東方閻魔帳   作:妖念

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二十五、ツイン・ヤマラージャ(五)

 目の前を行き交う人々。皆嬉々として祭りを楽しんでいる。その脇でノタカは暗い群青色の頭を抱えていた。

 何がまずいかと言うとここが中有の道であることだ。つまり、ノタカの仕事場であり、ここを見てまわられるということはこの幻想郷巡りが本当に視察と化しているということを示す。

 挙げ句ノタカの小屋には例の新聞が未だ放り投げてある。あそこに入られても終わりだ。普通の人ならばあんな小屋見向きもしないだろうがあの2人は別だ。ボロボロなものだとか不気味なものだとかが好きなのである。興味を示しても不思議ではない。

 

「どうします? 迷子放送でも頼みますか? えー、白い髪と黒い髪の女の子2人の閻魔王ちゃーん、部下が本部テント付近で待ってます.みたいな」

「馬鹿言ってないで真面目に捜しなさい」

 

 映姫がノタカを至極真っ当にたしなめなた。

 

「でも何であんなに急に......」

 

 小町は閻魔王2人がスーッと人々の間に消えていった場面を回想した。本当にあっという間の出来事であった。

 

「そうですねぇ。そもそも中有の道が屋台の形式とってる理由、こまっちゃん、知ってますか?」

 

 ノタカが顔を上げた。

 

「いいえ」

 

 小町は首を横に振った。

 

 

「あの2人が祭りが好きだから、です。ま、祭りってのはそもそも神仏に祈りを捧げる儀式の日、閻魔王様に限らず神様だの何だの、祀られる存在ってのはお祭りが好きなもんなのですがね」

 

 

 ◇

 

 

 昔々、あるところに貧しい男と男の子が暮らしていました。男は子どもを養うために昼夜問わず働かなければなりませんでしたが、職を失ってしまいました。そこで、街の広場に出て、出会った最初の人に子どもの里親になってもらおうと決心しました。

 最初に出会ったのは恰幅のいい老人でした。老人は言いました。

 

「私はお前の悩みの種をもう知っている。貧しい男よ、お前を哀れに思う。私がその子を引き受け、幸せにしよう」

「あなたは誰だ?」

「私は──神だ」

「じゃあ、あなたには親になってもらいたくありません。あなたは金持ちには与え、貧乏人は腹を減らしたままにしておくから」

 

 男は次に出会った人に子どもを託そうと思い、さらに進んで行きました。

 

 すると目付きの悪い老人がやってきて、

 

「何かさがしてるのかね? なるほど、子どもの里親か。おれを子どもの里親にすれば、その子にたっぷり金とこの世のあらゆる楽しさを与えてやるぜ」

「あなたは誰だ?」

「おれは──悪魔だ」

「じゃあ、あなたには親になってもらいたくありません。あなたは人をだますから」

 

 男は次に出会った人に子どもを託そうと思い、さらに進んで行くと、やせこけた老人が干からびた脚で歩いて男に近づいて来ました。

 

「わしを里親にしなさい」

「あなたは誰だ?」

「わしは──死神だよ」

「じゃあ、あなたが適当だ。あなたは貧乏人も金持ちも公平に連れていくから。あなたに里親を頼むよ」

「よしきた。わしはお前の子どもを裕福にしてやろう」

 

 死神は約束通り、男の子を引き取りました。男の子が大きくなったとき、ある日、死神は男の子を森へ連れて行き、そこに生えている薬草を見せ、

 

「さあ、お前は金持ちで有名な医者になるんだ。お前が病人のところに呼ばれたら、わしは必ずそのそばにいてやろう。もし、わしが病人の枕元に立っていれば、お前はこの薬草を煎じて飲ませるのだ。だが、わしが病人の足元に立っていれば、病人はわしのものだ。お前は、どんなに手を尽くしてもその病人は助からない、と言わねばならぬ。わしの意に背いて薬草を使わないよう注意するのだぞ」

 

 と言いました。

 

 まもなく、薬草のおかげで若者は世界中で最も有名な医者になりました。人々の間で大変評判になって、若者はお金持ちになりました。

 

 そんなある日、王様が病気で寝込みました。そこで、最も腕のいいこの医者が呼ばれました。治せば多額の報酬が貰えます。しかし、死神が王様の足元に立っていて、病人を治せる薬草が使えませんでした。

 

 そこで医者は死神を出し抜こうと考えました。

 

 医者はお付きの者にこう言いました。

 

「王様のベッドを反対にしてください」

 

 そうすると、今度は死神が枕元に立っていました。それから医者は王様に薬草を飲ませ、王様はすぐによくなりました。

 

 しかし、死神がとても怒った様子で医者のところに来て、

 

「お前はわしを裏切ったな。今回ばかりは許してやろう。お前はわしの子だからな。だが次は......お前の命がかかってくる。わしはお前をあの世へ連れていくぞ」

 

