【RTA風】ZOID妄想戦記   作:H&K

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ハーメルンのタグ機能を試してみたかったので、ちょっとした実験作です。


その名は「RTAアルティア」

ZOIDS妄想戦記RTA

 

 悪魔憑き。

 

 それが我らが敬愛する小隊長のあだ名だった。あだ名というか、本人も自己申告しているのでほぼほぼ通名のようなものだろう。

 彼が何故悪魔憑きと言われるのかは、一言で説明するのが難しい。

 

 ただ小隊長から時折感じられる人間離れした超常的な雰囲気と、それに突き動かされている彼の行動が周りに悪魔を認識させるし、彼自身もそれを自覚していて、「俺は悪魔に呪われている」とのたまうものだから「悪魔憑き」というわけなのだ。

 ちなみに彼曰く、そういう雰囲気の時は体を悪魔に乗っ取られているのだという。

 小隊長に巣食う悪魔は冷酷で冷徹で合理的で、容赦が微塵もない。

 そんな清々しいほど悪魔的な悪魔に逆らう術は小隊長にはなく、一度そうなって仕舞えば彼はただ時が過ぎるのを待ち続けるという話だ。

 普段は至極穏やかで物腰も丁寧な彼は、その時ばかりは文字通り悪魔に豹変する。

 

 愛機が冠する名前と同じように、苛烈な殺戮兼破壊マシーンになるのだ。

 

 既に戦意を失った敵をエクスブレイカーで無惨に切り刻み続けることはザラで、逃げ出した奴の背後から荷電粒子砲を叩き込むのは日常茶飯事。

 時には味方の退避が終わっていないポイントに対しても無慈悲に撃ち込んでくることもある。

 長い付き合いでそれなりに慣れてきたつもりであるが、直ぐ眼前を荷電粒子の本流が流れていったときは流石に俺も死を覚悟した。

 

 正直、いまだに同士討ちが発生していないのは悪魔の気まぐれか、俺たちをあまりに不憫に思った幸運の女神様が同情してくれているだけに過ぎない。

 少しでも気を抜いて腑抜けた雰囲気を見せてしまえば容赦なく「悪魔」の牙と顎門は俺たちを噛み砕き、切り裂いていくだろう。

 

 ただ幸か不幸か、上層部はそんな小隊長のことをそう問題視はしていないようで、戦果を上げ続ければ何でもいいという考え方らしく、不思議と懲罰的な仕打ちを受けたことは一度もない。

 「悪魔憑き」であることを除けば、人の良い小隊長が軍法会議で血祭りに挙げられるのは忍びないので、それは素直に喜ぶべきことなのだろう。ついでに懲罰大隊のように死が約束された戦場に送り込まれないのは俺たちにとっても僥倖だ。

 それにどれだけ恐ろしかろうと、小隊長の実力は全くもって疑いようがなく、死にそうな目にあったことはごまんとあっても、その命を救われたことは数え切れないくらい存在しているとあっては、彼の元を去ろうとする者は極少数だった。

 ほとんどの人間が、一度小隊長の元につけば全幅の信頼を置いて共に戦うに値する戦士として彼を尊敬する。まあ、時には副隊長のように行きすぎた崇拝を抱いてしまう文字通りの「悪魔崇拝」の人もいないわけではないが、基本的には無害なのであまり気にしすぎるのはよくない。

 

 かくいう私も、彼に出会ったその時から幾多の戦場を共にしているとあっては人のことをとやかく文句をつける資格などある筈もなく。

 今日もまた、小隊長の愛機が装備するフリーラウンドシールドに刻まれた「RTA」のパーソナルマークに、誇りすら感じる有様だ。

 

「RTA」 通称、アルティア。

 それが小隊長に取り憑いている、悪魔の名前なのである。

 

 

01/

 

 

 政府軍の輸送隊を襲っている、反政府ゲリラを殲滅せよ。

 

