天羽奏は、死んだはず……?   作:わらぶく

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話が進まない……!
どうしても合間合間の話を詰め込んでいくと、物語自体の進行がかなり遅くなってしまいます。読者の皆様は、退屈な時間を過ごさせてしまい申し訳ありません。


二課パート 翼の覚悟

 二課施設、トレーニングルーム。

 ここは二課に所属するシンフォギア装者のために用意された、唯一立体映像のノイズと模擬戦闘が可能な特別仕様の部屋だった。純白の壁や天井、そして足下に積もる黒の砂。巨大な箱とも取れる部屋の中の中央で、風鳴翼はシンフォギアを纏い目を瞑って呼吸を整えていた。

 構える刀を自身の正中線に合わせ、息をゆっくりと吸い、吐く。

 一点の動作を五回繰り返した後、翼は目を開きマジックミラーに声をかける。

 

「桜井女史、お願いします」

 

「はいはーい。それじゃあ、ミッションスタート♪」

 

 気抜けた声と共に、周囲の景色が一変する。

 投影された市街地の映像、合わせて足下の砂が律動し蠢く。一定の場所に向かって固まり始める砂はやがて、形を持ち特異災害『ノイズ』に変化を遂げた。

 ミッション開始とのブザーと共に、翼は構えていた刀を上段に上げ脚力を活かして肉薄、 先頭にいたノイズを一刀のもとに斬り捨てる。

 

(ダメだ、これではまだ鋭さが足りない……ッ! もっと鋭く、速くッ! 考えるな、もっと、もっとッ!)

 

 背後から迫るノイズを横に薙ぎ払い、返す刀で体を縄状に突撃してくるノイズを一刀両断。斬っても斬っても増え続けるノイズを構わず、高ぶる心に急かされるように斬り続ける。

 その姿は、刀を持った狂戦士だった。止まることなくノイズを斬り、近場に居なくなれば脚力を活かして跳躍、『千ノ落涙』を用いて多数のノイズを殲滅しながら、『蒼ノ一閃』にて遠くへと斬撃を飛ばす。アームドギアの大技を連発しながら、撃破カウント確実に伸ばしていく。

 

 その光景をマジックミラーの向こうから眺める、叔父の風鳴弦十郎は腕を組み険しい表情で見つめていた。その傍らには櫻井了子が紙コップに入ったコーヒーを飲みながら、翼の適合率とシンフォギアのバックファイアを映したモニターを眺めている。

 

「翼ちゃん、今日はやけに張り切っているわね。やっぱり三日前の出会いが関係してるのかしら」

 

「……そうだろう」

 

 櫻井了子が言う三日前。

 その日は二課の指令室で待機中だった翼に向けられたような情報がもたらされる。アウフヴァッヘン波形、第三種聖遺物『ガングニール』の出現。

 同じくガングニール装者の立花響は、既に街郊外に現れたノイズに対処中であり、それが敵になった『天羽奏』であることを如実に表していた。指令室にいた翼は分け目もふらずに出撃、途中ノイズの対処を終えた響と合流し、現場へと直行した。

 そこで──

 

『待って……行かないで……ッ! 奏ェッ! 私を一人にしないでェッ!!!!』

 

 モニター越しに聞こえた翼の悲痛な姿と叫びが響く指令室が、いたたまれない空気になったこと。オペレーターの『友里あおい』が見ていられずに目を背けてしまったことを、弦十郎は覚えている。

 帰還後は報告をした後、翼は暗い顔で帰っていった。その姿を弦十郎は止めることが出来なかった。

 

 だから今日、いつものように凛々しい姿の翼がこうしてトレーニングルームに立っていることが、弦十郎は未だに信じられないでいた。身内だからこそ、翼の弱さと胸に残った傷は理解している。

 それを勘定して、当分のバックアップをまだ新人の立花響に頼んでいるのだ。

 

「了子くんの目から見て、翼の姿はどう映る?」

 

「そうねぇ……。振る舞い、戦い方、精細な動き。過去のしがらみから逃れたように見えなくもないけど、明らかに以前の翼ちゃんとは違う。焦ってるわ。翼ちゃんの戦い方は鋭い一撃で斬り伏せる一撃必殺タイプ。でも、今はただノイズを倒すためだけに刀を振るう。まるで昔の奏ちゃんみたいね」

