まさか自分の作品がランキングに、低いとはいえ載るとは思わず……
まだまだ書き続けていく予定なので、よろしくお願いします!
櫻井了子名称の『天下の往来一人占め作戦』は、敵勢力の妨害により失敗に終わった。敵勢力──『天羽奏』とネフシュタンの少女の二人組による襲撃により、護送車は次々と脱落。
残された櫻井了子と装者は何とかデュランダルを守りきったものの、完全聖遺物を手にし暴走した立花響によって工場地帯は壊滅的な被害を受け作戦は中止となる。
ただ一つ、幸あることは元二課装者『天羽奏』の捕縛に成功したこと。本人の意識は喪失なれど、生命活動、体組織の損傷は比較的軽微なり。
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「むぅ……」
流れてきた輸送作戦の報告書を吟味する弦十郎は、眉間に深い彫りを入れながら唸る。
内心、完全聖遺物が輸送されなかったことと、奏を捕縛できたことに対する安堵。今回の件での工場地帯の被害と、死亡したエージェントの人数に対する無力感。上空を飛ぶヘリに乗りその光景を目の当たりにしていたがために、自身の無力感に苛まれる。
「やっぱりここにいた」
「了子くん」
両手にコーヒーカップを持った了子が指令室に入ってくる。
「悪いことばかり考えていては気が滅入るわ。それよりも、奏ちゃんが帰ってきたことを喜びましょう?」
「そう、だな」
「……やっぱり奏ちゃんが生きてたことが引っ掛かるの?」
「ああ……」
天羽奏、二年前に殉職したはずのガングニール装者。
やはりこの部分が引っ掛かる。前回はその姿を見るだけで偽者だという可能性もあったが、今回はしっかりと精密検査を行い体の隅々まで調べあげた。
だからこそ確信する。彼女は本物で生きているのだと。
東洋思想において顕著な輪廻転生という考え方。
神秘と非科学が発生するこの世界ではおかしくはない。
だが、奏は輪廻転生という枠を越えている。
「我々には観測し得ない事態が発生しているのか、それとも手に終えない事態が発生しているのか……」
「この世界的権威を誇る櫻井了子でさえ分からないことがある世界よ? 死人がリビングデッドとして動くこともあるかもしれないわね」
「心臓がしっかりと動いている死体とは、新たな未知となるぞ了子くん」
「あり得なくもないということよ。
響ちゃんの融合症例もそう、それに今回新しい反応を観測していたのよ」
「共鳴反応だな」
「大正解~♪」
立花響がデュランダルを手にし、振り下ろした刃を天羽奏が受け止めた時、両者のコンバーターが反応を示した。
新たに観測した共鳴反応。
両者とも全く同じガングニールだということが作用して、引き起こされたという反応であるらしい。その時に検知されたフォニックゲインはデュランダル起動時よりも更に高まり、周囲には高濃度のフォニックゲインが漂っていたという。
「今までずっとこういう仕事に就いてきたけど、あそこまで高いフォニックゲインは初めてね。響ちゃんが融合症例ということを噛み合わせても、私には説明が出来ないわ。もう一度、共鳴反応が起きてくれれば検査もできそうなものだけど」
「今回の件で装者がデュランダルを手にすることは危険だということは分かった。再度の共鳴反応を発生させるとしても、前回とは違う条件になるだろう。響くんにも、奏にも、あれ以上の負担はかけられない」
「もちろん。
さってと、私は奏ちゃんのお見舞いにでも行ってこようかしら」
イスから立ち上がり、縁に口紅が付いた紙コップを置いた了子は、大きな伸びをした。
「翼も一緒に居るはずだ。すまないが一緒に見てきてくれないか。
俺はこれから輸送作戦での失敗の後片付けをしなくてはいけなくてな」
「はいはい、じゃあね弦十郎くん♪」
弦十郎に向けて手を振りながら退出する了子。
妖しく輝く薄桃色の瞳に、誰も気付くことは無い。
廊下を歩く了子、もといフィーネは考える。
全く同じ性質のガングニールを纏う立花響と天羽奏、その両者の共通点は何か。
今回起きた共鳴反応は、これまで考えてもいなかった事態である。
いや、理論自体は出来ていた。だが、実験を行う時間と素材が無かった。
(今回の共鳴反応、これまでは融合症例だけで良いと思っていたが、これなら天羽奏も必要になってくるな。我ながら良い拾い物をしたものだ。さて、となればクリスの存在価値だが……)
必要なものは隠れ蓑となる二課の組織にある。
目的まではあと少し。手札もある、強い役もある。となれば残された外れは必要となくなる。むしろ邪魔でさえあった。クリスが捕まり余計なことでも話そうものなら、計画が一気に破綻しかねない。
故に──
(……消えてもらうとするか。捨て駒には使えるだろう)
使い潰すだけ使って捨てる、これが最適解となった。
自身の計画に舌鼓を打ちながら次の手を考えたフィーネは、地下から出て地上にある二課の息がかかった医療施設へと足を運ぶ。
壁に掛けられたネームプレートには、天羽奏の文字。
引き戸は僅かに開かれていて、その隙間からはリディアンの生徒が使うスクールバックが姿を覗かせる。弦十郎の言う通り、既に翼は来ているようだ。
引き戸を二回叩いて、入出許可を求める。
中からは奏と翼の声。努めて笑顔を張り付けながら、猫なで声で入室した。
「はぁ~い、奏ちゃんに翼ちゃん♪ 特に奏ちゃんは体大丈夫?」
「え、あ、まぁ大丈夫なんだけどさ」
何か言いたげな奏。
大方『何でフィーネが?』とでも言うつもりなのだろうと察して、フィーネは先手を打ち奏を睨みつけながら言う。
「こぉ~ら、奏ちゃん。いつも了子さんて言ってたでしょ? もしかして、二年も会ってなかったから、私の呼び方忘れちゃったのかしら?」
「あーいや、了子さんにも会えてよかったよ」
「何? その投げやりなの。まぁ良いわ。二人仲睦まじく、もう少し時間を過ごしてなさいな。それまで、部屋の前で待っててあげる」
「櫻井女史も、奏に話があるのですか?」
「ええ、それはもうたっくさん! だから、私にも少し時間を頂戴ね?」
「う……分かりました。なら奏、今の内にいっぱい話そう!」
「はいはい。翼は変わらないなぁ」
奏と翼の会話をバックに、フィーネは一旦病室から出る。
壁に背中を預けて思案、考えて出てくる最良の結果にフィーネは口角が上がるのを抑えきれなかった。