本当に申し訳ありませんが・・・鬼の・・・鬼舞辻無惨?」
炭治郎の自信の無い問いに、無惨はさも当然のように「はい」と答えた。
鬼舞辻無惨だ。間違いじゃなかった。多分。
「どうしたんですか炭治郎。なんだか初めて会ったみたいに。え? まさか・・・」
そう言うと無惨もまた自分の置かれた状況に驚き始めた。
天を仰ぎ、自分の手を眺め、体をペタペタと触り、「まさか、またですか?」と呟き。
「炭治郎、どうしましょう。私、人間に戻ってしまいました」
何故かアワアワと慌てふためく無惨を、炭治郎は目を丸くして眺めるしかなかった。
「あ、違いました。戻っていいんですよね。あっ、いえいえ私だけ人間に戻ってしまっても意味がありません・・・あ、でも。いえ・・・」
無惨の自問自答について行けない炭治郎であったが、1つだけ確信した。
この無惨を放置できない。だが、どうしていいかわからない。世話焼きな炭治郎を以ってすら手に余るのだ。
『もし仮に本物の鬼舞辻無惨だとして、これが俺を油断させる演技だったら? 浅草でもそうだった。人のふりをしているのかもしれない。だけど鬼なのに日光の下で平気なのか? 鬼舞辻無惨だけは特別なのか? それともただの別人? なのに鬼舞辻無惨だと自分でも言っている。何なんだ?』
現状、可能性は2つ。本当に鬼舞辻無惨。もしくは自分を鬼舞辻無惨だと思っているそっくりさん。
炭治郎の手に負える案件ではない。
そんな矢先、炭治郎の元に2人の隊士が近づいてくるのが見えた。
「あ、炭治郎くんに無惨さんだ。おはよう」
炭治郎は最初、女の子が話しかけてきたのかと思った。
だが声が伊之助だった。だから伊之助だ。イノシシの頭を被っていない伊之助だ。善逸と一緒に歩いて来た伊之助だ。
しわ一つなく清潔に保たれた隊士服をピシッと着て、近づくと遠慮がちに炭治郎たちに会釈した。
視覚的特徴から色々と違和感があった。
『たんじろう・・・くん? むざん・・・さん?』
炭治郎は一瞬固まった。
顔が強張って凍り付いているのが自分でもわかった。
伊之助らしからぬ。そうとしか言えない。
ただでさえ無惨に手を焼いている時に、伊之助まで異常をきたしている。
炭治郎は無意識に祈っていた。
善逸だけは
善逸だけは
「フッ。どうしたんだい炭治郎。かわいい鳩が豆鉄砲くらってるぜ」
そう言って炭治郎のおでこをツンとつついた善逸。
炭治郎は反射的に2,3歩退いた。
気持ち悪い。それしか考えられなかった。
「どうしたんですか伊之助。我妻くんも。何か変なものでも食べましたか?」
無惨の問いに伊之助も善逸も「いいえ」と答えた。炭治郎とは違い、まるで慣れたように接していた。
「え? 変なものですか? えっと昨日の御夕食はぁ」
「ハッハー。何を言ってるんですか無惨様は」
そう言って伊之助の肩に腕を回す善逸。伊之助は少し恥ずかしそうに微笑んでいる。
腐・・・・・・った油のような匂いがする気がする。酷い悪臭とまではいかないけれど。炭治郎に悪寒が走った。
事態は炭治郎の許容範囲を超えていた。
「そんな・・・善逸まで。伊之助まで」
「何か変です・・・まさかとは思いますが、これは夢なのでは?」
無惨の呟きに炭治郎は「そうか!」と同調した。
「下弦の壱の血鬼術だ。俺が前に見せられた夢もそうだった。言うはずが無いんだこんなこと、善逸と伊之助が!」
随分と善逸と伊之助を侮辱した夢だなと炭治郎は思った。
だが侮辱しているとするなら、わざわざ鬼舞辻無惨まで? そう考えると下弦の鬼の夢ではない。炭治郎は首を傾げた。
「血鬼術・・・そうか、私の夢ですよ炭治郎。私の血鬼術は正夢を見るんです。夢の中でその人の本当の心を知ることができるんです」
無惨は確信した。これは夢の中。だからこそ鬼であるはずの自分が唐突に人に戻り、炭治郎や伊之助、善逸の様子がいつもと違っているのだ。
「・・・いや。流石にそれは・・・」
炭治郎は無惨の説を否定したかった。
本当の心。本性が現れているというのなら、こんなものが善逸と伊之助の本性であるはずがない。
ならば無惨の夢でなければ自身の夢? そうなると2人を侮辱しているのは自分自身ということになる。
炭治郎はますます頭を悩ませたがー-
そこに新たな悩みの種が。
「おはよう炭治郎! 今日も仕事、頑張ろうぜ!」
快活な声で挨拶してきた少女がいた。腕をブンブン振り回し、我が道を遮る者は排除してやると言わんばかりの横暴っぷり。その姿に炭治郎と無惨は目を見張った。
「カ・・・」「カナヲ!?」
温ではなく豪。静ではなく騒。カナヲではないカナヲ。
ショックが大きすぎて2人の開いた口は塞がらなかった。
「あっ、てめぇ男色野郎! また私の炭治郎に手ぇ出してんじゃねぇだろうな!」
「こらこらカナヲ。女の子がそんな言葉使いをしちゃいけませんよ」
善逸に食って掛かるカナヲを、背後でちょこんと大人しくしていた姉・しのぶがなだめた。
「よかった、しのぶさんはあまり変わらない」「あれ? しのぶさんもおかしいですね」
しのぶの様子の感想をつぶやいた炭治郎と無惨は互いの意見の不一致に顔を見合わせた。
そんな呆けた2人をよそに、カナヲは善逸に喧嘩を売り始めていた。
「うげっ、来やがった馬鹿女。男の子の園に女は入ってくんな!」
「あ゛!? 馬鹿だとてめぇ我妻、今日こそ崩すっ!」
アカンベェしながら逃げ回る善逸を追うカナヲ。その2人を伊之助としのぶが「カナヲちゃん女の子! おしとやかにしなきゃ」「あらあら」と追いかけた。
残された炭治郎と無惨。いよいよ困惑の限界である。
許容量一杯。あと針の一刺しでもあろうものなら・・・
「キャー」
その時、街角から聞こえてきた声に炭治郎と無惨は思わず顔を強張らせた。
悲鳴ではない。黄色い歓声だ。嫌な予感しかしない。
声のする方を向くと女性たちが誰かを取り囲んでいるようだった。
2人も見覚えのある男だ。
隊士服に羽織を着ている。
えんじ色と亀甲柄の半々羽織だ。
たくさんの女性にもみくちゃにされ、当人は嬉しそうである。
よほど皆から好かれているのだろう。
「オイオイそんなにひっぱらないでくれよ。困ったなぁ、手が足りないよ。ハハハハハハ!」
「キャー!」
「イヤーン、冨岡さまぁ!」
女性たちに囲まれ、身を預け、笑っている冨岡の姿に
炭治郎と無惨の脳は今までの人生すら忘却の彼方にぶん投げてしまった。
【平安コソコソ噂話】
大切な事なので2回目も言います。夢オチです。
ちなみにこれで終わりではないぞよ。もうちっとだけ続くんじゃ