ボクと先輩の最初の戦場   作:ほろろぎ

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第一話 釈放

 星の地下深くから湧き出た未知のエネルギー、星霊。

 星霊を宿した人間は魔法という超常の力を得、それによって非魔法使いの人間たちから迫害を受けていた。

 先進機械文明によってハッテンを遂げた『帝国』によって魔法使い──否、星霊使いは魔女狩りさながらの仕打ちを受け、滅びの道を歩むことになる。

 

 そんな中、一人の星霊使いが帝国に反旗を翻した。

 炎の魔人、ボク・ヒデ・ネムラス一世。

 ヒデは自らの魔法、『火で死ね』によって帝国を猛火の海へと変えた。

 そうして反逆の星霊使いヒデを筆頭に、他の星霊使いらは自分たちが安全に暮らせる国である『皇庁』を星の裏側につくりあげる。

 ──それから百年、帝国と皇庁は互いを憎みあい、終わることのない戦争を繰り広げていた。

 

 

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 

 

 ここは帝国。正式名は、『なんか天……天よ天帝国』。

 そのとある施設に存在する一室。

 窓も無く明かりのまったく灯らない、冷たく暗い監獄を思わせる部屋の中央に、一人の青年が立たされていた。

 青年は両手、両足に、自由を束縛するための枷をはめられている。

 それは、青年が罪人である証だ。

 彼が立たされているこの場所が、囚人に決を言い渡すための施設であることもまた、それを裏付けている。

 

 不意に、室内に明かりが灯った。青年の正面に設置されているモニターの画面が点いたためである。

 モニターには黒いマスクを被り、深いヒゲを生やしたクマのようなガタイの男が映っている。

 

「よく来たな、黒豚……いや、受刑者『遠野・マズウチ・ノドカ』」

 

 モニターの男、ヒゲクマ裁判官が言った。

 

「今日は何しに来たんだ?」

「……今日は……(小声)」

「ハキハキ言うんだよ! なにしに来たんだ?」

 

 遠野と呼ばれた青年は一年の間囚人の身であったため、誰かと話す機会もなく久しぶりの発声で喉が枯れている様子だ。

 あー、喉渇きましたね。と言ってもアイスティーが出されるわけでもないため、ツバを飲みわずかでも咽頭を潤すと、遠野はゆっくりとヒゲクマの問いに答える。

 

「一年前に僕が犯した罪を問うため……ですか?」

 

 遠野が犯した罪。それは、彼が帝国に捕らわれていた皇庁の皇子である、だいち君を独断で脱走させたことだ。

 だいち君は帝国に敵対する星霊使いであるが、彼の力はとても弱く人を傷つけるようなものではない。

 そんな非力な少年まで捕虜とするちょっと過激な帝国派のやり方に、遠野は異を唱えたのだ。

 だがそんな考え無しの行いはすぐにバレ、遠野はあえなくお縄になり懲役114514年を言い渡されこの鉄壁の監獄へと収監されてしまった。

 

『お兄さんだぁれ?』

 

 遠野の脳裏には今でも、牢屋の中で震えていただいち君の怯えた顔が刻まれている。

 敵国に捕まり命さえも危うい状況に置かれた不安げな少年を安心させるため、遠野はこう言った。

 

『僕は、だいち君の、お母さんのお友達の、遠野。君は、だいち君。よろしくね! これで知らない人じゃなくなったよ』

 

 その言葉に安堵したのか、だいち君は少年らしいあどけない笑みを浮かべた。

 

 遠野は捕まった後でも、だいち君を逃がしたことを微塵も後悔していない。

 ただ、無計画に行動してしまったことだけは悔いていた。

 師匠である葛城蓮──虐待おじさんからも、『おじさんはねぇ、君みたいな考え無しのねぇ、この早とちりが大嫌いなんだよ!』と、その点は何度となく注意されていたのに。

 

「遠野、お前……今日で釈放だ」

「えこれ」

 

 物思いにふけっていた遠野の耳に信じられない言葉が聞こえてきた。

 釈放……つまり、遠野の罪はここにきて不問にされたのだ。

 帝国に仇なす皇帝の重要人物に手を貸すなど、国家反逆罪に値する重罪だというのに。

 

 思わぬ事態に絶句する遠野。

 だが、遠野の思考は即座にヒゲクマの真意に気付いた。

 

「代わりに、僕になにかやらせる気ですね?」

「ひじょ~~~~~に聡明な態度すばらしいですね」

 

 話が早い、とヒゲクマはニヤリと口角を上げる。

 

「お前には、皇庁の強大な星霊使いである『白銀の単眼魔女』を討伐してもらいてえんだわ」

 

 白銀の単眼魔女とは、たった一人で帝国の対星霊部隊を、それも複数のチームを相手にし、無傷で殲滅させた恐るべき魔法の使い手である。

 到底、たった一人の男に太刀打ちできる相手ではないと思われる。

 が実は遠野も、かつては帝国が誇る最強の戦闘集団『射徒精(しゃとせい)』、その十一人の一人に選ばれたほどの人物なのだ。

 

