十文字先輩突然俺に勝負を挑んできた。
「突然なんですか?」
「歴代一位の実技成績だけでなく服部を弱いと断言できるだけ自分の実力に自信があると聞いてきたのでな、俺ならばお前の相手をしても問題ないんじゃないかと渡辺に言われてな。」
そこで俺はふと渡辺先輩に視線を向けると苦笑いをされた。
「…まぁいいでしょう。個人的には達也がよかったんですが…」
正直俺の相手を出来るのはこの学校では達也とリーナぐらいだろう。十文字先輩ではやろうと思えば簡単にケリがついてしまうが、魔法の鍛練に丁度いい。実際十文字先輩のステータスは……
ステータス
十文字克人 高校三年 17歳
レベル 38
力 105
敏捷 67
頑強 108
器用 81
魔法力 155
魔法技能 149
魔法ポイント
加速 55
加重 60
移動 80
振動 70
収束 60
発散 50
吸収 50
放出 50
無 50
系統外 50
知覚 30
魔法
ファランクス 反射障壁 対物障壁
完全にパワータイプであり防御型だな。それに魔法ポイントが七草先輩に近くないか?おそらくファランクスを使うために四系統八種すべての系統が必要だからだろう。
それはそれとして俺は十文字先輩と模擬戦することになった。
俺は自分のCADを身につけ、俺を待っている十文字先輩のいるところに向かった。
「ん?CADは?」
「これですが?」
「眼鏡型のCADか。随分変わってるな」
そう、俺のCADは眼鏡型なのだ。
「それではルールを説明する」
説明内容は先ほど達也との模擬戦の時のと同じだ。
「よし、二人ともいいな。始め!」
始まりと同時に俺は偏倚解放を放った。だが、十文字先輩のファランクスに防がれた。俺はその後、圧縮空気弾を連続発動させたがビクともしなかった。ならば…
「どうした?それで終わりか?ならばこちらから行くぞ!」
十文字先輩がそう言い俺目掛けてタックルしてきた。勿論ファランクスを発動させながら。おそらくみんなこれで決着がつくと思っているだろう。だが…
「ぐっ!?」
『『『なっ!?』』』
その場にいたリーナ以外のメンバーが驚愕した。何故なら十文字先輩のファランクスが消えてしまい、逆に十文字先輩が突き飛ばされてしまったのだ。
実際は俺が作った障壁魔法のせいでファランクスに使われていたサイオンが俺のサイオンに変換し吸収され、そのせいで十文字先輩は生身で俺の障壁魔法に突っ込んでしまったのだ。
俺の最大の防御魔法『煉破反障壁(れんぱはんしょうへき)』
あらゆる魔法を自分のサイオンに変換し自分に吸収してしまう魔法。
俺はこの世界に来たとき一番に思ったこと、それは達也のミスト・ディスパージョンやマテリアル・バーストをどうやって防ぐか。あのチートお兄様と対峙すれば消されかねないからだ。味方であれば心強いが危険と感じれば間違いなく消してくる。情け容赦なく。そう言う男だ。司波達也は。
だからまず身を守ることを一番に考えた。親しくなる人を極力避けた。人質にされかねないからだ。リーナや雫たちを強くしていったのも自己防衛のためだ。
最初の三年間は強くなることを考えながらも達也の魔法を防ぐ方法を考えたが全く思い付かなかった。
だが、そんなときに現れたのが沖縄の時に出てきた乱童だ。そして、俺は裂蹴紫炎弾を覚えたことで、俺は他にも幽遊白書の技を覚えることが出来るのではないかと考えた。そこで思い付いたのがいかなる技をも防いだ幽遊白書最強キャラの一角『黄泉』の煉破反障壁だ。これがあれば達也の魔法も防げると考えたからだ。実際俺はこの魔法でリーナのヘビィ・メタル・バーストを防いだことがある。
とにかく俺はその魔法を使い十文字先輩の攻撃を防いだ。そこで十文字先輩は立ち上がったが、俺はすかさず手刀を打ち十文字先輩は咄嗟に右手で受けた。だが、それが悪手だった。空いた脇腹に左ボディ、手を持ち替え小手返し、後頭部に手刀を打ち同時に膝蹴り、そして投げる、さらに足で完全に右手の間接を押さえ、右こぶしを十文字先輩の顔の脇に一撃。
またも辺りが静かになった。