 それがモーリッツ・ホフマンに届けられた新たな任務の概要である。

 帝国の軍人一家の次男として生を受け、親兄弟がそうしたように軍へ入隊した彼は、人とは違うある特性を活かしてあっという間に頭角を表してみせた。彼自身は疎ましく感じているその特性は凄まじく、彼の戦闘能力を大幅に引き上げる要因となっていた。そのため、凡人よりも遥かに早いスピードで階級を駆け上がっていき、気がつけば少佐の位まで辿り着いていた。

 

『——こちらリグアン1。報告にあった小規模の戦闘能力を有する部隊を発見。IFF照合、帝国でも連邦でもない野良です。内訳はレッドホーン1、ゴルドス2、モルガ1』

 

 ふと、雑音まじりの無線が耳に届いた。この惑星に渦巻く強力な磁気嵐を掻い潜って届けられた音声は不明瞭だったが、聞き間違えようのない部下の声色。

 少佐という地位だからこそ、率いて責任を持たなければならない他人の命。

 

『——小隊長、私が片付けましょうか? フューラーなら三分もいただければ全て塵芥に返してみせます』

 

 続いて、先程の無線よりも遥かに明瞭な声がコックピット内に響く。鈴のように美しく、それでいて氷のような冷たさを感じさせる声色もまた、彼が庇護すべき仲間の声だ。この無線は機体の一部分同士が触れ合っている接触通信によってもたらされたもので、事実視線を左に向ければ、メインカメラにはティラノサウルス型の凶悪なシルエットが一つ鎮座していた。触れ合っているのは、フリーラウンドシールドと、バスタークローの先端部分。

 

『やめとけやめとけ。確かに相手は雑魚だが、俺たちは一応は正規軍だ。個人の突出は褒められた行動ではない。小隊長がイカれちまうまでは事前のブリーフィング通りに進めるのが筋ってもんだぜ』

 

 続いて声は右隣から。こちらもまた、接触通信による明瞭な音声だった。モーリッツよりも幾分か歳を重ねた男の声は、気心が知れた相手に対する仲間意識が見え隠れしている。そちらでは俊敏なネコ科特有のしなやかな尾の先が右側のフリーラウンドシールドに触れていた。

 

『俺のサイクスなら現場までおよそ数分。でも無謀な突貫はしない。それが軍隊ってもんだ』

 

 男の言葉に、女が静かに反論する。

 

『そんなことは百も承知。私はただ、小隊長の負担を減らしたいだけ。慣れない異国での作戦行動に小隊長は負担を感じている。なら、せめて戦闘くらいは肩代わりしたい』

 

 女の言葉を男は鼻で笑った。

 

『ならそれこそ余計なお世話ってわけだ。お前さんが雪山の寒村から這い出てくるよりもずっと前から小隊長とは同じ窯の飯を食ってるけれどよ。そういう気遣いはいい加減すぐに無駄になるって理解した方がいいぜ』

 

 女が何かを言い返そうとした。だがその言葉がモーリッツの耳に届くよりも先に、彼の頭の中で不快な、男とも女ともとれない酷く平坦な声が鳴り響いた。

 

 

 

 

RTA走者はい、ではみなさんこんにちは。今日もさくさく実況プレイを始めていきたいと思います。ゆるRTAの名に恥じぬよう、称号獲得を目指して最短チャートを紹介していきますよー、っと。

 

 

 

 声の意味するところはほとんどわからない。けれどもこの声は、両隣に控える信頼できる部下たちよりも遥か昔から彼に取り憑き続ける悪夢そのもので。

 

 

 

RTA走者 ホフマン・モーリッツくん、つまりホモくんにはさくさくと経験値稼ぎをしてもらいます。本国で雑魚狩りするのと違って、異国で殲滅戦を行えばそれなりの経験値になりますし、周囲からの評価も変動しやすいので称号獲得には最適なルートなんですね。では早速、敵ゾイドをバラバラにしちゃいましょう。唯一レッドホーンだけがこちらにダメージを与える可能性がありますが、前回の実況で苦労して手に入れたジェノブレイカー(ジェノザウラー改造機)の性能ならゴリ押しで勝ててしまいます。戦闘そのものはつまらないので敵のDIEジェストで、倍速再生いってみましょー!

