ダンジョンに遺志と石を求めるのは至極当たり前の事だろう 作:古狩人
英雄譚に焦がれて焦がれて少年は歩みを進める
その様を見て炎に向かう蛾と嘲るか
それとも・・・・・
「すごい・・・・」
目の前で起こった戦い。
初めて見る。冒険者と冒険者の本気の戦い。
まるで物語で見たあの情景の様に。何度も自分が夢想したそんな夢の様な光景が。
でも現実は甘くなかった。僕の前で起きた戦いは、物語では感じられない闘争の恐ろしさを僕に感じさせた。
自分が直接向けられたわけでもないのに感じる。殺気、圧迫感、恐怖。
猛攻の数々と振るわれる武器。そして流血。自分が傷ついたわけでもないのに思わずみ身がすくんでしまう。
情けない。今倒れている人、ロキファミリアのベートさん彼が言った通りだ。
こんな情けない僕が【剣姫】の。【アイズ・ヴァレンシュタイン】の。彼女の隣に立てるわけがない!
だから僕はもう負けないために、強くなるために、彼女の隣に立つに相応しい強い自分になるためにダンジョン。
決意を新たに今からダンジョンに向かおうとする僕に後ろから声がかかる。
「逸る気持ちを抑えられないのは若者の気持ちも分からないでもないが、そう急くな少年。」
低く少しだけ籠った男性の声だった。振り返るとそこには自分を助けてくれたあの黒い影。さっきまで激闘を演じていた狩人さんがそこに居た。
「貴公・・・・行く気なのだろう。」
それは疑問ではなくて確認の声だった。
僕は肯く。もう歩みを止めたくない。こんな情けない僕ではいられない。強く、強くなりたい。
だからダンジョンに行く。こんな弱くて情けなくて小さい自分と決別するために。
今度は逃げずに目を逸らさずに。狩人さんと向かい合うこと数秒。不意に狩人さんが微笑んだ気がした。
「ならば貴公の探索に同道しよう、助言はするが共闘はしない。まずは貴公が己のみでやるだけやってみたまえ。」
僕は驚く。だってそんなことをしても彼には何のメリットもないし僕には報酬も払えない。
「ありがとうございます。でも僕は貴方に払う報酬なんてありません。それどころか僕は貴方に御礼さえ・・・・」
口に出して気付く。そうだ、僕はこの人に命を助けられたんだ。
そのお礼も満足に言えてない。命の恩人に御礼さえもまともに言えないような僕が強くなれるんだろうか。
そんなことを考えて俯いていると頭の上に誰かの手が置かれる。
「後悔できるという事は命あっての物種。なればそれを糧にして次に生かせばいい。何もなせず次がないことなどよりもよほどそれはいい。」
慰めの言葉だった。でも彼が続ける言葉はそれだけではなかった。
「危機的状況から即座に離脱できるというならばそれも一種の才能だ少年よ。生き残るための最適解は経験によってその道を増やしていく。
危機的状況で新人の君ができる最適解は闘争ではなく逃走だ。次の戦いに備えるために逃げることは逃避ではなく戦略だ。」
「それに誰も最初から強者などどこにもいない。私も、私の先人の狩人達も、彼も彼女も誰も彼も皆。全て歩み始める場所は同じだった。君と同じ場所から始めた。
そして私は先達者たちから無償の助言をかつてもらった。だからそれを今度は別の歩み始めた者に返す。
もし君がそれを恩に感じるのならば次は君が別の【誰か】に返してやってくれ。世界とは悲劇だけではないのだから。」
そんな言葉をそんな助言を。だから僕は今度は目を逸らさず彼に応える。
「ダンジョンではありがとうございました。僕はまだ弱くて、情けなくてあなたに返せるものは言葉以外何も持っていません。」
情けない言葉だ。でもそんなざまでも今はいいと彼はいいと言ってくれた。でも!そんなままでは僕はいられない!
