天羽奏は、死んだはず……?   作:わらぶく

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多数の高評価、お気に入り、共にありがとうございます。
自分、ここまで評価されたのは初めてだったので、今現在とても気分が舞い上がっております。




かつてのファンと 後半

「おーい」

 

「あっ、こっちです!」

 

 午前一時半。

 先に送り届けた寮から少し離れた街灯下。未来が門限を破っているところを見つからないように選んだ場所だ。

 変わらず男装をした奏は、厚着をしてフードで顔を隠したクリスと共に、未来と合流していた。

 

「もしかして、待たせた?」

 

「い、いえ、いつもの友だち以外とこうやって待ち合わせをすることがなかったので、ちょっと緊張しちゃって」

 

「別にアタシは良くも偉くもない人間なんだから、そんなに緊張しなくても良いってば。そうだ、紹介するよ。うちのクリスだ」

 

 背後でいそいそと隠れ続けていたクリスを引っ張りだし、未来の前に立たせる。恨めしげな目を向けられるものの、ニッと歯を見せて笑いグイッと前に押した。

 未来はキョトンと、呆気に取られて立ち尽くす。

 奏が「挨拶、挨拶」と急かし、諦めたのか大きく溜め息を吐いて未来と向き合った。

 

「……クリスだ。呼び捨てで良い。よろしく」

 

「うん。よろしく、クリス」

 

「よぉし、顔合わせも終わったことだし、例の絶景スポットに行こうか! 未来で良かったか?」

 

「はい。あの、あなたの名前も教えてもらって良いですか? さっき会ったときは、そんな余裕がなくて」

 

「アタシは奏で良いよ」

 

「奏……」

 

 先程までにこやかだった未来の表情が、一転不安と悲しみを混ぜたものに変わった。何かの琴線に触れてしまったのかと奏が慌てたものの、未来はすぐにニコッと笑みを作る。

 その光景に、奏の側にいたクリスが警戒する。

 

「もしかして、アタシの名前が嫌いなやつと同じだったとか? それなら、どうしようもないけど謝る」

 

「あっ、いえそういうじゃないんです。私が大ファンだった人の名前と同じだったので、ちょっといろいろ思い出してしまって……。空気を悪くしてごめんなさい」

 

「気にするなって。悲しいこととか、些細なことで思い出すからな。悪いと思うなら、これから先は元気だして流星群を見に行くぞ。今さら、抜けるなんて許さないから、な?」

 

 諭すように、落ち着かせるように話したのが功を奏したのか、未来の表情は明るいものに戻った。元気良く、「はい!」と答える未来の姿に、奏は笑みを浮かべ目的地目指して出発の音頭をとった。

 

(この子、もしかしたら……)

 

 その胸中で、奏は言い知れぬ不安感と罪悪感に襲われる。

 ツヴァイウィングの悲劇の一人ではないか。アタシはそこで一回死んだんだ。なら、今の奏はもしかしてアタシなんじゃないか。

 

 死ぬ前の自身のことは、奏も夢半分に理解している。

 人を思いやる、安易に思い浮かぶ情熱的で、聖人君主のような人間。それも、一度家族を失った絶望と怒り、挫折を乗り越えて育まれてきたものなのだと。

 

「あの、奏さん?」

 

「……あぁ、ごめん」

 

 未来の声で、渦を巻く思考の中から意識が引っ張り戻される。

 左腕の裾をクリスが引っ張っていて、どうやら良くないことが起きていると察知したようだった。

 

 頭を振り、思考を振り落とす。

 努めて笑顔を出せば、二人の手を握って声を出す。

 

「さぁ改めて、絶景スポットに出発!」

 

「はい!」「ぉー……」

 

 奏を先頭に、三人は未来おすすめスポットを目指すことにした。

 

 

 

 

 

「目標三名発見。これより追跡、後に捕縛します」

 

 その姿を、監視されているとは知らずに──。

 

 

 

 

