九校戦のメンバーが決まった翌日、お昼はいつものメンバーと生徒会室で昼食をとり、俺はリーナと端末でニュースを見ていた。達也はCADを整備しているとあーちゃん先輩が達也に声をかけてきた。
「今日はシルバーホーンを持ってきているんですね」
「ええ、ホルスターを新調しましたので馴染ませようと思いまして」
「 見せてもらってもいいですか」
「かまいません」
達也からシルバーホーンを渡されあーちゃん先輩は熱心に語りだした。無理もない。シルバーホーンはあのトーラス・シルバーに手掛けられたもの。CADマニアのあーちゃん先輩が黙っていられるはずがない。実際「あ~…憧れのシルバー様…」とか言ってシルバーホーンを頬でナデナデしているのだ。俺とリーナは思わず噴き出してしまい、司波さんも生徒会の仕事をしているのか?端末を弄っていると「ビーービーー」とミスっている音が聞こえてきた。
ある程度話すと今度は矛先が此方に向かれた。
「そういえば、真田君のCADって何を使っているんですか?」
俺は風紀委員の仕事でもあまりCADを使っていないのでほとんどの人がそれを知らないのだ。実際風紀委員の仕事は何かあっても俺の縮地が既に魔法のような動きなので誰も手に負えなかったりする。
「これですが…」
俺はあーちゃん先輩に自分のCADを渡した。リボルバー型のCADだ。俺のCADなんて誰も見たことがないため七草会長や渡辺先輩も俺のCADを見に来た。
「えっと…こんなCADあったかしら…」
「どこにも社名が書いてないな。どこのだ…?」
七草会長と渡辺先輩は見たことないCADを見て首を傾げている。だが、あーちゃん先輩だけ俺のCADを見て驚愕の表情をしていた。
「こ…これって…もしかして…幻シリーズですか?」
「えっ?」
あーちゃん先輩の言葉に七草会長と作業をしていた市原先輩が驚き、渡辺先輩は聞いたことがないためか首を傾げている。
「えっと…それってあの幻海のことよね?」
「そうです!まさか存在すら怪しいと言われていた幻のCADを見ることができるなんて!」
「お、おい。誰なんだ?その幻海というのは?」
「知らないの?摩利」
「ああ。聞いたこともないな」
その言葉に七草会長は若干呆れ顔だった。あーちゃん先輩も普段見せないような顔をした。
「あーちゃん、説明してあげて」
「はい!幻海とは起動式を二十個まで格納できる特化型CADを作り出した天才技術者です。それだけではなくこの幻シリーズは通常のCADよりサイオン消費量を犠牲にして発動速度や魔法強度が1.5倍に上がるという超優れものなんですよ!ですが性能があまりに高すぎて調整することが非常に難しくて有名なんです。ですが世間に出回っている数は少なく、十台もないと言われているんです。でも知名度はトーラス・シルバーに劣りますが、才能は並ぶほどの人物なのです。ああ…憧れの幻海様…」
「「ぶほっ!!」」
あーちゃん先輩の発言に俺とリーナは思わず吹き出した。
「どうかしたんですか?」
「「いえ、何でも…」」
思わず吹き出してしまった俺とリーナにあーちゃん先輩は不思議そうに訊ねてきた。
「そ、それはスゴいな。中条が興奮するのも分かる気がする」
そのあーちゃん先輩は俺のCADに頬ずりしている。ちょっと引く…
「だけど何で和樹君が持ってるの?」
七草会長が不思議そうに尋ねてくる。
「幻海は俺の知り合いですから」
「えっ、本当ですか!?一体どんな人なんですか!?」
俺の言葉に一番に反応したあーちゃん先輩がすごい勢いで尋ねてきた。
「70過ぎの婆さんですよ」
「70~!!」
「もしかしてそれで連絡先やCADの製作が追いつかないから誰にも教えないの?」
「いえ、ただ人が嫌いなだけです。あとCADを作るのは単なる趣味だからだそうです」
その言葉に七草会長達上級生は絶句した。世界が誇る最高級のCAD製作者がただの趣味であると言いはなったのだ。このことが公になればCADメーカーを敵に回しかねない。
「私、未だにあの人が70過ぎてるなんて思えないんだけど」
「俺も同感だ。どこの世界に70過ぎで崖を登れる婆さんがいるんだ」
「ちょっと待て!今の話し本当なのか!?」
「ええ、本当です。一応俺の師匠ですから」
