天羽奏は、死んだはず……?   作:わらぶく

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それでは後半となります。
お楽しみください!


双翼は相打つ、天下の往来一人占め作戦 後編

 空間を翼の歌が満たす。

 

「行くよッ、奏ッ!!」

 

「来なッ、翼ッ!!」

 

 開幕一閃、翼の剣が陽光に煌めいた。

 胴を狙った踏み込みの一撃を奏は柄で防ぐ。

 そのままの勢いで背後へ回る翼を警戒し、奏は周囲の凪払い。

 振り向き、視界下部へと消える翼からの切り上げを、剣を足で止めることで防いだ。

 翼のがら空きになった胴へ、槍を突き出す。

 剣から手を離しサイドステップで回避した翼は、脚部ユニットから新たな剣を取り出した。

 

「そこ──ッ!」

 

「甘いなッ!!」

 

 翼の踏み込んだ一突き。

 ガキンッと音を立て、奏は弾いた。

 回転しながら宙を舞う剣。だが、無防備なはずの翼の顔は笑っている。

 ならばと奏は構わず槍の突きを繰り出した。

 刹那、手への衝撃。

 痛みに表情を歪ませる奏が見たのは、踏み込み手の下へと差し込まれていた翼の足。脚部ユニットから飛び出した剣の柄頭が奏の手を打っている。

 

「づッ!」

 

 呻き声を出しながらも、奏は槍を放さない。

 お返しと左足を軸にして後ろ回し蹴り。

 踵に来る鈍い感覚は、翼が右手で防いだからだ。

 

「やっぱり奏は強い……ッ!」

 

「翼もなッ!」

 

 かち合う槍と剣。激しい剣戟の音が周囲に轟く。

 だがリーチの乏しい翼はやはり不利。

 五度六度火花を散らせて翼が間合いを詰めようと踏み込むが、奏が蹴りで防ぐ。

 バックステップで距離を取り、剣に点ったエネルギーで斬撃を飛す翼。奏が弾けば、斬撃は霧散し視界を遮る。

 僅かな時間だったが、行動を起こすには十分。

 視界上部に跳躍した翼は剣の切っ先を点へと向け、天より無数の剣を降らせる。

 

         『千ノ落涙』

 

 降りかかる剣を、奏は槍を回して防ぐ。

 一撃の重みはさほど無い。容易く防げる。

 凌ぎきった奏が次に見たのは、人の丈を遥かに越えた翼の大剣だ。

 

「おおおぉぉぉぉ──ッ!!」

 

 振り下ろされ、巨大な斬撃が飛来する。

 

         『蒼ノ一閃』

 

「ならアタシも大技だッ!!」

 

 繰り出される大技に、真っ正面からぶつかる。

 これで決着だと、言わんばかりの闘志を沸き立たせた。

 

         『LAST∞METEOR』

 

 奏の突き出した槍の穂が回転。

 小さな竜巻を発生させ、蒼ノ一閃と正面からぶつかった。

 

「うぁっ──!?」

 

 大技同士の衝突により発生した衝撃波に、奏も翼も吹き飛ばされる。

 ザリザリザリッと後ろに滑る足に力を込め、奥歯を強く噛み締め柄を地面に突き刺し踏ん張った。荒れる呼吸を整え、顔をあげる。

 向こうにいる翼の顔は──やはり笑っている。

 肩で呼吸しながらも、口角が上がるのは崩していない。

 そして奏自身も心の底から漏れでる笑みを湛えていた。

 止まらぬ高揚感に体が震える。これが武者震いかと感心しながら、本心から翼との時間を求めていた。

 

「翼、アタシは翼との時間が大好きだ」

 

「私も、例え敵同士でも奏といられる時間が楽しい!」

 

 物騒なモノを持ちながら、子供のように屈託の無い笑顔を作る翼のチグハグな姿に、奏は思わず笑みがこぼれる。

 

「だから──ッ!!」

 