 そこは、山中にある木々が開けた一つの広場だった。

 正円を描く、大きな広場。周囲に人工物は一つたりともなく、灯りは未来が持っている懐中電灯と、地面をほのかに照らす淡い月明かりだ。足元を照らしながら進み、その円の中心へと向かって歩き続けている。

 山中だからか、頬を撫でる土の匂いを混じらせた風は冷ややかだった。

 

「よーし到着、で良いよな、未来」

 

「はい。ここなら町の明かりも弱くて、星がとっても見やすいんです」

 

「今の状態でも綺麗に見えるけど、懐中電灯を消せばもっと良く見えるのか。クリス、どうだ楽しみか?」

 

「……まぁ」

 

 奏の側で、クリスは小さく呟いた。

 

「なぁに遠慮してんのさ。ほら、もっと自己主張してけって。そら」

 

「うわっ!? あたしはやりたいようにやるんだから前に押すなっての!」

 

 奏とクリスが戯れる姿を、横から未来が眺めながら準備を進めていく。持ってきたレジャーシートを敷き、その上に肩掛けカバンの中身を一つ、一つ取り出しては丁寧に並べていた。

 

「クリス、奏さん。紙コップ一杯分だけですけど、ジュースも持ってきたんです。良かったら、一緒に飲みませんか……?」

 

「おっ、ジュースなんて気が利くねぇ。クリス、こっちに来て楽しみなって。人との付き合いも、楽しいもんだぞ?」

 

「……ふん、どうだか」

 

 他人に対する不信感はまだ晴れないようで、未来には近寄ろうとしなかった。

 それでも人の好意を無下に出来ないようで、端っこではあったものの腰をつけて監視するように未来に目を向けていた。

 

「まぁ、クリスはクリスの早さでゆっくり慣れていけば良いさ。アタシも手伝ってやるよ。な?」

 

「……あっそ」

 

 クリスの人間不信の解消はまだまだかかるものの、いつかは確実に何とかなると奏は考える。実際に、半年もあれば奏への態度が軟化した。

 人の優しさに触れていけば、いつかは絶対に。

 

「二人とも、始まりました!」

 

 未来の言葉に顔を空へ向ければ。

 煌めく数多もの星が地平に、奏たちからは森の中へ消えていく。軌跡を描き、姿を失う星たちをみ、息をも忘れてただ一心に眺め続けていた。

 

「すげぇ……! ほらクリス、見ろよ流れ星だぞ!」

 

「……」

 

「クリス?」

 

 返事のないクリスな目を向ければ、口をぽっかりと開けて眺め続けている。開いた目蓋の目尻から滴る涙が一筋の線を描いて、魅力的なカーブを描く顎からポタリと落ちた。

 ポタリ、太ももの上に落ちた涙はパッと花を咲かせていた。

 

「クーリースー?」

 

「……はっ」

 

「あっはは♪ 見惚れてたねぇ♪」

 

「う、うるせぇ!」

 

「良いじゃん、素直になりなって。アタシには言わなくても、未来にはちゃんとお礼言っときなよ?」

 

「……分かったよ」

 

 ほんの少し頬を赤く染めるクリス。

 奏が笑い声をあげる側で、未来は電話のカメラ機能を使って流星群の動画を録ろうとしていた。

 

「どうだい未来。友だちに見せる動画は録れそうかい?」

 

「録ってはいるんですけど、光量不足かもしれないです。友だちには、見せてあげられないかなぁと……あはは」

 

「未来の友だちなら喜ぶさ。何よりこんな良い娘を友だちに持つなんて、その友だちが妬けてくるなぁ」

 

「も、もう、からかわないでくださいよ」

 

「アタシはいたって真剣なんだけどなぁ。なぁクリス、クリスもそう思うだろ?」

 

「……」

 

 奏の問いに、クリスは答えなかった。

 ただ一つ、レジャーシートに置いた奏の手に、クリスの手がひたっと触れる。

 

「もっと自己主張しけてってば──」

 

 夜の暗さに慣れてきた目が、視界の端で捉えたものがあった。

 木々の合間を動く人影。偶然居合わせたにしては、十、二重と数が多い。組織だった動きから民間人でないことは明らかだった。

 