「だから僕は強くなりたい!助言をいただけるのでしたらお願いします!必ずお礼はいつかお返します!」
厚かましい言葉だと思う。そんな僕に彼は優し気に告げる。
「それでいい、それに礼などいらぬよ。ではダンジョンに向かおう。」
そうだ!強くなる!僕はあの人たちと同じ場所に行くんだ!
狼人のベート・ローガ。彼との戦闘のきっかけになった少年『ベル・クラネル』。
狼人の彼の『発破』に見事にその身を奮起させてダンジョンに向かおうとする少年。
狼人の彼の言葉が周囲に対する発破、もしくは危険への回避であろうことは彼の人格からある程度察していた。
酔っていたのか言葉の取捨選択が限りなくアウトな物だったため思わず水をかぶせてしまった。オマケに彼を怒らせてしまい戦闘にまで発展する。
しかしそんな状況でも手加減を忘れない彼は真に助言者と言えるのではなかろうか。見習いたいものである。
そんな彼の発破に思惑通りに反応しダンジョンに向かおうとする少年。ふむ生き急ぐと思わぬところでつまずいてしまうぞ少年。
ここは私も彼や『鴉羽』の彼女のように新人の彼に助言をしようと。
声をかけて振り向く少年の眼。今はまだまだ弱い彼のその眼。でもその瞳には『確かな意志』が宿っていた。
思わずポーズを決めて返したくなるほどの未来に向かう強い意志。私はその決意に応えるため少年と共にダンジョンへと向かった。
少年がゴブリン、コボルトと呼ぶ二足歩行の獣共。自分にとって左程脅威とはならないが小柄な少年はそれらを全力を使って狩っている。
「少年、生物に対する攻撃の際、渾身を尽くす必要はない。確かに少年は非力かもしれんが生き物であるならば急所を穿てば十分致命傷だ。
それほどの全力では君の持久がもたない。」
一言、二言と助言を言えば、元気よく素直に返事を返してくる少年。素直で純心そうで少々心配になってしまうほどだ。
苦戦も特に無く助言のおかげか持久力の温存もできたのだろう。息もさほど上がっていない少年。
「では更に行くか。」と告げれば「はい!よろしくお願いします!」気持ちいい威勢がよくて大変結構な返事だ。
下に降りれば獣共の群れも変わるダンジョン・リザード、フロッグ・シューターと呼んだ四つ足の獣共。
特に蜥蜴の様な爬虫類の獣は壁、天井を地面と変わらず縦横無尽に駆け回るその動き。そして舌による遠距離からの攻撃を繰り出してくる単眼の蛙の様な獣。
遠距離と近距離の攻撃の凶悪な組み合わせは私もかつて苦戦を強いられたことがある。
『ヘムウィックの墓地街』銃を使用する獣と犬どもに阻まれた。その際は木立や墓石を遮蔽物にして弾避けにして走り寄ってくる犬どもをなで斬りにしたあと銃を持った獣に近づき止めを刺した。
しかしこの迷宮にはそんなものはない。だが幸いにして蛙の獣の舌には個体差によるだろうが明確な射程距離が存在する。
ならばその射程外に離脱して追いつこうと寄ってくる蜥蜴共を各個に葬ればいい。
「少年、囲まれぬように一ヶ所にとどまるな。一対多の戦闘で多数を相手取る手段が無いなら離脱して一対一の状況を複数回こなせばいい。
臆するな少年。その脆弱な獣共は君の力で十分に相手できる。」
声に応じて力強くうなずく少年は獣共に背を向け走り出す。それを追いかける愚かな獣共。
振り返り身構える少年はとびかかる蜥蜴の攻撃を躱しナイフを突き刺し、あるいは切り裂き屠っていく。
炎に向かう蛾のように獣共が少年に屠られてゆく。
炎と呼ぶにはまだまだか弱く小さな少年の火種。過去を失くした自分の胸にもなんとなく熱くさせるようそんな彼の様。