「「「なっ!?」」」
そう、何故かこの世界にあの幻海婆さんがいてたまに俺に稽古をつけてくれるのだ。何処にいるかはまだ秘密だ。
「……なるほど……お前の何処か謎めいた力は幻海からの教えということなのだな?」
「まぁな」
達也に聞かれたので俺は簡単に返事した。
「ところであーちゃん先輩、課題を終わらせなくていいんですか?」
「あーちゃんって呼ばないでください!」
「まぁまぁ、それで課題は何なんですか?」
「加重系魔法の三大難問についてのレポートです。 その一つ汎用的飛行魔法がなぜ実現できないかうまく説明できなくて…」
「成績上位5名から落ちたことのない中条が珍しいな」
「少し高度な参考書なら答えが載ってると思うけど…」
「つまり中条さんはこれまでの回答に納得がいかないということですね」
「そうなんです!」
「 加速・加重系統を得意とする魔法師なら1回の魔法で数十メートルのジャンプも可能です。ところが空を自由に飛び回る魔法は実現されていない。正確には形式化された飛行魔法がですね。 理論的には重力の影響をキャンセルして飛行することは可能ですが、既に魔法が作用している物体の状態を変化させようとする場合、作用中の魔法より強い事象干渉力が必要です。魔法による飛行中に速度や移動方向を変えるにはその都度魔法を重ね掛けしなければならない。一人の魔法師の事象干渉力ではせいぜい10段階が限界です。」
「だったら魔法を重ねがけしないで既に作業中の魔法式をキャンセルすればいいと思うんです。」
「残念ながらそれはできません。より強い干渉力の魔法式が対象を上書きするのです。強い魔法式が弱い魔法式を消去しているわけではないのですよ」
「そうなんですか…」
「ですが面白いアイデアです」
上級生四人で飛行魔法について語り合っている。
「ん?待って、魔法の効力を打ち消す程度をことだったらすでに誰か試してみているはずよね?」
「少しお待ちを……ありました。一昨年イギリスで大規模な実験が行われていますね」
「結果は!?」
「完全な失敗です。普通に連鎖発動するより急激な要求干渉力の上昇が認められたそうです」
「そう……理由は?」
「そこまでは…」
「和樹君はどう思う?」
「え?」
七草会長が俺に聞いてきた。いやいやここは達也じゃないの?
「…その実験は基本的な考え方が間違っています」
「……どこが間違っているの?」
「終了条件が充足されていない魔法式は自然消滅しません。対象エイドスに留まっているからです。1回の飛行状態変更のためにキャンセル分の魔法式を余分に上書きしているんです。 余分な上書きは累積されていますから事象干渉力の上限に到達するのも早くなります」
「……イギリスの実験は飛行魔法に必要ない魔法を余分にかけちゃってるから失敗したということ?」
「そうです。実験の企画者は魔法の無力化について錯覚していたようですね。」
「……和樹君はどうやったらいいと思う?」
俺は少し考え
「……タイムレコーダーで魔法の発動時点を記録し変数のみを書き換えていくことで、軌道式を連続処理し魔法式の連続発動を自動化させるのはどうですか?」
「…それなら効果時間の短い魔法の終了直前にタイムラグなしで次の魔法が効力を発揮できるわね」
俺の意見にリーナも賛同した。
「確かにそれなら従来の問題だった単発魔法の重ね掛けによる事象干渉力の限界をクリアできますね」
「ナイスよ、和樹君!」
「 でもこれぐらいだったらトーラス・シルバーが試してるかもしれませんよ。 なんせこれはループ・キャストの応用ですから」
「調べてみたところやった人がいるという事例はありません」
市原先輩の言葉に七草会長はこちらを期待するような目で見てきた。
「…今度試してみますよ」
放課後 部活連本部
「生徒会長!これはどういうことです!なぜ内定者の席に1年のしかも二科生が座っているんですか!それにエンジニアを一年が担当するなんて前代未聞ですよ!!」
「司波は風紀委員として実績がある。別格じゃないか?」
「そんなのわかんないだろ!」
「九校戦メンバーは我が校の代表なんだぞ!?」
イライラする。分かんないなら黙ってろって話だ。二科生だからと本来言いたいんだろうけど言えるはずもないから難癖つけてウィードごとき代表にするなとでも言われた方がまだスッキリするな。