「おいあんた、何仁王立ちして」

 

「……クリス、未来のことを頼む。空気読めない奴らが来やがったみたいだ」

 

「まさかッ!」

 

 クリスが敵意を込めた目で未来を見つめる。びくりと体を震わせる未来だったが、奏が仲裁に入った。

 

「いや、未来は関係なさそうだぞ。狙いはアタシたち全員だ」

 

「どうしてそんなことわかんだよ」

 

「アタシは未来を信じてるからな。理由はそれだけで十分だろ?」

 

「……お人好し」

 

「か、奏さん」

 

「未来はクリスの後ろに。ここはアタシが何とかする」

 

 二人の前に立ちはだかる奏は胸のペンダントに手を当てる。

 聖詠を口にしようと覚悟を決めた。

 

 ──パァン!

 

 闇を切り裂き耳をつんざく破裂音が轟くと同時に、奏の左肩で強い衝撃、紅い花を咲かせた。

 

「ぐっ!?」

 

「奏さん!!」

 

 銃撃、自身が撃たれたのだと、奏は理解する。

 燃えるような熱さと激痛が銃創を襲った。慌てて手を当てるものの、ドクドクと流れ出続ける右手と服を真っ赤に染めていく。

 

「つぅ……ずいぶんと手荒い出迎えじゃないか……ッ!」

 

 ジリジリと、いくつもの人影がゆっくりとこちらへ向かってくる。暗闇の中でもしっかりと確実にこちらを見据えているようで、二発目の弾丸が奏の頬を掠めた。

 暗視ゴーグルか、または超人的な射撃技術の持ち主か。衝撃の向きからどちらに射手が居るかは判別できるが、どれなのかが分からない。

 

 何にしろ、今の状態では二人を守るのは不可能だった。

 賭けるしかない。相手が暗視ゴーグルを着けていることを祈れ……!

 

「未来、懐中電灯と、水筒あるか?」

 

「は、はい」

 

「今から賭けに出る。もし失敗したら、アタシを盾にして走れ。クリス、未来を無理矢理にでも連れていくんだ」

 

「……クソ、ここにネフシュタンの鎧があればッ」

 

 こっそりと、左手に差し出された懐中電灯を掴み、覚悟を決める。ジリジリと、徐々に距離を詰めてくる奴らが、もう少し、もう少し近づいたところで、賭けに出よう。

 

 ……ゆっくり、ゆっくりと近付いてくる。

 もう十メートルもない。走って秒と持たない。

 

(焦るな、焦るな……ッ)

 

 こういう時に限って、嫌な予感が脳裏に浮かぶ。

 失敗して蜂の巣にされた自身の姿があった。その後ろではクリスも殺され、未来が気絶させられ連れていかれる。そんな最悪の想定、クソッたれ。

 

 そしてようやく、人影が射程内に入った。

 

「ッ!!」

 

 最大光量にして、懐中電灯を点灯。奴らの顔らしき場所に向ける。狙いはバッチリだった。不気味な形の暗視ゴーグルを着けている。目は眩んだ。こうなれば。

 先頭に居た奴が走ってきた。顔を背け手を伸ばす不格好で、こちらは視認できていない。

 

 ならばと、サイドステップの後、がら空きになった脇腹にドロップキックを叩き込んだ。グラリと揺れる巨体。バランスを崩し、呻き声をあげながら倒れていく。

 

 ──Croitzal ronzell Gungnir zizzl──

 

 紡いだ聖詠が、周囲にオレンジの光を満たす。

 それまでの男装姿が消え、本来の姿がオレンジと黒を基調にしたギアインナーと共に現れ、その顔を露になる。

 

「天羽、奏……さん……?」

 

 死んだはずの故人が、目の前に居るのことに未来は言葉を失わざるを得なかった。




未来が奏のファンと言う設定は、どっかで見たのでつけてみました。

ただ、記憶があやふやすぎてソースが分からない……。
公式やったんかな?
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