そこは木に囲まれたいかにもな洋館だった。
年季の入った黒を基調とした外装、レンガ造りのまるで西洋ファンタジーから持ってきたような見た目をしている。大きさからして二階建て、後は屋根裏といった感じだ。
そのスケールの大きさに、奏は口を開けてアホ面を晒し声を出しながら驚いていた。ここまで来る車内で一応の説明は受けていたものの、実際に目にすると何という大きさか。同居人と二人でここに住んでいるのならば、すごく贅沢な生活をしているんじゃないかと考える。
「はぁぁ~~……、あんな屋敷に住んでるとか、アンタ金持ちだったんだな。同居人は出迎えに来たりとか、しないのか? 確か、雪音クリスだっけ」
これから住む館については、同居人が居ることも含め既にフィーネから説明を書いた紙を渡されていた。今の尊大さからは考えられない、端っこに書かれたマメな生活ルールには思わず笑ってしまったが、それは良しとして。
どうにも同居人である『雪音クリス』という子がなかなかに気難しいらしい。幼く見える顔立ち、薄く桃色が浮かぶ髪や少し垂れた目尻が相まってか、どことなく小動物のような感覚を覚えるせいでそうは思えなかった。
少しばかり、奏が疑問の目線をフィーネを投げ掛ければ。
「人間、見た目では量れぬということだ」
意味深な返答をされ、頭の中に?マークを増やすはめになってしまった。
「クリスはあまり外に出るのが好きではない。私の手伝いや用事がない限りは、基本的に屋敷にいる。さぁ、中に入るぞ」
「はいよ。仲良くできるかねぇ」
奏は、これからの拠点となる屋敷の門をくぐった。
重々しいドアを開け出くわしたのは、奏よりも小さな少女だ。
「おかえ──ッ!!」
視界に入ったのが見知らぬ奏だったことが、警戒させてしまった原因なのだろう。数歩後退り、タルンとしていた目尻をつり上げてシャーー!! と、まるで猫のように威嚇している。
奏は記憶の中の顔写真と照らし合わせて、目の前の少女が雪音クリスなのだと理解した。
「なぁ、お前が雪音クリスっていう……」
「うるさい黙れ! あたしはお前みたいな知らない人間入れてやるもんか! 帰れッ、帰れッ!」
警戒し威嚇し続ける少女に対して面食らっていれば、後ろから姿を現したフィーネが半ば呆れ顔でなだめるように話しかけた。
「構えるなクリス、その娘は私が連れてきた仲間だ。これからの同居人でもある」
「けどッ!」
「クリス」
「うぅ……フィーネがそう言うなら」
諭されたクリスは、肩幅まで開いていた足を閉じ構えを崩して敵意を小さくしていた。
とはいえ、警戒されていることに変わりはなく、刺すような鋭い目線が向けられている。見た目の幼さからは考えられないような警戒の仕方だ。
「すまないな」
「まぁアタシは別にいいんだけどさ。実際怪しいし。というか、ここに怪しくない人間が居ないだろ?」
「それもそうか」
ハハハッ。
乾いた笑いを奏がフィーネと交わし、玄関での立ち話を終えて中へと進んだ。
与えられた部屋は二階の廊下奥。
元々は物置だったようで、運び損ねた小物とかが残されていたものの綺麗に拵えられていた。
「不自由無いほどには用意したつもりだ」
「わざわざここまでの部屋を用意するなんてやたらと気前良いなぁ。アタシとしては、少し疑ってしまうところがあるわけだけど」
「分かるか?」
口角を上げて笑う怪しさ満点のフィーネに、奏も思わず笑いが出る。もう何かをさせられることは確定しているが、まぁここまで衣食住を用意されて断るのもワガママが過ぎるだろう。
「程々に欲しいなぁ。多分、まだ病み上がりなんだからさ」
「何、今すぐというわけではない。いずれ時期が来れば、クリスと共に徴用するつもりだ。それまでに、貴様のシンフォギアも用意する」
「はい質問、シンフォギアって?」
「……あぁそうか。貴様は記憶が無かったのだな。どうも調子が崩れる。説明は譲渡と共に行おう。今は知らんでいい」
「そっか。じゃあ私は──ッと!」
会話をそこそこに、奏はベッドに飛び込んだ。
実のところ、部屋に入ってからやたらと睡魔に襲われ半分意識を飛ばしていた。先ほどの質問はほとんど条件反射のようなものだった。
ふかふかのベッドに身を沈めながら、ほっと一息吐く。
「久方ぶりの歩行は疲れるか。こちらも、そろそろ職場に戻らないといけなくてな。
──じゃあ、おやすみなさい」
最後の言葉はやたらと声音が優しく、奏も手を振って応える。
診療所のベッドは違って柔らかさ重視のためか、体がすっぽりとフィットするような心地よさ。体の力がどんどん奪われていく感覚を覚えながら、横にコロリと寝返りを打つ。
「……」
「……えっと、何か?」
そこには、イスに座りジッと奏を見つめるクリスの姿があった。
「監視だよ。お前みたいな怪しい奴、見張ってないと何を仕出かすか分からないからな」
「そ、アタシのことを見るのは良いけど、何にも面白いことなんて無いぞ? 見つめすぎて、見惚れても知らないかもな」
「誰が見惚れるかぁッ!」
顔を赤くし怒るクリスを横目に見ながら笑みを浮かべ、奏は睡魔に従いゆっくりと目を閉じた。
クリスちゃんとの顔合わせ、ここから仲良くなっていきます。
そして、そろそろ事件の一つを起こしていこうかと。