そんなことを考えていたらいつの間にか俺と達也の腕前を見せるテストをされることになっていた。
俺たちは移動し先に達也がやるそうだ。相手は桐原先輩。
「 九校戦で実際に使う車載型調整器で桐原くんのCADを競技用のものにコピーし即時使用可能な状態に調整してください」
マジで言ってるのこの人?会長の言葉に俺は突っ込みたいが達也なら大丈夫だろうと思いやめた。
「スペックの違うCADの設定をコピーするなんてあまりお勧めできませんね」
「え?」
達也は分かってるだろうけど会長はまるでわかってないようだった。マジかよ…
「仕方ありません。安全第1で行きましょう。桐原先輩CADを貸してください」
「ああ」
達也は桐原先輩からCADを借り調整していく。キーボードでやる完全マニュアル調整だ。
「なんだアイツ」
「今時キーボードなんて。古すぎる」
そう言って笑う奴もいたがはっきり言ってバカすぎる。これがどれだけ高度なことなのかもわからないとは会長がエンジニア不足で悩んでいるのも頷ける。
達也の調整は桐原先輩の機材に流したサイオンから画面に流れる莫大な情報を全て読み取り手作業で調整するのだ。それは凄まじい知識と技術を要する高等技術をスペックの低い大会専用に施しているのだ。
「終わりました」
達也が言うと桐原先輩は早速CADを起動した
「桐原、感触はどうだ?」
「問題ありません。全く違和感がありません」
「一応の技術はあるようですが当校の代表レベルとまでは言えないのでは?」
「仕上がりも時間も平凡ですしね」
この人達はエンジニアに何を期待しているんだ?まさか実力以上の力を出させることが仕事だと思っているのだろうか?大体抵スペックのCADに高スペックのCADをフルコピーなんてしたら容量や性能の差でほぼ必ず使用者の精神が壊れる。基礎単一魔法しか入れられないCADにインフェルノを入れるようなものだ。それを使用者に何の違和感もなくできるなんて、この日本、いや世界に10人いるかいないかじゃないのか?それを当校の代表レベルではないとか、じゃあこの学校の生徒は全員世界トップの技術者達ってことだろ。
俺は盛大に突っ込みたいが次に俺がやるので言わないでおこうと思う。
「じゃあ次は和樹君」
「え?」
いつの間にか話が終わっていたようだ。全く聞いてなかった。
「それで相手は?」
「わたし」
「私って?」
「だからワ・タ・シ」
会長かよ!
「わかりました。会長の隅から隅々まで調整させてもらいます」
「えっ?やっ?ちょっ?」
俺の言葉に会長は顔を真っ赤にしていた。
「冗談ですよ」
「えっ?あっ?冗談?そうよね?冗談よね?」
……ちょっとからかいすぎたか……
俺は会長からCADを借り調整した。俺も完全マニュアル調整なのでコイツもかよ等という声がしたような気がするが集中していたので無視した。
「終わりました」
調整が終わり会長がCADを起動しすぐドライアイスが出てきた。
「………和樹君」
「はい?」
「あなたウチで雇われない!」
会長の言葉に回りが信じられないといったような顔をした。
「真由美、いきなり何を言い出すんだ!」
「だって摩利、これすごいの!私が普段使ってるものより発動速度も違和感もない。スゴく使いやすいの!その分サイオンを多く消費するけどそれだけの価値があるわ!」
会長がスゴい剣幕で渡辺先輩に言い先輩もタジタジだ。
「俺の家に来れば別にタダで調整ぐらいならしますよ。ほのかや雫もしてますし…」
「ホント!じゃあ今日絶対行くから!」
「来るなら週末にしてください。平日は忙しいので」
「わかったわ!」
俺と会長の会話を聞いてた連中、特に男性陣は俺に突き刺すような視線を向けてくる。会長が休日男の家に上がり込むのだ。しかも、CADの調整をするということはその機器にもよるが下着姿にならないといけないものがあるのだ。俺の家のがそうでない保証などない。実際家にあるのは下着にならないといけないものだったりするが…。そういうわけで男子連中から嫉妬の視線を向けられることになったのだ。勿論達也を除いて…
こうして俺と達也はエンジニア入りが確定した。