 両者が踏み出したのはほぼ同時。

 互いに振り下ろした槍と剣がぶつかり、今度はそのまま鍔迫り合いの状態に。

 両者の顔がすぐそこまで近付いた。

 

「もっと打ち合っていようか、翼」

 

「臨むところ!」

 

 手を抜くことのない、本気の打ち合い。

 体が求めて仕方ない奏と、奏と共に居られることが嬉しい翼は、互いに互いの命と存在を求めていた。

 

 

 

 

 

 翼のバイクが襲われた直後、了子の車両が攻撃を受けタイヤがパンク。ハンドルの利きを奪われた車両は運転不能になり、横滑りして工場の外壁に叩きつけられた。

 車内に渡る衝撃。

 響は少しばかり痛む体にムチ打ち、ドアを蹴り破る。

 運転席には頭を打ち血を流しながら意識が朦朧とする了子の姿があって、すぐさま側に寄った。

 

「了子さんッ! 大丈夫ですかッ!?」

 

「うぅ……響ちゃんの声が頭に響くこと以外は大丈夫よ……」

 

「あ、う、ごめんなさい。とにかくここを出ましょう少しでも安全な場所に──」

 

「そいつは出来ない相談だなぁ?」

 

 響の言葉を遮る声。

 了子の盾になるように振り返る響の視線の先には、かつて見たネフシュタンの少女の姿がある。親友である未来から聞いたところによれば、名前は『クリス』。

 奏と一緒に行動している少女だ。

 

「クリスちゃんッ!」

 

「何でお前があたしの名前をしってんだ?」

 

「未来から聞いたよ! 優しい子だったってッ!」

 

「チッ……お前、あいつの仲間だったのかよ」

 

 どこか憎そうに響を睨むクリス。

 ジャラリと音が鳴るほど鎖を強く握り締めながら、食い縛り収まらないイライラそのままを、響に向けた。

 

「ねぇクリスちゃんッ! 話し合おうよッ! 私たちは同じ人間だよッ!」

 

「うるせぇッ! ベラベラベラベラと叶いもしねぇ絵空事を吐き出しやがってッ!!」

 

 クリスが右手に持つソロモンの杖から吐き出されるノイズの数々。響は首にかけたギアペンダントを握り締めると、覚悟を決めてグッとクリスを見据えた。

 

 ──Balwisyall Nescell gungnir tron──

 

 シンフォギアを纏った響はクリスの前に立ちはだかる。

 

「クリスちゃんとも、手を繋いでみせるッ!!」

 

「出来もしないことを抜かすなぁッ!!」

 

 クリスの怒声を合図に駆け出すノイズに対して響は構える。

 そこに居たのは、もう逃げ回り続けた立花響ではない。

 

「ハァッ!!」

 

 掛け声と共に振り下ろした拳がノイズの頭部を破壊。

 次いで繰り出した回し蹴りで前方のノイズを凪払い、突っ込んでくるノイズをサイドステップで避ければ、カツンとヒールが地面を這うパイプに引っ掛かる。

 

「ヒールが邪魔だ!」

 

 地面を使ってヒールを蹴り砕き、また構える。

 ノイズを響に一方的に破壊されていくクリスは、その光景を唖然としながら眺めていた。

 思考が止まる。最近までただの人間だったはずだ。

 

 なのになぜ戦える?

 なぜノイズを容易く倒せる?

 どうしてお前なんかがフィーネの目に映るッ!?

 

 醜い嫉妬と僅かの羨望。

 自身に何もない強さを持っているあいつが憎い。

 今もフィーネに見られている。

 なぜ? なぜッ? なぜッ!?