 

 

 

 スイッチが切り替わった。最早慣れ親しんだ感覚ではあるが、決して気分の良いものではない。身体の操作が一切効かなくなり、全ての挙動が悪魔に支配される。

 

『おっと、いつものやつが始まったみたいだ。今日は早かったな。おい、サーシャさんよ、絶対前に出るなよ。フューラーでもブレイカーの荷電粒子砲は耐え切れねえからな』

 

『そちらこそいくらサイクスが機動性に優れているからといって射線にでないで。この前、小隊長の荷電粒子砲が掠めたのを忘れているようならば、今日があなたの命日よ』

 

 部下たちの通信が少しずつ不明瞭になっていく。接触通信が解除されつつあるのだ。握りしめた操縦桿とフットペダルの動きに連動して、擬装ネットを被り込んでいた巨龍が動き始めている。

 

 

 

RTA走者 純正ジェノブレイカーに比べると、さまざまなステータスでランクダウンしていますが、エクスブレイカーユニットはオリジナルと同じなので、時速300キロ越えで移動することができます。これでユニットコストが量産型ジェノザウラーと同等なんて正直インチキですね。おかげで副官ちゃんにバーサークフューラーを支給することができました。このゲームは自キャラの操作に関する腕前はもちろんですが、NPCユニットの管理もシビアなので辛いところなんですよねー。前回のテイクでは副官ちゃんをケチってセイバータイガーに乗せていたらブレードライガーにコックピットごと真っ二つにされてしまいましたし。ま、そんな世界線はなかったということで(笑) せっかく引けたSSランクのNPCなので大事に育ててやんよー(尚、もうすでに5回二階級特進) では再生開始です(さっきも言った)

 

 

 

 背部のウィングスラスターに火が点った。静寂は一瞬。すぐさまノズルから噴き出たバーナーは140t近い巨体を一気に最高速まで引き上げる。

 この土地特有の、痩せた針葉樹の林を薙ぎ倒した赤い機体はわずか数秒で巨岩の並ぶ広野に飛び出ていた。

 

 

 

RTA走者  乾燥帯のフィールドではジェノ系特有のホバー移動が最高に楽ちんです。ほら、こちらの接近に気がついた雑魚どもがレベル差に影響されて逃走を図っていますが、秒で追いつけましたね。では格闘経験値頂きまーす。

 

 

 

 報告にあった敵部隊のど真ん中に突っ込んだかと思えば、まず初めにゴドスの首をエクスブレイカーで跳ね飛ばした。地に墜落したコックピット部分の脱出機構が発動するよりも先に、脚部のウェポンバインダーから打ち出されたショックガンがそれを粉々に打ち砕く。

 続いてもう一体のゴドスに対しては、コックピットをそのまま頭部のレーザーチャージングブレードで貫いた。途中、モルガとレッドホーンのレーザーガンが赤い機体に火を吹くが、フレキシブルに稼働するフリーラウンドシールドが全ての攻撃を受け止めている。レーザーの着弾で生まれた超高温の水蒸気の中から、魔装竜ジェノブレイカーがゆっくりと姿を表した。

 彼は、モーリッツはその間、一切機体の操縦を行なっていたなかった。いや、正確には彼の意思では行なっていなかった。悪魔によって乗っ取られた手足が、執拗な殺戮を相手と自分に強いているのだ。

 

