天羽奏は、死んだはず……?   作:わらぶく

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クリスパート 居場所はどこにもなくて 前編

 夕暮れ時。

 たこ焼きを食べ終えたクリスは公園内を散策する。

 この辺りに居れば、下校時の立花響に巡り会えるとフィーネから聞かされて、その言葉通りに待ち続ける。そんな時でも頭の中では奏のことが思い浮かんで、体が温もりを求めて止まない。

 

 それに、いつものたこ焼き屋が畳んでしまったことを、どんな風に告げようか……。

 あたしが起動させたソロモンの杖のせいだと告げれば、軽蔑されて見放されてしまうだろうか、そんな起きて欲しくないことばかり考えてしまう。

 

 だから、言い聞かせるしかなかった。

 

「あたしは間違ってなんかない……フィーネの言葉に間違いなんかあるわけない……」

 

 これまでの行為が。それまでの力の振り方が。

 ずっと正しいと、世界を平和にするにはこうするしかないと信じてやってきたことが、今更間違いだと突きつけられたら。

 

「あたしは……どう償えばいいんだ……?」

 

 炭素に変えてきた人間が。感じてきたこの痛みが。

 もし意味が無いなら、これまで殺してしまった人間も、傷付けてしまった人間も、無意味だったことになる。

 

 そんなことが認められる訳がなかった。

 皆、自分と同じように人生がある。それも、とびっきりのあたしなんかじゃ温かすぎて住めないような明るい場所。

 それでも、多数を助けるために少数の犠牲を見過ごしてきた。

 

 なのに、今はどうか?

 争いは消せない。笑顔は作れない。何も変わらないッ!

 

「力を持つ人間をぶっ潰せば争いは無くなって、悲しむ人間もいなくなるんじゃないのかよ、フィーネ……ッ!」

 

 心の底からの疑問を聞いてくれる人間は居ない。

 

 端から見たクリスの姿は、ひどく憔悴しきっていた。それこそ一目に病人ではないかというほど。心労、過労、悩み、逆恨み、罪悪感、無力感、その他。元々クリスの原動力は『平和』を望みそのために動くこと、そして亡くなった両親の代わりに育ててくれたフィーネの役に立つことだ。

 

 そのフィーネに棄てられかけているのは、これまで言い渡された任務を成功させられなかったこと、これに限る。完璧主義者であると同時に、理想家である彼女がこれまでのことを許すとは考えられない。

 

(冷たい……寒い……。

 誰か、誰か助けてくれよ……ッ!)

 

 そこに標的が現れた。

 沈んだ顔をして俯き、道を歩く立花響の姿。

 

 今はそれでさえクリスにとっては憎たらしい。

 何故フィーネにも魅入られて、アタシと真反対の奴がどうしてそんな顔をするのか。

 

(許せない許せなイユルセナイ……ッ!!)

 

 沸き上がる憎悪、痛いほどに歯を食い縛りその目を血走らせ、駆け出すと同時にネフシュタンの鎧を身に纏う。ジャラリと鳴る鎖をその手に握り、立花響へと飛ばした。

 

「お前なんかがァッ!!」

 

 怒りに任せた一撃だった。

 そんなものに狙いなんてあるわけもなく、ただただ奴を仕留められたら良いという殺意だけ。だからこそ、クリスの目には写っていなかった。

 

 小日向未来が、響の真向かいから走ってきていることに。

 

「未来、来ちゃダメだッ!」

 

 意識の外からそんな言葉が聞こえて、熱くなっていた頭が僅かに覚める。だが、鎖の一撃を止めるにはほんの数秒遅く、鎖は響と未来の真ん中、どちらかと言えば未来側に着弾した。

 

「キャアアアアア──」

 

 着弾場所は地面が酷くひび割れ、発生した衝撃にアスファルトが舞い上がり未来の体も宙を舞う。か細い悲鳴が嫌というほど耳に残り、憎悪から正気へと引き戻された。

 

「なっ、何でこんなところに未来のやつが──」

 

 

 

 ──Balwisyall Nescell gungnir tron──

 

 

 

 聖詠を歌いシンフォギアを身に纏って、宙に舞った未来を助けてみせる響。未来を地面へと下ろし、酷く悲しそうな顔をしてこちらへと走ってくる。

 対峙するのかと構え響を見据えるクリスだったが、その考えは外れた。脇目も振らずに公園の奥へと走っていく。その行動はあからさまで、こちらを未来から離したいのだろう。

 

 それがまた、クリスの癇に触っていた。

 

「お前があたしのことを挑発するつもりかよ……ッ!」

 

 響の後を追いかける。

 木と木の間を駆け抜け進み続ければ、やがて少し開けた場所に出て響はそこに着地する。今だとばかりに踏み込み飛び込んだクリスは、元より殺すつもりで鎖を振り回していた。

 

「お前なんかにぃッ!!」

 

「お前なんて名前じゃないよ、クリスちゃんッ!!」

 

 鎖を避けながら響が叫ぶ。

 

「私は立花響、15歳ッ! 誕生日は9月の13日で血液型はO型! 身長はこないだの測定では157センチ! 体重はっもう少し仲良くなったら教えてあげる! 趣味は人助けで好きなものはごはん&ごはん! あと、彼氏いない歴は年齢と同じッ!!」

 

「な、何をトチ狂ってやがるんだお前はッ!?」

 