 

「お前なんかがぁッ!!」

 

「あぐっ!?」

 

 クリスの不意の飛び蹴りが、響を襲う。

 確保なんて生ぬるいのは無し、アイツを痛めつけて潰してやると。

 燻っていたこれまでの鬱憤やらが一気に吹き出して、半ば八つ当たりのようになってしまっても、響の存在が許せなかった。

 

 了子が──フィーネが見ている。

 けれども、関係ない。アイツを潰せば、融合症例なんて消し潰してしまえば、フィーネがもうあんな奴を見なくて済む。アタシが居れば世界を平和に出来る。

 

 そんな独占欲にも似た感情を響にぶつけた。

 

「こ、これはッ!?」

 

 憎悪に燃えるクリスの意識を現世に引き戻したのは、紛れもないフィーネの声だ。普段聞くことの無い喫驚の声にクリスが目を向ければ、浮遊する剣。

 屋敷で見せられた完全聖遺物、デュランダル。

 今回の襲撃の目的が目の前にあることにそれまでの憎悪が薄れ、すかさず飛びかかっていた。

 

「これでアタシは──ガッ!?」

 

「渡すかぁッ!!」

 

 背後から迫っていた響に気づかず、背中に打撃をくらったクリスは地面に墜落した。

 そして、デュランダルは響の手に渡る。

 

 ──転機はやってきた。

 

 

 

 

「ハァッ!!」

 

「やぁッ!!」

 

 ガキンッ!

 もう何度目かも分からない打ち合い。

 双方共に気力体力が限界を迎えていた。握力が弱って、手が震えてくる。

 既にLiNKERの制限時間も限界だった。

 シンフォギアのインナーが点滅し、黒から紫へと変色。それまではLiNKERで高い適合率で奏の体を支え続けてきたギアが、今度は重みという枷となり始める。

 

「奏、もうLiNKERがッ!」

 

「ったく翼、敵の心配をしてる場合か?」

 

「敵でも奏は奏でしょッ!? 早くギアを解除してッ! 

 このままじゃ体にバックファイアが──」

 

「なら安心しろって……まだもう一本、あるからさッ!」

 

 ギアのストレージから取り出した二本目のLiNKERを首に突き刺し流し込む。もはや慣れつつある体を焼かれるような激痛に耐え、再度槍を握り翼へ向けた。

 LiNKERによってインナーの色は元の黒に戻る。

 既に体は限界を迎えていた。これ以上の戦闘は、例え適合率が高くても身を滅ぼしかねないだろう。それでも翼と居たいと体が求めている。

 

 ならば、求めるままに槍を振るうのみ。

 翼の足止めという大義名分がある以上、ここでどれだけ戦ってもフィーネにどやされることはない。合法的に、かつ自己中心的に戦い続けられる。

 決着は──絶唱を使えば何とかなるかもしれない。

 

「ぅぐぅっ……ッ! 

 さぁ翼、第二回戦と洒落込もうかッ!」

 

「ッ!」

 

 奏は槍の持ち方を変える。

 柄を長く持ち肩の上に乗せると、その場で円を描くように大きく振り回してみせる。

 そして、そのまま翼に躍りかかる。

 振り下ろした槍を翼を受け止めたものの、大きく背中を反らせて足を地面に埋めていた。

 

「く、うぅぅ……ッ!」

 

「槍も頭を使いよう、そうは思わないかい翼ッ!」

 

 ジリジリと力で押し始める奏。

 押し合いはそこまでに槍を振り上げると、何度も翼に向けて叩きつける。

 一度、二度、三度、四度。

 何度も叩きつけられた翼の手は痺れ、構えることさえ困難になっていく。

 そこを奏が見逃すことは無かった。

 

「もらったぁッ!」

 

「がふッ!?」

 

 がら空きになった翼の脇腹に、奏の槍が突き刺さる。

 くの字にひしゃげる翼の体は吹き飛ばされ、受け身を取れずに地面に叩きつけられて土煙が舞い上がる。

 

 既に勝敗は決した。

 土煙が晴れ地面に這いつくばる翼の姿を確認して、また槍を肩に乗せる。

 

「アタシの勝ちだな、翼」

 

「やっぱり、私は奏に勝てないなぁ……」

 