少年は蜥蜴共全滅させた後、更に蛙共に攻撃を仕掛けてゆく。舌による攻撃を見切り転がるように避けたりして獣共との距離をつぶし短剣を突き刺し屠っていく。
助言の一つ二つで著しい成長具合だ。本人の才能もあるが他人の言葉を素直に受け入れることができる精神性。
今はまだ未熟で一つ間違えば大きな過ちになりかねないそれ。だが言い換えればそれは器が大きいという事だ。
成長の楽しみな少年の背中を見ながらまた一つ下の階層に降りてゆく。
そしてたどり着いた6階層目。降りてしばらくすると私たちの前に私以上に全身黒ずくめのまさしく影の様なモノ達が現れた。
「ウォーシャドウ・・・・新米殺しです。」
『新米殺し』名前から察せられる。いわばあの獣は新米の狩人の登竜門。一種のふるいの様な強力なモンスターなのだろう。
少年はここまでほとんど休息も取らずに連戦をしてきている。私は彼に問うた。引くか行くかと。
少年は応える。行くと。無謀ともいわれるかもしれない青臭い若者の挑戦。少年が武器を手に影と対峙する。
あぁ・・・・勇ましいな少年。その在り様がどこか懐かしく羨ましくもあった。
そんな少年の戦うその背を私は見守ることにする。
僕は狩人さんと一緒にダンジョンに入った。
ダンジョンでは狩人さんは一緒に戦うわけじゃないけどいろいろとアドバイスをくれる親切な人だった。
エイナさんとは全然違うけれどそのアドバイスは的確で何にも考えずに戦ってた時よりもずっと戦いやすかった。
あの時物語の英雄みたいだと錯覚した狩人さんの前でかっこ悪いところを見せたくないっていう意地もあった。
それを差し引いてもアドバイス通りに動けば前よりも余力を残してモンスターを倒すことができた。
上手くできれば狩人さんは表情はあんまり変わらないけど明るく優し気な雰囲気で応えてくれる。
そうして僕は6階層にまで降りて来た。そして僕らの前に影が現れる。
全身が真っ黒で僕と同じくらいの大きさの人型。十字の形異形の頭に手鏡みたいな丸いパーツがはまっている。
「ウォーシャドウ・・・・新米殺しです。」
呟くそのモンスターの名前に思い出す。『新米殺し』。ギルドでも新人が最も躓き警戒しないといけないと注意を受けた上層の強力なモンスター。
現れた影とはまた別にダンジョンの壁から別の影が現れてくる。格上のモンスターそれも一体二の形勢不利。
隣にいる狩人さんが問いかけてきた。
「少年引くか?それとも行くか?」
答えは決まっていた。「行きます!」こんな所では止まっていられないんだ!
前に進みモンスターと対峙する。一匹のウォーシャドウが腕を伸ばして爪を振るう。
紙一重でそれを避けるがもう一方の敵が僕を挟むように後ろから爪を伸ばしてくる。
身をかがめ攻撃を躱したところに最初のウォーシャドウが新たに攻撃を仕掛けてきたためナイフで攻撃を防御したため足が止まり敵の挟撃を許してしまった。
大きく跳躍して飛びのき攻撃を回避する。代わりに攻撃を受けたダンジョンの床が割れ敵の攻撃力の高さを実感させられる。
『戦えている?』そんな疑問が僕の中に湧いてくる。
このモンスターは格上のモンスターのはずだ。だけど攻撃は見えている。
ダンジョンに潜り始めて立った半月足らずの駆け出しの僕がこんな強敵と渡り合えるなんて。
狩人さんのアドバイスもあるんだろうけど僕が急激に強くなっているんのか・・・・こんなに急に?
この間の更新で急激に膨れ上がった能力の異常な数値のおかげなのか?