 おそらく、化け物とこちらを罵倒しているのだろう。

 歩く要塞とも称されるレッドホーンのあらゆる火砲がジェノブレイカーに撃ち込まれていた。だがそれらの一切を意に介することなく、ジェノブレイカーは前へとつき進み、レッドホーンの頭部を、コックピットをエクスブレイカーで挟み込んでいた。

 突撃も考慮された強固な装甲で守られたコックピットが軋みをあげる。おそらく中で敵パイロットは恐慌状態になっているのだろう。レッドホーンの四肢が無茶苦茶に動いていた。だが馬力で遥かに勝るジェノブレイカーに抗う術などなく、少しずつ、少しずつ林檎を握りつぶすかのようにコックピットが圧縮されていった。

 やがて最期の時が訪れた。

 ばちん、と金属を切り裂くような音が周囲に鳴り響いてコックピットが両断される。一気に出力を失ったレッドホーンの四肢が垂れ下がりその場に倒れ伏した。

 そして残されたモルガは既に抵抗の意思はなく、キャノピーを解放して中にいたパイロットが降伏を声高に叫んでいた。

 

 もういいだろう。彼はもう戦えないんだ。

 

 声にはならない声をモーリッツが絞り出す。だが悪魔はそれを許さない。悪魔はこれがまるで最上の遊戯かのように不気味な声色で言葉を続けていた。

 

 

 

RTA走者  ファッ! ここにきて降伏だなんてまず味ですよ完全に。敵部隊を全滅させないと殲滅ボーナスは貰えないので、アライメントが負に傾くのを我慢して心を鬼にしましょう。評判よりも経験値が大事なんて、当たり前だよなあ? というわけで撮れ高を意識して、いつものアレで決着をつけちゃいましょう。

 

 

 

 やめろ、やめてくれと叫ぶ。だが声はでない。ただ無慈悲に手が動く。操縦桿に刻まれたトリガーが引き絞られる。

 

 

 

RTA走者 収束荷電粒子砲ーーチャージに時間がかかりますが直撃すればゴジュラスも蒸発させるチート兵器です。ジェノザウラーでは連射できませんが、エクスブレイカーユニットを装備さえしていればコンバーターのおかげで連射可能です。これでいざというときも安心、安心。

 

 

 

 視力すら奪いかねない破滅の光がジェノブレイカーの口内に収束する。絶望を感じたモルガのパイロットが僅かな希望を求めて機体から飛び降りるが全て遅かった。

 

 

 

RTA走者 そーれ、げろげろびーむ!

 

 

 

 閃光が世界を覆い尽くす。

 青と赤の光の本流が極大の熱を持って大気を貫いていく。

 荒れた砂塵の大地は高熱でガラス化し、一条の美しい道となり、その逝き先では原子レベルまで分解された哀れなモルガの尾の先だけが残されていた。

 

 魔装竜の各部に備え付けられた排気口から超高熱の蒸気が噴き出した。

 そしてそれらは本体の身震いと共に霧散し、あたかも世界には最初から何も存在し得なかったような幻想を残していく。

 

 放熱終了のメッセージが瞬くコンソールたちの光に照らされながら、モーリッツは呻き声を上げつつ、そのまま座席に沈んでいった。

 もう彼の肉体は悪魔の手中になかったが、それでも異変を察知した美しい副官が強制的にハッチをこじ開けるまで、彼はずっとそうしていた。

 

 

02/

 

 

 サーシャ・ニコラ・ノヴェイラ。

 

 それが帝国の北方にある山岳地帯で生まれ育った彼女の名だった。

 スロ共和国という自治領でもある彼女の生まれ故郷では、いくつかの部族が雪に覆われた山間で細々と暮らしており、戦闘用ではない小さなゾイドを飼い慣らして遊牧を未だに続けている地域でもある。

