「まゆり? まゆりってだよ? 岡部さん」
「口が滑ってしまっただけだ。 気にするな。 それより続きをだな…」
「……後でしっかり問い詰めるからな? …えーと、で、どこまで話したっけ?」
確か、
「スバルがエミリアを助けるために白鯨っていう魔物を倒し、 マジョキョウト?のところで終わっているな。」
「OK、おーけ、そこからだな?」
「あぁ、お前の武勇伝。聞かせてくれ」
その後スバルに、「あと、魔物じゃなくて、魔獣な?」と突っ込みを入れられた。 ……いや、どっちでも良いだろ!?
***
「んで、俺がオットーっていうやつに頼んで、 リーファス街道っていう所に飛ばしてもらって、魔女教の手下だったケティの竜車に積まれた火の魔石をだな。」
「火の魔石とは、聞くからに炎の魔法の石という解釈になるが、それで良いのか?」
「説明がめんどくさいからそれはパスな?」
オイッ
「続けるぞ。 火の魔石を竜車から下ろした俺は、その世界の乗り物で、さっきも出てきたと思うけど、 地竜のパトラッシュに乗って、堕とした白鯨の亡骸にそれを放り投げて、その場から逃げようとしたんだが。」
「したんだが? ……なんだ、気になるではないか。」
「逃げ遅れて、 火の魔石の爆発に巻き込まれちまったんだ。」
「!?」
爆発に巻き込まれた!? 普通の人間なら重症だぞ……!? なのに、なぜ無事なのだ……?
「その時は俺もだめだと思った。 けど、パトラッシュが庇ってくれてんだよ。 パトラッシュは俺を庇ったせいで大火傷負っちまったけど、俺も生きてたんだ。 」
「そのあとはエミリアと仲直りして、 俺の本音をちゃんとあの子に伝えたんだ。 その時は泣きながら嬉しいって言ってくれたんだ。 その笑顔を見ただけで、俺は今までの苦労を忘れられたよ。」
「それもこれも、レムのお陰なのだな。」
「……あぁ、あの子が俺をあの場所で再起させてくれなきゃ。あの時、あの子が。……レムが、俺の事を『レムの英雄』って呼んでくれたから。俺は立ち直れた。 絶望的な運命に立ち向かうことができたんだ。
前までの俺なら、俺一人でどうにかしょうとして、一人で勝手に傷ついて、勝手に自分だけがその運命に立ち向かう事が出来るって、傲慢にも思っていたから…」
それを語るスバルの顔はどこか、懐かしむ様な素振りを見せながらも、その時に言われた言葉を思い出し、噛み締めるかの様に語った。
「俺はエミリアも大切だが、レムも大切なんだ。 二股なんて最低なのは分かっている。けどよ、それでも、俺は二人が大切なんだ… だから、最悪って言われるつもりで、エミリアに、レムが俺の事を好きって伝える気だったんだ。」
「だった? ……だったってどうして過去形なんだ? どういうことだ? レムは王都に行ったんだろ? 協力を求めたクルシュ……って人と共に、ならだったって言わな」
「レムって誰って言われたんだよ。 …….エミリアに」
……は?
「な、何を言っているんだ。 人がほんの数時間で忘れられるものか! 人は記憶をそんなに簡単に忘れたりは…」
「ここは異世界。……何が起きてもおかしない…って、改めて実感した事だったよ。 ……後から聞いた話。
その時に怠惰の大罪司教…… ペテルギウス・ロマネコンティとは別の大罪司教がクルシュさん達を襲ったんだよ。 白鯨の後だったからみんな万全で戦える状態じゃ無かった、 その二人の大罪司教に白鯨で生き残った人の半数も死んだ……らしい。 」
「……」
俺は聞いているだけなので、想像でしかないが、死ぬかと思った戦いで生き残ったのに、横から出てきたやつに殺される。 なんて、笑えない話だ。
「その二人の大罪司教の名前は覚えているのか?」
「覚えてるよ、なんなら一人倒しているしな。……それがあのくそ野郎ならどれほどよかったか……」
「スバル……」
スバルの目的は奪われた物を取り返すと言っていた。 その一人がレムということなのだろう?
「……俺は眠っているレムの前で誓ったんだ。 いつか、お前の英雄が迎えに行くって。 待っていろって…な。」
……
「かなり、波乱な人生を送っているのだな…… スバル」
「俺もそう思うよ、何でこんなことになったんだか。」
「でも、後悔は」
「後悔はしてねぇよ。 ……いや、後悔はあるっちゃあるんだが、俺は此処に来れてよかったと思っているぜ。
……俺は、ここまで覚悟を決めていられるだろうか……? スバルとは経緯は違うが、俺もそんなことはあった。
最初はただの便利な発明品という気持ちで電話レンジ(仮)開発した。思えば、あの時にあんな発明をしていなければ、俺は苦しまなくて済んだだろうし、まゆりも紅莉栖も死ぬ事は無かった。 ルカに悲しい思いもさせなかっただろうし、フェイリスも自身で蘇った父と別れる必要もなかった。
鈴羽は帰れない片道のみのタイムマシンに乗らずに済んだ。……俺が、全員の運命を狂わせたと言っても過言ではないと、……しかし、あの夏、あの日々が無ければ、俺達は出会わなかった。 俺が、あいつを、紅莉栖を好きだと思わなかった。大切な人がまゆり以外に出来るとは思わなかった。
俺は自身の行った行動を愚かだというが、俺の行ったことで出来たことに後悔はない。
この少年の様に後悔は無いと言えるだろう。