ダンジョンに遺志と石を求めるのは至極当たり前の事だろう   作:古狩人

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逃げた先に楽園などはありはしない

生きるために目の前にあるのはいつだって戦場だ

生きるため生き抜くためには強くあらねばならない

甘い夢に逃げ込んでいる暇などありはしない

たとえ狩人の帰る場所があの悪夢だとしても




第六夜:脱兎

ポトリ、ポトリと美しい少女の持つナイフでそぎ落とされた物体が床に重なっていく。

 

私の隣で可憐な美少女が持つ鈍い光を放つナイフが淀みなく彼女の手の中で踊りその無残な姿をさらし己の身体を削られてその残骸が床に堆積していく。

 

そして現在、彼はその無残な姿を晒している。私と彼女、リオンの間にある籠の中で。

 

「何か言いたいことがあるのではないですか?!」

 

顔を真っ赤にして声を張る彼女。そう私と彼女は現在世話になっている食事処『豊穣の女主人』の仕込みの為に芋をむいている。

 

昨日私は店の店主ミアから食糧庫の一部を借りて寝床として一宿一飯を頂いた。

 

今回の件は此方が貸した分を返してもらった形だが互いに良い関係を築きたいと思っていた私が朝の仕込みの手伝いの申し込みをしたところ彼女は快諾してくれた。

 

朝の仕込みは店員の仕事らしいので他にもやる人間がいるので先に腰を下ろし芋の皮むきをしながら待っていれば彼女がつい先ほど訪れ一緒に皮をむいていた次第だ。

 

だがどうやら彼女は不器用というより料理全般が苦手のようだ。必要以上にその身を削られた芋達は群衆にその身を貼り付けにされた獣共のように無残な姿を籠の中でさらしている。

 

無難な言葉で「誰にでも得手不得手はあるものだ。」そんな気の利かぬ言葉しか掛けられない。

 

私の知る短刀の使い手でも『鴉羽の狩人』に負けず劣らずの技量で白刃を振るえる手腕を持っているのに何故料理においてはここまで不器用なのか啓蒙を持つ私でも理解しえない。

 

やはり世界は神秘と謎に満ち溢れているのだな。

 

 

 

 

 

 

 

 

「リュー!朝の仕込みは任せるニャ~!」

 

朝の仕込み前に掃除をしていると突然そう切り出された。

 

「今日は私とあなたがやる予定だったはずではないのですか?」

 

疑問をそのまま口に出せば返ってくる答えは別の口からそれも予想だにしない事が告げられた。

 

「あー、あの狩人さんが朝の準備の手伝い申し出てくれたんだよ。そしたらミア母さんが承諾して朝の芋の皮むき頼んだみたい。もう先に作業始めてるみたい。」

 

告げるルノアの隣からクロエが更に言葉を私に投げかけてきた。

 

「ん~、アイツ顔は隠れてたけど目元とか声からしてかなりの美形の気がするニャ~。後ろから見た感じ中々いい形の引き締まったモノをもってたニャ!ただあと15、いや10若ければドストライクなんだけどニャ~、ミャーの趣味からはちょ~っと外れてるから。リュー!頑張っておt・・・・・ウゴ!?」

 

くだらない妄言と悪趣味な性癖を垂れ流す同僚(バカ)の懐に潜り込みその鳩尾に拳を叩きこむ。

 

昨日の狩人さんとのやり取りで少々カンが研ぎ澄まされていたのであろうちょっと力が入り過ぎ少し鋭く彼女の鳩尾に入ってしまったようだ。

 

しかし昨日あんな物を食べさせてしまった手前顔を合わせにくい他の誰かに代わって貰えないか思案していると後ろから両肩に誰かの手が乗った。

 

「リュー!これはチャンスだよ!」

 

後ろを振り向けば満面の笑みのシルが居た。とても輝かしい笑顔なのだが私はその笑顔から不吉な物しか感じられない。

 

「昨日のリベンジで家庭的なところをアピールするチャンスだよ!それに真面目に仕事をして健気な女の子だってところを狩人さんに見せて好感度を稼がなくっちゃ!」

 

そう言って嬉しそうに言ってくるシル。何故か彼女は私が狩人さんに恋していると勘違いしているようだ・・・いったいどうやって彼女の誤解を解けばいいのか。

 

「ニャ~・・・・まぁそれよりもリュー。とりあえず昨日の事改めて謝ったほうがいいんじゃニャいかニャ?このままだと印象最悪ニャ。」

 

聞き捨てならない言葉である。どういう事かと問いただす。

 

「だって勘違いから行き成り殺傷レベルの攻撃してきて詫びたと思いきや行き成り毒料理だされたらニャ~。ミャ~なら喧嘩売られてると思うニャ。」

 

自覚があるがいくら同僚で友人でももう少し言い方があるのではないだろうか?私の料理を一体何だと思ってるんだ!