 彼女はそんな部族の中でもそこそこ大きな規模を統べる部族長の娘で、何事もなければ他の部族の男と結婚し、子を産み、育て、そして血族を栄えさせながら死んでいく運命にあった。しかしながら帝国がさらに北方にある連邦と小競り合いを起こしたときから雲行きは怪しくなり、いつの間にか山の周辺ではそれなりに大規模な紛争が繰り広げられるようになってしまった。

 

 そんなとき、彼女の住む村に駐屯してきた帝国本国の一部隊を率いていたのがモーリッツという男だった。緘黙と言うほどではないが、決して口数が多い人間ではなく、人嫌いというわけではないが人当たりが良い人間でもない。どれも中途半端な印象を抱かせる男だった。しかもその中途半端さはかなり下限で安定しているものだから、サーシャは当初彼のことを快くは思っていなかった。

 彼女はおよそのその地域に住んでいる若い女性が共有していた、生物学的に強い男こそが優れているという価値観の中で育ってきていた。その為、たとえ一部隊の長であっても交渉事などを部下に丸投げし、こちらとの関わりを避けようとしている節すらある彼に魅力を感じなかったのは当然と言えば当然である。

 むしろ部隊が駐留する期間が長引けば長引くほど、「自分達のテリトリーに入り込んでいる穀潰しども」という称号が強化されていき、ただ悪感情だけが増していく有様だった。

 

 しかしながらその現状はたった一夜で文字通り氷解する。

 

 夏のある晩——とはいっても雪が積もっていないだけで気温は決して高くなく、家畜や小型ゾイドを高原で放し飼いに出来るくらいしか季節感はなかったのだが、連邦の主力に近い部隊が彼女達のテリトリーに押し入ってきたのだ。

 まさかこんな標高の高い場所をゴルドスやセイバータイガーといった大型ゾイドが踏破してくると思っていなかった部族の人間達は大層慌てた。彼らが保有している戦闘機獣はヘルキャットがいいところで、駐留していた帝国本国の部隊もレブラプターや旧式のヘルディガンナーの混成部隊で、大型ゾイドに到底太刀打ち出来るようには見えない戦力だったからだ。

 薄々、自分たちの地域が帝国からしてそこまで血を流してまでは守ろうとしていない地域であることを理解していた彼らは故郷を捨てざるをえない絶望に飲まれたが、部隊員達は粛々と戦闘準備を整えていった。

 統率が取れ、戦意もあった彼らの中心に立っていたのがサーシャが嫌っていたモーリッツである。彼は出撃準備が完了した部下達を見回し、訓示を垂れていた。部族の人間が用意した篝火に照らされて、彼の右頬に刻まれた金属の刺青が赤く輝いている。

 声量こそ控えめではあったが、その言葉の力強さだけは周りにいた部族の人間全てを押さえつけるかのような威圧感を放っていた。

 

「連邦の愚か者どもがようやく釣れた。わざわざこちらはジェノ系列やタイガー系列を置いてきてまでお膳だってしてやったというのにここまで時間が掛かった。つまりはただの臆病者である。彼らに価値はない。殺せ。皆殺しだ。強者ならば賞賛に値するが、弱者ならば生きている価値がない」

 

 人が違う。

 

 彼女はそう思った。彼女が知るモーリッツは遠慮がちに村の男から食べ物を分けて貰い、金銭の支払いや駐留期間の先延ばしなど面倒事全てを部下に押しつけていた腑抜けだった。話せば読んでいる小説や詩の話しかせず、村の男達に狩りに誘われてもいつも何かしら理由をつけて逃げ回っていた軟弱な男だった。

 誰かが「どうせ彼は中央の貴族の坊ちゃんで、でもまったく将校としての才覚が無くてここに左遷されたんだよ。所詮は小競り合いの見張りしか任せて貰えないボンボンさ」と嗤っていたのを今更ながら思い出していた。

 

「ベネット、今日は俺のジェノザウラーもいない。安心して前に出て良いぞ。まあ、お前のサイクスは麓の前哨基地でお留守番だがな」

 