「私は戦いたくなんてないッ! 私も、クリスちゃんも、どっちも話が出来る人間だよッ!」

 

「なんて悠長ッ、この期に及んで何をバカなことをッ!」

 

 何もかもが癇に触る。

 言葉も、声も、姿も、事情も、理想も。

 そんなことはバルベルデで全て踏みにじられてきた。

 だから、そんな妄言を吐き続ける奴を、響を潰して──

 

「奏さんとは、話せたんでしょッ!」

 

「──────」

 

 思考が、止まる。

 ズブリと自分の踏み入られたくない場所に足を入れられたような不快感。何故、どうしてお前が知っていると聞こうとして、奏が向こう側にいることを思い出した。

 

「だから、私もクリスちゃんと話したいッ! 敵同士とか仲間とかじゃない、友達としてッ! もっとクリスちゃんのことを知りたいッ!」

 

「~~~~ッ!!」

 

「だって言葉が通じていれば、私たちは──」

 

 

 

「うるせぇッ!!!」

 

 

 

 クリスの喉が裂けるような悲痛な叫びが周囲に木霊する。

 血走った目を響に向け鎖を振るう。周囲の木々を凪倒しながら響へと向け、回避させることで距離をとらせる。

 今更引くことなんてできない。人間なんて、大人なんて信じられるわけがない。その一心を響へとぶつける。

 

「分かり合えるもんか……ッ! 人間同士なんかが分かり合えるもんかッ! そう簡単に出来ているもんかよッ! 気に入らねぇ気に入らねぇ気に入らねぇッ!! 絵空事を吐くお前がァッ!!

 連れてこいと言われたがもうどうだって良いッ! お前はあたしが潰すッ! その絵空事ごとまとめて踏みにじってやるッ!」

 

 怒りをエネルギーに跳躍するクリス。

 振り上げた暮らしの先には銀色の巨大なエネルギー球体が発生し、それを響に向けて全力で振り下ろす。

 

 『NIRVANA GEDON

 

 響は逃げることなく一発目を受け止め、踏み留まる。

 その光景にニヤリと笑みを浮かべるクリス。振り上げたもう一本の鎖の先にもエネルギー球体が発生し、振り下ろした。

 

「持ってけダブルだァッ!!」

 

 かち合った球体同士は大きな爆発を起こし、響の姿を爆炎の中に隠してしまった。

 一秒、二秒と待ち構えていれば、風によって煙が晴れ中から響の姿が現れる。全身のユニットが黒く煤けているものの、大きなダメージは無くその手にエネルギーをためアームドギアを発現させんとしていた。

 

「ッ、形にならない……ッ!」

 

「この短期間にアームドギアまで手に入れようってかッ!? そんなことさせるかッ!」

 

 無防備に見える響へと鎖を振るう。

 殺意がこもる首筋を狙った鋭い一撃、それを片手で掴み取られた。

 

「なっ!?」

 

「おおぉぉぉぉーーッ!」

 

 圧倒的腕力に引き寄せられ、クリスの体が宙に浮く。

 思考がこんがらがり、ようやく響に視界のピントがあったときには、既に懐へと潜り込まれていた。

 

「ガハァ──ッ!?」

 

 鳩尾に来る重い衝撃。

 ネフシュタンの鎧に無数の亀裂が入ることから、相当の衝撃なのだと理解する。くの字にひしゃげる体はメリメリッと細胞単位で悲鳴を上げ、骨までやられていたであろう。

 視界の一瞬の暗転。森を抜けて通路へと飛び出し壁に激突する。背中へと強い衝撃で意識を正常に取り戻すも、ネフシュタンの再生能力によって身体中に激痛が走った。

 

 呻きながらも痛みに耐え、こちらへと歩いてくる響を睨み付けた。

 

「クリスちゃん、もう止めようよ」

 

「今更、止めよう、だ?」

 

「私たちはノイズや物じゃない人間、言葉が使えるんだ。最初は難しくても、言葉を交わせばきっと──」

 

「お前くせーんだよッ! 嘘くせぇッ! 青くせぇッ!」

 

 叫びながら立ち上がり、顔を狙ったパンチ。

 防がれていたもののネフシュタンの出力で無理やり殴り崩し、回し蹴りを差し込み蹴り飛ばす。

 

 だが、今回で近距離に分があるのは奴だと悟って、クリスは覚悟を決める。大嫌いな歌を、夢を叶えられなかった歌を。

 イチイバルを、使う覚悟を。

 

「ぶっ飛べッ!! アーマーパージだッ!!」

 

 ネフシュタンの鎧が発光、次いで四散する。

 周囲を散り散りになった破片は木や人工物を無差別に攻撃し、そのいくつかは響に命中した。脇腹に一つ、腕部に三つ、脚部に二つに突き刺さり、すぐさま抜いたものの出血は免れない。出来た傷口に手を当てて痛みに堪えていた。

 

 

 ──Killter Ichaival tron──

 

 胸のペンダントを握り締め、詠うクリス。

 その体は赤い装甲、かつて二課が喪失した『イチイバル』を纏っている。

 

「クリスちゃん、それって──」

 

「歌わせたな……ッ! アタシに歌を歌わせたなッ!

 冥土の土産に教えてやるッ! アタシは歌が大ッ嫌いだッ!」

 

「歌が、嫌い……?」

 

 何故と言わんばかりの響をクリスが睨む。

 

 その心はただただ殺意で埋め尽くされていた。

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