「はっ、勝者真田和樹。」
渡辺先輩にそう言われ俺は十文字先輩の拘束を解いた。
「ま、待て。…十文字の魔法を打ち消したあの魔法は何だ?ただの障壁魔法には見えなかったが…」
「正解です。分類的には障壁魔法ですがあれは俺のオリジナルです。」
「どういう原理か聞いてもいいか?」
「摩利。魔法の詮索はルール違反よ。」
「構いません。知られたところで対処法なんてありませんから」
俺がそう言ったことで七草先輩は黙った。本心では聞きたいのだろう。
「そうですね……簡単に言えばいかなる魔法でも全て自分のサイオンに変換して吸収する魔法です。 実際この魔法を使って破った魔法は今までありません。ただ十文字先輩のファランクスとは違いマシンガンなどの質量兵器を防ぐことは出来ません。あくまでも防げるのは魔法だけです。」
「…魔法師にとっては天敵のような魔法だな。」
「まぁそうですね。それで、これからどうするんですか?」
「あ、ああ、最後に私と工藤の模擬戦を行う。」
「…いきなりですね。」
「私はこれでも自分で見ないと納得しないタチなのでな」
いやいや、 あなたはどっからどう見ても 自分で見ないと納得しないでしょう。
「…分かりました。私はいつでもいいですよ。」
「そうか。十文字、悪いが審判をしてくれないか?」
「分かった。ルールは先ほどと同じだ。三度目だから 説明する必要はないな?」
リーナと渡辺先輩は互いに頷いた。
「では始め!」
リーナと渡辺先輩は同時に動いた。互いにCADを操作した。リーナは自己加速術式で移動。渡辺先輩の基礎単一系移動魔法をかわした。渡辺先輩はリーナと同じ自己加速術式でリーナを追いリーナを完全に捉えた。
だが、そこにリーナの実体はなかった。
『『『はっ!?』』』
「(あれは!仮想行列(パレード)?)」
「!?ぐぁっ!?」
リーナは『パレード』を使い自分と同じ実体を作り出した。そして自分は光学迷彩の魔法で姿を消した。そして、リーナは自分の魔法で翻弄されている渡辺先輩の動きを先回りし、背後から無系統の『共鳴』、生体波動とサイオン波の共振で渡辺先輩の意識を刈り取った。
「勝者、工藤リーナ!」
「凄かったなリーナ。流石だ。」
「ありがとう、和樹。」
みんなの前で俺とリーナは抱き締めあった。
その場にいる達也と十文字以外は顔を真っ赤にし、あ~ちゃん先輩は「はわわわっ」と狼狽えていた。
俺としてはこのままキスまでしたいところだがこの場では自重した。
暫くして俺達は離れた。そのタイミングを待っていたのか達也が声をかけてきた。
「リーナ、今のは『パレード』ではないのか?」
「そうよ。」
達也の質問にリーナはあっさり肯定した。
だが、『仮想行列(パレード)』は九島家の秘術。何故それをリーナが思うだろうが、リーナの名字は工藤。
「何故リーナが?」
「勿論私が『九島』だからよ。」
『『『えっ!?』』』
それを聞いた俺以外のその場のメンバーは驚愕した。
「工藤は九島家の人間だったのか。」
十文字先輩が聞いてきた。
「はい。本家の人間ではありませんが。」
「そうか」
「この事は内密にお願いします」
「分かった」
これで俺達の風紀委員入りが決まった。
渡辺先輩が目を覚まし俺達は風紀委員会本部に来た。すると机の上が汚く、CADが乱雑していた。
「 ようこそ風紀委員会本部。 少し散らかってるが適当にかけてくれ」
「…… ここ片付けてもいいですか? 魔工技士志望としてはCADが放置されているのはちょっと…」
達也があまりの汚さに整理を願い出た。
「俺も手伝う」
「私も」
俺とリーナも便乗した。
「魔工技師? あれだけの対人戦闘スキルがあるのにか?」
「 俺の才能じゃこの国の魔法師としては上位のランクは取れませんから。」
「……すまない……」
「いえ…」
数分が経ち大分きれいになってきた。俺達三人は整理をしているが渡辺先輩はしていない。何故なら渡辺先輩が手伝った途端逆に汚くなっていったからだ。
「 そのままでいい、聞いてくれ。 君をスカウトした理由だが主に二科生に対するイメージ対策だ。」