 ベネットと呼ばれた副官の男は無精髭を弄りながら苦笑を漏らした。

 

「そいつは有り難いお知らせですけどね、私としちゃあ、隊長の乗るラプターのパイルバインカー一つでも恐ろしいわけっすよ。ていうか、隊長、今日は随分と切り替えが早いようで。ここ数週間の負抜けっぷりを見て肝を冷やしていましたが、どうやら杞憂だったようだ」

 

 それから部隊員たちはそれぞれ小型ゾイドに手際よく乗り込んでいった。モーリッツの乗るレブラプターは両脇にパイルバインカーが装備された改造機で、部隊の先頭を増加した機体重量を感じさせない軽やかな動きでひた走っていく。

 

 帝国と連邦、それぞれの戦端が開かれたのはそれから一時間もしない間だった。

 

 

RTA走者 はーい、というわけで今回は副官ちゃん合流までのダイジェスト動画になります。前回は同盟国で暴れ回って経験値を稼いでやろう回でしたが、ここいらでユニットメンバーのおさらいをしたいと思います。次回はいよいよ称号獲得を目指したメインクエストを進めますから、箸休め的なあれですね。けっして経験値稼ぎに手こずっているわけではありません。——嘘です。かなり手こずっているので、新しい動画を配信できるまでの尺稼ぎです。ごめんなさい。ゆるして

 

 

RTA走者 まあ、連邦との小競り合いイベントでたまたま拾ったんですけどね。駐留していた村では知力ステータスをあげるために読書ばかりさせていましたし、交渉事も部下のベネット君が優秀なので彼に全部任せていたから、NPCとの交流は皆無でした。それなのに彼女をゲットできたのはかなりうま味です。何せゾイドの操縦技術が天然NPC最高クラスの92ですからね。最高ステータスの99は固定NPCしか存在しませんので、間違いなくSSレアのNPCでした。

 

 

RTA走者 まさか味方ユニットのガバで逃がしてしまったセイバータイガーを彼女の前でぶち殺すのが、NPC加入のトリガーだとは思いませんでしたしね。強者is GODの世界観の住人を勧誘する方法として思わずSNSにスクショをあげちゃうくらいには驚きでしたよー。というわけでこれが当時のプレイ記録です。

 

 

 

 部隊が出撃して少しばかり。山間では金属を切り裂いたかのような断末魔と砲声が鳴り響いていた。その間、村人達は身を寄せ合いながら恐怖の一夜が過ぎ去るのを待っていた。

 その中でただ一人、サーシャだけが不思議と彼らが戦う姿を見てみたいと思い、部族長たる父の隙を見て小型ゾイドが係留されている小屋まで走っていた。

 改造手術ももちろん施されていない、ガリミムス型のゾイドに鞍を乗せた彼女はそのまま村を抜け出した。

 幼少の頃から誰にも負けないと自負していたゾイドを操る技術を惜しみなく使い、荒れた岩場を跳び伝っていく。部隊が残したやや大きめの足跡を辿ればそこにたどり着けるという確信はあったから、彼女はただひたすらに前に進んでいった。

 惨劇の現場には彼女が思っていたよりも直ぐに辿り着いた。

 

「——すごい」

 

 そこは燃える地獄の底だった。

 ゾイドの残骸から流れ出た燃料かオイルに引火したのか、丁度山の窪地が延延と燃えさかっていたのである。赤い焔の中心では進撃してきた連邦のゾイド達が見るも無惨な骸を晒していた。

 対する部隊のゾイド達は、そんな屍達を取り囲むように誰一人欠けることなく静かにそこへ佇んでいた。

 村の穀潰し達が、今この時ばかりはどんなおとぎ話に出てくる悪魔なんかよりも、よほど恐ろしい存在へと成り代わっていた。

 

「あ」

 