でも格上二体との戦いはそんなに甘くなかった。鋭く伸びてくる敵の拳を利き腕の方に受け体勢を崩してナイフを取りこぼし倒れてしまう。
止めを刺そうと敵が倒れる僕へ攻撃が迫る。
頭に浮かぶ四つの姿。
吠える狼の勇ましい立ち姿。黒い風を思わせ自分の前に立つ大きくて黒い背中。そして憧れた金の剣士と大切な家族の顔。
終われない!こんなところで僕はつまずいてる場合じゃないんだ!
痛みを無視して立ち上がり攻撃を避ける。敵の攻撃後の隙に全力で顔面に拳を振りぬく。
あの狼人、ベートさんなんかの足元に今の僕では及ばないだろうけど僕の全力を込めた拳はウォーシャドウの顔面を貫いた。
振り返り取りこぼした武器を拾いもう一対のウォーシャドウの懐に潜り込んで思い切り胸を切り裂いた。
魔石を切断されたウォーシャドウは灰となりその姿を消していく。
「ハァ・・・・ハァ・・・ハッ!」
格上との対決で思った以上に消耗していたみたいだ全身に疲労感がひろがって息が上がる。
脇腹が痛み喉が渇く。でもダンジョンはそんな僕の状況を鑑みてくれるような優しい存在ではない。
_ビキリ_
周囲から罅割れるような不快な異音が複数鳴り響く。
モンスターが一斉に生まれる・・・・囲まれる!?
それでも・・・・・やってやる!
たどり着きたい高みがある。こんな場所で躓いているわけにはいかない・・・!
少年は諦めなかった。自分よりも格上の獣を二体相手にしてそれを見事たおし切った。
更には新たに壁から生まれてきた数体の獣共。そいつらに囲まれながらも彼はその全てを倒し切った。
攻撃を受けて傷を作ってもあきらめず私の助言を生かして囲まれないように立ち回り。
一体、一体づつ敵の数を減らしていった。屠った影の残した刃を拾い。
即興でナイフとの二刀流で手数を増やすと同時に武器の消耗を抑えるなど気転も効いているようだ。
疲労で回避ではなく防御が多くなってきた少年。
片方で敵の攻撃を受け敵が足を止めたその隙をもう片方の武器で攻撃する。
疲労しているからこそ楽な方法を、今ある最適解を知らず知らずのうちに選択しているのだろう。
そして数刻・・・・最後の一体であるモンスターに止めを刺した少年は疲労からであろう。
その場に座り込んだ。
近づく私に気づく少年が顔をあげ呟く。
「狩人さん・・・・・僕強くなりたいです。」
怪我で彼の身体は全身ズタボロ。身に纏う服も引き裂かれ肌が露出してしまっている部分もある。
転げまわって回避したせいで場所をとわず砂で薄汚れている。
そんな彼のそのボロボロの薄汚れたその姿の中で彼の瞳。
その瞳が強い意志を宿して光り輝くように燃えていた。
「なれるさ。では今日はここまでにして帰ろう『クラネル』。」
根拠など何もないような無責任な言葉だ。それでもきっとこの『少年』、いやこの『男』はきっと強くなる。
肩を貸し少年を立ち上がらせて家路につこうとする。
「ベル。ベルでいいです狩人さん。僕絶対に強くなってみせます。」
疲労からその声にはダンジョンに潜る前ほどの元気はなかったが確固たる決意が伝わる言葉に応える。
「そうか・・・じゃあ『ベル』君の家に帰ろう。」
「ハイ!!」
今度は元気よく笑顔で答えるベル。
この少年に、この男の成長に期待するのは絶対に間違ってはいない。そんな風に思わせるような会心の笑みだった。
ウォーシャドウの指刃
ウォーシャドウのドロップアイテム。
様々な武器の素材としても有効な素材ではあるがこのアイテム単体でも
武器として扱えるほど鋭い。
多くの冒険者の血を吸ってきたその刃を今度は冒険者が武器として振るう。
狩って狩られて冒険者と怪物の無限ともいえる闘争は一体いつ終わるのだろうか・・・・