「まぁよくやったほうさ。さってと、後は待つだけなんだけど──」

 

 

「ガァァァァァァァアアアアアアッッッ!!!」

 

 

「な、何だ!?」

 

 周囲に轟く獣ような雄たけびに、奏も翼も意識を持っていかれる。

 雄たけびが聞こえた先、そこにいたのは輝きを取り戻したデュランダルを手にした、暴走する立花響だった。体を黒く染め、目が赤く輝いている。そんな響に怒声と罵声を飛ばすクリスの姿が、奏たちの前方にある。

 やがて響の目は奏たちが後方にいるクリスへと向けられた。

 

「そんな力を、あたしに見せつけるなぁッ!!」

 

「バカッ! 避けろクリスッ!!」

 

 激昂しているクリスに奏の言葉が通じるわけもなく。

 ソロモンの杖から吐き出したノイズの大軍を差し向けていたが、周囲に発生する超高濃度のフォニックゲインによって塵に変えられていく。

 それでもクリスは自身の僻み、羨望、憎しみを剥き出しにして響へと向けていた。

 やがて、デュランダルは振り下ろされ始める。

 

 クリスから翼までは一直線。

 多少の距離はあったものの、起動したデュランダルにそんなものが弊害になる訳がない。

 振り下ろされれば、間違いなく翼が巻き込まれる。

 激昂中のクリスは避ける素振りすら見せていない。

 

 翼に向かえばでクリスが間に合わない。

 クリスに向かえば翼を見捨てることになる。

 どうすれば両方守れる? 

 どうすれば──

 

 ……やるしかない。

 

 クリスに向けて駆け出し、その勢いで体当たりしその場から移動させる。

 そして、振り下ろされたデュランダルをその槍を受け止めることになる。

 

「グッ──!?」

 

「お、おいあんた!」

 

 デュランダルの圧倒的な出力。

 所詮は欠片でしかないシンフィギアとの出力差に勝てるわけもなく、受け止めた槍の柄にヒビが走る。

 

「クリスッ、翼を避難させろッ!!」

 

「は、はぁ!? あいつは敵なんだろッ!?」

 

「良いから早くッ!!」

 

「あーもう訳わかんねぇ!」

 

 クリスに翼のことを頼みながら、何とかデュランダルに対抗する。

 バキバキと壊れていく槍。身にまとうシンフォギアも段々と壊れていく。

 逃げても良い。後ろではもう翼はクリスによって荒々しくも避難させられている。

 だけどまだだ。もう一人、助ける人間がいる。

 

「響ッ! アタシと翼の手を繋げてみせるんだろッ! 

 だったら、デュランダルなんかに呑まれてるんじゃねぇッ!」

 

「グガァァァァァァァッ!」

 

「人助けが趣味な優しい人間が、人に刃を向けてちゃ意味ねぇだろう、がッ!」

 

「グッ──!?」

 

 奏の声に合わせて、響が微かに反応を見せる。

 同時に、響と奏のギアのコンバーターが輝き始めた。

 奏は押し留め続けるデュランダルのエネルギーを横に反らした。

 地面に落ちたエネルギーは弾け、一気に爆発する。振り下ろされた先には可燃性の物体が詰まった工場があり、外壁の欠片や鉄骨などを撒き散らしながら激しく爆発を起こした。

 その余波に巻き込まれ奏の体は容易く宙を舞う。

 満身創痍だった。既にシンフォギアは解除され、硬いアスファルトの上に叩きつけられる。

 

「がッ……はぁ……はぁ……クソ、体が動かねぇ……」

 

 体を地面に打ち、出血。

 地面に流れる血、轟々と燃える工場、駆け寄ってくる翼。

 ぼやけた視界に映ち、尚も近づいてくる翼を見ながら、奏は意識を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして次に目を覚ました時、自身が眠るベッドに翼が寄り添っているのを見て気付く。

 あぁ、アタシは二課に捕まったのだと。

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