 サーシャの小さな声が漏れる。彼女はゾイドを操る天才だ。そんな彼女だからこそ、屍の山の中で息づく存在に気がついていた。伏せたままキャノピーの電源を落としていたセイバータイガーが一機、思い切り跳躍し部隊の包囲を無理矢理に突破したのだ。不意を突かれたのかヘルディーガンナーが一機、足場にされてその場に崩れ落ちる。

 しかもそのセイバータイガーはよりによってサーシャの目の前に着地して見せたのだ。

 

「しまっ」

 

 セイバータイガーに装備された対人機関銃の一つがリモートでサーシャに照準を合わせる。恐らくカメラに写った人影はIFFが一致する味方以外、全て狙うように設定されていたのだろう。腹下の銃口とハッキリ目が合ってしまった。

 もう言葉はでなかった。ただ数秒もすれば、同伴している小型ゾイド事サーシャは大口径の機銃によって挽肉に変換され、母なる山に還っていくのだ。己の迂闊こそ呪いはしたが、それ以上の感情はなかった。

 

 だが、死の砲音はいつまでたっても彼女の耳には届かない。

 ただ届いたのはセイバータイガーの苦しげな、もがき苦しむ悲痛な声だった。

 

「れぶ、らぷたー……」

 

 両脇にパイルバインカーを装備したレブラプターがいつのまにかセイバータイガーの背中に飛び乗って、パイルバインカーをコックピットに打ち付けていた。装甲板に守られた頭部は貫通こそしてはいないが、セイバータイガーの戦意を喪失させるには十分だったようで、対人機銃の銃口もあらぬ方向を向いていた。

 

「ああ、だめよ。それ以上やると……」

 

 熱に浮かされたような声がサーシャから漏れる。彼女の雪のように白い肌はいつの間にか赤く昂揚し、月明かりのような銀の髪は二頭の戦闘機獣の闘争の余波で靡いていた。

 彼女の耳にはパイルバインカーが装甲板を穿つ甲高い金属音だけが届いている。

 

「ほんとうに、ほんとうに……」

 

 限界が来た。装甲板が砕け散り、コックピットが串刺しになる。血液なのかオイルなのか区別のつかない赤黒い液体を滝のように頭部から垂れ流しながら、セイバータイガーが機能停止した。

 地に流れた赤黒い液体が彼女のつま先から少しずつ汚していく。

 

 セイバータイガーの背中に乗るレブラプターが眼前に飛び降りる。

 サーシャは一歩もその場から動かず、レブラプターのコックピットが開く様子を熱にうなされたように静かに見ていた。

 

「君は村にいた娘か。無事で良かった。この通り、雑魚は殺したよ」

 

 汗に濡れたその男がレブラプターのサーチライトに照らされていた。サーシャは名にも答えないまま静かに男にしがみつく。

 そしてそのまま、先ほどまでの言葉の続きを小さく口ずさんだ。

 

「あなたに会えて良かった」

 

 彼女が自分だけの強い男を見つけた瞬間だった。

 

 

03/

 

 

RTA走者 というわけで副官ちゃん合流のダイジェストでした。このあと、彼女を帝国軍の入隊試験に推薦してうちの隊にそのまま引き込んだわけですね。しかも操縦技術以外にも事務能力や統率能力も高くてユニットバランスが非常に優れていたというオマケつき。とんだ拾いものだったわけで、彼女には高級機のバーサクフューラーを与えちゃっています。ジェノ系は精神汚染が酷いので、副官ちゃんには荷が重い、というのもありますけどね。というわけでご視聴有り難うございました。次回はきちんとメインクエストを進めるので、許して下さい、何でもしますから。え? もう当初の目的を忘れていないかって? やだなー、そんなことありませんよ、ちゃんと覚えてますよ。この配信はあのレア称号獲得までのゆるRTAですからねー(RTAとはいっていない)

 

 

RTA走者 レオマスター殺し の称号獲得のためには何でもしますから!(何でもするとは言っていない)

 


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