「 イメージ対策はむしろ逆効果じゃないですか?」
「何故?」
「 同じ二科生の風紀委員だとしても俺は1年生。2、3年生はどちらにしても面白くはない」
「 だが1年生は大歓迎だろ」
「 一科の1年生にはその倍の反感を買いますね」
「 例えば1ーAのモブ崎だろ?」
「あのストーカーね」
達也の言葉に俺はつい反応してしまった。リーナとしてもあのモブ崎には正直鬱陶しいと思っているのだろう。
「森崎か…」
「彼も本当は風紀委員に入る予定だったのですよね」
「ああ、だが昨日の1件で取り消しにさせてもらった」
「そしてその代わりが俺って訳ですか…」
達也がため息吐きつつ言ってきた。その時誰かが入ってきた。
「おはようっす!アネさん、いらしてたんですかい」
「おはようございます。委員長、逮捕者ありませんでした。」
おそらく上級生の風紀委員だろう。 渡辺委員長をアネさんと呼んだ先輩は渡辺委員長に叩かれた。
「アネさんと呼ぶな!お前の頭は飾りか!」
「そんなポンポン叩かないでくださいよ」
「ったく!」
「フーッ……ところで委員長、そいつらは新入りですかい?」
「一年B組真田和樹と工藤リーナ、それと一年E組司波達也。今日から風紀委員に入ることになった。」
渡辺委員長が順番に紹介してくれた。
「へ~……紋なしですかい…」
「 辰巳先輩。 その表現は禁止用語に抵触する恐れがあります。この場合二科生と呼ぶべきでは…」
二人は達也を見てそう言ってきた。
「 お前達そんなことを言っていると足元をすくわれるぞ。 ここだけの話、私や十文字それと服部が足元をすくわれたばかりだ」
「「はっ!?」」
「そいつらが…アネさんと十文字、服部に勝ったんですかい!?」
「アネさんと呼ぶな!ったく……ああ、私は工藤に、十文字は真田に、服部は司波に正式な試合であっさり負けた。」
「「あっさり!!」」
「そいつは頼もしい」
「 逸材ですね、委員長」
渡辺委員長の言葉に疑うことなく信じる二人。普通の一科生ならそんなのまぐれに決まってるとも言ったりするものなのだが…
「意外だろ?この学校はブルームだウィードだと妙につまらない肩書きで優越感に浸り劣等感に溺れる奴ばかりだ。正直ウンザリしていたんだよ。幸い真由美も十文字も私がこんな性格だって知ってるからな。部活連と生徒会枠はそういう意識が少ない奴を選んでもらっている。優越感が0って訳にはいかないがキチンと実力の評価が出来る奴らだ。ここは君達にとっても居心地が悪くない場所だと思う」
「3ーCの辰巳鋼太郎だ。よろしくな、真田、工藤、司波。腕の立つ奴は大歓迎だ。」
「2ーBの沢木碧だ。君達を歓迎するよ。真田君、工藤さん、司波君。」
二人は握手を求めて手を出して来たので俺達はそれに答えた。
「1ーBの工藤リーナです。」
「1ーEの司波達也です。こちらこそよろしくお願いします」
4人が握手をした。だが何故かリーナと辰巳先輩の握手が微妙に長い気がした。
「1ーBの真田和樹です。よろしくお願いします」
俺がそう言い沢木先輩と握手をした後、辰巳先輩とも握手をした。その時俺は辰巳先輩の手をおもいっきり握りつぶした。
「いってーって、ギブギブキブ」
辰巳先輩が何か言っているが、俺は構わず続けた。
「辰巳先輩。リーナに手を出したらただじゃすまさないですよ」
俺が殺気を放ちながら言うと
「わ、わかった!わかったから、いててててほ骨が!」
辰巳先輩の了承を得たことで俺は手を放した。
「あ~いっつ~…潰れるところだったぜ」
潰れるかとおもったではなく、潰れるところだったというところが俺の握力の凄まじさを解ってもらえると思う。
「はっはっは、辰巳、コイツと工藤は婚約者だそれなのにあんなに長く握手をすればコイツも機嫌悪くなるさ」
「「婚約者!!」」
「そういうことです」
その後、風紀委員ではリーナに手を出せば俺に半殺しにされるということが広まり、後にそれが学園全体に広まることになろうとはこの時の俺には知る由もなかった。