鉄のドラゴンが雷を放つ。エネルギーの奔流が瞳を焼く。
赤いドラゴンがゴクエンを吐いて迎え撃つ。紅の塊は龍を形作り会場を駆け巡る。
己のどこか冷めていた熱意が再び蘇るのを感じていた。
「僕、チャンピオンになりたい」
「あらあら」
夢を語った時嬉しそうに微笑んだ、温和な母親の顔はいまだに覚えている。
「まてー!」
「メェェ」
「ウールーも坊主も元気だな!」
今日はウールーたちの毛刈り日!
ハロンタウンの晴天の下、僕たちから逃げるようにゴロゴロと、沢山の羊が転がっていく。
めえめえとかわいい鳴き声をあげながら群れをなしてにげている姿はかわいい、なんて言ってる場合じゃない!
僕も必死になっておいかけるけど、なかなか距離はつまらないや。豪快に笑う大人たちは手伝ってくれるかな?と振り返ってみると微笑ましそうにしててげんなりしちゃった。
このちょっと不思議な世界に生まれてから9年と少しがたった。ポケモンとちょっとでも触れ合いたかった僕は最近ウールーの世話を手伝うようになったけれど、毎回逃げるウールーを追いかけるのは大変だよ。それでもなんか憎めないのは、僕も毛を刈るのが心苦しいからだ。いつも毛がフカフカで、まんまるでもこもこで愛らしいのがウールーだからね!
「マサル、どっちがたくさん毛を刈れるか勝負だぞ!」
「だーめ。ちゃんと協力しようよ」
「じゃあ、二人で挟み撃ちだな!」
幼馴染のホップと協力して二手にわかれておいかけちゃう。
ホップはいっつも競争競争って元気だなあ。僕も育ちざかりだけどホップにはかなわないや。
頑張って左右からおいかけて、とうとう柵の端に追い詰めたらウールー達は逃げるのを諦めてビクビクしながら僕たちにすり寄ってきた。
よっぽど刈られたくないのかな?目をうるうるさせちゃってるしなんだかかわいそうだ。
僕たちは、丁寧に一匹一匹撫でて安心させてあげた。
「怖がらなくてもいいからね。すぐ終わるよ」
声をかけながら撫でてると、みんな体を摺り寄せてくる。
だいぶんなついてくれるようになったかな?
ともあれこれで一件落着!
「よくやったな坊主たち!」
無事に大人しくなった毛を刈り終わったら羊飼いのおっちゃんが、僕とホップの頭をわしわしと撫でてくれた。
ちょっと力が強くて、かみのけがぐちゃぐちゃになっちゃったけど褒められるのはやっぱり嬉しい。自然と笑顔になっちゃう。
「へへ、やったなマサル!」
「ホップが手伝ってくれたおかげだよ」
軽く右手を突き出して、同じように嬉しそうにしてるホップと拳を合わせた。
これでも付き合いの長い幼馴染、以心伝心ってところかな!
「さっきは決着つけられなかったから、今から鬼ごっこだぞ。よーいどん!」
「あ、まってよー!」
ウールーとのおいかけっこが終わったばかりだよ!?
やっぱり以心伝心じゃなかったかもしれない。ホントに元気だねホップ。
さすがにちょっと疲れたよ。追いかけるけどね!
追いかけっこを続ける僕とホップの頭の上を、ガラル地方を象徴するアーマーガアが飛んでいった。うん、今日もいいお天気だ!
夕方になった。ホップと遊び疲れてクタクタになって帰った僕を出迎えてくれるのは、優しいお母さんだ。
「ただいまー」
「おかえり。あらあら、そんなに服汚しちゃっていつまでもわんぱくなんだから。怪我はないわよね?」
「大丈夫だよ。心配かけてごめんね母さん」
もしかして怒らせちゃったかな?大変だ。怒った母さんはギャラドスぐらい怖いんだ。
でも母さんは、にかっとおひさまみたいに笑ってくれた。
「ぜーんぜん。マサルが怪我一つないなら大丈夫よ。子供は外で遊ぶのが一番!でももうすぐ大事な日だから、ね。体には気を付けるのよ」
「うん、初めて僕のポケモンが貰える日だよね!待ちきれないな!」
「マサルが旅立つの、私も楽しみだわ。私も若いころは――――」
とほほ。こうなると母さんの話は長いんだよね。武勇伝を聞くのは楽しいんだけど、これは1時間ぐらいかかるかもしれないな。とりあえずこれだけは先に言わなきゃ!
「ちょっとストップストップ!ご飯を食べてから、ね?」
そんなこんなでポケットモンスター、縮めてポケモン達が生きるこの世界でちょっと不思議な動物達に囲まれながら僕の日常は過ぎ去っていくんだ。
10歳になったら僕もモンスターボールを投げてポケモンと一緒に戦うんだ。
最初のパートナーはどのポケモンを選ぼうかな?ちゃんと仲良くなれるかな?楽しみだな。
最初のバトルはどんな感じになるのかな?ホップも一緒に旅立つのかな?楽しみだな。
『良個体かな?何Vだろう。無理だと思うけど理想個体だといいな。楽しみだな』
「……マサル?」
「どうしたの母さん?」
ボールを手にする僕自身の姿を想像してだらしない顔をしてると母さんが、顔を覗き込んできた。一体どうしたんだろ?
ちょっと、戸惑ってるように見えるけど……。もしかして、体調でも悪いのかな?
「母さんも無理をしないでね。僕が旅にでてもあんまり心配しないでね」
「こら!子供が余計なこと考えるんじゃありません!」
怒られたけど、母さんは笑顔で嬉しそうだったから本気じゃないとすぐわかった。
僕もあははと笑ってごまかしちゃった。
みんな笑顔で食べるご飯はやっぱりおいしいや。
僕はもうすぐ冒険の第一歩を踏み出す。運命の日は目の前だ!