 

「やはりそう見えるか……」

 

 上辺を凛々しさという塗料で塗り潰した、激情任せの戦い方。

 その姿が、家族を失いノイズに対して湧き上がる激しい復讐心に飲み込まれたかつての天羽奏の姿と重なる。

 

「とは言っても、私たちが外からごちゃごちゃ言っても解決する問題じゃないだろうし、これも難しいことよねぇ。直すためには、やっぱり翼ちゃんが何とかしないと」

 

「……何もできないことが歯がゆいことだとは知っていたが、ネフシュタンのことと翼のこと、俺はまだまだ無力だと思い知らされた」

 

「らしくないんじゃない? 弦十郎くんがそこまで思いつめるなんて」

 

「俺だって人間だ。思いつめることもある。了子くんも、聖遺物関連で悩むことがあるだろう?」

 

「んぅ、それもそうね」

 

 消化出来ない思いと考えを抱えながら、弦十郎はトレーニングルームに再び目を向ける。

 それからしばらく、ノイズ討伐のノルマを越えトレーニングプログラムは自動停止。ノイズの形を作っていた砂は崩れ去り、映像が切られ純白の部屋に戻る。中央では刀を地面に突き刺し荒く息を吐く翼の姿がある。

 精神の乱れと過度な疲労により適合率の低下、自ら解除する前にシンフォギアが消失していく。私服姿に戻った翼は膝から崩れおち、肩で呼吸をしながら俯いていた。

 

「翼、トレーニングミッションは終了だ」

 

『そう、ですか……司令、一つ良いですか?』

 

「ああ」

 

『私は、奏に近付けたでしょうか……』

 

 荒い呼吸で途切れ途切れになる翼の言葉を、弦十郎と了子はしっかりと聞き取っていた。

 

『あの日、血を流していた奏は言ったのです。時期が来たら話す、と。時期とは、その時は何時なのでしょうか。奏の背中が遠く、また遠く離れていくのです。もっと、もっと強くならねば、私は──』

 

「翼」

 

『司令?』

 

「奏くんが初めて現れた時、戦意喪失した翼を傷付けることなく撤退した。一撃、急所を晒した翼を狙わずにだ。俺は、敵になろうとも奏くんは、かつての奏くんのままだと信じている。どれだけ時間が経とうとな」

 

 あの時、奏が翼を傷付けずに撤退したこと。その事が弦十郎の胸の支えになっていた。

 

 本当に敵になったのなら、なぜあの時敵であった翼を仕留めなかったのか。

 戦力を減らすチャンスを何故見逃したのか。

 

「奏くんは変わっていない。だから翼、お前もお前のまま奏くんにぶつかっていけ。ツヴァイウィングはまだ消えていないぞ」

 

『私は、私のまま……』

 

 砂上で自身の手のひらを見つめる翼の元へ、弦十郎は歩み寄っていた。

 そこにいたのは防人として刃を振るう翼ではなく、目尻に涙を浮かべるか弱い少女の翼だった。頬に作った涙の筋を手で拭い、弦十郎のことを見上げている。

 

「私の手は、奏に、届くのでしょうか……」

 

「ああ、必ず届く。だから翼、手を伸ばし続けろ。俺たちがサポートしてやる」

 

「……はいッ」

 

 翼は立ち上がると、一礼してからその場を後にした。

 

 

 

 

 トレーニングルームを後にした翼はその足でシャワールームに入る。

 シャワーヘッドから吹きかかるお湯を一身に浴びながら、肺の中の空気を一気に吐き出しうつむく。身に染み入るような温かさで心が安らぎ、今まではグチャグチャになっていた指向がようやくまとまっていく。

 

「伸ばしたこの手、どれだけ奏が遠くても必ず届けてみせる。

 だから奏、待ってて」

 

 その胸の決意を抱き片翼を求めて、翼はその目を覚悟で染めた。

 信念の剣は切っ先鋭く、まだ遠い目的へと向けられた。

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