「なに言ってんすか? やめさせてくださいよ本当に! って訳にはいかないんですよね」

「お~いいねえ! だいぶわかってきたじゃないか! やればできる!」

 

 こうして遠野は再び自由を得るため、かつて身を置いていた戦場へと戻ることを決めた。

 

「出てって、どうぞ」

「あっ、おじゃましましたー」

 

 入口を見張っている門番に見送られ、一年ぶりに刑務所から出た遠野。

 外の世界の空気を全身で感じ、感慨深げに言葉を漏らす。

 

「家の外だぁ……」

 

 すでに陽は落ち空は闇夜。その夜空に小さな星が煌めいている。

 星々の光に目を奪われ、はえ~と空を見上げていた遠野に一人の男が近づいてきた。

 

「君が、遠野くんだね? お勤めご苦労ナス!」

 

 遠野の出所を労う男。

 メッシュ状のタイツから透ける上半身トレあり体系の筋肉質のこの男は、かつて遠野が所属していた対星霊使い部隊の隊長──KBTIT(クボタイト)

 仲間からはタクヤさんの愛称で親しまれているナイスゲイだ。

 

「あらいらっしゃい! ご無沙汰じゃないっすかァ!」

 

 一年ぶりの戦友との再会に喜色を浮かべ、遠野は柄にもなく大声が出てしまった。

 二人はガッチリと握手を交わす。

 タクヤの手は、人を自分の手足として動かす長としての役割に似つかわしくないほど硬く鍛えられており、逆に遠野の手は一年の拘禁生活によってすっかり痩せ細っていた。

 つらい一年間だったろう。

 タクヤは遠野の身の上を想うと涙が浮かびそうになるが、それを必死にこらえ話しかける。

 

「それにしても、あれだけのことをしでかしてたった一年で釈放とはな。まあ、それだけ相手がやはりヤバい奴だからだろうけど」

「そんなに強いんですか? 例のなんとかの魔女って」

「白銀の単眼魔女、な。あいつが姿を見せたのは、ちょうどお前が投獄された後だったから、知らないのも無理はない」

 

 言おうかな~どうしようかな~、と勿体ぶるタクヤ。

 懐から一枚の写真を取り出すと、遠野の前にかざす。

 写真には一人の女性が写っていた。

 全裸であり、その裸体は白銀に煌めいている。顔にだけ、正体を隠すように単眼のゴーグルが装着されていた。

 

「まるで物語に出てくる怪物、サイクロプスみたいだぁ」

 

 遠野が女性を見た感想を口にする。

 

「こいつがその魔女だ。この女のおかげで帝国の戦線は大打撃をこうむってて、もう許せるぞおい!」

「この人が、僕の戦う相手……」

「ハッキリ言って、お前でも敵うかどうか信じらんねぇ! 上の奴らも、一年も戦いから離れてた奴にこんな任務を課すとか、速攻おしおきかよ……」

 

 溜息と共に言葉を漏らすタクヤに、遠野は微苦笑して返す。

 

「争いを止められるなら、僕はなんでもやりますよ」

「ん? 今なんでもするって言ったよね?」

「ええ。このどうしようもない戦争に終止符を。一年前も今も、僕が考えていることはそれだけですから」

 

 遠野の爬虫類を思わせる瞳に、強い決意の光が宿る。

 彼がなにを思って戦場に身を置くのか、タクヤは知らない。

 だがこの男ならば本当に、百年も続く両国の争いを止められるかもしれない。

 タクヤはそう信じられるからこそ、遠野を手元に置き面倒を見ているのだ。

 

「それじゃあ、早速前線に行っちゃいますか? 行っちゃいましょうよ!」

「病み上がりですぐに戦場に立とうとかうっそだろお前! 笑っちゃうぜ」

 

 思い立ったら即行動の遠野を制止すると、タクヤは一枚のチケットを彼に渡した。

 

「? なんですか、これ」

「中立都市でやってる演劇の券だ。お前こういうの好きだろ?」

「そうですけど、今はこんなの見てる場合じゃ……」

「戦士には休息も大切って一番言われてるだろオオン!? いいから少しくらい羽を伸ばして、シャバを楽しんでこいほい!」

 

 タクヤは無理やりチケットを遠野に握らせると、そそくさとその場を後にした。

 言葉は強いが、タクヤなりに仲間の心身を案じてのことだ。

 それが分かっているから、遠野もこれ以上は反論せず券を受け取った。

 

「敵対する国同士の男女の悲恋を描いたオペラ、か。お゚も゚し゚ろ゚そ゚う゚で゚す゚ね゚~」

 

 このあと、遠野はかつて住んでいた寮へと帰った。

 監獄の硬いベッドとは違う柔らかい布団でぐっすり眠り、翌日の朝からバスで半日かけて、砂漠の中の中立都市であるエインへと向かうのだった。

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