 

「毒物ニャ。」「かまどの後始末ニャ。」「食べれば耐異常の発展アビリティが発現しそうな代物。」「アハハ・・・・」

 

言うに事欠いて!そんな魔導書みたいな料理があるわけないでしょう!シル!笑ってごまかさないで!

 

こうなったら名誉挽回です!私はやればできる子だってアストレア様もかつて言ってくれました!見ていてくださいアストレア様私は自分の堕ちた名誉を必ず取り戻して見せます!

 

そして現在私の目の前には無残な芋の残骸が散らばっている。大型のモンスターに蹴散らかされた犠牲者のように。私は心の中でかつての主神に詫びた。

 

幼い子供を見守る親のような優しい目で此方を見つめる狩人さんの視線。それは今の私にとって敵対者の放つ矢や魔法のように私の心に突き刺さり荒らしていく。

 

そんな彼は静かに呟くように私に語り掛ける。

 

「こいつの芽は毒になる。君のような優しい娘はそれを気にするあまり必要以上にやりすぎてしまう、それは見様によっては欠点だ。だけどそれ以上に優しいからそうなってしまうのだろう?誰にでも得手不得手はあるものだ・・・・ならば君は自分にできることをやればいい。支え合える仲間がいるのだしね。」

 

そんな言葉をかけられて一体どうすればいいのか?本当に昨日から思考がまとまらない。私は一体どうすればいいんでしょうかアストレア様?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私は仕込みを終え昼の昼食を店でご馳走になった。朝の食事どころか昼も頂くわけにはいかないと思ったが店主から

 

「まだまだこっちの方が借りがでかいんだから受け取っときな。」そう告げられて有難く昼食もご馳走になった。

 

夜の仕込みまでは手伝いもさせられないとミアに言わたれた後。

 

私はひと眠りしフィン達との会食より少し前に彼らの予約席の傍のカウンターでミアが昨日出せなかったというお気に入りの酒を嗜みつつ彼らを待っている。

 

それにしてもこの店は本当に繁盛しているようだ客の入りは満員御礼。店内は人々の明るい声と喧騒で生き生きとしている。

 

そうこうしていると、店の中がにわかに色めき立った。

 

「うっひょー!別嬪ぞろいじゃねェか!」「馬鹿野郎!あのエンブレムが見えねぇのか!?」「道化師のエンブレム・・・!」

「ありゃロキ・ファミリアだぞ。死に急ぐバカじゃねぇなら下手なことするんじゃねぇ。」

 

どうやら待ち人来たるようだ。振り返り入り口を見れば小柄な金髪の少年がにこやかに片手を挙げながら挨拶してくる。

 

「やぁお待たせしたかな?以前言っていた通り。今日はウチの主神ロキもつれてきたんだ。改めてウチの代表から君に謝罪と礼を述べるためにね。」

 

彼がそういうと私の前に一人の人物が出てくる。店の前からずぅっと感じていた彼らとは異なる大きな存在感を持った上位者。

 

露出の多い服装の人物が声高らかに口を開いた。

 

「はーじめまして!今回はウチの子ら自分にめっちゃ迷惑かけたみたいでほーんま!堪忍な!もう今日は無礼講やさいかい好きなだけ飲み食いしたって!自分が望むんやったらそれなりに謝礼金も弾むしな!あ!せやけどいくら無礼講言うてもウチがいくら美神やからってな。この清い乙女の身体はアカンでぇ~!」

 

テンションが高い、情報量が多すぎるぞこの上位者。それにしてもこの上位者。まともに?話は通じそうだがこんな上位者は初めてだ。この上位者には年齢や性別の概念があるのだろうか?

 

情報量の多さから困惑し少しぼんやりとしながら整理のために上位者を見つめながら告げられた単語を呟いた。

 

「美人・・・?乙女・・・・?」

 

すると先ほどまで穏やかだった目の前の上位者が突然荒ぶりだした。

 

「お前!今どこみて言うたんや!!ウチかて乙女やろが!!なんや女は胸か!!胸のない女は女ちゃう言うんかワレ!!誰の胸が無いねん!!しばくぞ!!」

 

なるほど私は理解した。さてはこの上位者おそらくあの『悪夢の主』と同じ類か。わめき叫ぶ自称乙女の後頭部に彼らの副団長が拳を落とした。

 

痛みで蹲る上位者と入れ替わるようにフィンが割って入る。

 