 と言いました。

 

 それからまもなく、今度は王様の娘が重い病気にかかりました。王様はひどく悲しみ、昼も夜も泣き続けていました。そして、娘を救った者は誰でも、娘を嫁にし、自分の後を継がせるとお触れを出させました。そして王様を治したこの医者が呼ばれ、いざ病気の娘のベッドに来てみると、死神が娘の足元にいるのが見えました。医者は死神にされた警告を思い出すべきでしたが、王様の娘があまりに美しく、その夫になる幸せにすっかりのぼせあがってしまいました。死神が怒った目で自分をにらみつけ、空中に手を振り上げて、脅しているのを、医者は見ませんでした。医者は病気の娘を抱きあげて、足があったところに頭をおきました。娘に薬草を与えると、すぐに娘はよくなりました。

 

 医者はその後、軽い風邪で寝込みました。死神は、医者の前に現れて、

 

「お前はお終いだ。今命運が尽きたぞ。お前はまもなくその風邪で死ぬ」

 

 と言いました。医者の風邪は大したものではなく、これで自分が死ぬとは到底思えませんでした。すると、死神は地の底にある洞穴に医者を連れて行きました。そこで医者は、数えきれないほどの列になって大小様々な蝋燭が何千何万と燃えているのを見ました。

 

「わかるか? これらは人間の命の光だ。長いものは子供のだ。中くらいのはその親たちのだ。短いのは年寄りのだが──」

 

 死神は、今にも消えそうになっている小さな蝋燭を指差し、

 

「見ろ、これがお前のだ」

 

 と言いました。

 

「本来ならこの長いのがお前のもの、この短いのが王様の娘のものだった。あの薬草に病気を治す効能などない。ただ、人と人の寿命を入れかえる効果がある。お前が薬草を使ってしまったせいでお前と娘の命が入れかわったのだ」

 

「ああ、僕に新しい蝋燭をください」

 

 医者は怯えながら言いました。

 

「わしにはできん」

 

 と死神は答えました。

 

「それでは、古いのに新しいのを接いでください!」

 

 医者は必死にお願いしました。

 

「確かにわしはお前の里親だ。そうだな1つ、お前に最後のチャンスをやろう。ここに1本の火のついていない新しい蝋燭がある。この蝋燭にお前の命の蝋燭を接ぐことができればお前は生き延びられるだろう。ただし、わしはやらん。自分でやるのだ」

 

 医者はプルプルと震える指先で慎重に慎重に、新しい蝋燭を手に取りました。そして、医者は見事に蝋燭を接ぐことができました。しかし、医者は風邪をひいていたのでくしゃみをしてしまいました。あっ、と思ったときにはもう遅い。火が消え、途端に医者は倒れてしまいました。

 

「言ったはずだぞ。お前はその風邪で死ぬ、とな」

 

 

 ◇

 

 祭りの最中、屋台でもないのに人が集まっている場所があった。その中心では人形劇が行われていた。

 自らもフランス人形のような容姿の金髪の少女が1人で劇を巧みに演じきる。演目は"死神"。外の世界のおとぎ話をもとに作ったものだ。

 余り子ども向きとは言えない題材にも関わらず、多くの子どもたちが食い入るように劇にみいっていた。

 そして、大人たちも少女の生命を吹き込まれたように人形を操る指さばきに目を奪われていた。彼女のたぐいまれなる器用さのなせる技だ。

 そして、医者の人形が死神の人形へと倒れこみ、劇は終幕を迎える。

 暫くの静寂の後、惜しみない拍手が人形劇の演じ手 アリス・マーガトロイドに送られた。

 

「ビューティフォー! ビューティフォーなノネ!」

「見事ヨ」

 

 その中に2人ほどアリスの目には異様に映る少女がいた。

 

「え? あ、ありがとう」

 

 アリスは少したじろいだ。

 劇が終わり、観客はその余韻を噛み締めながら1人、また1人とその場を離れていった。

 そして残ったのはアリスとその2人の少女だけになった。

 2人はこちらへ近づいてくると鼠色の瞳で人形たちをしげしげと見つめた。

 

「.本当に精巧なつくりネ。これもあなたが作ったノ?」

「ええ」

 

 少女たちは暫くジーッと人形を眺めていた。

 

「.良かったらあげましょうか?」

「え? こんないいもの流石に貰えないヨ」

「構わないわよ。はい、どうぞ」

 

 アリスは人形を2人に差し出した。

 可愛らしい西洋人形を欲しがる子達は今まで何人もいたが、不気味な死神の人形にあんなに興味を示したのは2人が初めてだった。

 

(変わった子もいるものねぇ)

 

 不思議な少女たちを見送ると、アリスは次に控えた演目の準備を始めた。

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