「すまない。ちょっとウチの主神はアレだけど礼の気持ちは本物だ。とりあえず今日は楽しんでくれ狩人。改めて先日はありがとう。」

 

礼節に乗っ取り礼を述べるフィン。だが私は彼が手を胃にあて口元が引きつっているのを見逃さなかった。

 

組織の運営というのはどこも大変なのだろう。『連盟』の長だった彼も人知れずそんな苦労をしていたのだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そいつを初めて目にした瞬間の感想は「なんやこいつは?」それだった。

 

あらかじめ団員から情報は集め取った。善人やら甘ちゃんやら腕達者な奴やら隠し取らんのか持っとる武器やらなんやら情報は団員から集めるだけ集めたつもりやった。

 

せやけど初対面でこいつと相対したとき感じたんはこいつの底知れなさや。

 

深海のように深く昏く。まるであの空のように果てしない。そんな感想が思い浮かぶ。

 

道化の真似してかき乱してみたものの相手はホンマに全然底しれん。

 

嘘を言うてるわけでもないし誤魔化しとるわけでもない。

 

ただ一つ『わからん』。こいつにはウチの。神の権能が通じとらん。そして本能的に感じる。コイツはウチ等を『神を殺しきれる』存在やと。

 

酒を飲ませて情報引っ張ろうおもても全然酔わへんし。こっちが先につぶれてまいそうや。

 

ティオナとかガレスはまぁ友好的そうやから結構喋ってアイツも会話しとるけど普通に会話しとるだけでなんも怪しいとこも無い。

 

せやけどこの言い知れん恐怖。この男はあの『槍』のように自分を『殺す』だけの能力があるとウチは本能的に確信しとる。

 

コイツはヤバイと。

 

そうやって思考の渦に沈んどったせいやろか、うちの子のアホな言動を完全に止めるのが遅きに失してしもた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今朝落とし物を拾ってくれた女の人、シルさん。彼女に誘われ彼女が働いている店で食事をとっている。

 

店主、ミアさんはシルさんから此方の事を大げさに聞いていたのだろう、山ほど料理をこしらえてくれる。

 

その勢いに圧倒されながら久しぶりのまともな料理に舌が喜ぶのを感じる。頑張って一人でも稼いで今度は神様と一緒に食事に来ようと誓う。

 

食事をしていくらか時間がたったころだろうか、店員さんの一人が店中に響くように声を上げた。

 

「ご予約のお客様ご来店ニャ!」

 

金髪の小柄な男の人と赤毛の女性?を先頭に数十人の冒険者たちが『豊穣の女主人』に入ってくる。

 

先頭の二人が彼らの取っていた予約席の傍で一人の男の人話している。

 

「あの人は・・・・・・・!」

 

僕の目に映るのは黒と金。自分を助けてくれるために颯爽とまるで英雄譚の主人公の様に怪物の前に躍り出た黒い男性。

 

そして恐ろしい怪物を一瞬で切り裂き敵を屠った麗しい金の美姫。まるでおとぎ話のような二人の邂逅シーン。

 

そんな二人に助けられたのに僕は御礼さえも言えずにその場を逃げ出した。情けなくて消えてしまいたい気分だ。

 

「ロキ・ファミリアさんはうちのお得意様なんです。彼らの主神、ロキ様が大層この店の事を気に入られたみたいで。ちょっぴりお触りがひどいんですけどね」

 

笑いながらシルさんが告げる言葉に僕は内心飛び上がった。

 

頑張って稼いでここに通い詰めていればアイズ・ヴァレンシュタインにまた出会うことが出来るんじゃないかと。

 

僕は目の端に彼女と彼を入れながらこれからの展望考えながら食事を楽しんでいた。

 

あの人が声を発するまでは。

 

「よっしゃぁ!おい!アイズ、そろそろ例のあの話、みんなに披露してやろうぜ!あのバカ話をよ!」

 

「あの話……?」

 

「あれだって!帰る途中で何匹か逃げた牛野郎共!最後の一匹お前と狩人野郎が5階層で始末したろ?」

 

五階層のミノタウロスと聞き僕は自分の身体がすくむのを自覚した。

 

「そいでよ、その時いた兎みてぇな真っ白い雑魚!いかにも駆け出しの新人のひょろくせぇ餓鬼が逃げたミノタウロスに追っかけられてて!そんでアイズが細切れにしたくせぇ牛の血を浴びて、真っ赤なトマトみてェになっちまったんだよ!そこの狩人野郎も一緒にな!」

 

一部の人たちは苦笑いや困惑した表情を浮かべている。ほかにいる冒険者の人も渋い顔をした人もいるみたいだ。

 

 

「それでよ?そいつ叫びながらどっかに行っちまってよ、ウチの御姫様、助けた相手に逃げられてやんの!情けねえったらねぇぜ!雑魚が命が惜しいならダンジョンなんざ潜ってんじゃねぇよってな!」

 

肩が震える。情けない。恥ずかしい。羞恥で顔に血が集まって熱くなっていくのがわかる。

 

「あの状況では仕方がなかったと思います。」

 

反論の声が上がる。そこに在るのは憧れの金。それに続くようにして、彼を叱責する声が続く。

 

「いい加減にしろベート。そもそも17階層でミノタウロスを逃がしたのは我々の不手際だ。恥を知れ。」

 

「せやで、ええ加減にしとき、なんぼ何でも言いすぎやで酒がまずぅなるわ。もうやめときや酔いすぎやでベート。」

 

だけどあの人の言葉は止まらない。

 

「あァ?!ゴミをゴミと言って何が悪い!アイズ、お前はどう思うよ。例えばだ、俺とあのトマト野郎ならどっちを選ぶっていうんだぁ?おい!」

 

「ベート、キミ酔ってるね?」

 

喧騒は激しさを増していく、それと同じように僕の心臓は早鐘の様に鼓動する。

 

「聞いてんだよ、アイズ!お前はもしあの餓鬼に言い寄られたら受け入れるのか?そんなはずねぇ!自分より弱くて軟弱な雑魚野郎に、お前の隣に立つ資格なんざありゃしねぇ!他ならないお前自身がそれを認めねぇ!雑魚じゃ釣り合わねぇんだ、【剣姫】アイズ・ヴァレンシュタインにはなぁ!」

 

限界だった。自分の弱さと情けなさと悔しさ。それらがない交ぜになっていても居られたくなかった。

 

この悔しさを、みじめさをどうにかしたかった!ぐちゃぐちゃになった心のまま席を立ちあがり出口に向けて駆け出す。

 

出口の扉をくぐり外に飛び出そうとした瞬間!ぐいっ襟首を誰かにつかまれて店内に引き戻されてしまう。

 

「貴公。勘定もせずに店の外に出るのはいただけないぞ?」

 

僕の服をつかむ黒ずくめの人。それは自分を怪物から助けてくれたもう一人の人物黒い『狩人』と呼ばれる男性だった。

 

「若者がはやる気持ちを抑えられないのは理解するがいき急ぎ過ぎて思わぬ落とし穴に陥ってしまうのは見過ごせない。まずはやるべきことをしたまえ。」

 

そういい彼は僕をミアさんとシルさんの前に連れて来た。

 

そうだった。勘定も忘れてなんて失礼な真似をしてしまったんだ僕は!腰を勢いよく曲げ頭を下げる。

 

「ごめんなさい!食い逃げするつもりじゃなかったんです!申し訳ありません!」

 

「別にいいさちゃんと払うならね。二度目は許さないし次はこいつをお見舞いするよ。」

 

「大丈夫ですよベルさん!気にしてませんから。それよりもこっちこそ嫌な思いさせちゃってごめんなさい・・・・」

 

拳をかかげてあきれたように告げる店主さんと申し訳なさげに目を伏せて此方に謝るシルさん。悪いのは僕の方なのに。

 

「それと!やるんなら表でやりな!」店主さんが声を投げかける。その方向を向けば『狩人』さんがロキ・ファミリアのテーブルに近づいていくのが見えた。

 

目を店主さんに戻せば大きく深いため息をついている。

 

バシャバシャ・・・・店内に水音が響き渡る。もう一度『狩人』さんの方を見れば狼人『ベート』と呼ばれていた冒険者の人に頭から大きなジョッキに入った水をかぶせていたようだった。

 

店内を異様な空気が包み込む。

 

「てめぇ・・・・どういうつもりだ!ブチ殺されてぇのか!血まみれ狩人野郎がぁ!!」

 

あのミノタウロスよりもさらに恐ろしい威圧と怒声が店内を響かせる。

 

「貴公は酒に酔いすぎだ・・・・少々頭を冷やすがいい。」

 

「上等だ!!表に出ろブチ殺す!!」

 

二人の影が店の外に消えていった。

 

 

 

 

 

 




ギルドの支給用短剣

ギルドが新人用に支給している数打ちの短剣。

武器として見るべきところはなにもない。

新米で金もない冒険者以外は使うものなどいないだろう。

数打ちで粗悪な品であるため使い方を誤ればそれはいとも容易く折れてしまうだろう。

しかし冒険者にとって本当に大切なのは折れてしまわないくじけぬ心である。
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